カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第八章 黒の主、復興の街に立つ

194:疑念と呆然の迷宮

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■バルボッサ 虎人族ティーガル 男
■37歳 Aランククラン【獣の咆哮ビーストハウル】クランマスター


 三階層を走るその速度は、前日に比べて若干速い。

『急いだ早歩き』ではなく完全に『走っている』という感じだ。ジョギング、長距離走、言い方はどうでもいいが明らかにこれは『迷宮探索』ではないと言い切れる。


 メンバーを六人に絞るに当たり、俺のクランからは機動力のある連中を揃えてきた。
 重装の盾役タンクは除外。魔法使いも魔法の腕が落ちようが、何より動けるヤツを重視して選んだ。
 それは正しかったな、と今は実感している。


 俺の隣を走るのは前衛の剣士、狼人族ウェルフィンのヒウガだ。一撃の威力よりも素早さで翻弄し数で攻撃するタイプの軽装剣士。
 前衛アタッカーで最初に選んだ実力者でもある。

 走る事に関してはクランメンバーの誰より余裕があるだろう。しかしずっと思いつめたような表情を浮かべている。


「……ヒウガ。どうよ、『忌み子』は」

「バルボッサさん、あれ本当に『忌み子』なんですかね……俺、よく分からなくなってきましたよ」


 前を走る【黒屋敷】の背中を見つめながら、そう言う。

 狼人族ウェルフィンの集落における『忌み子』の存在は虎人族ティーガルの俺でも知ってる。
『白き忌み子は厄災をもたらす』ってやつだ。
 だからヒウガは最初からあの娘……サリュを避けていた。

 ヒウガの居た村では『忌み子』は居なかったそうだ。だからサリュが初めて見る『忌み子』だったらしい。

 近づけば厄災に見舞われる。狼人族ウェルフィンにとっての常識だからこそ、【黒屋敷】に『忌み子』が居ると聞いてからは遠ざけ続けた。
 そんなわけで例の祝賀会にもヒウガは連れて行かなかった。


 しかし先日の【天庸】襲撃事件。
 あの時、運悪く探索に出ていた俺たちは、迷宮を出てからその惨状を見て驚いた。
 周りに話を聞きまくって、そうして得た情報はどれも【黒屋敷】への賛辞だった。

 中でも組合員の話題の多くは「白い狼人族ウェルフィンの聖女に助けられた」というものだ。

 サリュが回復役ヒーラーだってのは知ってる。リッチを倒したのもサリュの神聖魔法だと祝賀会で聞いた。
 しかし『狼人族ウェルフィンの忌み子』が『聖女』と言われても全くピンとこなかった。


 ヒウガも同じだ。『忌み子』は狼人族ウェルフィンとしてはまともに戦えず、魔法しか使えない。
 魔法を使うって言っても、魔法使い系種族のように得意というわけではない。あくまで″使える″という程度だ。

 そういう頭が俺にも、そしてヒウガにもあった。
 だからこそ『聖女』と言われてもピンと来なかった。


 しかし今、その考えを改めなくてはいけないと実感している。
 俺以上にヒウガがそう思っているだろう。
 なんせ……。


「ひぃぃ、臭いです……<光の槍ライトランス>! <光の槍ライトランス>! <聖なる閃光ホーリーレイ>! <洗浄>!」

「サリュさん、ちょっと落ち着いて下さいませ。わたくしの出番が全くありませんわ」

「だってぇ……三階層ここ嫌いです! <聖なる閃光ホーリーレイ>!」


 二階層までほとんど何もしないでただ走っていたサリュが変貌している。
 鼻にハンカチを当て、誰より速く、誰より遠くの魔物を倒そうと、縦横無尽に走り回り、とんでもない魔法を連発している。

 これが『聖女』かと言われると首を傾げざるを得ない。
 しかし話に聞く『忌み子』かと言われると、これもまた違う。

 どう見てもヒウガより動きが速く、それは素早い攻撃が得意な狼人族ウェルフィンとしての種族特性を超えるものだ。
 断じて『狼人族ウェルフィンなのに戦えない』という事はない。

 おまけにうちの魔法使いが泣きそうなほど卓越した魔法を使っている。
 ちらりと隣を見れば、魔法が得意な連中が多い【魔導の宝珠】も同じ表情をしている。


 なんなんだこいつは、と。
 こんな狼人族ウェルフィンが居るはずないだろ、と。
 回復役ヒーラーがメインアタッカーになってるじゃんか、と。


「忌み子の″厄災″ってこういう意味なんですかね……魔物に対する″厄災″って意味かな……ハハハ……」


 ヒウガが遠い目をし出した。
 俺もそう思うから何も言えん。
 とりあえず頑張って、前を向いて走ろうぜ? な?


 元気づけて走っていると、暇そうなセイヤがこっちに来た。並走する。
 ちなみにセイヤも鼻にハンカチを当てている。しかめっ面だ。


「なぁ、バルボッサたちはこの匂い大丈夫なのか? 獣人系種族ばっかで辛くないのか?」

「ダメに決まってるだろ。慣れと我慢と気合いだよ」

「まじかー」


 ただ匂いを誤魔化したりする方法はある。よくある″お香″とかな。
 それを使えばゾンビどもの匂いが多少は気にならなくなる……事は可能だ。


「えっ、そんなのあんの?」

「お前はSランクのくせして、そこら辺の常識がねえよな。こんなの道具屋で見るなり、教本読むなり、誰かに聞けば一発だぞ」

「それは本当に面目ない。で? で? そのお香は?」


 すげえ食いつきだな。切実なのがよく分かる。
 お香を使ってもいいんだが、デメリットがあるから俺たちは使っていない。

 例えば強い香りを放つお香を使い、衣服に纏わせれば、その匂いで誤魔化せる。
 ただそうすると魔物の匂いを感知できなくなっちまう。
 俺らは<嗅覚強化>も斥候の役割の一つだから、それを潰されるわけにもいかない。だから使わないってわけだ。

 魔物避けのお香も同じだ。嗅覚を阻害されるばかりか、魔物が減ったら俺らの稼ぎが減っちまう。
 だから使えねえんだよ。


「なるほどなー。じゃあ仮に俺たちが持っててもみんなと探索している現状、使えないって事か」

「今は【黒屋敷】メインの探索だから、別に使っても文句は言わねえけどな。魔物の匂いが分からねえってのは不安なもんだよ。特に俺らみたいな獣人系種族はな」


 ちなみに風魔法で<風の遮幕ウィンドヴェール>ってのもある。
 用途としては防音、防熱が主だが、外部の匂いを遮る副次効果もある。

 だが風の膜で覆う影響で、やはり嗅覚・聴覚と<気配察知>も阻害され、索敵に難が出る。<魔力感知>とか持っていればそれでもいいんだろうが、俺たちは無理だな。


「へぇ、じゃあメルクリオたちは使ってるのかもしれないな」

「だろうな。【黒屋敷】の斥候は<魔力感知>持ってないのか?」

「持ってるのも居るけどその斥候は今回お留守番なんだよ。総合的に見ればネネの方が斥候として上だしな」


 そりゃあんな桁違いの能力持った斥候が何人も居てたまるかってんだよ。
 いや、ネネに比べて弱いってだけで、そいつも桁違いの可能性が高いんだが……。

 しかし、やっぱり【黒屋敷】は存在自体がいびつだな。
 理解を超える能力と、俺たちAランククランをはるかに超えた力を持っていながら、初心者組合員でも知ってそうな事を知らねえし、どこかちぐはぐに思える。
 それでもまぁ、Sランクで当然って力量なのはもう嫌ってほど感じてるんだが。


 そう言っている間に『不死城』が見えて来やがった。本当に二日で来れるもんなんだな。
 とりあえず明日からが本番か。
 楽しみだなぁ、四階層。暑いらしいけど。




■サロルート 樹人族エルブス 男
■272歳 Aランククラン【風声】クラマス


「どうする? 俺たちだけでやっていいのか?」


 探索三日目、『不死城』五階、『玉座の間』の前のデュラハン二体を倒したところで、セイヤがそう言いました。
 ここまで全ての魔物を、先頭で走る【黒屋敷】に任せて来ました。
 しかしここから先の難易度は別次元です。

 だから逆に聞き返しました。


「えっ、やろうと思えば可能という事ですか? 六人だけで?」


 この先に居るのはリッチ一体、ガーゴイル二体、デュラハン二〇体という軍勢。
 リッチはリポップしていれば、と注釈は付きますが、居ると考えた方が良いでしょう。
 それだけの相手に対し、いくら規格外の強さを持つ【黒屋敷】と言えど、六人だけで対処できるものなのだろうかと。


「普通に戦うとすると数がなぁ……方法としては『玉座の間』の入口からサリュに<聖なる閃光ホーリーレイ>を連発させて、数が減ったところで突っ込むか、俺がデュラハンを一人で制圧している隙に、他の面子でリッチとガーゴイルを倒すって手もある。いずれにせよ厄介なリッチは早々にサリュに倒してもらうつもりだが」


 淡々とセイヤが作戦を口にしますが、要はサリュ無双になるか、セイヤ無双になるかって事ですよね。
 それを何気なく言える事に呆れてしまいますが。これが【黒屋敷】の平常運転なんですよね。
 もうここまでで何度も痛感しています。


「なんかもう聞いてるだけで無謀な作戦に思えるんだが……」

「普通じゃったらな。しかしサリュの強さはここまででよく見ておるからのう……あのリッチが瞬殺される様を見たい気持ちも少しある」

「僕もドゴールの意見に一票かな。厳しそうならデュラハン数体受け持つけど」


 僕もドゴールとメルクリオに賛成ですね。
 セイヤたちには戦わせてばかりで申し訳ないですが、せっかくなので見学させて貰いたいです。
 僕らの本番は四階層からの調査ですし。


「分かった。んじゃ侍女たち作戦会議だ。ちょっと気合い入れていくぞ」

『はいっ』


 【黒屋敷】メンバーが話し始めました。さすがにここはちゃんと作戦を立てるようです。
 今までのように適当に突っ込むというわけではないようですね。当然ですが。


「入ったらサリュはダッシュで近づいて、速攻でリッチを落としてくれ。その後、右側のデュラハンの掃討」

「はいっ!」

「ウェルシアとネネは最初から右側のデュラハン十体狙いで。ネネはウェルシアに近づくのを抑えるように」

「はい」「ん」

「イブキとエメリーはガーゴイルを任せる。一人一体いけるな?」

「ハッ!」「かしこまりました」

「俺は左側のデュラハン十体を受け持つ。そんな感じで行ってみようか」


 アバウトな作戦ですねー。それで作戦として成り立つのでしょうか。
 というよりそれで勝てるものなのでしょうか。
 今さら【黒屋敷】の心配をする必要もないのですが、それでも少し不安になります。

 横を見れば他のクランも同様の考えのようで、どこか不安気な表情。
 しかしセイヤに口も出せないと、だんまりを決め込んでいますね。気持ちは分かります。

 一番まともそうなメルクリオに目で合図します。一応こちらも戦う準備はしておきましょうと。


 そしてセイヤの号令の下、『玉座の間』へとなだれ込んだ【黒屋敷】の六人を入口から見守りました。


 ……まぁ、見守るだけだったんですがね。

 ……こ、こんな早く制圧できるものなんですね、ここ。

 さすがの僕も唖然としてしまいますよ。規格外にも程があるでしょう。
 僕らがどれだけここで苦戦したと思ってるんですか。
 ねぇ皆さん。おや? 動けるのはメルクリオだけのようですね。頭抱えてますけど。


「はぁ……何度言えば済むのやら……【黒屋敷】には化け物しか居ない……」


 同感ですよ。今度慰め合いながらビリヤードしましょう。


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