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第八章 黒の主、復興の街に立つ
195:感嘆と挑戦の迷宮
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「魔石と【不死王の骨】【不死王の衣】、おっ【不死王の紅玉】だって。初めてだな、なんだこれ」
「ガラス玉のようですね。アネモネとかなら分かるでしょうか」
「まぁとりあえず全部持って帰ろう。俺らが貰っていいんだろうし」
リッチたちを倒し、ドロップを拾ったところで、入口で呆けている連中を呼ぶ。
さっさと進むぞー。リポップしたら面倒くさいだろうが。
そう言うと、慌てて玉座の方まで駆けて来た。
全員そろった所で、玉座の後ろにある扉を開ける。そこは一階まで下りる螺旋階段だ。
どうやら正気に戻った連中だが、初めて訪れるエリアで興奮気味になってるな。
この階段に罠なんかがないのは確認しているが、踏み外して怪我でもされたら堪らん。一応諫めておく。
そのままぐるぐると下りて、一階部分からさらに階段で四階層へ。
「もうすぐ四階層に着くから、耐熱装備をつけてないヤツは着けておけよー。検証の為に着ないのは自由だが、本当に暑いからなー」
「おおっ、いよいよだな!」
「楽しみな反面、緊張しますねぇ。さすがに」
「セイヤからの前情報があるから余計にだね」
「鎧も耐熱装備も万全じゃ! 早く行くぞい!」
そうして見えて来る赤い光。次第に纏う空気も変わる。
徐々に視界に広がってくるのは、一面の″黒″と、熱を放つ″赤″だけだ。
四階層、仮称『火山荒野』。そこに今、三〇人もの組合員が足を踏み入れた。
『おおー!』
感嘆の声を上げ、一斉に見渡し始める。
地面の黒い砂石を拾い採取する者。耐熱装備を一時的に外し、外気温を確かめる者。風景をスケッチする者。魔法の影響を確かめる者。様々だ。
こうして見ていると、なるほど組合員の調査って言うのはここまでやるものなのか、と勉強にもなる。
落ち着くまで少し待ち、メルクリオに確認する。
「ここを拠点にするか? それとも俺たちがテント張った辺りを拠点にするか?」
「まずはこの辺りの調査を終わらせたい。地形・植生・魔物や魔法陣の有無も含めて、出来る限り見させてもらうよ。セイヤたちには暇させて悪いけどね」
「構わないさ。元々聞いていた話だからな」
「入口周辺の調査が終わったら徐々に前進して、例の『トロールの集落』付近まで足を伸ばそう。今日中に行ければいいんだが」
だいぶ慎重に調査するんだな。これが普通の探索なのか。為になります。
まぁ為になったからって俺たちが同じように調査出来るとも思えないが。ガンガンいこうぜタイプが多いし。俺を含め。
ドゴールやバルボッサもそのタイプかと思ったけど、案外真面目に調査している。
四つのクランで分担しているようだ。打ち合わせしたんだろうな。
さて、俺たちはどうしようかね。手伝うか、適当な魔物を狩ってるか。
■フロロ・クゥ 星面族 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面
ご主人様たちが出掛けてから二日後。
我ら十三人の侍女の姿は、すでに二階層の中間辺りにあった。
一昨日、昨日で急いで準備をし、今日の朝一から迷宮を駆け抜けたのだ。
もうこの時点で我はクタクタなんだが。ミーティアもシャムもな。
ご主人様もエメリーも居ない状況でこやつらをまとめるのは無理がある。
まぁ騒いでおるのは極一部なのだが、その極一部を抑えつけるのが我ら三人しかおらん。
とは言え、やらぬわけにもいかんし、せっかく来たからには最大限の成果を上げたいとも思っているがのう。
「よーし、聞けい! ここをキャンプ地とする! これからは班別に行動するが、遅くとも五の鐘までには集合する事! 日が暮れるわけでもないから時間に気を付けよ。よいな?」
『はい!』『おお!』
「今日の所は下見で、本格的な採取・探索は明日からの予定だ! くれぐれも調子に乗って深追いしたりする事のないように! もし勝手な行動をした者がおれば、我はご主人様とエメリーに逐一報告するからな! きつ~く説教してもらうからそのつもりでおけよ!?」
『はい!』『ビクゥン!』
今回、十三人もの侍女が二階層を探索するに当たり、目的に応じて班を三つに分けた。
こんな感じだな。
山岳採掘班:フロロ、ジイナ、ドルチェ、ツェン
森林採取班:ミーティア、ポル、アネモネ、ユア、マルティエル
領域主討伐班:シャムシャエル、ティナ、ヒイノ、ラピス
山岳採掘班は、二階層奥の山岳地帯、ミスリル鉱山での採掘でミスリルを掘りまくる。
ツェンは討伐班に行きたがっていたが、無理矢理こちらにした。シャムが心労で死ぬからのう。
それに山岳地帯にも【領域主】は二~三体居るし、鉱山内にも居る。ツェンはそいつらを相手にしてもらう。
森林採取班は錬金の材料となる素材の採取。二階層は森が多いからここは五人にした。探索範囲が広すぎるからのう。
一応採取情報の載った地図も用意してあるが、実際に森の中から探すとなると一苦労。
アネモネの鑑定眼や、マルの上空からの視点も利用し、探してもらう。
領域主討伐班はご主人様から依頼があったわけではないが、せっかく滅多に来れない二階層で探索するのならば、エントランスに飾る【領域主】のドロップを増やした方がご主人様も喜ばれるのでは? という意見からだ。
二階層は森の中に領域が細かく分けられていたりと、意外に【領域主】が多い。
普通に最短ルートで行くだけならば『平原』のグレートウルフくらいしか接敵しないが、逆を言えばご主人様たちは今回もそれしか戦えんだろうと。
ならば我々で集めておいても良いのではないか、となった。
と言っても二階層で一番強い【領域主】はタイラントクイーンだと判明している。
小物ばかりではあるが、だからこそラピスでも問題あるまいと訓練がてら行かせるつもりだ。
ラピス自身も採取や採掘よりはそっちが良いだろうしのう。
「じゃあ、ミーティア、シャム、そっちは頼むぞ」
「ええ、フロロも気を付けて」
「なるべく早く戻るでございます」
「おーい、フロロー! さっさと行こうぜー! 今日中に一匹くらい【領域主】倒すからなー!」
「はぁ、あのツェンめが……ああ、今行く! 待っておれ!」
やれやれ、ヤツの手綱を握るのはトロールと戦うよりも辛い。
まぁ好きに狩らせておけばよかろう。
我は大人しくジイナとドルチェと採掘を頑張るとするぞ。
■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
「よおし、もうすこしじゃ! 粘れ!」
「むおおおっ! はよせいっ! しんどいわ!」
「おおっ! やったぞ! 倒した!」
【震源崩壊】の皆さんも無事トロールを倒せたようですね。ご苦労様です。
今はキャンプ予定地である『トロールの集落』近郊に向けてゆっくりと歩きながら、調査しつつ魔物を狩りつつと進んでいます。
他のクランの皆さんも、一度戦っておきたいとの事で、それぞれマグマスライム、ヘルハウンド、トロールと戦う事が出来ました。
しかしやはり六人だけで戦うのは辛いようです。
勝てはするものの、時間が掛かる。もしくは危ない場面や不安定な部分があるといった感じでしょうか。
私たちが見ていてやきもきする時もあるのですが、一方で六人での連携と言いますか、組合員としての戦闘の巧さと言いますか、非常に勉強になる点も多いです。
クランごとに特色があるので、それぞれの戦い方で見方も変わります。
【魔導の宝珠】は前衛が守備と遊撃専門。後衛から怒涛の魔法攻撃を放ちます。
【風声】は火力がないものの非常にバランスがよく動きと連携が見事です。
【震源崩壊】は守備重視。足を抑え、じりじりと削っていくような堅実な戦い方。
【獣の咆哮】は近接での火力を活かす為に後衛は支援に徹します。
なるほど、さすが何年にも渡りカオテッドの迷宮組合を牽引し続けてきたAランククランです。
確かに単純な強さ、個人単位での強さであれば我々の方が上なのでしょうが、決して侮ることは出来ません。
これは皆に良いお土産話が出来たかもしれないですね。
「おおー、本当に魔石が大きいのう! 【領域主】のデュラハンと変わらんぞい」
「しかし下手しなくても三階層の領域主より強いぞ。こりゃ六人だけじゃ一体相手がせいぜいじゃ」
「うむ、トロール二体同時とか死ぬのう! そうなったら他の連中と共闘じゃな」
ちなみに自分たちで倒した魔物のドロップは各自のものと言う約束になっています。
宝魔法陣で出たアイテムについては、私たちのものという決まりです。
まぁ私たちの案内で来ているのですから当然なのかもしれませんが、少し心苦しい気持ちもあります。
なので、出たアイテムが私たちにとって不要だった場合、適正価格で直接買うことも出来ます。優先交渉権といった感じでしょうか。
私たちが防具とか貰ってもほとんど役に立ちませんからね。
であれば皆さんに有効活用してもらったほうが良いでしょう。
そうこうしているうちにキャンプ地へと到着しました。
前回私たちがテントを張った地点ですね。
ここを拠点とし、方々を調査して回るという事です。
明日は『トロールの集落』ですかね。
今日の戦闘を見ている限りトロールキングは厳しいと思うのですが、どうやって倒すんですかね。
やはり私たちが戦ったほうが良いのでしょうか。
まぁ願ったり叶ったりですが。
ガーゴイルでしか【魔剣グラシャラボラス】を試せていませんし。
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