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第八章 黒の主、復興の街に立つ
200:調査探索からの帰還、そしてお土産
しおりを挟む■メルクリオ・エクスマギア 導珠族 男
■72歳 クラン【魔導の宝珠】クラマス 魔導王国第三王子
あれから『黒曜樹の森』の調査を一日かけて行い、僕らは帰路に着いた。
帰りは三日。合計で十一日の調査探索となった。
これだけ早く帰れたのは、走り続けたからに他ならない。
特に【黒屋敷】の三階層嫌いは本物らしく、『不死城』の宝魔法陣部屋も全て無視、道中の休憩も最小限に走り抜けた。
僕らもそうだが、他の三つのクランもさすがにバテて、二階層以降は頼むから歩かせてくれと懇願する始末。
だから行きは二日と少しで四階層に行ったのに、帰りは丸三日かかったわけだ。
組合に着いたのはすでに夕暮れ。いつも以上の疲労感と達成感だったのは言うまでもない。
本来ならばスペッキオ老に報告をしなければいけないが、さすがに全員が拒否。
翌日に各クラン二人ずつ集まって本部長室で報告する運びとなった。
「じゃあお疲れ! うちでみんなが待ってるから悪いけど先に帰るぞ。また明日な!」
そう言って【黒屋敷】メンバーが颯爽と組合を出て行く。
僕らはそろって苦笑いだ。
「いやまぁ、こっちは打ち上げする元気はねえけどよ……なんであいつらあんな元気なんだよ」
「今回の一番の収穫は【黒屋敷】が化け物揃いと確認できたことじゃろ」
「ですねぇ。いやはや、聞いていたのと実際に見るのではこれほど違うものなんですねぇ」
「僕も間近でセイヤやエメリーの戦闘は見たことあったんだけどね。それでも驚きの連続だったよ」
そう。僕がこの中で唯一、【黒屋敷】の戦いを知っていた。【天庸】に対して共に戦ったのだから。
しかしそれでも衝撃は大きい。
サロルートたちは見た事すらなかったから、さらに衝撃的だっただろう。心中察するよ。
本来、合同探索であれば打ち上げの飲み会は必須なのだが、今回は無理だ。
たとえセイヤたちが残っていても、僕も帰って眠りたい。
それほど疲れた。主に精神的に疲れた。
良い経験になったのは間違いないんだけどね。
セイヤたちの戦いを見てしまうと、本当に何でこれほどまでにリッチに苦戦していたのか馬鹿馬鹿しくなってくる。
僕らだってやろうと思えば簡単に倒せるんじゃないかと。
あんなに簡単に制圧していたのだから。
……ダメだな。僕も頭が働いていないようだ。少し休んで冷静になったほうが良いね。
「じゃあ僕も帰るかな。みんな本当にお疲れ。また明日ね」
そう言って、クランメンバーの五人と共にホームへと歩いた。
無言だ。無言で歩く。
疲労感、達成感、安堵感、皆色々とあるだろう。
「大変だったな」
「ええ」「本当に」「殿下こそお疲れさまです」
言葉少なに労い合った。
組合員としての探索・調査の大変さ。四階層という階層の大変さ。
そして、セイヤたちと付きあう事の大変さ。色々と思うところはある。
しかし、やっぱり僕は―――組合員で居たいと、改めてそう思えたんだ。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
『おかえりなさいませ、ご主人様』
「おおー! ただいま!」
エメリーが侍女っぽく玄関の扉を開けると、そこには一列に並んだ侍女たちの姿が!
何度見てもいいものだ。いつの間に察知して、いつの間に準備してるのか分からないが。
とりあえず飛び込んで来たティナを抱きとめ、頭を撫でておく。
どこか皆、表情に安堵感のようなものが見える。
心配させたのか。十一日も不在だったわけだしな。
まぁ三~四日はみんなで探索に行ってたみたいだけど。
報告はお互いにしたい所だが、まずは風呂と食事をさせてもらう。
久しぶりの家の風呂と食事……やっぱ最高だな。帰ってきたって感じがする。
我が家って素晴らしい。
「それで、皆の方は大丈夫だったのか? 三~四日探索してたのは<ステータスカスタム>で確認してるんだが」
「えーと、成果もありますし反省もありますし……」
「新たなトラウマでもあるのう……」
「ご主人様の有難味を再認したでございます……」
なんだなんだ、一気にテンションがおかしくなったな。
あのティナやツェンが遠い目してるぞ。何事だよ。
聞けば、意気揚々と全員で探索に赴いたはいいが<インベントリ>がない状態では持ち込むものも限られ、特に食事面で苦労したようだ。
携帯食料の不味さを力説された。同時に<インベントリ>の偉大さを感じたらしい。
当たり前のように使ってるからなぁ、なくなって初めて分かるってやつか。
探索の成果としてはこちらが驚くほどのものを上げて来た。
ミスリルも錬金素材も大量。そして二階層の【領域主】のドロップを集めて来てくれたらしい。
おお、これは素直に嬉しい。さっそくエントランスに飾ろう。
「その代わりにお屋敷の管理や、普段の迷宮探索という点で疎かになってしまった感があります」
「庭は形にしたが、総合神殿は完成しておらん」
「任務を達成できず、申し訳ないでございます……」
「いや十分だ。三人はまとめるだけでも大変だったろう。良くやったよ。みんなも協力してくれてありがとうな」
『はいっ!』
それから俺たちの報告に移る。
天使組とラピス、ユアは前回の探索を知らないけれど、話だけは聞いているようだ。
とりあえず知っている前提で説明する。
「ああ、やはり亀とシーサーペントは倒しませんでしたか。でも目視で確認をしてもらったのならば十分でしょう」
「なんと、あの隠し魔法陣をとれたのか! <インベントリ>!? その手があったか!」
「その『黒曜樹の森』というのは興味深いですね。四階層の中でも異質に感じます」
「五本首のヒュドラ? おいおい、そんな面白そうなのと戦ったのかよ! ずりーぞ!」
色々と反応があって結構だが、まずは確認してもらわないとな。
「これが黒曜樹だ。サロルートも言っていたが<インベントリ>の名称でも黒曜樹だったから間違いないと思う」
「うわ~、真っ黒ですね」
「質感が木材というか金属っぽいです」
「これ杖とかの材料に良いらしいから、いくらかユアとジイナに渡しておく。大量にあるから好きに使ってみてくれ」
「おおっ! ありがとうございますっ!」
「こ、こんな貴重なものを……大丈夫でしょうか……」
失敗しても問題ないくらいには取って来てるからな。
いくらでも試してみるといいよ。
「それと<パリィ>のスキルオーブが出たから、これはヒイノに渡す」
「まぁ! ありがとうございます!」
「あと<精密射撃>。これは悩んだんだがマルティエルかな。ミーティアは神器の補正で命中率が元々図抜けてるから」
「わーい! ありがとうでござる!」
「<料理>はサリュにするか」
「はいっ! 頑張ります!」
嬉しそうで何より。<料理>はドルチェでも良かったんだがまぁいいか。
前回も今回も三階層突破の立役者だからな。サービスしておこう。
「それと例の【聖剣アストライアー】だ。ジイナ、アネモネ、どう見る?」
「こ、これはすごいですね……なんて美しい造形ですか……でも私の<アイテム鑑定>じゃ名前しか分かりません」
「ふふふ……私も無理……サリュちゃんの【聖杖アスクレピオス】と同じ感じな気がする……」
「うん、魔剣に近いけど魔剣じゃない感じだね。確かに【聖杖】の方が近い。だとすると神聖属性強化?」
うーん、この二人でも分からないとなるとお手上げだな。
実際に試すしかないか。
「シャムシャエル、触媒の腕輪を外してこの剣で低位回復は使えるか?」
「失礼して試してみるでございます。……<低位回復>! ああ、使えます!」
「つまり触媒いらずって事か?」
「ご主人様、見た感じだと威力も変わってると思います。光る反応が違います」
サリュがそう言ってきた。確かに【聖杖】は魔法の行使力が上がり、威力が増した。
それと同じ事が【聖剣】でも起きているのだろうか。
「とりあえず【聖剣アストライアー】はシャムシャエルに託す。迷宮とか訓練場で色々と試してみてくれ」
「こ、こんな素晴らしいものを私に……! ありがとうございます!」
【聖剣】は試すにしても【魔剣】と違って魔力を込めるだけじゃ分からないからなぁ。
色々と実験してみるしかないだろう。これはシャムシャエルに任せる。
「ただ剣がまた白くなって、黒い盾が浮くんだよなぁ。ジイナ、シャムシャエルの盾を白くできないか?」
「うーん、ちょっと考えてみます。色だけ変えるか、素材を変えて作るか……どうしようかな……」
ジイナが鍛治師の顔になったな。あとは任せよう。
いい感じにしてくれると信じよう。
「あと……一応……ツェンにもお土産があるんだが……」
「おおっ!? あたしにもか! なんだ、武器か!?」
「あー、いや、これ、なんだが……」
「…………お、おう…………あ、ありがとうございます……」
ああ、なんか受け取ってくれたからいっか。要らないって言われるかと思ったんだが。
すっげー照れてるけど。初めてアクセサリー貰った女の子みたいだな。顔真っ赤で目を逸らしてる。
ほれ、つけてみ、つけてみ。
「わぁ~、ツェンお姉ちゃん綺麗!」
「紫の宝石がとても似合ってますね」
「ハハハハハッ! ツェンが乙女の顔になっておる! ハハハハッ!」
「う、うるせえぞ、フロロっ! だ、黙ってろ!」
「ツェン、そんなに乱暴に動くと落ちてしまいますよ。落ち着きなさい」
「お、おう……どうすりゃいいんだよ、こんなの付けた事ねえぞ……どう戦えばいいんだ、これ?」
なかなか面白いもんが見れたな。
こりゃツェンに渡して正解だったかもしれん。
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