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第九章 黒の主、魔導王国に立つ
211:国王として、組合員として
しおりを挟む■イブキ 鬼人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
「エクスマギア魔導王国、ヴラーディオ・エクスマギアでございます。遠路遥々お越し頂きまして恐悦至極に御座います、『女神の使徒』様」
部屋に通されてまだそれほど時間は経っていない。
おそらく長時間の待機になるとは思っていた。その間にメルクリオ殿下あたりが様子見にくるかも……くらいに。
しかし最初の来訪がまさか国王陛下だとは……!
「……っ! ……国王陛下、私はただの『組合員』です。膝を付かなければいけないのはこちらの方。どうぞそのような真似をなさらず」
ご主人様が陛下を立たせ、ソファーへと案内する。
その隙に我々はご主人様の後ろに整列した。
ご主人様が膝を付けば我々も続く手筈だったのだが、先に膝を付かれては対応に困るな。今後の課題としよう。
「改めまして、クラン【黒屋敷】のクランマスターを務めております、セイヤ・シンマと申します。この度はお招き頂きましてありがとうございます」
「……あくまで『組合員』として参られたと?」
「もちろんです。それ以上でもそれ以下でもございませんので」
「……承知しました。ではこの部屋を出た時から、国王として″賓客である組合員の方々″への対応とさせて頂きます。しかし今この時だけは勘弁願いたい」
「と、申されますと?」
「″国王″という体では話せぬ事も、出来ない謝罪もございます。『女神の使徒』様に膝を付くのも現状、衆目の前では出来ませぬ。なのでここには私一人で参りました」
つまりは、ご主人様が『女神の使徒』だと吹聴していないという事か。
それがこちらにとって吉となるか凶となるか、魔導王国にとって吉となるか凶となるか。
私にはその判断は難しい。
お付きの方々と少々お話ししても? と、陛下はご主人様に断りを入れ、席を立ち、まずはミーティアに″国王″の顔を向けた。
ミーティアは侍女服のままカーテシーで挨拶する。
「お目に掛かれて光栄にございます、ヴラーディオ陛下。ミーティア・ユグドラシアでございます」
「お初にお目に掛かるミーティア姫。樹界国の報はディセリュート陛下からこちらにもすでに。ご苦労とは言えぬほど大変な目に会われたと……心中お察しする」
「お言葉有り難く頂戴いたします」
「また我が国から流れた【天庸】が貴国でも悪事を働き、ユーフィス王女殿下を手にかけ、神樹の枝を奪ったと……ディセリュート陛下にも親書にてお詫びしたが、ミーティア王女にも改めてお詫びしたい。本当に申し訳ない事をした」
「いえ……仮に【天庸】が絡まずとも国内の混乱は変わらぬ事でした。陛下が気に病むところではございません」
樹界国の政変騒ぎ自体は確かに魔導王国の関与するところではない。
しかし【天庸】が介入した事にヴラーディオ陛下は心を痛めていたようだ。
一通りの会話を終えた陛下は、そのままラピスへと顔を向けた。
「お初にお目に掛かりますヴラーディオ陛下。アクアマロウ海王国、ラピス・アクアマリンでございます」
「お初にお目に掛かるラピス姫。海王国とは離れている故、今までは顔を合わせる事も出来なんだが、こうして機会を得られたのは重畳。海王国から見ればここは遥か北の地。過ごしにくい事もあるかもしれぬ。何か不都合あれば遠慮なく申し付けて欲しい」
「お心遣い、誠にありがとうございます」
「出来ればこの機にトリトーン陛下に親書の一つでも送りたいところだが……姫にお渡しするわけにもいかんな。その際は相談に乗って頂けると助かる」
「かしこまりました。それは父も喜ぶ事でしょう」
魔導王国と海王国の間には広い樹界国がある。国交というには遠い国だ。
しかしこうして会えたのであれば、これを機に国交を結びたいという事だろうか。
互いにメリットはあるのだろうが、樹界国を通すにはミーティアも協力する事になるかもしれないな。
続けて顔はウェルシアに向く。これまでと違い、一層険しい表情だ。
「陛下、御前失礼し―――」
「ウェルシア嬢、この度はすまなかった」
「へ、陛下っ!」
ウェルシアの挨拶を遮って、陛下はウェルシアに深く頭を下げた。
これには全員が驚く。一国の王が臣下の娘に頭を下げるなどあってはならない事だからだ。
「ウェルシア嬢に起こった不幸はその全てが国の不手際によるもの。謝罪だけで済むものではないが、この場は謝らせて欲しい」
「陛下! どうぞお顔を上げて下さい!」
「この部屋で一人でなければこうして謝罪する事も出来ん。王の不都合を笑ってくれ」
「陛下……」
ようやく顔を上げた陛下は、未だ動揺しているウェルシアに目を向ける。
「セイヤ殿から言われた男爵家存続の公言については衆目の場できちんと行うつもりだ。しかしその場ではこうして頭を下げる事が出来ん。すまないがこの場での謝罪とさせてくれ」
「も、もちろんでございます! ……お心遣い誠にありがとうございます」
「しかし謝罪だけで終えるつもりもない。私が出来る事があれば協力するが、セイヤ殿への礼以外に何かあるか?」
「滅相もございません。憎きは【天庸】。それを打ち倒した今、わたくしが望む事は恩人であり主であるセイヤ様の一助となる事にございます。わたくしへの何かがあるとすれば、それはどうぞセイヤ様へお願い致します」
「であるか」
陛下は改めてご主人様と向かい合って座った。
「セイヤ殿、改めて我が国の恥部たる【天庸】の討伐に関して御礼申し上げる」
「いえ、【天庸】は私の住むカオテッドを襲撃し、私の侍女たちの敵でもあり、私の友であるメルクリオ殿下の仇でもあったのです。つまりは私が私の為に勝手にやった事。動くのは当然の事です」
「それでも我が国を救った事には変わりありませぬ。もしそこにセイヤ殿が居なければカオテッドで数万が死に、魔導王国で十万以上の民が死んだでしょう。その事実を私は国の王として感謝いたします」
「……ありがとうございます。そう言って頂けると幸いです」
「ウェルシア嬢の話でもありましたが、私はそれに礼を持ってお返ししたい。先にご希望された『杖』もそうですが、それだけでは到底私の感謝に届きませぬ。いくつか見繕った上で『クラン【黒屋敷】に対する我が国からの褒賞』という形でお渡ししたいと考えております」
この部屋を出れば『国王と女神の使徒』ではなく『国王と組合員』となる。
であれば礼ではなく褒賞となるか。
女神の使徒に『褒美を与える』というわけにもいかないからな。
「……それは有り難いお話しですが、ただの組合員、しかも基人族に対してあまり褒美を与えると問題になるのでは?」
「ええ、ですので大変恐縮なのですが、一つご協力して頂きたい」
「協力、といいますと?」
「これは国王である私から『Sランククラン【黒屋敷】への指名依頼』と考えて頂きたいのです。と言いますのも―――」
そこからの話は、なるほどこれが国王かと思わせるものであった。
ご主人様と話す陛下の瞳はどこまでも深く、一歩間違えれば極悪人か重犯罪者のよう。
先々を見据えて悪だくみをするような、何とも重い空気の中、嬉々と語るその表情は国王というものの大変さと恐ろしさを同時に感じるものであった。
ご主人様は陛下の話を納得した上で受けた。
メリットとデメリットを天秤にかけるような依頼であったと思う。
一部、それで機嫌の悪くなった侍女もいるが、私としては受ける方に賛成だ。
一通りの話が終わり、長く感じた対談の場も終わった。
ヴラーディオ陛下が退室すると、皆がドッと疲れたように席についた。
それは私も、そしてずっと対面したご主人様も同じだ。
「めんどくせーなー、王族って」
ご主人様が背もたれに身体を預けてそう言う。
私たちには苦笑いしか出来ない。
ご主人様、一応監視の目があるんですよ? 忘れてません?
「ひぃぃぃ……私はもうダメです……死にますぅ……」
「ユアお姉ちゃんがなんか細くなってる!」
「ふふふふふ……私もさすがに……陛下の御前はきつい……死ねる……」
「アネモネお姉ちゃんも!?」
魔導王国出身のユアとアネモネは一際堪えたようだ。
ユアはまぁ分かるが、アネモネも相当なダメージを受けている。
何気にウェルシアもきつそうだ。謝罪を受けた分、いくらか嬉しそうでもあるが。
「あー、そうだ。さっきの陛下の話だがもしかすると王都の買い出しが早まるかもしれん。一応聞いておくが―――アネモネ、お前は実家に行かないでいいんだよな?」
「はい。むしろ王都で、出歩きたくないです、すみません……」
アネモネの実家は王都に店舗を持つ商家だったな。
確かに買い出しとなれば赴く事になるかもしれない。
しかしアネモネは両親に奴隷にされた身だ。
会いたくないというのは本音だろう。
学校という物にも行っていたそうだし、少なからず王都に知り合いも居る。
そうした人たちとも会いたくないから、王都では出歩きたくないと。
アネモネのこうした我がままは非常に珍しい。
だからこそご主人様も考慮されるのだろうが。
「いやいい。ただ最初は一緒に出掛けてもらう事になるぞ。変装してもいいけどな。まぁ実家に行くわけじゃないが」
「はい……」
「アネモネ抜きで買い出しするにしても、俺たちも寄らないつもりだ。ちなみに店の名前は?」
「……【ジキタリス商会】です」
買い出ししても、そこには寄らないと。覚えておかないとな。
場所も聞いておいたほうがいいか。
いや、その前に地図が欲しいな。ここの侍女かメルクリオ殿下に頼めば貰えるか?
やれやれ、やっと到着したのに全く落ち着けないとは。
早くもカオテッドが恋しくなってきたな。
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