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第九章 黒の主、魔導王国に立つ
213:策謀の道化師
しおりを挟む■ドグラ・マーキス 導珠族 男
■136歳 エクスマギア魔導王国宮廷魔導士団 副団長 侯爵位
「お待ち下さい、国王陛下ッ!」
陛下のお言葉を遮るという真似はたとえ第二王子であるジルドラ殿下であっても許されるものではない。
その事に驚きつつ、よくぞ止めて下さったという思いが勝つ。
さすがは勇猛果敢、武に才を持つジルドラ殿下よ。
「ジルドラ殿下! 陛下のお言葉を遮るとは―――」
「よい、宰相。ジルドラ、何か言があるのか?」
殿下に対する宰相の注意を片手で止め、陛下はジルドラ殿下に言葉を促した。
対するジルドラ殿下も陛下に頭を下げ、「突然の物言い、申し訳ありません」と口にするもその表情は険しい。
「【天庸】討伐の件は真に喜ばしき事! しかし、その者らが『【天庸】の全てを討伐した』と言われましても到底信じられませぬ! 我ら王国騎士団や宮廷魔導士団、衛兵たちが何度立ち向かおうとも決して勝てなかった相手です! その強さは我々が誰よりも知っております! ……それが基人族とメイドの集団に倒されるなど!」
ジルドラ殿下のお声は、謁見の間に居た全ての貴族、騎士団の代弁と言っても良かった。
そこに″ヴァーニー派″や″メルクリオ派″が居ようとも関係ない。皆が殿下の言葉に頷く。
誰が見ても『最弱種族の基人族』と『戦えるはずのないメイドたち』なのだから。
いくら陛下が宣言し、実際に【天庸】が討伐されていようと、疑惑のみが支配している。
それは【黒屋敷】とかいうクランの連中に対する疑惑であると同時に、その報告をしたメルクリオ殿下、そしてそれを認めこの場で口にしたヴラーディオ陛下に対する疑惑だ。
畳みかけるならば今しかない。後の布石とするならば私がイの一に動かなければ意味がない。
場の空気はジルドラ殿下へと完全に靡いている。
私は失礼にも一歩前に出て、玉座に向かい膝をついた。
「恐れながらわたくしもジルドラ殿下のお言葉に同意いたします! どう見ればこの者たちを【天庸】討伐者として認められましょうか! 討伐どころか普通に戦う事すら無理に思えます! Sランク組合員だの【天庸】を討伐しただの言われましても、甚だ理解に苦しみます!」
頭を下げたままだが、周りの貴族たちが私に同意しているのがよく分かる。
私のこの無礼に対し、誰も何も口に出さないのが何よりの証だ。
「ふむ、ドグラ・マーキス侯爵。その方は私が認め、国を治める者として賛辞を贈ろうと言うのに、それを間違いだと申すか?」
「滅相もございません! 何かしらの確信を持ち陛下がこの場を持たれた事は、愚昧なわたくしであっても分かります! なれどこの者たちを目の前にして、それに納得できる者がおりましょうか!」
【天庸】に対し苦々しい思いをしてきたのは、多かれ少なかれ、この場に居る者全てだろう。
だからこそ【天庸】が討伐され嬉しい気持ちはある。
だからこそ余計に、この者たちが信用できなくもあるのだ。
皆、基人族とメイドごときにあの【天庸】が倒されるはずがないと、そう思っている。
「なるほど。ではどうする? 何を持ってこの者らの力を証明する? 侯爵、其方がこの者と戦ってみるか?」
「……せっかくの機会と有り難くも思いますが、わたくし如きでは【天庸】の代わりとはなりますまい」
レッテルを剥がすには実際に戦うのが一番良い。
しかしこの場に呼び寄せた基人族が、『単なる基人族』だと決めつけるのは早計。
何かしらの理由がある。であれば愚直に戦うわけにもいかん。
私とて宮廷魔導士団の副長の座に居るのだ。
魔法の腕には自信がある。
とは言え、【天庸】の連中と比べられるものではない。
【天庸】の規格外の強さは、誰もが知っている事なのだから。
「であろうな。仮にジルドラであっても【天庸】の代わりは務まらぬ。あれらはその全てが一騎当千の猛者ばかりなのだからな」
「陛下の仰る通りかと。なればこそ……迷宮に挑戦して頂くというのはいかがでしょうか」
「ほう」
謁見の間、全体の空気が変わる。
今、流れは完全に私に来た。
「この者らが本当に【天庸】を倒すほどの力を持つ″Sランク組合員″だと言うのであれば、その力を示すのは迷宮こそが相応しいと愚考いたします! 【ツェッペルンド迷宮】にてその力を測るべきかと!」
「ただ探索すれば皆は納得すると?」
「王都所属のAランククラン【相克の蒼炎】と競わせてはいかがでしょうか! 彼の者らは王都所属の迷宮組合員にあってベテランにございます! とは言え、その者らが本当にSランクであれば、Aランクの【相克の蒼炎】であっても競り勝って然るべきでございましょう!」
「なるほどな」
この場に居る全ての貴族、騎士団たちは、この者を『【天庸】討伐者』どころか『Sランク組合員』としても認めていない。
当然だ。″魔法の天才″メルクリオ殿下率いる【魔導の宝珠】でさえAランク。
Sランクなど早々いない。
それなのにSランクと名乗らせ、この場の呼んだのにはやはり意味があるのだろう。
全てが偽りとは思わない。だが最弱の基人族という種族特性は変わらないし、メイドたちを見ても竜人族や鬼人族は居るものの、とても強そうには見えない。
仮に【天庸】討伐の報告内容がメルクリオ殿下、もしくは第三者による出鱈目だったとして、その力を測るのならば、付け入る隙は『Sランク』というその肩書きだ。
そこが一番の隙であり、そこが一番分かりやすい指標なのだ。
だからこそ周りの貴族たちは私の提案に納得した表情を浮かべるのだ。
「セイヤ・シンマよ、私の臣下たちはどうも其方らの力を疑っているようだ。どうだ、迷宮探索による勝負、受けてはくれぬか」
「…………ハッ」
陛下からの頼みに、若干の戸惑いをもって返答した。
やはり本心では『勝負などしたくない』という事だ。露見を恐れている。
であれば、もう勝負は見えたようなものだ。
「勝負の内容についてはおって伝える。そして見事その力を証明したあかつきには、【天庸】討伐の褒賞に加え、さらなる褒賞を約束しよう。この場はそれまで留めるものとする。皆の者もそれで良いな?」
『ハッ!』
陛下がヴァーニー殿下や宰相らと共に退室し、我らも次々に部屋を出る。
最後に残るのはメルクリオ殿下と客人の彼らだ。
私もこれからが忙しい。さっさと策を練らねばな。
■シャムシャエル 天使族 女
■5043歳 セイヤの奴隷 創世教司教位
「ただいまー」
ご主人様たちが私たちの集まる八階の応接室へと帰って来ました。
そのお顔は非常にお疲れのように見えます。
ご主人様だけでなく、一緒に参列した十三人の方々も。
「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」
私たちがお茶を配る横で、早速とばかりにミーティアさんがお聞きします。
「大体、聞いてたとおりの流れだな。細かい差異はあるけど」
紅茶に口を付けながら、ご主人様はそう言います。
今回の『褒賞の席』については、事前に国王陛下からお話がありました。
貴族連中は我々……と言いますか、ご主人様が褒賞を受ける事に納得しないだろう。
納得させる為、認めさせる為に、我々に協力して欲しい。
それをSランククラン【黒屋敷】に対する指名依頼とさせて欲しい、と。
私たちとしては貴族が納得しようがしまいが、何の痛手もありません。陛下が認めて下さっている現状であれば褒賞だけ受け取りカオテッドに帰還すれば良いのですから。
しかし、その証明方法が【ツェッペルンド迷宮】の探索勝負となれば、こちらにもメリットが発生します。
他にもメリットは色々とあり、結局はご主人様が受ける事を決断しました。
陛下からすれば臣下に物言いを許すわけですから、その場そのものが国の恥です。
王として律せていないと外聞するようなもの。
それでも「申し訳ない」と頭を下げる陛下には、別の思惑もあるように感じました。
ただ臣下を認めさせるだけでは済まないのだろうと。
ともかくそうした事前のお話があり、一部の侍女の『謁見の間』への参列は見送られたのです。
私、ミーティアさん、ラピスさん、ウェルシアさん、マルティエルの五名ですね。
残念ではありましたが、またの機会と致しましょう。
ご主人様とミーティアさんのお話に耳を傾けます。
「ではやはり【ツェッペルンド迷宮】へ?」
「ああ、帰り際に内々に聞いたが、三日後から開始だ。十日間でどこまで潜れるか、みたいな感じらしい」
「十日間ですか……」
「短いよな。だから飛ばして行く事になるぞ。みんなも承知しておいてくれ」
【ツェッペルンド迷宮】は″中規模迷宮″と呼ばれるものだそうです。
迷宮によってその構造は大きく異なるらしいですが、私はカオテッドしか知らないので色々とお聞きしました。
【カオテッド大迷宮】は″大規模″。一層辺りが非常に広く、魔物も非常に強い。
その代わり階層自体は少ないようです。
【迷宮主】の他に、階層の各地に【領域主】が存在します。
ご主人様たちが以前に攻略した【イーリス迷宮】は″小規模″。一層辺りが狭く、階層も十階程度。
【主】も【迷宮主】しか存在せず、魔物も比較的弱めだそうです。
今回挑戦する【ツェッペルンド迷宮】は″中規模″という事で、何が違うのかと言いますと、大きくは二つ。
一つは″小規模迷宮″に比べて深いという点。
もう一点は【迷宮主】以外に【階層主】という魔物が居るのだそうです。
つまり、今回の勝負は『期間内に何階の【階層主】を倒し帰還するか』というものを競う形になるだろうと。
もちろんご主人様は″制覇″を狙っています。
だからこそ十日という期間が短いと。十階層程度では済まないのですから。
「相手がナントカって言うAランククランになるのかは分からんが、俺たちがやる事は変わらない。とりあえず明日は全員で迷宮組合に行って、拠点変更申請を行う。Sランクらしく、しっかり登録してから潜らないとな」
『はい』
「ご主人様、私たちも行っていいのよね? また待ちぼうけとか嫌なんだけど」
ラピスさんが聞きます。
今回、参列出来なかったことにブーたれていましたからね。私もですが。
応接室でずっとマルティエルを抱っこしていましたよ。
「全員で登録して全員で潜るつもりだ。じゃないと組合員証に『ツェッペルンド迷宮制覇』って記載されないからな」
「よっし! これで私の組合員証にも何かしら書かれるのね!」
組合員証の裏面に『イーリス迷宮制覇』も『竜殺し』も記載がないのは私とマルティエル、ラピスさん、ユアさんの四名だけですからね。
見事に空白のままです。
今回、ご主人様が陛下の依頼を受け、迷宮制覇を狙っているのも、私たちにその記載をさせたいという思いも一つあるようなのです。お心遣いの出来るご主人様ですね。
「貴族たち当人が見に来るわけじゃないだろうから、ミーティアやラピスたちが一緒に行動しても問題はないと思うが、それでも念の為、組合に行った後の買い出しは不参加にしておく。五人だけじゃなくアネモネもな。王都の散策は全部が終わってからもやるから、その時を楽しみにしててくれ」
『はい』
「ただ……シャムシャエルとマルティエルが目立ち過ぎるんだよな……」
も、申し訳ございません……。
私たちが傍に居る事で『ご主人様=勇者?』と勘繰られてしまう為、陛下からは今日の席に参列しないで欲しいと頼まれました。
今は『ご主人様=組合員』であると強調すべきだと。
王城に入る前に衛兵の方や侍女の方に少なからず見られてはいますが、貴族の方々には見られていないはず。
だから迷宮勝負が終わるまでは目立つわけにもいかないと。
しかし私もご一緒に迷宮に行きたいですし、我々だけお留守番というのはさすがに情けないです。
「変装するか……いや、翼をローブか何かで強引に隠しても、天使の輪がなぁ……どうすればいいか……」
も、申し訳ございません……色々と邪魔で、ご迷惑を……。
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