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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
232:ステンドグラスとコスプレのその後
しおりを挟む■ミーティア・ユグドラシア 樹人族 女
■142歳 セイヤの奴隷 日陰の樹人 ユグド樹界国第二王女
カオテッドに帰って来た翌日、私はシャム、マルと共に北東区に来ました。
目的は『カラバ硝子店』。ステンドグラスをお願いしている所です。
屋敷に製作中の『総合神殿』を中途半端なまま旅立つ事になったので気掛かりではありました。
せっかく作った十七体もの神像も、動かす事が危ぶまれた為、置きっぱなしです。
昨日、帰ってからシャムたちと一番に確認しに行き、無事だった事に安堵したものです。
これで倒れていようものなら不敬というレベルではありませんからね。
ともかくその総合神殿もステンドグラスを窓にはめることで一応の完成を見ます。
私たちは足取りも軽くガラス屋さんに向かいました。
……まぁ私以外は飛んでいるのですが。
「おお、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「ご無沙汰しております。遅くなりました」
「いえいえ、ささ、こちらへどうぞ」
【天庸】襲撃事件から私たちへの対応が柔らかくなったお店もありますが、ここは以前からちゃんとした対応をして下さいます。
すっかりお得意様と言いますか、大口の顧客なので、店主のカラバさんも相応の対応です。
エントランスなどに置いてある展示物のガラスケースもこのお店で買っていますからね。
今日もステンドグラスの他、同じようにガラスケースや板ガラスを買わないといけません。
ツェッペルンド迷宮のドロップを展示しなくてはいけませんから。
……しかしその展示品を置くスペースが……本当に隣のお屋敷を買われるのでしょうか。
……例の『博物館』というものにするのか……少々気掛かりです。
「それでご依頼頂いた『ステンドグラス』というものですが、このような形になりました。いかがでしょうか」
カラバさんは布に覆われた窓ガラス大の大きなものを広げます。
そこから出てきたのは紛れもなく我々が注文したステンドグラスそのもの。
「まぁ! 素晴らしい!」
「なんという美しさでございましょう!」
「すごいでござる! こんなの初めて見るでござる!」
「ええ、ええ、そう言って頂けて良かったです。我々としても初の試みで試行錯誤したところはございますが、自分たちで見て尚、素晴らしいと思えるものが出来たと思います」
カラバさんが自信たっぷりにそう言いますが、いやはやこれは自画自賛も止む無しですね。
元々、発注するに当たり、ご主人様から「ステンドグラスとはこういうものだ」と教えて頂き、その上で私たちでデザインを考えました。
それを元に発注したのですが、カラバさんに伝えるのに苦労したのです。
色ガラスを組み合わせて″絵″を作るというのはガラス職人にとっても未知の技術。
カラバさんや職人さんたちもそんな事が可能なのかと半信半疑だったようです。
そこを無理を推してお願いしたのです。試しに作ってみて欲しいと。
「おそらく反響を呼びますよ、これは。本当に私どもも売りに出していいのですか?」
「ええ、同じ図柄でなければ問題ないですよ」
「ありがとうございます。いやはやこんな素晴らしいアイデアを頂いてしまって【黒屋敷】の皆様には足を向けて眠れませんよ」
ステンドグラスは北東区を中心に流行りそうですね。
発祥がご主人様という風にしてもらった方が良いでしょうか。風聞的な意味で。
まさかご主人様の元いらした世界の技術とは言えませんし。
ともかくこれほど素晴らしいものは売れるに違いないでしょう。
職人さんが慣れてくれば難しい図柄も今後頼めるかもしれません。
そうなれば嬉しいですね。
割れると困るので厳重に梱包して貰い、一枚ずつ丁寧にマジックバッグに入れます。
総合神殿は元々パーティーホールという事もあり、両開きの窓が四つあります。窓は計八枚ですね。
今回は全て同じ図柄のステンドグラスを八枚頼みました。マジックバッグとは言え、持ち運ぶのが怖いですね。
展示品用のガラスケースと板ガラスも購入し、店を出ます。
どこにも寄らず、早足で屋敷へと向かいます。
そうして屋敷に着くなり総合神殿に直行。
嵌められている普通の窓ガラスを外し、ステンドグラスの窓に付け替えました。
「「「おおー」」」パチパチパチ
思わず三人で拍手してしまいます。これは素晴らしい。
窓ガラスが色付きになった事で日光の入り具合も鈍くなっています。
無暗に光が入らず、厳かで、ステンドグラスのデザインもあり神聖な空間となりました。
「どうだー、完成したかー? ……うわっ! なんじゃこりゃ!」
ちょうどご主人様が帰って来たようです。
部屋に入るなり驚きの声を上げました。
「えぇぇぇ……なにこれ、お前らステンドグラスこのデザインにしたの? うわぁ……」
「我々の総合神殿ですからこれ以外にありませんよ」
ステンドグラスのデザインは私たちの奴隷紋です。
後光の差す、両手を広げた女神様を象ったもの。
両開きの窓は紋様の円形以外は塞がれ、色ガラスで作られた紋様から光が差しこむ恰好です。
「女神様の神像の後ろから、ステンドグラス越しの光が差しこむのでございます! なんと神々しい!」
「ステンドグラスの奴隷紋と神像のポーズがマッチしてるでござる!」
「神殿に降り注ぐ光はまるで後光のよう。素晴らしいではないですか」
「お、おう、そうか……」
分かってはいましたがご主人様には不評のようです。
でも侍女の皆は喜んでくれました。素晴らしいと。
「ますます俺は縁遠い場所になったなぁ……」
そんな事を仰らずに一緒にお祈りして下さればいいのですが……。
■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
「ただいま! お父さん、お母さん!」
「おお、ドルチェ! おかえり!」
カオテッドに帰って来た翌日、私は早速実家に顔を出しました。
北西区にある『ガッバーナ服飾店』。大通りからの枝道にある小さなお店です。
魔導王国へ出発する前は、まだやっと商業組合が稼働したばかりという頃。
その少し前には店の存続も危ぶまれていたので、帰って来た時に店が潰れていたらどうしようかと心配していました。
でもお父さんもお母さんも元気そうで一安心です。
「どうだった? 魔導王国は」
「すっごかったよ! 家はみんな背が高いし、王城なんて塔みたいだし、見た事もない魔道具とかいっぱいだし……あ、そうそうこれお土産」
「これは……裁縫の魔道具か!?」
「まぁドルチェ! こんな高価なものをお土産だなんて……」
やっぱり喜ばれるより驚かれました。分かってましたけど。
でもちゃんと自分のお小遣いで買ったものだし、魔導王国の王都で買えばここら辺よりかなり安いし、珍しい物とか種類も豊富だし。躊躇せずに買えちゃうくらいだったんですよね。これしかない、って。
ちなみにお屋敷にも同じ物を買ってもらいました。それはご主人様に。
私もお屋敷で皆さんの服の補修とか縫物とかしますし、これがあればすごい楽なので。
そんな事を説明し、両親は納得してくれた模様。
「―――それでここに糸を引っ掛けて、足で魔力を流すんだよ。これが難しい」
「足から魔力を……慣れるまでが大変だな」
「でも慣れちゃえば簡単だし、すごい便利だよ。ちょっとやってみるね」
タタタタタタタタ……
「早いっ! しかも綺麗じゃないか!」
「まぁ、本当ね。曲がらずに等間隔で縫ってるわ……よくこんな魔道具を開発したものね」
「そこはさすが魔導王国だよ。他にもあったけどこれが一番良さそうだったからさ」
やっぱり足から魔力を伝えるのは難しいらしい。繊細な強弱とか、手でやるより難しいですし。
私は帰りの馬車とかでこっそり練習してたので出来るようになりましたけど、もしかするとご主人様に【器用】の<カスタム>をされているからかもしれないです。
そう考えるとお父さんやお母さんは苦労するかもしれない。でもやっぱ便利だし使って欲しい。
「しかしフェンディ、これがあれば早々に注文も捌けるぞ」
「そうね。この機に乗り遅れるわけにはいかないもの。助かったわ」
「なになに? なんか良い商談でもあったの?」
何やら商売で忙しくなりそうな何かがあった様子。それは何よりと、私は両親に問いかけました。
「【黒屋敷】のレプリカシリーズだよ」
「へ? あの、前にご主人様が言ってたやつ?」
「ああ、店に飾ったそばから売れちまう。予約もバンバン入ってるから最近はそればっかさ」
「ドルチェやセイヤさんのおかげね~。本当に感謝しかないわ~」
え……店に入った時に飾ってなかったから、てっきり売るの諦めたと思ってましたが……まさかそんな事になっているとは。
聞けばどうやら私が出入りしていた事も原因の一つだったらしいです。
【黒屋敷】のメイドが『ガッバーナ服飾店』に入っているらしい。
えっ、娘が【黒屋敷】の一員なの!?
【黒屋敷】公認のレプリカ!? すげえなこれ!
と、こんな感じだったらしい。
今では北西区でも結構有名らしく、侍女でもないのに買う人が多いんだとか。
ご主人様の喪服もなぜか売れているらしい。
……これは北西区が真っ黒になってしまうかもしれない。
……ご主人様に報告……しなきゃいけないんだろうなぁ。
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