243 / 421
第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
234:はじめての犯罪奴隷
しおりを挟む■フロロ・クゥ 星面族 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面
今日は朝からまずはティサリーン商館へと向かう。
ご主人様を先頭に、エメリー、ネネ、イブキ、そして我。
意外な面子だとは思うが、今日はもうどんな奴隷を買うか決まっておるからのう。
ラピスとユアの契約をした際に示唆されていたようだし。
最近は頑なに我を商館へと連れて来なかったが、今日は最初から買うと分かっているので我も呼ばれた格好だ。
別に我を連れて行くと必ず奴隷を買わなければいけない、なんて事ないのだがな。
どうもご主人様は奴隷に関して、我を扇動者か何かのように捉えているようだ。全く失礼な話だ。
「本当に一人だけなんだろうな? 実は二人でした、とかなしだからな?」
「我に言うでないわ。我の星詠みでは一人で間違いない。しかし女主人が勧めてご主人様が納得すればどうせ買うのだろう? それは星詠みの範疇ではないし、ご主人様の自由だ。我がとやかく言える事ではない」
「むぅ……」
我の星詠みはあくまで『ご主人様の運命を詠む』というだけ。
ご主人様の運命に絡む者の事は分かるが、それはご主人様にとって受動的なものだ。向こうから出会いが近寄ってくる感覚。
しかしご主人様が自分から望んで奴隷を増やそうと思えば、それは余程の事がない限り星詠みには出ない。
ご主人様がその時、その場で手ずから造り上げた運命なのだから。
それでも尚、星詠みに出るという場合はそれこそ互いに導かれた運命という事であろう。
だから奴隷を増やしたかったら運命など気にせずに増やせば良いのだ。
それを葛藤なのか何なのか、自分の気持ちを隠し、我のせいにするなど言語道断。全く失礼な話ではないか。
……まぁ我もその反応が面白くてわざと弄る時もあるのだが。
とまぁそんな事をぶつくさと言いながら、大通り沿いにあるティサリーン商館へと到着。
「あらあらセイヤ様、お待ちしておりましたわ~、こちらへどうぞ」
有無を言わさず、いつもの応接室へと案内される。
「少々お待ち下さい、今連れて参りますわ~」
「え、あ、はい……」
有無を言わさず、紹介するらしい。というかもう売るつもりらしい。
商館に来た=絶対に買うと思われている。商人としてどうかと思うがご主人様への対応としては正解だ。
あの女主人はご主人様の事をよく分かっているな。絶対買うから。間違いなく買うから。
そうして連れて来たのはやはり小人族の少女だった。
緑のショートヘアに長めの垂れ耳。目つきは鋭いが可愛らしい顔立ちだな。
当然ながらティナやマルよりも小さい。ネネの頭一つ小さいといったところか。
「この娘はパティと言いまして、十三歳の小人族です。犯罪奴隷ですわ」
「犯罪奴隷?」
ほう、犯罪奴隷なのか。今まで借金奴隷はあっても犯罪奴隷は居ない。
ジイナが火災を起こした罪で奴隷落ちしたらしいが、建前上は借金奴隷だったしのう。
「どんな犯罪を? 奴隷として売るくらいだから軽犯罪なんでしょうが」
「窃盗ですわね。パティはとある街のスラム出身で、毎日の食事などを盗んでいたそうですわ」
「なるほど。金目当ての盗みではなく、食いつなぐ為の盗み……という事ですか?」
「ええ。貴金属やスリの経験もあるそうですが、それも食費の為だそうで」
ふむ、スラムの子供が生きるために盗むか。よく聞く話ではあるが……少し心配にもなるのう。
ご主人様も同じようで、パティ自身に質問する。
「パティ、ティサリーンさんの言う事に間違いはないか?」
「あ、えっと、ない、です」
「普通に喋っていいぞ。無理して繕う必要はない。で、例えば三食ちゃんと食べられる環境だったら盗みなんかしなかった、という事でいいか? それでも何かしら盗んでいたと思うか?」
「……分かんない、です。あたいは食う為に盗んでたけど、それ以外の生活なんて知らないし……。ここで食わせてもらって学ばせてもらって、あたいからすれば夢のような生活なんだけど、今何かを盗もうとは思わない。でも……先の事なんか分からないし」
今を生きる事に精一杯の生活。だからこそ未来の事など考えない。
いや、考えはするのだろうが、未来に目を向けるよりも″今″なのだろう。
だからこそ未来が不定形であると自分自身でよく分かっている。
我とは真逆だな。
我は幼い頃より星詠みで、未来ばかりを見据えて来た。未来ありきの″今″であった。
しかしパティは″今″ありきの未来なのだ。これは我も考えさせられるのう。
「ティサリーンさん、パティを奴隷とした場合、何か変わるんですか?」
「犯罪奴隷ですので所々変わりますわね。例えば――」
女主人が言うには我々の奴隷契約とは大きく二つの違いがあるらしい。
一つは、一定期間の雇用報告義務が発生する。パティが悪さをせずにちゃんと働いているとご主人様が報告するわけだな。
パティの場合は窃盗罪での犯罪奴隷なので一年間の報告義務があるらしい。報告先は女主人だとか。
もう一つは奴隷契約の内容を厳しく設定する必要があるという事。
我らの奴隷契約はご主人様の希望もあって、かなり軽く設定されておる。
ご主人様が認めない者に対し、転生者である事やスキルの詳細など、ご主人様の不利になる事は口にする事が出来ないが、逆に言えば、それ以外はほぼ自由だ。奴隷としては破格と言って良い契約だろう。
それに加えてパティの場合は厳しく隷属するような内容になるらしい。
例えばご主人様に手を出さないであったり、虚偽報告が出来ないようになっていたり、ご主人様の強い命令に対して順守するようになっていたり。
我らと比べればかなり重いが、一般的な奴隷と考えれば普通にも思える。
これが軽犯罪奴隷の″一般的″なのか、それとも女主人の心持ちによるものなのか。我には判断できん。
「パティ、俺は奴隷の皆には侍女として家で働いてもらう一方、クランメンバーとして迷宮に入る事も頼んでいる。もし俺の奴隷になったらパティも迷宮に潜る事になるが、それは大丈夫か? 奴隷だからと無理に戦わせようとか、肉盾にしようというつもりはないが」
「えっと……あたいは戦った事なんてないんだけど……それでも大丈夫なのか、ですか?」
恐怖や不安の顔色は伺える。しかし言われたならば従うという奴隷らしい考えも見える。
我にはそれが達観か、諦めのようにも見える。
果たしてそれがどう転ぶか。いずれにせよ迷宮に行くのは問題ないだろう。
ご主人様は我らを見回し、女主人に買う旨を伝えた。
パティは少し残念そうな表情を浮かべていた。
しかし女神の奴隷紋が左手に刻まれると、さすがに驚いたらしい。「ふっふっふ」と我らも揃って左手を見せつける。
どうだ、神々しかろう。これで汝も我らの仲間だぞ、と。
「パティ、大丈夫よ。貴女の生活は今までよりもずっと良いものになるわ。セイヤ様を……ご主人様を信じなさい。しっかりやるのよ」
「ティサリーンさん……ありがとう、ございました……」
パティは商館に預けられてから、しばらく女主人によくして貰っていたらしい。
今までここで買ったポルやジイナ、アネモネやウェルシアに比べその期間は長く、だからこそ名残惜しい気持ちもあるのだろう。
犯罪奴隷だから期間が必要だったのか、女主人がタイミングを計ったのか、それは我にも分からん。
しかしこう言われては、パティにもそれ相応の暮らしをさせてやらねばなるまい。
それは我よりもご主人様が意識しているようだ。顔付きが来る前とは違う。
いつも奴隷を買う時とも違う顔だ。まるで「買って良かった」と言っているようにも思えた。珍しいのう。
商館を出て、まずは説明の為に屋敷へと向かう。組合の登録も後回しだ。
「げえっ! 【黒の主】!」
「まぁたティサリーン商館から出て来やがった!」
「まぁた奴隷増やしやがっ……小人族か。普通だな」
「天使族とか人魚族が続いてたからな。すごく普通に見える」
「いやいやお前らよく見ろ! 可愛いじゃないか!」
「爆発」
そんな有象無象を無視して一路通りを北へ。
その途中、先頭のご主人様が「うおっ!」と声を上げた。
何事かと思えば虚空で指を動かしている。あれは<カスタム>だな?
「すまん、ちょっとパティのを見てたんだが驚いた。帰ったら説明するわ。こりゃとんでもないぞ」
なんだなんだ? 今までにない反応だのう。
それほどパティのステータスが優秀なのか? 戦った事などないと言っていたが……。
気になるが、さすがに天下の往来で聞く話でもない。少し我慢しよう。
「えっ! あ、あれが、ご主人様の家なのか!? ……ですか!?」
「そうだぞー。そして今日からパティの家でもある」
「こ、こんな家に住むのか……あたいなんかが……」
スラムからいきなり貴族並みの豪邸だからな。衝撃は大きかろう。
しかしこれから先の事を考えれば、この程度で驚いてもらっては困る。
ここは常識人たる我がフォローし、なるべくショックを受けないよう、なるべく早く馴染めるよう気を回さねばなるまい。
パティよ、我にドンと任せておくが良い。
0
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる