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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
234:はじめての犯罪奴隷
しおりを挟む■フロロ・クゥ 星面族 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面
今日は朝からまずはティサリーン商館へと向かう。
ご主人様を先頭に、エメリー、ネネ、イブキ、そして我。
意外な面子だとは思うが、今日はもうどんな奴隷を買うか決まっておるからのう。
ラピスとユアの契約をした際に示唆されていたようだし。
最近は頑なに我を商館へと連れて来なかったが、今日は最初から買うと分かっているので我も呼ばれた格好だ。
別に我を連れて行くと必ず奴隷を買わなければいけない、なんて事ないのだがな。
どうもご主人様は奴隷に関して、我を扇動者か何かのように捉えているようだ。全く失礼な話だ。
「本当に一人だけなんだろうな? 実は二人でした、とかなしだからな?」
「我に言うでないわ。我の星詠みでは一人で間違いない。しかし女主人が勧めてご主人様が納得すればどうせ買うのだろう? それは星詠みの範疇ではないし、ご主人様の自由だ。我がとやかく言える事ではない」
「むぅ……」
我の星詠みはあくまで『ご主人様の運命を詠む』というだけ。
ご主人様の運命に絡む者の事は分かるが、それはご主人様にとって受動的なものだ。向こうから出会いが近寄ってくる感覚。
しかしご主人様が自分から望んで奴隷を増やそうと思えば、それは余程の事がない限り星詠みには出ない。
ご主人様がその時、その場で手ずから造り上げた運命なのだから。
それでも尚、星詠みに出るという場合はそれこそ互いに導かれた運命という事であろう。
だから奴隷を増やしたかったら運命など気にせずに増やせば良いのだ。
それを葛藤なのか何なのか、自分の気持ちを隠し、我のせいにするなど言語道断。全く失礼な話ではないか。
……まぁ我もその反応が面白くてわざと弄る時もあるのだが。
とまぁそんな事をぶつくさと言いながら、大通り沿いにあるティサリーン商館へと到着。
「あらあらセイヤ様、お待ちしておりましたわ~、こちらへどうぞ」
有無を言わさず、いつもの応接室へと案内される。
「少々お待ち下さい、今連れて参りますわ~」
「え、あ、はい……」
有無を言わさず、紹介するらしい。というかもう売るつもりらしい。
商館に来た=絶対に買うと思われている。商人としてどうかと思うがご主人様への対応としては正解だ。
あの女主人はご主人様の事をよく分かっているな。絶対買うから。間違いなく買うから。
そうして連れて来たのはやはり小人族の少女だった。
緑のショートヘアに長めの垂れ耳。目つきは鋭いが可愛らしい顔立ちだな。
当然ながらティナやマルよりも小さい。ネネの頭一つ小さいといったところか。
「この娘はパティと言いまして、十三歳の小人族です。犯罪奴隷ですわ」
「犯罪奴隷?」
ほう、犯罪奴隷なのか。今まで借金奴隷はあっても犯罪奴隷は居ない。
ジイナが火災を起こした罪で奴隷落ちしたらしいが、建前上は借金奴隷だったしのう。
「どんな犯罪を? 奴隷として売るくらいだから軽犯罪なんでしょうが」
「窃盗ですわね。パティはとある街のスラム出身で、毎日の食事などを盗んでいたそうですわ」
「なるほど。金目当ての盗みではなく、食いつなぐ為の盗み……という事ですか?」
「ええ。貴金属やスリの経験もあるそうですが、それも食費の為だそうで」
ふむ、スラムの子供が生きるために盗むか。よく聞く話ではあるが……少し心配にもなるのう。
ご主人様も同じようで、パティ自身に質問する。
「パティ、ティサリーンさんの言う事に間違いはないか?」
「あ、えっと、ない、です」
「普通に喋っていいぞ。無理して繕う必要はない。で、例えば三食ちゃんと食べられる環境だったら盗みなんかしなかった、という事でいいか? それでも何かしら盗んでいたと思うか?」
「……分かんない、です。あたいは食う為に盗んでたけど、それ以外の生活なんて知らないし……。ここで食わせてもらって学ばせてもらって、あたいからすれば夢のような生活なんだけど、今何かを盗もうとは思わない。でも……先の事なんか分からないし」
今を生きる事に精一杯の生活。だからこそ未来の事など考えない。
いや、考えはするのだろうが、未来に目を向けるよりも″今″なのだろう。
だからこそ未来が不定形であると自分自身でよく分かっている。
我とは真逆だな。
我は幼い頃より星詠みで、未来ばかりを見据えて来た。未来ありきの″今″であった。
しかしパティは″今″ありきの未来なのだ。これは我も考えさせられるのう。
「ティサリーンさん、パティを奴隷とした場合、何か変わるんですか?」
「犯罪奴隷ですので所々変わりますわね。例えば――」
女主人が言うには我々の奴隷契約とは大きく二つの違いがあるらしい。
一つは、一定期間の雇用報告義務が発生する。パティが悪さをせずにちゃんと働いているとご主人様が報告するわけだな。
パティの場合は窃盗罪での犯罪奴隷なので一年間の報告義務があるらしい。報告先は女主人だとか。
もう一つは奴隷契約の内容を厳しく設定する必要があるという事。
我らの奴隷契約はご主人様の希望もあって、かなり軽く設定されておる。
ご主人様が認めない者に対し、転生者である事やスキルの詳細など、ご主人様の不利になる事は口にする事が出来ないが、逆に言えば、それ以外はほぼ自由だ。奴隷としては破格と言って良い契約だろう。
それに加えてパティの場合は厳しく隷属するような内容になるらしい。
例えばご主人様に手を出さないであったり、虚偽報告が出来ないようになっていたり、ご主人様の強い命令に対して順守するようになっていたり。
我らと比べればかなり重いが、一般的な奴隷と考えれば普通にも思える。
これが軽犯罪奴隷の″一般的″なのか、それとも女主人の心持ちによるものなのか。我には判断できん。
「パティ、俺は奴隷の皆には侍女として家で働いてもらう一方、クランメンバーとして迷宮に入る事も頼んでいる。もし俺の奴隷になったらパティも迷宮に潜る事になるが、それは大丈夫か? 奴隷だからと無理に戦わせようとか、肉盾にしようというつもりはないが」
「えっと……あたいは戦った事なんてないんだけど……それでも大丈夫なのか、ですか?」
恐怖や不安の顔色は伺える。しかし言われたならば従うという奴隷らしい考えも見える。
我にはそれが達観か、諦めのようにも見える。
果たしてそれがどう転ぶか。いずれにせよ迷宮に行くのは問題ないだろう。
ご主人様は我らを見回し、女主人に買う旨を伝えた。
パティは少し残念そうな表情を浮かべていた。
しかし女神の奴隷紋が左手に刻まれると、さすがに驚いたらしい。「ふっふっふ」と我らも揃って左手を見せつける。
どうだ、神々しかろう。これで汝も我らの仲間だぞ、と。
「パティ、大丈夫よ。貴女の生活は今までよりもずっと良いものになるわ。セイヤ様を……ご主人様を信じなさい。しっかりやるのよ」
「ティサリーンさん……ありがとう、ございました……」
パティは商館に預けられてから、しばらく女主人によくして貰っていたらしい。
今までここで買ったポルやジイナ、アネモネやウェルシアに比べその期間は長く、だからこそ名残惜しい気持ちもあるのだろう。
犯罪奴隷だから期間が必要だったのか、女主人がタイミングを計ったのか、それは我にも分からん。
しかしこう言われては、パティにもそれ相応の暮らしをさせてやらねばなるまい。
それは我よりもご主人様が意識しているようだ。顔付きが来る前とは違う。
いつも奴隷を買う時とも違う顔だ。まるで「買って良かった」と言っているようにも思えた。珍しいのう。
商館を出て、まずは説明の為に屋敷へと向かう。組合の登録も後回しだ。
「げえっ! 【黒の主】!」
「まぁたティサリーン商館から出て来やがった!」
「まぁた奴隷増やしやがっ……小人族か。普通だな」
「天使族とか人魚族が続いてたからな。すごく普通に見える」
「いやいやお前らよく見ろ! 可愛いじゃないか!」
「爆発」
そんな有象無象を無視して一路通りを北へ。
その途中、先頭のご主人様が「うおっ!」と声を上げた。
何事かと思えば虚空で指を動かしている。あれは<カスタム>だな?
「すまん、ちょっとパティのを見てたんだが驚いた。帰ったら説明するわ。こりゃとんでもないぞ」
なんだなんだ? 今までにない反応だのう。
それほどパティのステータスが優秀なのか? 戦った事などないと言っていたが……。
気になるが、さすがに天下の往来で聞く話でもない。少し我慢しよう。
「えっ! あ、あれが、ご主人様の家なのか!? ……ですか!?」
「そうだぞー。そして今日からパティの家でもある」
「こ、こんな家に住むのか……あたいなんかが……」
スラムからいきなり貴族並みの豪邸だからな。衝撃は大きかろう。
しかしこれから先の事を考えれば、この程度で驚いてもらっては困る。
ここは常識人たる我がフォローし、なるべくショックを受けないよう、なるべく早く馴染めるよう気を回さねばなるまい。
パティよ、我にドンと任せておくが良い。
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