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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
243:杖を新調しよう!
しおりを挟む■ユア 人蛇族 女
■18歳 セイヤの奴隷
魔導王国から帰って来て、私は錬金工房に籠る事が多いです。
見慣れない様式の工房で最初は戸惑いましたが、今ではすっかり私の部屋って感じで非常に落ち着きます。
素材の詰め込まれた棚に囲まれた空間。なんとも幸せを感じます。
とは言え与えられた仕事は多い。
魔導王国に行った際に使ったポーション類の補充から始まり、ついに本格的な杖の製作を命じられました。
魔導王国へ行く前に試作として私の【黒炎の杖】を作りました。それが私が初めて作った杖です。
材料は主に【黒曜樹】と【ヘルハウンドの魔石】。
最初の杖だと言うのに高級素材すぎて震えながら作った記憶があります。
杖作りに必要なのは大きく四つ。
『ベースとなる木材』『属性魔石』『接合材』『魔法陣』基本的にはこれだけです。
魔法陣は木材に刻むものと魔石に刻むもの、二つがありますが、お師匠様に教えて頂いていたもので出来ました。
どうやらお師匠様の使っていた魔法陣は他の錬金術師の方のものとは違っていたようですが、私にも使えるようでホッとしました。覚えておいて良かったです。
お師匠様独自の技術は本にも載ってないですし。
そんなわけで『魔法陣』については問題ないのですが、他の素材は色々と試す必要がありました。
木材を【黒曜樹】にするのはご主人様から言われていたので決定していたのですが、火属性の魔石という事で、ご主人様の手持ちからヘルハウンドのものにしました。マグマスライムもありましたが大差はないと思います。
サイズも手のひらに乗るくらいで加工する必要もないですしね。
『接合材』は木材と魔石を繋げ、魔力の通りを良くする為のものです。
【黒炎の杖】を作る上でも悩ましいポイントだったのですが、ここは一般的に使われているスライムゼリーにしました。
安価ですし使い方も簡単です。杖作成初心者である私にも使いやすい。
そうして出来たのが赤い魔石のついたシンプルな黒い杖。
ご主人様に見せて、名付けてもらったのが【黒炎の杖】です。
初めて作ったものだからちゃんと使えるものか不安に思いながら地下訓練場で試しました。
「えっと、<炎の槍>」
――ビュッ――ドゴオオン!!!
「ひぃぃっ!!??」
ななななんですかこれはぁ!? 今までと全然違うんですけど!?
狼狽える私の横でアネモネちゃんは冷静に分析していました。というより<鑑定>で段違いの性能になっているのは分かっていたそうです。
促されるまま試した結果、速さ、威力、共に格段に増しており、消費魔力は格段に下がっていると。
……もうこれ完成形でいいんじゃないでしょうか。あ、ダメですか、そうですか。
そんなわけで魔導王国から帰ってから杖作りの再開です。
今度は本番。私とアネモネちゃんだけでなく、ご主人様や実際に使用者になるフロロさんも同席して色々と話し合います。
どんな杖を作れるか。どんな素材を使えばいいか。そういった事を話し合いました。
「例えば【領域主】級の大きな魔石を杖に付ける事は出来るのか?」
「は、はい。その場合は適度な大きさに研磨する事になりますが、性能は保持されますので」
「となるとそれぞれの属性――火・闇・土で一番強い魔物の魔石は……炎岩竜・リッチ・地竜か」
「【炎岩竜の魔石】!? そ、そんなのダダダメですよっ!」
「ああ、さすがにアレは展示品として残しておきたい。しかしそうなると火属性でろくなのが居ないなぁ」
「ご主人様よ。土属性の魔石はトロールキングかヘカトンケイルでも良いのではないか? 地竜より強かろう」
「えっ、あれも土属性なの? じゃあそっちのがいいな」
火属性の【領域主】は今のところ【炎岩竜】しか倒していないそうです。四階層には多そうなイメージですがまだ本格的に探索してないそうですし。
一方で土属性は多く、闇属性も三階層がアンデッド階層ですからね。やはり多いです。
「闇属性の魔石もリッチで安定だと思うんだが、これも悩んでるんだよな」
そう言ってご主人様は<インベントリ>から赤い玉を出しました。魔石よりも小さな、木の実のような大きさの玉です。
「ああ、結局展示には並べなかった【不死王の紅玉】か。用途が分かったのか?」
「ふふふ……よく分からない……触媒にはならないけど補助的な錬金素材としては使えるはず……」
「という事なんだよ。だからアネモネの杖には【リッチの魔石】と一緒にこれも付けてみて欲しい」
「は、はぁ……」
見た事のない素材をどうやって形にするのか……正直私には難しいです。
皆さんの知恵を借りつつ試行錯誤します。溶かしたり、粉末に砕いて『接合材』に用いる事も考えましたが、一度やってしまうとなくなってしまうので、とりあえず玉の形を残したまま、魔石と並べて杖にはめ込む感じになりました。
その『接合材』についても議論の対象です。
「要は錬金素材を液状にして、木材と魔石をつなげるって事か?」
「素材同士をつなげるのもそうですが、魔法陣同士をつなげて魔力の通りを良くするんです。魔法の威力とかは素材の質や魔法陣で決まりますけど、『接合材』を良くすれば魔法行使速度が上がります」
「スムーズに魔法を使える感じ、です、ふふふ……」
「なるほど。じゃあ妥協は出来んな」
あ、あんまり高価な素材だと私が緊張しちゃうんですが……。
と言ってももう遅いですね……今さらです。
そんな感じで私の気が重くなるような議論は続き、結局こんな感じになりました。
・ユアの杖<火属性>
基材 :黒曜樹
魔石 :ヘルハウンド
接合材:炎岩竜の甲羅
・アネモネの杖<闇属性>
基材 :黒曜樹
魔石 :リッチ+不死王の紅玉
接合材:不死王の骨
・フロロの杖<土属性>
基材 :黒曜樹
魔石 :ヘカトンケイル(単眼巨人王)
接合材:単眼巨人王の爪
「ふむ、なかなか良さそうな杖が出来そうだのう」
「ふふふ……楽しみ……監視は任せて……」
お二人は嬉しそうですが、私はこんな高級素材ばかりで憂鬱なんですが。
これで失敗しようものなら代えが効かないですし……。
おまけにご主人様は、こんな事を言い出します。
「不満だ」
「ええっ!? ど、どうしてですか!?」
「だってユアの杖だけヘルハウンドとか……雑魚じゃないか」
いや、私今の【黒炎の杖】の時点で分不相応なんですけど。
『接合材』が【炎岩竜の甲羅】の時点でアップアップなんですけど。
「やっぱ一度四階層に行くべきだなー。もう一度『亀』を倒すか、滝つぼのあいつを倒すか……」
「ご、ご主人様、亀はどうかと思うのだが……」
「今度こそ死ぬ……ふふふ……」
わ、私今のままでいいですっ! ヘルハウンドとか好きですしっ!
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