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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
246:黒屋敷、集団探索開始!
しおりを挟む■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
「げえっ! 【黒の主】!?」
「おいおい、相変わらずすげえ集団だな。あれクラン全部か?」
「またどっか行くのか? それとも迷宮?」
「【黒屋敷】全員出撃とかもう事件の匂いしかしないんだが」
通りをぞろぞろと歩いていると、やはり周りの人からは注目されます。いつもの事ですが。
全部で二〇人ですからね。
先頭のご主人様が真っ黒で、続く十九人もの侍女集団。自分で言うのも何ですが異様です。
「だ、大丈夫かな、あたい……ちゃんと斥候できるかなぁ……」
「だいじょぶ。むしろ出番があるか怪しい」
「そ、そうですよね。これだけの人数がいれば、あたいがちょっとミスっても大丈夫ですよね!」
「ん。まぁミスったらお仕置きするけど」
「ひぃっ!?」
今回が初めての本格的な探索となるパティちゃんは戸惑い気味。今までは訓練も兼ねた魔物部屋マラソンが精々ってとこらしいですからね。
ご主人様と潜るのも初めてじゃないでしょうか。それもあるのかもしれません。
三階層に行くのが初めての人たちも様々です。
ユアさんは怯えてますし、シャムさんとマルちゃんは楽し気。
ラピスさんは最後尾でティナちゃんたちと手を繋いでルンルンです。
私も楽しみなんで他人の事は言えないですけど、これから迷宮探索するとは思えない雰囲気ですねー。
ピクニック気分です。まぁいつもの事なんですが。
今回は前回の反省も踏まえ、事前に全員で勉強会を行いました。
娯楽室の初心者用教本を手に、迷宮探索の初歩から改めて学ぼうという事です。
そこには探索の準備から、探索の仕方、夜営の仕方など、私たちが知らなかった知識が詰まっていました。
こんな方法もあるのか、普通はこんな風に探索するのか、と。すごく為になります。
Sランククランなのに今さら感がすごかったですが。でも勉強して良かったと思います。
ちなみに『迷宮で走るのは厳禁』とか『魔物部屋に入ってはいけない』とかデカデカと書いてありましたが、そのページは無言でめくりました。
みんな何も言いません。自分たちが間違っているとも思いませんし。
そういった勉強会を元に買い出しを行い、また傭兵組合で【八戒】の皆さんに指名依頼で警備を依頼し、南東区のコゥムさんにお庭の手入れを依頼したりして数日、いよいよ今日が探索日というわけです。
あ、もちろん私の家にもお出掛けするって言ってきましたよ?
なんか本当にレプリカ製作で忙しいみたいなんですけど……私たちの普段着とかちゃんと作ってくれるのでしょうか。すこし心配。
そんな事を思いながら、迷宮組合に到着。
「あれ? セイヤさん、また全員で探索ですか? ひょっとして四階層に?」
「いや、今回は三階層だ。狩りたい魔物が居るんでな。しばらく潜るからよろしく」
「三階層ですか。分かりました。お気をつけて!」
受付のメリーさんがいつもの如く声を掛けて来ます。
あの人、すっかり私たち専属みたいな扱いですけどいいんですかね?
受付に並んでる組合員の人たちを無視して話しかけて来ますけど。
と、それはともかく下り階段から迷宮に入ります。
「言ったとおり今回はレベル上げは考慮しないつもりだが、一応パーティー単位で行動してくれ。距離感を守るように。最初はAパーティーが先頭な」
『はいっ!』
前回の四階層探索の時と同じように今回も一応班分けをしてます。
経験値が入らないかもしれないとか、みんな均等に戦えるようにとか、そんな理由です。
一階層は狭いので、縦並びですね。
班分けはこんな感じ。
A:前衛:セイヤ【刀】パティ【斥候・短剣】シャム【盾・直剣・神聖】
後衛:フロロ【土】ユア【火】
B:前衛:イブキ【大剣】ドルチェ【盾・槍】ジイナ【槌】
後衛:アネモネ【斥候・闇】マル【神聖・弓】
C:前衛:エメリー【斧槍・投擲】ツェン【拳】ラピス【槍・水】
後衛:サリュ【神聖・斥候】ポル【水・土】
D:前衛:ネネ【斥候・短剣】ヒイノ【盾・直剣】ティナ【細剣】
後衛:ミーティア【火・弓】ウェルシア【風・水】
パーティーリーダーはご主人様、イブキさん、エメリーさん、ミーティアさんになります。
斥候とか盾役とか回復役とかバランスよく分けたようなんですが、ご主人様のAパーティーにパティちゃんとユアさんが入っているんですよねー。
ご主人様が自分の目で見たいのか、それとも全部フォローするつもりなのか……何とも言えないところです。
実際なにかあってもご主人様一人で全部解決できそうですし。
他のパーティーだと斥候というか察知系スキル持ちが何人か固まってますけど、Aパーティーはパティちゃん一人ですし。
少し不安。いや、それが狙い? うーん、私には分かりません!
とにかくしばらくはAパーティー先頭で進むようです。当然パティちゃん先頭。
「ひぃぃ……あたいがみんなの先頭だなんて……」
「大丈夫。俺とシャムシャエルが隣に居るから。パティは<気配察知>と<危険察知>だけ頑張れ」
「は、はいっ」
「ひぃぃ……私、足を引っ張りそう……怖い……」
「ユアは先制で撃ってもらうぞー。最初が肝心だからなー」
「は、はいっ」
なんか全然違う二人が同じ感じになってますね……やっぱ少し不安……。
ま、あそこはご主人様にお任せしましょう。
■パティ 小人族 女
■13歳 セイヤの奴隷
ただでさえ迷宮ほぼ初心者のあたいが行った事のない二階層とか三階層に行くってのに、錚々たるクランメンバーの先頭で斥候をしなきゃいけない。
あたいの<気配察知>にみんなの安全が掛かっていると思うと胃が痛くなる。
おまけに隣にはご主人様が居るし。師匠ははるか後ろだし。
「あっ、えっと、右からゴブリン二体!」
「よしよし。パティ、その調子でいいぞ。ユア出てきたら撃っていいからな」
「は、はいっ」
ふぅ、緊張してても察知は働いてる。冷静に、集中しないと。
これで失敗しようものならご主人様から見限られるかもしれないし、師匠から怒られるかもしれないし……ブルブル。
師匠は無表情で感情も出さないけど結構苛烈なんだよな。
すごい普通に、何気な~く、短剣投げたりしてくる。それを<危険察知>で避けろと。
Sランククランの斥候になるって大変なんだなってその時思ったよ。
コソ泥してた時にビクついてたけど、今にして思えばあんなの″怖い場面″でも何でもなかったんだってな。
今、安全なはずの屋敷の訓練場で死にそうな目にあってるからな。日常的に。恐ろしい話だ。
と、そんな現実逃避をしている場合じゃない。
ゴブリンが接近している。一応あたいも短剣を抜いている。
ユアさんが外したらこっち来るかもしれないしな。
「炎の嵐!」
――ゴォォッ――ドォォォン!!!
うん、やっぱり大丈夫だった。
ユアさんはオドオドしてるけど、いざって時はちゃんと倒すんだよなー。あたいも見習わないと。
「ん? あれ? ユア、魔法の威力上がってない? こんなだったっけ?」
「えっと、<カスタム>で【魔力】が上がったのもありますけど、接合材を【スライムゼリー】から【炎岩竜の甲羅】に変えた影響もあるみたいで……」
「接合材って行使速度じゃなかったっけ? 威力が上がるのは魔石とかだろ?」
「そ、そう思ってたんですけどね。さすがにスライムと炎岩竜だと素材のレベルが違いすぎるみたいです。すっごく強力になってるんです……」
「ほう、という事はやっぱ素材選定に妥協はしちゃいけないって事だな。やっぱ魔石を何とかしないと……」
ご主人様は何やら考え出してしまった。いいのかな、進んで。
いや、余計な事を考えている場合じゃない。
あたいはちゃんと察知しないと! 怖い目は見たくないんだ!
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