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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
247:黒屋敷の探索は自分との闘い
しおりを挟む■シャムシャエル 天使族 女
■5043歳 セイヤの奴隷 創世教司教位
ご主人様と共に迷宮に挑む。しかも私はご主人様と同じAパーティーに選ばれました。
まさに天使族としての本懐。並び戦える事に喜びを感じます。
これはもう本国に報告する案件でしょう。
とは言え浮かれるわけにも参りません。ここは迷宮という戦場です。
ましてや戦いに慣れていないパティさんとユアさんが共に居るのです。
私は盾として回復役として彼女らを守らなければなりません。
……まぁ私がそこまで気にする必要もなさそうですが。
「な、なんかずっとあたいに能力向上掛かってんだけど……」
「わ、私もです……毎度毎度申し訳ないです……」
お二人の身体はいくつもの光に包まれっぱなしです。
ツェッペルンド迷宮でのユアさんは、ある意味で能力向上魔法の実験体のような扱いでした。
魔物と戦えず後ろから付いて走るだけで暇そうな面々から、次々に能力向上魔法が掛けられるのです。
それは誰よりもレベルが低かったユアさんを手助けする意味合いもあったのですが、使う側からすれば練習の意味合いもありました。
明らかにユアさんに必要のない『攻撃力上昇』や『防御力上昇』まで掛かっていたのですから。
本当に実験体のようです。悪意はありませんが。
そしてそれは今回も継続されているようです。しかもユアさんに加え、パティさんにも掛けられている。
後続の人たちから絶えず能力向上魔法が掛けられる。
その結果、体力を気にせず、普段よりも早いペースでの探索が出来ているので、何とも言えません。
能力向上がある状態に慣れてしまうと、いざという時に困りそうですが……。
まぁご主人様も何も言わないのでそっとしておきましょう。
「うわぁ、ホントに外だ……」
初めて二階層に訪れたパティさんがそう呟きます。
話には聞いていてもやはり驚くものですよね。私もそうでした。
二階層まで来れば全体が縦並びという事もありません。
皆が戦いたい気持ちもありますので、横並びであったり、菱形であったり隊列を組み変えます。
私たちのAパーティーはパティさんの<気配察知>しか索敵スキルがないので、時折私が飛んで視認での索敵も行います。
「どうだパティ、一階層より索敵範囲は広がるはずだが」
「えっと、あの奥の木くらいまでなら何とか……」
「おお、結構広いな。十分だ」
「ふむ、下手すると索敵に関してはイブキやツェンよりも上かもしれんぞ。やるではないか」
「い、いや、でも師匠に比べると全然だし……」
「「あれは別格だ」」
ネネさんの索敵範囲はちょっとおかしいですからね。多分横並びになった今の隊列でも、全てをフォローできるくらい広いと思います。
パティさんもいずれそのくらい広がるのでしょうか。
小人族は斥候系種族と言いますから、もしかすると……と期待もしてしまいますね。
二階層は森林に挟まれた平原をひたすら前へと進みます。
以前にわたしが訪れた際は森林に入ってキャンプを張り、【領域主】を倒して回りました。
しかし今回は二階層に用事もないので三階層に直行。
という訳で森林には入らず、平原を進み、『砦』で一泊する予定です。
このペースですと全く問題ないそうです。
ご主人様曰く、以前に四階層に行った時よりも若干ペースが早いそうですから。
平原に出て来る魔物も森林に比べて弱めのものが多いです。
例えばウルフ系であったりラビット系であったり。空からホーク系の魔物も稀に襲ってきますがどれも対処は楽です。
「<岩の槍>」
――ビュンッ――ドゴオオン!!
「やっぱり調子いいみたいだな、フロロ」
「どこがだ。以前の【震脈の杖】に比べるとじゃじゃ馬すぎるわ」
「ひぃぃ、すみません私の作った杖がすみません」
「違う違う。むしろユアの腕と素材が良すぎるのだ。【震脈の杖】とて高名な錬金術師が作ったものと聞いたが、この【黒塊の杖】は性能が桁違いでのう。クセを掴むに苦労しておる。これはユアが悪いのではなく我が悪いのだ」
杖を新調してからまだ数日。扱いに難儀しているそうです。
ユアさんは以前の杖も【ヘルハウンドの魔石】という事で大差はないそうですが、フロロさんとアネモネさんは一新されていますからね。
新装備に慣れるのは【器用】に<カスタム>してあっても苦労するものです。……エメリーさん以外は。
フロロさんはクランの中でも純魔として歴が長いわけですが、それでも扱いに苦戦している。
アネモネさんに至ってはフロロさん以上に苦戦している印象です。
どうも【黒死の杖】に付けた【不死王の紅玉】というものが予想以上に性能を高めているらしく、聞いた感じですとウェルシアさんの<魔力凝縮>が元から杖に付与されているような感覚なのだそうです。
つまり限度はあるものの、魔力を籠めた分だけ威力が上がる。
魔力を籠めなくとも高ランクの杖であるにも関わらず、さらに性能を上げる効果が付いていると。
おそらく闇属性の杖としては最高ランクの杖なのではないでしょうか。個人的にはそう思います。
ともあれ、フロロさんにしてもアネモネさんにしても、さすがはご主人様に仕えし【黒屋敷】の一員。
扱いに苦戦しつつも、傍目からはちゃんと使えているように見えるだけでもすごいと思います。
ご本人の意思に加え、ご主人様の<カスタム>が合わさった形。素晴らしいですね。
武器の扱いに難儀しているのはBパーティーで弓を放っているマルティエルもです。
「えいっ――うわぁっ! 飛び過ぎたでござる!」
「マル、しばらくは<精密射撃>も同時に使え! 慣れるまではとにかく数だ!」
「は、はいでござる!」
Bパーティーのリーダーであるイブキさんから注意されていますね。
弓を新調し【風竜の複合弓】となったそれは、今までの弓とはまるで違う性能。
はっきり言って、ショートボウとしては最上級の弓と言えるでしょう。
マルティエルが今まで触れた事も見た事もないほどの弓。引く力も強く、矢を放てばより遠く、より強く。
今までと同じ感覚で引いても、命中率はかなり下がります。ある程度の飛距離で下がって当たる事を想定していても、的を飛び越えてしまうのですから。
他の武器に比べても弓のアジャストさせるのは難しいでしょう。
それでも本人の努力もあり訓練場で的を射る分にはすでに問題ないのです。
今回の迷宮探索で苦戦しているのは、自分が動きながら、より遠くの動く魔物を狙っているからです。
逆に言えばこの面子においてそれくらい出来ないと攻撃機会がないという事。それは同じ弓使いであるミーティアさんからの助言でもあるそうです。駆けながら最遠の敵を最速で撃ち抜きなさいと。
何とも無茶な助言だとも思いますが、【黒屋敷】というクランに所属している以上、確かにそれくらいの事は必要なのかもしれません。
私は応援していますよ、マルティエル。
そして武器に苦戦しているもう一人。
「んー、ん? 出来た?」
「剣を出すところがズレていますね。動きながらだと狙いが付けづらいのだと思いますが」
「出した剣もなんとなくブレている感じがしますわ」
「んーむずい」
ネネさんが手に持つ【魔剣パンデモニウム】。魔導王国の国宝です。
ネネさんが頂いてからずーっと練習しているようですが、未だに完璧には扱えていないようです。
今もミーティアさんとウェルシアさんからアドバイスを受けながら色々と試しているようです。
イブキさんの【イフリート】が【炎の魔剣】、エメリーさんの【グラシャラボラス】が【闇の魔剣】と言われるように、ネネさんの【パンデモニウム】は【虚実の魔剣】と言われているらしいです。
普通に斬るだけならば『歪な形状をした、アダマンタイトより強い短剣』と、それだけです。
しかし魔力を籠めれば、まず刃が消える。
そして任意の場所にその刃を造り出す。造り出した刃は″虚″であり″実″です。
例えば敵の真後ろに″刃″を作りだし、柄のみとなった魔剣を振り下ろせば、その刃も振り下ろされる。
敵からすれば何もないはずの背後から斬られるわけですから、死角からの奇襲、まさにネネさん向きの魔剣と言えます。
しかも疑似的な中距離攻撃となる。近接しかないネネさんにとっては待望の魔剣――のはずでした。
けれどもその扱いは非常に難しく、イブキさんやエメリーさんの魔剣のように、ただ振り下ろせばいいというものではありません。
どこに刃を出現させるのか。どの角度でどこに当てるのか。ネネさんはそれを判断しながら振るう事となります。
それは魔力の遠隔操作に近く、どちらかと言えば魔法使い向きの技能。
魔法の使えないネネさんにとっては全く慣れていない技術なのです。
だからこそ同じDパーティーのミーティアさんやウェルシアさんにアドバイスを受けながら実戦訓練しているわけですが、まだ納得のいく扱いは出来ていない様子。
弟子であるパティさんの特訓も、今であればご主人様が見て下さっていますし、ネネさん本人のスキルアップという意味では、今回の迷宮探索の意義は非常に大きいものになるでしょう。
これで数日間、集中して訓練する事で果たしてどうなるか。
完全に魔剣を扱えるようになった時のネネさんはどうなるか。
今でさえ″最高の斥候″と言えますし、それに魔剣が加わろうものならば、それは恐ろしささえ覚えるものになるでしょう。
ネネさんだけではないですが、色々な意味で今回の探索は非常に有意義なものになりそうです。
私も聖剣と神聖魔法、光魔法の扱いをもっと上手く出来るようにならなければ。そう決意を新たにします。
願わくばグレートモスの【大樹蛾の繭】がいい感じにドロップしてくれる事を祈るばかりですが……。
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