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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
245:獣帝国最強、めげずにイキる
しおりを挟む■ガブリオル 獅人族 男
■39歳 Sランククラン【赤き爪痕】クラマス
「くそっ! 何なんだよあいつらはぁッ!!!」
部屋に着くなり椅子を蹴飛ばした。
「ガブリオルさんが荒れるのも分かるぜ。まるで意味が分からねえもんよ」
「何で投げられて拍手喝采なんだよ。ここの組合はおかしい」
「そもそもガブリオルを投げるというのも予想外だ。いくら鬼人族であっても″角折れ″のメイドだぞ?」
「俺気付いたらガブリオルさん飛んでたんだが。いつ攻撃入れていつ投げたんだよ」
「そんな事よりあのチビ菌人族の得物見たッスか? すっげー禍々しい鍬! あれで迷宮潜って戦ってるとか意味わかんないッスけど」
クランメンバーがごちゃごちゃ抜かしてる。
それに腹立たしい気持ちもあるが、一方で冷静にもなれる。
今にして思えば、あの鬼人族は異常だった。
左手で俺の右手首を握り、右手でボディブローを撃つのと同時に軽々と投げ飛ばしやがった。
一連の流れは相当な速さ。そして肘から先しか動かしていないほど、ほとんど力を籠めていない。
絡んだヤツを投げ飛ばして気絶させるってのは情報として仕入れていた。
その上で手を出しちまったのは軽率だった。短慮だったとも思う。
おかげで恥をかいたわけだが、ヤツらの力の一端が見れたとも言える。
一つ分かったのは、あの鬼人族のパワーと反応速度が俺を超えているという事だ。
パワー系種族である鬼人族にしても異常。″角折れ″である事を考慮すればさらに異常な力。
情報ではヤツだけでなくメイドの誰もが絡んだら投げ飛ばし気絶させているらしい。
という事はヤツが鬼人族だからあの力を持っているのではなく、メイド全員が同じような力量を……?
さすがに馬鹿馬鹿しいな。鬼人族の種族特性ありきだろう。
あの場にいた菌人族までが同じ力量を持ってるなんてありえねえだろ。
まさかあのメイド服も力量を隠す為に? 油断させる為に着ているだけなのか?
だとすると俺はまんまと罠に嵌ったと……?
チッ! 俺も少し動揺しちまってるのか。
予想外の事が起きて冷静に頭が働かねえらしい。
メンバーの前でも絶対強者でいねえといけねえのに。
ふぅ、と息を一つつき、メンバーを見回す。
「おめえら、【黒屋敷】に借りは返すぞ」
「どうやって? ホームにでも殴り込みます?」
「ヤツらの情報を洗いざらい報告する、それが一つ」
今までは適当に情報を集めてきたが、本格的に調べてやろう。
その正体を暴いて獣帝国に流す。国を動かしつつ俺らの手で始末できりゃ最高だ。
「もう一つは迷宮最前線の更新だ」
「おおー、【黒曜樹】だけじゃなくて?」
「どうせ今の最前線が【黒曜樹】のある四階層なんだ。四階層を進んだ先で【領域主】なり五階への階段なり見つければ俺らが最前線に立てるだろうよ」
迷宮組合員である以上、それが何よりの仕返しにもなるだろう。
自分が最前線に立っていたのに、後追いの俺たちに抜かされるようならショックはデカイはず。
クソ基人族がSランクのプライドを持ってるならば当然だ。
「本腰入れて取り掛かるぞ。覚悟しておけ」
『おう!』
さっさと三階層くらい抜けねえと話になんねえからな。
あそこ臭ぇし。
■ティナ 兎人族 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
「というわけで杖が完成しました。拍手!」
『おおー』パチパチパチ
夕食の席でご主人様が報告しました。
ユアお姉ちゃんはみんなから拍手されて照れ照れです。
「んじゃ改めて渡すぞー。まずは作った本人。ユアの杖には【黒焔の杖】と名付ける!」
「は、はいっ! 頑張ります!」
「魔石が納得いってないからバージョンアップ予定だけど暫定でな」
ユアお姉ちゃんの杖は真っ黒な杖の先端に手のひらサイズの赤い魔石。
見た目は今までの【黒炎の杖】とあまり変わりません。
強いて言えば魔石をくっつけてる部分がゴツゴツしてる感じでしょうか。シンプルだけど黒くてカッコイイです。
「次! アネモネには【黒死の杖】!」
「ありがとう、ございます……ユアさん、ありがとう……ふふふ」
アネモネお姉ちゃんの杖は魔石まで黒い。でも魔石の根元にある小さめの玉だけ紅いです。
ユアお姉ちゃんの杖と違ってぐねっとした感じの杖になってます。
これ、デザインとかもユアお姉ちゃんがやってるんでしょうか。アネモネお姉ちゃんの好み?
どっちにしろ禍々しい感じでカッコイイです。
「最後にフロロ! 【黒塊の杖】とした!」
「ありがたく頂く。ユアにも感謝を」
フロロお姉ちゃんの杖は全体的にゴツゴツした感じです。前の【震脈の杖】もそんな感じだったので土属性はこんな感じなのでしょうか。
黒い杖の先端には大き目の黄色い魔石。
木材なのにどこか鉱石に覆われているような見た目です。カッコイイ。
「とりあえず三人は訓練場なり迷宮なりで慣らしておいてくれ。すぐに本番があるからな」
「と言いますと、やはり三階層へ?」
「ああ。パティの<カスタム>も最低限は出来ているし、どうせだったらみんなで行こうかなと」
『おおー』
「人数を分けると留守番組には前みたいに<インベントリ>なしで何日も過ごさせることになるからな」
『ああ……』
あの時は大変でした……。
冷めた食事、持ち帰れないアイテム、マズイ携帯食料……うっ、頭が……。
でも今回は全員で行けるようで一安心です。
ユアお姉ちゃんやパティちゃんが何やら慌てているようですけど、三階層に行った事ないですしね。
それで不安になっているんだと思います。
でも三階層か……。あそこは臭いし汚いし、みんな好きじゃないんですよね。私もあんまり……。
「お香とかも大量に買いこむつもりだが、基本的にはウェルシアの<風の遮幕>頼みになるぞ」
「かしこまりました」
「ただ<風の遮幕>を使うと索敵手段が目視か<魔力感知>主体になる。アネモネとサリュの出番が多いな。もちろんネネとパティも索敵させるが」
「「はい」」
臭いを防ぐのにはお香で誤魔化したり、<風魔法>の<風の遮幕>が有効だそうです。
ご主人様がバルボッサさんに教えてもらったとか。
でもそれを使うと<気配察知>や<嗅覚強化><聴覚強化>が遮られるので索敵しづらくなると。
その代わり<魔力感知>は問題ないらしいです。本部長さんから<魔力感知>のスキルオーブが貰えて良かったです。
「ご主人様、四階層はいかがなさいますか?」
「うーん、行きたい気持ちもあるけど、三階層の探索が終わって余裕があればだな。おそらく余裕はなさそうに思うが」
エメリーさんの質問にご主人様が答えました。四階層に行くのは微妙。
ご主人様は錬金素材の事もあって四階層に行きたい気持ちもあるようです。
でも、今回は三階層の探索を優先させると。
ご主人様の喪服の為のグレートモス狩りですからね。侍女服の分も集めるのか分かりませんけど。
あとは三階層の倒していない【領域主】の討伐。これも大事。
……という事は三階層で班を分けて行動ですかね。
私は【領域主】がいいかなー。
でもグレートモスも見た事ないから斬ってみたいし……。うーん悩ましい。
とにかくもうすぐみんなで探索ですね! 楽しみです!
いっぱい斬りましょう!
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