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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
251:獣帝国最強との邂逅
しおりを挟む■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
「やはり【不死王の紅玉】はレアドロップのようですね」
「ご主人様も無理に狙う必要はないと言っておったではないか。出ないものはしょうがなかろう」
「す、すみません、私が錬金に使っちゃって……」
「いえ、それもご主人様の指示ですからユアが気に病む必要はないですよ。展示よりもアネモネの杖を強力にする方が重要なのですから」
リッチのドロップ品を集めながら、フロロやユアとそんな会話をします。
とりあえず二回ほど倒してみましたが【骨、髑髏、杖、衣】くらいですね。あとは魔石。
なかなか【不死王の紅玉】は出ないようです。
いっそ紅玉を集めるついでに骨を集めて髑髏と共にマネキンを作り、そこに衣と杖を装備させれば、等身大のリッチが出来上がるのではないでしょうか。
そこまで骨が集まるかが疑問ですが……しかもどの骨も同じ部位のようですし。
そうこうしているとサリュから報告が入りました。
「エメリーさん、どこかのクランが近づいてきますけど」
クラン? 三階層での探索を主とするクランはいくつかありますが、『不死城』の最上階、この玉座の間まで来るとなると限られますね。しかもサリュの様子では一組。
サロルートさんやバルボッサさん、ドゴールさんたちならば一組では来ないでしょう。
となるとメルクリオ殿下たち【魔導の宝珠】か、もしくは……。
「なんだ、先客ってのはお前らかよ、くそが」
玉座の間の入口から声を掛けて来たのは赤い髪で筋肉質な獅人族の男性。
そしてクランメンバーと思しき十七名の獣人系種族。
――やはり【赤き爪痕】ですか。
ずかずかとこちらに近づく彼らの前に私が立ちます。
しっかりと侍女の一礼。
「初めまして【赤き爪痕】の皆様。私はセイヤ様の下で侍女長を務めておりますエメリーと申します。申し訳ありませんがたった今ここを殲滅し終えたばかりですので、リッチと戦うのでしたら少々お時間を置いたほうが宜しいかと」
「けっ! リッチがどんなもんかって楽しみに来てみりゃ、【黒の主】も居ねえメイド連中だけで倒せるような雑魚かよ! くだらねえ! そんなんで四階層に行けずにいたとか、やっぱカオテッドの連中はレベルが低いんだな!」
彼の後ろに控えたメンバーたちは大笑い。
面白い要素がどこにも見当たらないのですが。
「おまけに俺をコケにしやがった角折れ鬼人族も居ねえ! ここに居たらぶっ殺してやったのによ!」
「彼女は所用で別の場所におりますので」
ガブリオルの言葉に一部の侍女から殺気が出ましたね。すぐに睨みつけ、殺気を抑えるよう目で指示します。
手を出すんじゃありませんよ? ツェン、ラピス。
以前の打ち合わせで、【赤き爪痕】がこちらの情報を探っているという話があった時、ご主人様は相対する事も視野に入れておいででした。
その際、戦う事になってもこちらの手の内を見せない事を言明されたのです。
例えば、ミーティアの【神樹の長弓】、私とネネの魔剣、ネネの索敵範囲、サリュやシャム・マルの高位神聖魔法などなど。
【赤き爪痕】が″悪″ならば殺す事も止むを得ないが、基本的にはただの粗暴な組合員であろう。ならば殺さない前提で、こちらの情報を制限すべきだと仰いました。
見せても良い手の内は、組合員としての常識の範囲内に収めるべきだと。
今ここで戦うとなった場合、どうしたものかと私は<並列思考>を利用し、瞬時に考えを巡らせます。
こちらを殺す前提で襲い掛かって来た場合、殺しても良いでしょう。
しかしただ痛めつける目的で襲ってきたら殺すわけにはいきません。
となると私も武器を用いずに倒すべきか。いえ、【騎士王の斧槍】ならば見せても問題ないでしょう。
あの石突で骨を折るくらいならば問題ないはず。
あちらには【聖女】と呼ばれる回復役が居るはずですし、<超位回復>とは言わないまでも<高位回復>くらいは使えるでしょうから。
そんな事を考えていると、ガブリオルに近づき、言葉を掛ける者がいました。
「な、なあガブリオルさん。倒す手間が減ってラッキーじゃないッスか! さっさと四階層に行っちまいましょうよ! リポップしないうちに!」
「ああん? マイコー、てめえ、嘗められっぱなしでほっとけって言うのかよ」
「俺たちの目的は最初から四階層じゃないッスか! ね! 早く行きましょうよ!」
この猫人族の男性が【超覚】のマイコーですか。
ヘラヘラと笑っている【赤き爪痕】の中でこの人だけが怯えた表情を見せます。
ふむ、先ほどのかすかな殺気が<危険察知>に反応したのでしょうか。さすがは異名持ちの斥候ですね。
「ちっ! まあいい。てめえの言うとおりだ。おい多肢族、あの角折れに言っておけ。次に会った時にはぶちのめすってな!」
「申し伝えておきましょう」
「おい行くぞてめえら! とっとと四階層だ!」
私たちの間を通るように、彼らは玉座の間の奥の扉から出て行きました。
通り過ぎる際にもヘラヘラと笑いながら、しかしマイコーという人は逃げるように先頭で。
居なくなった途端に侍女の皆が私の元に集まります。
「おいエメリー、いいのかよ、素通りさせて。ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃねえか」
「そうよ。あんなの殺していいじゃない。迷宮の中で殺しても証拠隠滅出来るんでしょ?」
ツェンはいいとして、ラピス、貴女は仮にも王女なのですから物騒な発言は止めて下さい。
「構いません。殺せばご主人様の御意思に反しますので。それに口は防げても我々のどこかから漏れるかもしれません。そうなれば不利益を被るのはご主人様です」
我々の隷属契約は非常に軽いもの。未熟な侍女が多い中で契約に守られていない秘密を、どこで吐露するかも分かりませんからね。手を出さない方が安全というわけです。
それに――。
「我らが手を出さなくとも勝手に自滅しそうな気がしますがね」
「ん? 四階層でか? 亀とかに会っても逃げ出すだろうぜ?」
「いえ、帰りがけにここを通るのでしょう?」
『ああ……』
四階層での目的はおそらく【黒曜樹】でしょう。
【黒曜樹】を伐れば魔物の群れに襲われる。それを凌いでもトロールなど四階層の魔物自体が強いですから苦戦するでしょう。
なんとか逃げきれても、ここへ戻って来てリッチとの戦いになるのは確実。
リッチと戦うつもりでここまで来たのですから勝算があるのでしょうが、あの様子ですと……難しいでしょうね。
嘗めきってましたし、初見でリッチとガーゴイル二体、デュラハン二十体を突破するのはたとえSランク相当の腕があっても厳しいように思えます。
それこそ【聖女】が<聖なる閃光>でも撃てれば別ですが……考慮するまでもないですね。
我々を見下した罪はリッチに裁いてもらうとしましょう。
この城の主ですからね。一応。
「さて、というわけで我々はリッチ狩りを継続します。いいですね」
『はいっ』
ここを出る時はちゃんとリポップしているのを確認してからキャンプ地に帰りましょう。
リポップしてない状態で彼らを通すわけにもいきませんからね。
■ガブリオル 獅人族 男
■39歳 Sランククラン【赤き爪痕】クラマス
螺旋階段を下りながら、俺は隣に並ぶマイコーを横目に見る。
こいつ……さっきから様子がおかしい。
「おい、マイコー。ちゃんと斥候しろよ? てめえさっきから何なんだよ」
「い、いや、すまねえッス、ガブリオルさん……さっきのあいつ……異常だったもんで……」
あいつって……あの多肢族か?
侍女長とか言ってたが、戦闘種族でもねえ生産特化のクソ種族じゃねえか。
それが異常とかどういう事だよ。
「いや、あいつが一番ヤバイッスよ。鬼人族とか目じゃねえ……一瞬、俺の<危険察知>が今までに感じた事ないくらい反応したんスよ……」
なんだそりゃ。ヤツがそれほど″危険″だってか? ありえねえだろ。
恐らくリッチと戦う前提で乗り込んだから気が高ぶってるんだろうな。
そもそも【超覚】のマイコーが″危険″と感じる機会さえ少ないんだしよ。
今日は四階層の探索を少ししたら早めに休むのもいいかもしれねえな。
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