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第十章 黒の主、黒屋敷に立つ
253:グレートモス乱獲祭、閉幕!
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「よし! 帰ろう!」
『おお!』
諦めた。人間諦めが肝心だ。うん。
て言うか、もうグレートモス狩りたくない。マラソン辛い。
いくらドラゴンステーキとかでモチベーション上げても限界がある。辛い。
計四日間に渡り行ったグレートモス祭り。計六八体を討伐。
そして気になる【大樹蛾の繭】は…………十二個! たった十二個!
一番出にくいとされる【大樹蛾の複眼】が四個だったから、それに比べればレアとは言い切れないのかもしれんが、それでも出にくいのには違いない。
グレートモスは倒すと素材二つ+魔石をドロップするからね。
【鱗粉】と【触覚】なんか五〇くらいあるから。【翅】も二〇くらいあるし。
そんなわけでとりあえず俺の喪服用に【繭】を三個使って、他は保管しておきます。
侍女服が損傷しやすい前衛組のを【大樹蛾の繭】製にしようかとも思ったが、前衛組だけでも全員に行き渡らないので止めた。
何かのタイミングで【鉄蜘蛛の糸袋】が足りないとか言う時に使えばいいかなと思う。
グレートモス祭りは俺以外のメンバーを順次変えて行っていたので、みんなはそれほど辛そうには見えない。
毎日狩られてくる【領域主】のドロップも順調そうだった。
道中、宝魔法陣からお宝も持って来てくれたが、そっちはあまり成果なし。まぁついでだからいいんだけど。
今さらミスリル武器とか、高級回復薬とか貰ってもねぇ……ジイナとユアが居るし。
あと、集団で行動していたわりには経験値が意外と稼げていた。これは予想外。
今回の探索ではCPがモリモリ増えるだろうなーとは思っていたが、まさかのレベルアップである。
ひょっとして六人編成じゃなくても経験値が入る? ……いや、考えても結論が出ないから考えるのはよそう。
特にやはりと言うべきかパティの成長が目覚ましい。
ステータスを上げた影響もあるかもしれないが、<探索眼>というスキルを覚えた。
これは迷宮限定であるものの<魔法陣看破>と<千里眼>めいた能力を併合させたようなもので、迷宮組合員には垂涎のスキルなのだ。
これがあるから小人族を斥候に置いている迷宮組合員も居るくらい。【震源崩壊】とかな。
まぁ小人族だからと言って必ず覚えるスキルではないのだが、パティが覚えてくれてラッキーだった。
同じ斥候系であっても、暗殺系種族である闇朧族とは違い、小人族は言わば純然たる斥候種族。
こと迷宮に関しては小人族のほうが種族適正があるのかもしれない。
これからのパティの成長にも期待する所である。
ユアも<温度感知>というスキルを覚えたが、こちらは微妙。
斥候系スキルではあるのだが、これを使うくらいならば<気配察知>を使った方がいいだろう。
でもまぁ一応使って慣れておくよう指示はしておいた。
珍しいのはそれくらいかな。あとはまぁちらほらと。
そんなわけで成果は十分。
【繭】はアレだったけど、十分だと言い聞かせていざ帰宅である。
本当なら四階層にも行って、火属性の【領域主】を倒し、ユアの杖に使う用の魔石をゲットしたかったが、俺の精神的にもう無理です。
帰って風呂に入りたいのだ。
ジイナに相談されたが、本当に迷宮に持ち込むようの風呂小屋を作ってもいいかもしれない。要検討。
今回はタイラントクイーンを狩る必要もないので、まっすぐ帰る。
帰るだけでも二日掛かるがこれでも急いだほうだ。
探索は計八日間。受付に戻るのは七日ぶりかな。
さっそくメリーに捕まる。
「おかえりなさい、セイヤさんたちっ! ど、どうでした? ゴクリ」
「そんな期待の目で見られても今回は三階層だから大した報告なんてないぞ」
「いやいや、そう言ってまたドロップいっぱいあるんでしょ! 私知ってますからっ!」
まぁあるっちゃあるな……。【大樹蛾の〇〇】がやたらと……。
【領域主】のドロップは展示だったりユアの錬金用だったりするので、よほどダブって要らないものならば売る。
錬金を自前でするようになった今、何が必要になるか分からないので余分には確保しておくつもりだが、それでも売れるものはある。
しかし一番売りたいのはグレートモスなのだよ。
「ぎゃあああ!!! ほら! ほら言ったとおり! なんですかこれ! グレートモスのスタンピードですかっ!」
「上手い事言うな。さすが敏腕受付嬢」
「茶化さないで下さいよっ! も~~~こんなに狩る人、居ないんですからね? 分かってます? 異常ですよ異常」
「ああ、グレートモスが状態異常を使うから。上手い事言うな。さすが敏腕受付嬢」
「違いますっ! もういいですっ!」
ともかく大量の雑魚魔石も含め、まずまずの買い取りになった。
じゃあ帰ろうか……とその前に二階に寄るか。
「ご主人様……いよいよですか」
「さすがにもう買っておいていいだろ。どの道展示品も置けないんだし」
エメリーが渋々頷いたのを見て、二階へと階段を上る。
目的は言わずもがな、住居組合である。
相変わらず二階には人が少ない。住居組合の中にも客は居ないようだ。
「ミーティア様! セイヤ様!」
ガタッと席を立った受付嬢は以前に屋敷を買った時と同じ、樹人族の女性だな。名前は忘れた。
俺よりも先にミーティアに反応するのがさすがだ。
この人、罪人になって見た目が完全に変わったミーティアを初見で見破ったからな。なかなかやりおる。
「先日仰っていた隣の物件ですか?」
席に着くなりそう言われた。
どうやらミーティアが先んじて予約をとっていたらしい。
物件を押さえておくとか普通はしないそうなのだが、ミーティアの頼みだから特別にと。さすがです、神樹の巫女様。
「先に動いているならそう言ってくれれば良かったのに、ミーティア」
「ふふっ、言ってしまうと即座に購入してしまいそうでしたので」
だろうな。俺でも自分でそう思う。予約するくらいなら買っちまえと。
しかしそうと分かれば話は早い。というか早めに買って正解だろう。いつまでも予約の状態だと可哀想だし。
すぐさま購入手続きをして、鍵だけもらう。
「中の案内とかはよろしいのでしょうか」
「今日は探索帰りで疲れているので、明日にでも勝手に入って確かめますよ。どちらにしても買うのは決まっているので」
「かしこまりました」
とんとん拍子で契約が終わり、住居組合を後にする。
「あー、ついに買いおったかぁ……」
「博物館ですか……どんなことになるのやら……」
「不安二割、期待八割ですかね」
「私は不安の方が大きいです……仕事が増えそうな予感……」
「まぁジイナはそうだろうなぁ」
後ろで侍女連中が色々と喋っているが俺は何も言えん。
おそらく仕事量は増すだろうし、ジイナにはあれこれ頼むつもりでいるからだ。
すでに決定している事がいくつもある。諦めてくれ。
そんな感じでわいわいと帰路に着く。
八日ぶりでも黒い屋根の我が屋敷を見ると、皆から歓声が上がる。
そしてちらりと右隣の屋敷を見て、少し不安な声を上げる。諦めてくれ。
「おお、セイヤ殿。おかえりなさい。ご無事で何よりです」
「ズーゴさん、ご苦労様です。何かありましたか」
「ええ、特に……いや、一つ報告したい来客がありまして……」
来客? ズーゴさんが口ごもるのは珍しいな。
「サロルートが女性を一人連れて訪ねて来ました。吟遊詩人の娘だったのですが……」
「サロルート? 吟遊詩人?」
全く分からん。どういう繋がりだ? 彼女?
「セイヤ殿たちが戻って来た時に再度伺うとの事でしたが、その、その娘がセイヤ殿の奴隷になりたいと……」
「はぁ!?」
全く分からん。いや、全く分からん。どうしてそうなった。
「殊勝な心掛けですね」
『うんうん』
後ろの侍女たち、黙りなさい。さも当然という態度は止めなさい。特にエメリーと天使組。
全く分からんのは俺だけなのか? あ、ズーゴさんもですか。ですよね。分かりませんよね。
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