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第十一章 黒の主、博物館に立つ
257:突撃、隣の博物館予定地!
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
朝から予定外の事が起きたが、無事にリンネと奴隷契約し終えた。
その足で南東区へと行き、ユニロック服飾店でリンネの侍女服を仕立て、ついでに【大樹蛾の繭】を渡す。
「おおっ! まさかこれほど早く持ち込まれるとは! さすがですな!」
「余分に狩っては来たんだがとりあえず三つ渡しておく。これで俺の服とコートを頼む」
「かしこまりました。店の威信を掛けまして精一杯良いものをお作りします」
いつもの侍女服以上に気合いが入っているな。
やはり【大樹蛾の繭】が高級品だから扱うのが楽しみだという事だろう。
……後から聞けばどうやら違ったらしい。
……「【黒の主】の服を作った」というのが自慢話というかステータス的な扱いになるらしい。なんじゃそれ。
ともかく服の用事が終わったので大人しく帰宅。
リンネは早速エメリーに任せ、屋敷の案内と侍女教育を開始してもらった。
俺はと言えば、当初の予定であった隣の物件をようやく見られる。
ここまで遠回りだったなーと安堵感が強い。
一緒に居る面子はミーティア、ラピス、ウェルシアの王侯貴族組とジイナ。
俺以外に誰も博物館の事なんて分からないから、とりあえず屋敷の作りに詳しそうな面子にしてみた。
別に王侯貴族だからって詳しいわけではないんだが、消去法でもある。
隣の物件は、メルクリオの家と同じように通りに面してすぐ玄関がある。
正確には通り沿いに塀と門があり、門を入ってすぐに三段ほどの低い階段。その先に玄関扉。
屋敷と塀の間は二メートルもないだろう。今は背の低い草が茂っている。
住居組合の担当員から貰った鍵でさっそく入る。外開きの豪華な扉を開けると、エントランスが広がった。
「おおー、うちの屋敷とはやっぱ全然違うのね~」
「やはり殿下のホームと似た造りではないでしょうか」
「だな。同じ造りというわけではなさそうだが」
うちと比べると小さく感じるが、貴族の邸宅や別荘として見れば十分な大きさだ。三階建てだし。
それから皆とわいわい話しながら探索してみる。
一階には応接室、客間、食堂、サロンなど。うちにあったパーティーホールはないらしい。娯楽室も小さいな。
二階には私室が並ぶ。三階は主寝室と書斎とやはり私室がいくつか。ここら辺はうちと変わらない。
そして家の裏に中庭があった。どうやら平面で見ると『凹』こんな形をしているようだ。
屋敷の正面からは見えない中庭。メルクリオの家にもあるのかもしれない。見たことはないが。
「これは順路に迷うな……」
単純に四角い家ならば一階の右から展示品を見て行って、ぐるっと左側から戻ってくる、そして二階へ……と考えていた。
しかし凹の形なら右の奥から左の奥に回る術がない。
中庭を突っ切ってもいいが、二階は無理だ。
「一階と二階を全て展示室にするおつもりですか?」
「職員用の部屋は作るけど、それ以外は展示室だな。三階は職員専用フロアにするつもりだが」
「それだけ多く……置くものがあるのでしょうか」
「足りなかったらまた足せばいいじゃない。四階層とか探索して」
「ラピス様、行けば分かると思いますけれど、四階層は大変ですわよ?」
展示スペースは多くとっておいて損はないだろ。ラピスの言う通り増えると思うし。
一階から二階への階段はエントランスから真っすぐの一つしかない。
仮に一階の右から展示室を見て行って、左の展示室を見て行って、二階の展示室を見て回るとすると……廊下もエントランスも大渋滞になるだろう。これは動線がおかしい。
「やっぱり左右の奥に階段を作るべきだな。一階右奥から二階に上がり、二階の展示室を見て行って左奥から下りる。それで一階左奥から最後の展示室を経由してエントランスでゴールだ」
「階段を増設ですか……」
「中央階段は使いませんの?」
「職員用に限定してもいいな」
入場者が使わないのなら撤去してもいいくらいだけどな。
倉庫をどこに置くかにもよるが、仮に二階の一室を倉庫にした場合、職員が運ぶのに中央階段は残したほうがいいかもしれん。
大きいものだと普通のマジックバッグじゃ入らないだろうし。
「それに廊下を潰して展示室を広くとったほうがいいかもな。それで部屋同士を繋げる感じ」
「部屋から部屋に移っていくわけですか」
「はぁ~、ご主人様の世界の博物館ってそんな作りなのね」
全部がそういうわけじゃないけど、廊下を残す意味があまりないんだよな。
逆に部屋の入口が廊下へと出入りするのに渋滞になる。完全にルートを固定して一方通行にした方がいい。
「そうなると大工事になりそうですわね」
「ジイナ、屋敷の強度的にそういった改造は出来ると思うか?」
「専門家じゃないので大工さんに確認したほうが良いとは思いますけど、柱を削らなければ問題ないとは思います」
それもそうだな。どちらにせよ改造するのは本職に任せるしかない。
俺の<アイテムカスタム>でも出来るがCPが大量に必要だし。
手持ちのCPはリンネやパティの<カスタム>にも使いたいし、トイレとか照明とかの内装に使いたいからな。
そうなると屋敷の修理をしてもらった南東区と北西区の大工を頼るか?
……なんかまた勝手に黒くされそうだけど。
……屋根だけなら黒くしていいよって言えば大丈夫か?
皆でゆっくりと見て回り、ここはこうしようなどと細かい事を話し合いながら進む。
全面的なリフォームになりそうだから具体的な所は空想になってしまうが、ある程度は共有できたと思う。
まぁ後から変更するにせよ、それこそ<カスタム>で修正してもいいし。
「楽しみになってきたわねー!」
「私は少し不安ですが……」
「完成予想図が今一ピンときませんわ」
「図面を引くよ。どうせ業者に改築依頼するのに必要だし」
この世界に図面があるのか分からんが。あってもラクガキレベルな気がする。
ちょっとジイナと相談しながら書いてみよう。それが最初の仕事だな。
それが出来たら業者に依頼。改築が終われば内装と設備。
それから展示品を置いて、ああ、博物館として運営するなら商業組合に登録しなきゃ。
あとは従業員か。俺たちでやるわけにもいかないから誰か雇わないと。
……やる事多いなー。
「ご主人様、大工さんに頼むのであれば、ついでに例の風呂小屋を発注すればいいんじゃないですか?」
ジイナがそう言い出す。おお、忘れてた。
<インベントリ>に入れて迷宮に持って行く用の風呂小屋。
確かに本職に作ってもらった方がいいかもしれん。
南東区の樹人族大工に頼めばヒノキっぽい風呂が出来るんじゃないだろうか。
そうなれば辛い迷宮探索も楽しくなるな。どこでも露天風呂。ああ、小屋だから露天じゃないか。
ともかくついでに頼んでみるか。博物館優先だが。
ジイナはホッとした表情を浮かべる。なんか皆風呂好きになったなー、いい事だが。
しかしジイナよ。お前には頼みたい事が色々とあるのだ。
「えっ、リンネさんのショーテルとここの図面のお手伝いと魔法剣だけじゃないんですか?」
「博物館の警備システムを完璧にしないといけない」
「けいびしすてむ?」
うちの屋敷ならともかく、一般客も入る博物館に高級品ばかり並べるんだ。当然、警備員は立てる事になるだろう。
しかし夜中まで警戒できるわけないし、仮にネネクラスの盗賊が入ろうものなら確実に警備員は抜けられる。ズーゴさんでもな。
それでも盗まれたりしないように魔道具で警備を完全なものにしたい。
「魔道具で? 警報とかじゃなくてですか?」
「例えばガラスケースに触ったら麻痺になったりするような……そんな事が出来ないかなーと」
「いや、それだと私じゃ完全に門外漢ですよ。道具としての加工だったら出来るかもしれませんけど、ユアさん次第になると思います」
ユアかー。ユアにも魔法剣とかお願いしなきゃいけないから忙しいんだよな。
でもまぁ聞くだけ聞いてみようか。
よし、屋敷に戻ったら錬金工房に乗り込もう。
「ユアの悲鳴が聞こえて来るようだわー」
「大丈夫でしょう、ユアも優秀ですから」
「確かに優秀ですが、ミーティア様は評価が過ぎると思いますわ」
その後、「ひぃぃぃ」という声が工房から聞こえたという。
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