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第十一章 黒の主、博物館に立つ
259:竜素材の魔法剣、本格始動!
しおりを挟む■ユア 人蛇族 女
■18歳 セイヤの奴隷
あははははは、お仕事いっぱい楽しいなあははははは
……はっ! ダ、ダメです! 現実逃避している場合じゃない! 頑張って錬金しないとっ!
頬をパンパンと両手で叩き、集中し直します。
雑念が入っていると錬金は成功しませんからね。
……まぁ<カスタム>して頂いてから失敗した事がなくて逆に怖いんですが。
……これで失敗しようものなら、やっぱり私は不要と追い出されるかもしれません。頑張りましょう。
グレートモスマラソンの為の探索も終わりまして、それまでに準備していた杖や状態異常回復薬なども作る必要はなくなりました。
薬などは念の為持ち込んでいたのですが、やはりサリュちゃんやシャムさん、マルちゃんが優秀なので、仮に毒や石化攻撃をくらってもすぐに治せそうですしね。
それでも何が起こるか分からないのが迷宮の怖い所です。作って置いて損はないと大量に作りました。
日々使っているMPポーションなどもそれほど大量に必要というわけではありませんし、集中して作る必要もありません。
じゃあ何を作って忙しいのかと言うと、大きくは二つです。
一つは博物館を警備するようの魔道具を作ってくれとの依頼です。
魔道具は確かに錬金術師の領分ではあるのですが、私は……と言うかお師匠様は薬剤系の錬金術師だったので、あまり得意ではありません。
薬剤系に対して魔道具系錬金術師という人たちが居まして、そういう錬金術師が魔道具や杖の専門家となります。
ですので杖作成時には実は結構苦労していたんです。
娯楽室の本を読んだり、お師匠様の知識を呼び起こしたり、試行錯誤して作ったものです。
まぁいざ作った時には失敗せずに出来ちゃったので、苦労の欠片も見えなかったわけですが……。
ともかく、ご主人様曰く、博物館に無断侵入したり、展示物に触れた時にその相手を害するような、そんな仕掛けが出来る魔道具が欲しいと。
言わんとしている事は分かったのですが、それをどう作ろうかと悩んでしまいます。
錬金補助に付いてもらっているアネモネちゃんや、お隣の作業場のジイナさんとも相談しています。
「いわゆるトラップ系の魔道具なわけですよね。しかし……」
「ふふふ……ご主人様が欲しいのは、多分市販のもののレベルを超えている……」
「わ、私たちで考えて生み出すしかないんでしょうかぁ……」
既存の技術を超えるものを作る。それは私のような錬金見習いで出来る事ではなく研究職の方がやるような事です。
それこそ魔導王国の魔導研究所とかで作るようなものじゃないかと……あっ!
「メ、メルクリオ殿下に伺ってみますか? もしかすると研究所ではすでに作られているかもしれません」
「ああ、それも手ですね。と言うか、もしその錬金技術が魔導王国で秘匿されているようなものだと勝手に使っちゃマズイでしょうし、事前に聞いて確認しておくのは必要かもしれません」
「ふふふ……錬金技術の拡散は重罪……」
知らずに使用していれば問題はないと思いますが、それでも聞いておいて損はないでしょう。
というわけで、魔道具に関しては殿下に伺う事にします。
どうやら【魔導の宝珠】の皆さんは探索に出ているとかで、帰っていらしてからですね。
それとご主人様からの依頼、二つ目。
これはもう魔法剣です。ジイナさんともよ~~~く話し合いが必要です。
使う材料とかについてはアネモネちゃんにお任せです。高価すぎて怖い素材とか多いので。
「まずは竜素材で魔法剣が作れるか、確かめないといけませんね」
「と、とりあえず普通の魔法剣みたいに魔石を作ってみますっ」
「私はとりあえず魔石用の穴を開けた【風竜の短剣】を作ります。風竜の鱗はいっぱいあるし」
ジイナさんは何気なく竜素材を使えるんで羨ましいです。
これぞ【黒屋敷】専属鍛冶師って感じでカッコイイです。
さて、魔法剣は『魔法を使える武器』の総称なのですが、杖や魔道具とはまるで違います。
簡単に言えばこんな感じ。
・杖、アミュレット等の触媒
魔法を使う素質がある者が、魔法を行使する為に必要なもの。
魔石の加工としては単純。
・攻撃魔法が撃てる魔道具
魔法を使えない者でも魔力を流すだけで魔法が撃てるというもの。
決められた魔法しか使えず、その威力も弱い。(ヴェリオ謹製のものは特別強かった)
・魔法剣
魔法を使えない者が武器を通して決められた魔法を使えるようにするもの。特定の動作と魔法名の詠唱が必要。
威力も本来の魔法と大差ないが、素体となる武器との相性が非常に重要。
つまりジイナさんは私が作る魔石に合わせた武器を造る必要があり、私はジイナさんの武器に合わせた魔石を作る必要があるという事です。
おまけに杖以上に魔石に刻む魔法陣は複雑ですし、武器との融和性を持たせる為に特殊な加工も必要です。
武器の方も魔石用の穴だけでなく、魔法を通りやすくする為の内部構造が必要で、単にミスリルで作れば良いというわけではありません。
ましてや今回はミスリルではなく竜素材での魔法剣。
ジイナさんの方も色々と試行錯誤する事でしょう。
私は足を引っ張るのが怖いです。せっかくジイナさんが苦労して打った武器も私の魔石のせいで失敗作になったりしたら……そう考えると本当に怖いです。
とりあえず最初は試しでもありますが、失敗も怖いので最大限に集中してやります。
剣は風竜という事ですので、魔石も風属性がいいでしょうか。
接合材も似たような素材で作ったほうがいいかもしれません。
「いや、最初は二本にしましょう……風属性の魔石のものと、別の属性のものと……検証したほうがいいです、ふふふ……」
「なるほど。確かに竜素材が風竜と炎岩竜しかないですからね。属性が一致しないと使えないとなれば二属性しか出来ませんし。じゃあ私は【風竜の短剣】を二本作ります」
「えっと、じゃあ私は風と、何か別の属性で……」
そういう事になりました。
使うのは迷宮で手に入れた雑魚敵のものです。最初から【領域主】クラスの魔石は使えません。
接合材も属性だけ合わせて使いやすさ重視の安物を。
まずは風属性の魔石から魔法陣を刻みます。
魔法は最下級魔法の<風の矢>にしました。魔法陣も簡単ですし。
それに加え、魔法剣として行使出来るように別の魔法陣を刻んでいきます。これが複雑。
さらには接合材を錬金し、魔石と融和させるように馴染ませていきます。
これも温度や時間が繊細で、大量に魔法陣を刻んだ魔石は非常に割れやすいので失敗しやすい。
……まぁ出来ちゃったんですけど。初めて作ったのに。ホント怖いです。
それとは別に土属性のものも作りました。魔法は同じく最下級の<岩の弾>です。
ジイナさんの作った短剣には柄の中央に魔石用の穴が開いており、剣身の内部にも管のようなものが通っています。すごい加工しますね、さすがです。
そこに接合材を流し込み、魔石で封をするようにはめ込めば完成……のはずです。
早速三人で地下訓練場へ。試し撃ちです。
黒い的から離れて短剣を構えるのは、あえて魔法が全く使えないジイナさん。
私やアネモネちゃんがやると杖を使う時のように魔法を籠めてしまうかもしれないので。
「よーし、では! <風の矢>!」
―――ビュン―――カンッ
「「「おおー」」」パチパチパチ
短剣の先から出た<風の矢>は確かに的に向かって飛びました。
威力は弱いと思いますが、それでも魔法剣として機能した事が重要です。
つまり、竜素材でもミスリル鉱石の代わりになると。
魔法の威力がどちらが上なのかは検証してみないと分かりません。
でも剣として考えれば竜素材の方が断然優秀なのですから、やはり竜素材で魔法剣を作るべきなのでしょう。
これを見越していたご主人様がスゴイです。まさか本当に使えるとは思いませんでした。
続いて土属性の魔石を使った方も試します。
結果はちゃんと<岩の弾>が射出されました。
つまり竜素材の属性と魔石の属性は、必ずしも一致させる必要がないという事。
ひょっとしたら威力が変わるのかもしれませんが、とりあえず機能すると分かっただけでも大収穫です。
まずは一段落。肩の荷が下りたように息を吐きました。ジイナさんも。
その夜、夕食の席でご主人様に報告しました。ジイナさんが。
「まじか! すごいな! よくやった!」
「あとは竜素材の属性と魔石の属性が違う場合に威力の変動があるのかと、ミスリルの武器だった場合の魔法の威力も見てみたいです。魔法の威力はミスリルの方が高いなんて事もあるかもしれないので」
「それでも武器として考えると竜素材の方がいいな。サブウェポンでミスリルのを持たせてもいいけど」
なるほど、魔法しか効かない相手の場合はそっちのミスリル製魔法剣を使うというわけですか。
……となると私とジイナさんの仕事量が倍になるんじゃ?
「とりあえず竜素材の魔法剣……『魔竜剣』と呼ぼうか、区別する為に。魔竜剣を作る前提でいてくれ。サブウェポンは作るにしても後の話だ」
「「はい」」
「さて、作れると分かれば、誰にどんな魔竜剣を持たせるかだなー」
手を顎にやり皆さんを見回すご主人様。
その様子に皆さんから次々に声が飛びます。
「あたしのドラゴンファングは魔竜剣ってのに出来るのか!?」
「私の魔法剣、強くなるんですかっ!?」
「アダマンタイトスピアとどっちが強いんですか!?」
「あ、私の槍もお願いしたいんだけどー」
「ついでで良いので私にも魔竜剣を」
「よーしよし落ち着け。優先順位決めるから。それにジイナとユアの検証が終わってからだ。逸るんじゃない」
どうやら誰にどんな魔竜剣を持たせるのか、ご主人様が個人面談しながら決めるそうです。
形状とか魔法とかですね。ご主人様の中にはある程度希望があるようですけど。
一段落しても、余計に忙しくなりそうですね……ずっと失敗の恐怖と戦うはめになりそうです……。
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