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第十一章 黒の主、博物館に立つ
264:博物館の構成を考えよう!前編
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「【黒の主】の旦那! やぁ~っと終わったぜい! 大仕事だったわ! ガハハハッ!」
「注文通りには出来たと思いますよ。いやぁ~いい経験でしたね! ハハハッ!」
大工連中が揃って満足気だ。北西区と南東区で全然違うのに妙に気が合ってるようで何より。
すでに外観は見えている。
案の定、屋根は黒い。そこ注文してないはずなんだけど、さっき注文通りって言ったよね? いや、まあそこは諦めてるんだけど。
屋根以外の外観の変更点は、まず窓が極端に減った事だ。
日光の差しこむ博物館なんてないだろうと、展示室からは完全になくした。
窓が付いているのは従業員が使う予定の三階部分と、一・二階の従業員用の部屋のみ。
そして通りに面した門の上には、アーチ状の看板が付けられた。
『黒屋敷 迷宮博物館』と。
博物館という名称自体がこの世界にはないそうだから、なんのこっちゃって感じだろうがとりあえずはこれで行く。
「やはりここも【黒屋敷】なのですね」
「いいじゃない。分かりやすいしカッコイイわよ」
「看板も洒落てますね。ご主人様がデザインしたんですか?」
「おおー! 早く中が見たいですネ!」
一緒に居るのはエメリー、ラピス、ジイナ、リンネだ。
リンネは芸術肌だと聞いているし、展示品を置いたりするのに意見を聞こうと思っている。
ラピスも目新しい物好きな上にズバズバ言う性格なので、こういう時は助かるかもしれない。と期待。
ともかく大きな扉を開く。この扉も常時開けっ放しにしないとな。夜以外は。
そしてエントランス。ここは特にいじっていない。
中央の階段もそのままだ。ロープでも張って、従業員以外は使用不可とする予定。
階段以外には左右の通路が見えるのみ。
エントランスは受付だけにするつもりなんだが……それにしちゃスペースが広いな。
何かここにも置いたほうがいいかもしれん。
何もないエントランスを通り、順路予定である右通路へ。
いや、正確には通路だったものか。
廊下は取り壊され、すぐに大部屋になっている。ここが第一展示室。
「広くなったわねー。廊下と一体化しただけで」
「すごい暗いですけど大丈夫なんですか、これ」
「ランタン持って歩くですかネ?」
「ご主人様が<アイテムカスタム>で照明を付けるのでしょう。心配はいりませんよ」
さすがエメリー。どうせなら照明を付けながら見て回ろうかな。
天井に埋め込むタイプの照明。
あんまり明るくすると博物館っぽくないから、若干暗めで。
展示室の突き当り、入口とは逆側の壁に扉があり、そこから第二展示室に入る。
元の部屋の関係上、多少大きさは異なるが作りは全て同じだ。
そして第二展示室を抜けると階段と、中庭にも出られる。
中庭は展示室以上に広いスペースがあり、今は芝生に覆われているだけだ。
ここも何かに活用するべきだろう。
屋台でも出して休息スペースにしてもいいかもな。
そんな事を思いつつ二階へ。増築とは思えないほどしっかりした階段だ。
これで二階の『凹』右上から見て回る事になる。
中央階段と従業員用の部屋以外は展示室が連なっている感じだ。
展示室自体は一階と変わらない。二階だからといって眺める為の窓もないし、本当に展示室が続いているだけだ。
二階にある展示室は全部で六つ。第三から第八展示室までが並ぶ。
そこを抜けると下り階段で一階へ。ここからも中庭に行ける。
『凹』左上から降りて来て、第九、第十展示室を抜ければエントランスでゴール。
これが考えている順路。
途中にトイレや休憩スペースがあった方がいいかもしれない、とちょっと思った。
展示品をじっくり見る人だったら、時間が掛かりそうだ。パーッと見るだけなら十分、二十分くらいで回れそうだけど。
「確かにトイレは必要でしょうね。他区から時間を掛けて見に来る人もいるかもしれません」
「お客さん用のはエントランスにあるじゃない。二階にもつけるの?」
「休憩スペースはベンチを置くだけでもいいと思いますが。中庭でもいいでしょうけど」
「見るのにどれくらい時間が掛かるのかは展示品に寄りけりだと思いますネ」
ふむふむ。展示品の仮置きして、順路をロープで仕切ったりしたいから、それから時間を見るかな。
それに展示品と一緒に説明書きの立て看板を付けたいから、それ読みながら見て回る人が多いと思うんだよな。
「立て看板ですか?」
「えっと、例えばこうグレートウルフの毛皮を飾るだろ? 組合員ならこれがグレートウルフで、どういう魔物かって分かると思うんだが一般人は見たって何だか分からない。だから展示品についての説明書きを載せたい。看板じゃなくてプレートとかでもいいけど」
「なるほど」
「親切ねー」
―――――
魔物名:グレートウルフ
展示素材:黒狼王の毛皮
出現場所:カオテッド大迷宮 二階層 平原エリア
特徴:
二階層、平原エリアの【領域主】。大きな躯体を持った上位狼系魔物。
遠くから人を感知しフォレストウルフの群れと共に襲い掛かってくる。
とても素早く柔軟な身のこなしで動き回り、体当たりや前足による攻撃も強い。
噛み付かれた場合、人の上半身を丸々食いちぎるほどの力を持つ。
イメージ図:【人との対比イラスト】
―――――
こんな感じな。
これがないと、見た事ないばかりか魔物と戦った事のない人なんかは全く分からないだろう。
グレートウルフって言われても、大きい狼? で終わりだし。まぁ実際大きい狼なんだが。
「展示品全部にその説明書きをつけるんですか……」
「言われてみれば必要なんだけど、めんどいわねー」
「でもでも、想像してみるとスゴイですネ! 綺麗な展示ですネ!」
「確かに説明書きを読む為にゆっくり見る人は多いでしょうね。むしろ立ち止まって読む人が多いかと」
「そうなると通路も幅が必要ですかね。渋滞しそうです」
だよな。まぁそれは展示品をどう置くかでも変わるから、ちょっと後回しなんだが。
ついでに言うと、迷宮の簡易地図みたいのも飾りたいんだよ。
「簡易地図と言いますと?」
「例えばカオテッドの二階層はこんなトコですよー、こんな階層のココにグレートウルフが居るんですよーって分かるように」
仮に第二展示室が二階層の【領域主】ばかりを展示するとした場合、展示室の入口に二階層の地図を貼る。
そこには色々な【領域主】の名前が書いてあって、その【領域主】の詳細は展示品と一緒に、第二展示室の中にあるというわけだ。
「最初に階層の説明をして、【領域主】個々のドロップを見せていくってわけね。面白そうね。めんどいけど」
「なんかそれだともう、組合で売ってる迷宮攻略情報と変わらないんじゃないですか?」
「確かにそうですね。こちらで入場者全員に詳細を見せてしまうと問題になるかもしれません」
あー、それは失念してたな。
確かに組合から文句言われるかもしれん。
「うーん、とりあえず作ってみて、実際に客を入れる前に本部長に見て貰おうか。それで判断を仰ごう」
「それが宜しいかと」
「最初に断っておかないんですか?」
やる前にダメって言われると萎えるじゃん?
でもやった後ならどうにか説得できるかもしれないじゃん?
もう俺の中で「こうやりたい!」ってなってるわけだから。ええ、ただの我が儘ですよ。
「そうなると第一展示室はカオテッド大迷宮自体の説明のような展示になるのでしょうか」
「それから始まって、一階層の説明と【領域主】も展示しようかと。一階層はあんま居ないし、一部屋で済むだろ。……いや部屋が余ってるんだから分けたほうがいいか」
「問題は二階層よねー。数が多過ぎ」
「展示室一つだけで済みますかね、ハハハ……」
一階層は五体しか居ないけど、二階層は十五体も居るんだよな。
しかもグレートウルフの【黒狼王の毛皮】もそうなんだが、大きめのがちらほら。
ワイバーンとかタイラントクイーンとかね。地竜とかもそうか。
そうなると第四展示室も二階層の【領域主】になるかな。
三階層以降は数は減るけど、大きいのが多くなる印象。やはりスペースをどう使うかだな。
とりあえず展示品を仮置きしてみるか。
「こうロープを張って通路を作る。その先は展示物を置いて、立ち入り禁止な」
「絶対ロープ越える人出て来るわよ。酔っ払いとか」
「その為の防犯グッズをユアに作ってもらわないといけないんだよ」
「触ったら麻痺ですっけ……出来るんですかね。あ、メルクリオ殿下にその手の魔道具を聞いてみないと」
「だな。展示品の仮置きと大体の内装が終わったら聞きに行くか。実際に見せたいし」
「そうですね」
オープン前にやる事はまだたくさんあるんだよな。
一つずつ片付けて行かないと。
メルクリオもそうだし、本部長にお伺い立てないといけないし、防犯グッズと、従業員の問題。それと警備もか。
商業ギルドに行ってどうやって運営するかも決めないといけない。
うーん、山積みだな。
「ま、とりあえず今は仮置きしてみよう。少しずつ形にしていくか」
『はいっ』
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