カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十一章 黒の主、博物館に立つ

266:メルクリオのテンション上げ下げ劇場

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■メルクリオ・エクスマギア 導珠族アスラ 男
■72歳 クラン【魔導の宝珠】クラマス 魔導王国第三王子


 セイヤが侍女たちを引き連れてやって来た。
 エメリー、ミーティア様、ウェルシア伯、ユア、それと確かジイナとアネモネだったかな?
 珍しく大人数だね。


「これお土産な。四階層到達のお祝いも兼ねて豪華にしてみた」

「おおっ! な、なんだ、これはっ!」

「シュークリームとプリン・ア・ラ・モード」


 丸いシューの中からは何とも甘い香り。すでにただ事ではない。受け取る手が震えるほどだ。

 そしてプリン・ア・ラ・モードという小皿に乗せた盛り合わせ……これは事件です、父上、兄上。

 プリンとフルーツ、そこまではいい。しかし乗っている白いものはなんだ。
 見るからに滑らかで、甘い香りが絶えず鼻孔をくすぐる。

 危険……まさか<魅了>!? この一皿に<魅了>の効果があると言うのか……!?


「殿下、お気を確かに!」
「無理だ! 誰かこれを取り上げろ!」
「本国に連絡! 殿下ご乱心!」


 周りの皆に抑えられ、やっとの事で気を持ち直した。
 ふぅ……これは……後で食べよう。しっかりと味わって。


「魔導王国に行った時に撹拌の魔道具を買ってな、それでプリンも旨くなったし、生クリームも作れたんだよ」

「ほう、生クリームと言うのか。ちなみにレシピは? 金貨十枚でどうだい?」

「金はいいよ。お祝いで教えるから」

「心の友よッ!」


 いや~僕は良い友人を得たものだ。レシピは本国にも教えないとね。
 この報告は勲功第一等級になるだろうね。間違いない。

 で、今日はわざわざその為に来てくれたのかな?
 なんかメイドの皆さんの目が冷たい気がするけど。

 特にウェルシア伯がゴミを見るような目で見てるんだけど。僕王子だよ? 一応、君の上司だよ?


 聞けば魔道具の事で相談があるらしい。
 ちゃんと応接室で対応する事にしよう。


「実はうちの隣の家を買い取ってな」

「あーやっぱり。屋根が黒いし、看板に【黒屋敷】って書いてあったから分かったけど……相変わらず豪邸をポンと買うねえ。メイドが増えたからってわけじゃないんだろ? 看板に『迷宮なんとか』って書いてあったし」

「ああ、博物館って言ってな――」


 セイヤが言うには屋敷のエントランスに飾ってあった展示を、家まるごと使ってやるらしい。
 何とも……趣味が行き過ぎて迷走しているようにも思えるよ。

 そして博物館と銘打って、一般人でも金を払えば見学出来るという施設にするそうだ。
 まさかセイヤから商売の話が出るとは思わなかったね。これは意外。


「で、不法侵入とか警報の魔道具はあるんだけどさ、それ以外にも警備・防犯関係の魔道具を置きたいんだよ」

「まあそうだろうね。屋敷自体が宝の山になるわけだから。言ってみれば王宮の宝物庫みたいなもんだ。そこに一般人を入れるとか頭がおかしいよ」

「うるせい」


 頭がおかしいのは今に始まった事ではないからいいんだけど、確かに相当強力な魔道具が必要だろうね。

 セイヤが言うにはガラスケースに触れただけで麻痺になるような魔道具が欲しいと。
 ユアやジイナに頼んだが、まずは僕に意見を聞くべきだと言われたそうだ。いい判断だね。

 魔道具と言えば我が魔導王国。そう言っても過言ではない。
 防犯系の魔道具も世界最先端のものを扱っていると自負している。
 そしてセイヤの欲しがっているような魔道具も……あるにはある。


「あるのか!」

「一般に売ってはないけどね。希少な素材を使う上に強力すぎる防犯は事故の原因にもなる。流通は渋っているのが現状かな」


 それが研究・開発されたのは奇しくもヴェリオの一件があってからだ。
 ヤツが逮捕される直前に研究所を破壊し、研究素材や資料を盗んだ。
 その経緯があって魔導研究所でも本格的に製作が開始されたんだ。

 魔導研究所でしか作られていないし、使用しているのも研究所と王城、そして王都の主要な省庁などに限定されている。

 さっき『事故の原因にもなる』って言ったけど、触れただけで場合によっては死ぬかもしれない、そんな強力な魔道具は、限られた場所、限られた用途でしか使えないものなんだよ。
 それこそ人の立ち寄らない王宮の宝物庫のような場所だね。


「うーん、そう聞くとうちに設置しづらいなぁ……」

「入場者には注意喚起するんだろ? 効果を麻痺くらいに限定すればいけるとは思うけどね。もしくは二重三重の防犯にするとか」

「と言うと?」

「例えば、ガラスケースに近づいた段階で警報が鳴る。さらに近づいてガラスケースに触れれば麻痺になる、とか」

『おお』


 やってる事は通常の警備・防犯の魔道具と同じだね。
 いくつかの魔道具を組み合わせて警備を厳重なものにする。
 【黒屋敷】だってホームの警備にいくつか使っているって聞いてるけどね。


「じゃあその魔道具をユアが作るのは問題あるか? 研究所だけでしか作っちゃいけないものなのか?」

「商業的に作ったものを売るとかして流通させなければ自分で作るのは問題ない。ただそうすると材料の問題もあるが、魔道具の設計図を教える事になる。……あ、ユアが自分で一から設計・製作する気なのかい?」

「出来るか? ユア」

「えぇぇと、で、出来れば教えて貰いたいです、と言いますか出来上がったものが欲しいです、はい……」

「まあそうだろうね。いくら大錬金術師でも一から設計ってのは時間が掛かるはずだ」

「だ、大錬金術師だなんてっ! とんでもないっ! 私ごときっ!」


 一緒に魔導王国に行った時でさえ、【黒屋敷】に加入したばかりだってのに黒曜樹の杖を作ってたくらいだからね。あと最上級ポーション。

 あれからどうせセイヤに無茶ぶりされて色々作ってんだろ?
 【黒屋敷】のメイドたちの成長速度は半端じゃないからそれくらいは想像つく。


「今は魔法剣作ってるけどな」

「十分、大錬金術師じゃないかっ!」


 なんだよそれ! え? ジイナとユアで魔法剣作れるの!?
 自前で魔法剣を作れる組合員がどこに居るんだ!


「はぁ……相変わらず君たちは……頭が痛くなるよ」

「ハハハ、まぁこれこそ流通させるつもりないけどな」

「当たり前だ! ……でも僕らに一本作って貰うってのは出来ないかい?」


 魔法剣は王族の特権を使ってもそうそう手に入るものじゃない。
 それが三軒隣りで生産されているとなれば、僕だって欲しくなる。
 出来ればうちのクランの前衛に持たせたい。


「うーん、どうしよっか、ジイナ、ユア」

「え、えっと私は別に……でも殿下に私の作ったものを献上するとか恐れ多いと言うか、その……」

「私も問題ないですけど、依頼されているものが多いので、作り終えてからになりますよ。さすがに」

「まぁ少しくらい時間掛かってもいいだろ? なぁメルクリオ」

「もちろん。通常の武器の数倍、時間が掛かるのは知っているよ」


 熟練の鍛治師であればミスリルソードを一日で打ち上げる事は可能だ。
 しかし魔法剣は特殊な内部構造にする必要がある上に、錬金術師との兼ね合いもある。

 魔石、接合材、武器、それらがピタリと合うように作るのだから一本作るのに何本もの試作が必要なのだ。

 おそらく半年は見ておいたほうが良いだろう。
 いや、【黒屋敷】で使う魔法剣も打つとなればその後だから一年、二年掛かってもおかしくはない。
 それでも身近で優秀な鍛冶師と錬金術師に頼めるとなれば安いものだ。


「十日後くらいかな?」

「いや、ご主人様。せめて十五日は下さい」


 早いわ! なんだそれ! 十日とか十五日で作れるの!? 魔法剣だよ!?
 それホントに魔法剣なのか!? 僕、逆に心配になってきたんだが!?


「あー、ジイナ、あれ言ってもいいと思うか?」

「うーん、殿下ならしょうがないかと。どうせそのうちバレますし。ただ口外はしない方がいいと思いますよ」

「だな。メルクリオ、魔法剣を打つにしても内緒話になるんだが」


 えっ、なんだよ怖いな。もうこれ以上僕の心にダメージを与えるの止めて欲しいんだけど。
 魔法剣の事? ジイナとユアで作れるって言うのを秘密にしろって事?


「いや、ジイナ、お前の出して……これなんだけどな」

「槌か? ん? ジイナの武器ってオークションで競り落とした【鉱砕の魔法槌】じゃなかったかい?」


 あれは鉱石の塊のような見た目の茶色いゴツゴツした槌だった。
 これは白い……というか打撃面の片側は平らだが、もう片方は緩く曲がりながらも鋭くなっている。
 柄を抜きにして見ると、この形状は……


「まさか竜の牙か!?」

「おお、さすが。これ風竜の牙なんだよ」

「いやしかし魔石が埋まっているじゃないか。何のために……」

「うん、ミスリルじゃなくて竜素材でも魔法剣が作れると判明した。すごくね?」


 思わず立ち上がって言葉を失くした。僕の後ろに立つメンバーも同じだ。
 じゃあ、何か? これは魔法剣だと? ミスリルではなく竜素材で作った魔法剣だと言うのか?
 すごくね? ってそれどころじゃないぞこれは! 前代未聞の武器を作ったんだぞ!?


「せ、性能はどうなんだい?」

「ミスリルより攻撃力がはるかに高いのは当たり前だよな。問題は魔法だったんだが、ミスリルの魔法剣と同じくらいの性能は最低限ある」

「……最低限というのは?」

「竜の属性と魔石の属性を合わせると、魔法の威力が増す。これは風竜の牙に風属性の魔石をつけて<暴風の嵐ウィンドストーム>を使えるようにしたけど、ミスリル魔法剣より強いな」


 なんだそれは……完全上位互換じゃないか……。

 いや、確かに竜素材自体が希少故に研究が進みづらい部分はある。
 セイヤは単独で風竜を狩ったのだから素材は大量にあるだろう。

 しかしそれを思いつきなのか何なのか、魔法剣にしようなどと誰が思うものか。
 通常の武器より格段に失敗する可能性が高い魔法剣に、竜素材など使うわけがない。

 それをいとも簡単そうに……「すごくね?」じゃねえよ! 大事件だよ!


「でまぁあんまり吹聴するわけにもいかないからさ、内緒話で頼むわ」

「はぁ……世界の武器史に名を残す偉業なんだが? 本国に報告もダメかい?」

「市井とか鍛冶屋を混乱させなきゃいいけどな。これで確かめようって竜に挑むと死人が出るから止めて欲しいんだが」

「さすがにそこらへんの分別はあるよ。安心してくれ」


 こんなの僕だけで抱えきれる内容じゃない。
 父上や兄上たちも巻き込もう。うん。


「そんでどうする? 内緒話でバラしたのは、そっち用に作るやつをミスリル製の″魔法剣″にするか、竜素材の″魔竜剣″にするかって事なんだけど」

「魔竜剣……? はぁ……魔竜剣でお願いします」

「あいよ。ジイナ、ユア、よろしく」

「はい」「ひぃぃぃ」


 その後、改めて魔道具の話となった。随分と脱線したものだ。

 魔竜剣の代わりというわけではないが、僕から研究所の方に打診し、博物館とやらの用途にあった魔道具を送ってもらう段取りにした。

 今となっては防犯の魔道具なんておもちゃのようなものだ。いくらでもくれてやる。
 なんであんなものを市井に流すのを躊躇っていたのか……いくらでも流せばいいじゃないか……。


 いかんいかん、魔竜剣の衝撃が強すぎて判断がおかしくなってる。
 それはそれ、これはこれだ。魔道具の管理はきっちりやろう。


 とは言え、竜素材を使った魔法剣……魔竜剣とはよく言ったものだ。今までの″魔法剣″とは概念の全く違う新しい武器だろう。

 今まで、『魔剣>魔法剣>普通の武器』となっていた武器のランク自体が変わる。『魔剣>魔竜剣>魔法剣>普通の武器』と。

 もしかしたら魔剣以上の魔竜剣もあるのかもしれないが……セイヤたちならば作り兼ねん。恐ろしい話だ。


 そんな衝撃を受けつつ、本国には早々に報告書を出した。
 僕の苦しみを共有して欲しい。カオテッド特務官って辛い仕事なんだよと分かって欲しい。


 ……まぁそんな苦しみも、その後に食べたセイヤからのお土産で吹き飛んだわけだが。


 なんだよあれ! あの生クリームとかいうやつ! 今までの甘味ランク自体が変わるわ!
 あの蕩けるような舌触りと、脳天直撃で響くような強烈な甘さ! ヘブンか! 口内ヘブンか!
 プリンがプリン・ア・ラ・モードとなった事で、SランクからSSSランクになってるわ!


 本日二枚目の報告書を出した。
 これは本格的に甘味研究所が動き出すかもしれない。
 父上は政策に盛り込むだろうか……ヴァーニー兄上はちゃんと止められるだろうか……。

 まぁ僕は賛成派なわけだけどね。


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