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第十一章 黒の主、博物館に立つ
267:博物館に関係ないものを色々と
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
博物館のほうは徐々に完成へと近づいている。
展示品の設置、通路の設定、内装、受付と注意書き、ベンチの設置、従業員用スペースの作成などなど。
説明書きと解説も徐々に置き始めた。風竜の剥製もどきはぼちぼち。
もちろんまだやる事は多い。
中でもネックだった防犯魔道具に関してはメルクリオに頼む事が出来たから、魔導王国から送られてくるのを待つばかりだ。
博物館とは関係ないところで、まず俺の喪服とコートが仕上がった。
侍女服は今までの経験とかもあるのですぐに仕上がるのだが、今回はその数倍か。
待たせて申し訳ないとユニロックさん直々に屋敷へと持って来てくれた。言われりゃ取りに行くのに……。
「いかかでしょう……」
「ん? おお、思ってた以上にすごい。これはいいな」
「良かった! はぁ、緊張しました。何せうちでも滅多に扱わない高級素材ですので、これでご不満でもあればと危惧しておりました、ハハハ」
「不満はないよ。ありがとう。よく出来ている」
グレートモスの【大樹蛾の繭】で作った俺の喪服とコート。
見た目は限りなく元の服に近くしてくれている。パッと見は変わらない真っ黒の喪服とコートだ。
ただ元が化学繊維で出来た冬服だったのに対し、【大樹蛾の繭】は言ってしまえば高級な絹だ。
肌触りや着心地、光沢や色味など、違う箇所はいくつもあるのだが、それでも俺がこの世界に来てから触れたどの布地よりも優れていると思う。
もちろん喪服に近づけてくれたユニロックさんの技量もあるのだろう。素直に感謝。
確かに化学繊維に比べ、<アイテムカスタム>の余地は少ない。CPをもりもり使って、アダマンタイト並みにするのは困難だろう。
しかし【大樹蛾の繭】自体が魔法使いのローブの裏地に使われると言っていたとおり、非常に軽くて動きやすい。柔軟性もある。
喪服は元々激しい運動など出来るようなものではないから当たり前なのかもしれないが、戦う事だけ考えれば新しい喪服の方が優れているだろう。
素材の【大樹蛾の繭】も余っている事だし、戦闘での破損を考えれば普段着るのはこちらにした方がいいかもしれない。
で、以前の喪服はいざ防御力が必要という時の為に<インベントリ>に入れておく。
……ちょっと黒以外の服も着たい気持ちもあったんだが……まぁ今さらか。
博物館に関係ないもの、二つ目。
南東区の大工さんについでに頼んだ風呂小屋が完成した。
「ハハハッ! こんなのちょちょいのちょいですよ! お安い御用です! ……しかし作っておいて何ですが、何に使うんです? こんなお風呂だけの小さな小屋」
「迷宮で探索中にお風呂入りたいんですよ」
「は、はぁ……ハ、ハハハッ! いやぁさすが【黒の主】殿! スケールが違いますなぁ! 迷宮で風呂とは!」
若干の困惑もあったが、出来上がりとしては満足。
見た目は本当に木造の小屋だ。納屋にも見えるくらい小さい。
脱衣所、洗い場、風呂場がそれぞれ一畳ほど。全部で三畳ほどの小屋だ。
俺は一人用として作ったつもりだが、頑張れば三人くらいで入れるかもしれない。探索中は一人ずつ入る時間もなさそうだしな。
木材はヒノキのような香りの強いものを使ってもらった。名称は知らん。
当然シャワーなどはなし、身体を洗う際には湯舟のお湯でかけ流す感じになるだろう。
お湯自体は<生活魔法>で水を出してから温めてもいいし、魔道具でお湯を出すという手もある。
<アイテムカスタム>で蛇口を付けるという手もあるが……まぁ後回しでいいな。
湯舟に面した壁は覗き見防止の為に換気用の小窓しか開いていないが、実は内側から広く開けられるようになっている。
俺が露天風呂っぽくしたかったという理由だ。
どうせ風呂を使うのは三階層とか四階層とか、他の組合員が居ない場所になるだろうし、覗き見防止をしつつ開放感を求めた格好だな。
まぁ三階層のアンデッド空間の中で露天風呂なんか入りたくもないが。四階層なら少しはマシだろう。
ともかくこれで長期間の探索も少しは楽になるかなーと期待している。
今度は四階層に火属性の魔石を集めに行きたいからな。
おそらく時間が掛かる事だろう。その一助になればと思う。
さて、そんなわけで博物館と関係ない喪服と風呂小屋の件は終わり。
実はさらにもう一つ、関係ないものを作らせていたのだ。
それが出来上がったという話なので、南東区に取りに行く。
メンバーは俺、エメリー、アネモネ、ラピス、リンネ。
行先は『マーヤノ楽器店』。
そう、ギターを作ったのだ。
というのも、リンネが加入してから夕食後のサロンでの団らん時、リュートを弾く事が多い。
俺の英雄譚に関しては、俺の居ないところでやってくれと頼み込み、一般的な演奏をしてもらっている。
まぁシャムシャエルやマルティエルなどは【黒屋敷】の英雄譚を聞きたい風ではある。
天使組はサロルートやリンネの芸術性に感性が似ているわけではなく、単純に『勇者』を称える歌が聞きたいだけだと思うが。
あの歌はないだろ、あれは。
ともかく、そうしてリュートの弾き語りを見ていて、やはり俺もギターが欲しくなった。
リュートを覚えようかとも思ったが、見た感じすごく難しそうで諦めた。
日本でリュートなど見た事はないが、リンネの持っているリュートはボディが丸っこくて大きい。ネックはかなり短い。
弦も数えたら十六本もあり、よくまぁ器用に演奏できるもんだと感心した。
そんなわけで早々に諦めて、ギターを発注したわけだ。
一応木材って事で南東区の楽器店を探し、そこに無理を言って作ってもらった。
「このような形になりましたが、本当にこれで良いのでしょうか……」
不安そうなマーヤノさん(樹人族の女性店主)から出来上がったギターを受け取る。
どれどれ。ふむふむ……見た目は良し。いわゆるアコギの瓢箪形状とネックの長さ、弦の本数も六本。
持ってみると軽い。ちょっと不安がよぎる。
弦はこれリュートの弦と同じだよな。ギターのような金属糸ではない。
何で出来ているのか不明。というかギターの弦の歴史なんて知らん。
とりあえずこれでやってみるしかない。
「ちょっと弾かせてもらいますね」
「どうぞどうぞ!」
マーヤノさんも不安そうだな。安心してくれ俺も不安だ。
ストラップなどないので座って抱え込む。まずは鳴らしてみよう。
――ポロロロロン
ふむ……やっぱりだいぶ軽い。音が薄っぺらいというか響かないというか、使っていたものとは全然違う。
とは言え予想以上の出来なのは確か。
正直もっと変な音になるかと思ってた。無茶な注文したとは自分でも思ってるし。
チューニングしたいがチューナーがあるわけでもない。自力でやるしかない。
幸いにもリュートにもこのギターにもペグがある。
回しながら調整してみる。
ミラレソシミだな。これくらいは分かる。問題は俺に絶対音感はないだろうという事だ。
感覚よ、俺を導け。今こそ盛りに盛った【器用】ステータスを発揮する時だ。
どうにかそれっぽい音が出たところで、コードを押さえる。A、C、E、G、マイナー、セブン……結構覚えてるもんだな。
「おおー、ご主人様が弾いてますネ!」
「はぁ~器用なものね。本当に弾けるなんて」
「ふふふ……どうやって音を把握してるのか全く分からない……」
「さすがご主人様です」
外野の方々はリュートと全く違う形状のコレで音を鳴らせる事自体に驚いているらしい。
エメリーには俺がギター弾くの趣味だったって言っておいたけどな。
調子こいて簡単な曲を弾いてみる。初心者用のお手軽コードのみのやつ。
――ジャンジャンジャン
『おお!』
弾き語りは出来ないけどな。俺のレパートリー、九割方ゲーム音楽だし。
というかコード抑えるだけで精一杯だわ。ブランクあるなー。
「うん、よしよし。マーヤノさん、これ貰うよ」
「ああ、良かった! 満足頂けて何よりですわ!」
「もしかしたら今度少し改造したの作ってもらうかもしれないけど。木材を厚くしたり、ネックとか弦とか」
「ええ、その際はご遠慮なくお申し付け下さい!」
とりあえずはこれで満足だ。最低限弾けるし音が出る。
あとは練習して昔みたいに弾けるようになってから欲が出て改造するかもしれないな。
あ、ストラップとかピックとかどうしようかな……ジイナに頼んでみようかな。
足取り軽く屋敷へと戻る最中、侍女たちがギターの件で盛り上がっていた。
「何て言うかリュートと全く違う弾き方だったわね。手がつりそうだわ」
「複雑すぎる……なんであれであんな音が出るのか分からない……これは商売にならない、ふふふ」
「帰ったら皆にも聞かせてあげたいですね。ご主人様の世界の音楽ですから」
「私のリュートとセッションするネ! あ、どうせだったら博物館でお客さん相手に弾けばいいネ!」
「あ、それいいじゃない。中庭でリンネと演奏会でもやれば盛り上がるわよ」
「中庭は休憩所での活用しか考えていませんでしたからね。いい案かもしれません」
とか何とか言ってるけど、俺、嫌なんですけど? 人前で披露するとか。
あくまで趣味ですし、別に上手くもないですし。
弾いたところで誰も知らない音楽になりますし。
サロルートじゃないけど斬新すぎるでしょう?
その時はそんな事を考え無視をしていたが……まさか本当に弾かされる事になるとは思っていなかったのだ。
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