カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十一章 黒の主、博物館に立つ

274:蝙蝠はカオテッドで飛び始める

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■ゼムラック 鳥人族ハルピュイ 男
■30歳 獣帝国暗部【悪癖の蝙蝠バッドバット】所属


 宰相閣下を通して俺たち【悪癖の蝙蝠バッドバット】へ依頼が入った。
 皇帝陛下から直々のご指名だそうだ。久しぶりだな。

 どうせ気に食わない貴族を暗殺しろとか、そこに忍び込んで金品を奪って来いだとか、そういう事だろ。
 まぁ依頼のたびに俺たちも美味しい思いが出来るから有り難い話ではある。面倒だがな。


 そう思っていたら、どうも予想とは違う依頼のようだ。
 宰相閣下から直に依頼内容を聞いた団長が俺ら十四人を前に話し始める。

 なんでも【混沌の街カオテッド】に住む迷宮組合員、【黒の主】とかいうのを殺せと。
 ついでにそいつが囲っている【黒屋敷】とかいうクランを潰し、財産を奪って来いと言うのだ。


「【黒屋敷】の【黒の主】ですか? 聞いた事ないですね」

「場所が場所だからな。カオテッドでしか活動しておらず、そこで頭角を現したクランだ。最近になってSランクに認定されたらしい」

「Sランク?」


 カオテッドと言えば迷宮組合の総本山。本部がある本拠地だ。
 今や獣帝国の組合員も多くがカオテッドを目指すってくらい有名。

 しかしSランクか……。
 頭に浮かび上がるのは【赤き爪痕レッドスカー】の連中。

 やつら、大して強くもねえのに組合だの貴族だのに取り入って金をばらまき、それでSランクになったらしい。
 俺らの情報網はそこら辺の弱みを知る事くらい容易い。
 その末に皇帝陛下にまで覚えめでたいってんだから、それはそれで評価できるもんだが。


 おそらくその【黒屋敷】ってのも本部に賄賂でも送ってんだろ? それでSランクになったんだろうさ。
 それくらい迷宮組合のSランクってのは珍しいもんで、滅多になれない称号みたいなもんだからな。


 しかも話を聞くと、益々怪しくなってくる。

 【黒の主】が最弱種族の基人族ヒュームだとか、そのくせ強くて金を持っているとか。
 クランメンバーは全員そいつの奴隷で、メイドに扮して迷宮で戦っているとか。
 チューリヒ公爵が競り落とせなかった魔剣をそいつが競り落として所持しているだとか。

 途中から「はぁ?」って言っちまったよ。団長相手に。

 いや、俺だけじゃないぜ? 周りの連中だってみんな同じだ。誰も信じちゃいねえ。
 と言うか俺らに通達している団長でさえ訝しんでるくらいだからな。


「ま、とにかく依頼なんだからやるだけだろ。しかも全員参加で根こそぎ奪って来いとよ」

「全員!? 十五人全員でカオテッドに行くんですか!?」

「そいつ潰すだけで全員なんて要らないでしょ。仮に本当のSランクでも」

「それだけの大仕事って事ですか?」

「皇帝陛下がご執心のようだからな。確実にって事だろうさ。おら、さっさと準備しろ」


 まさか俺らが全員で事に当たるとは思わなかった。騎士団を抱えてる貴族の暗殺だって五人やそこいらだってのに。

 しかもカオテッドは北の果て。どんだけ長旅になる事やら。
 あー、予約してた娼館もキャンセルしないと……。
 俺らは揃って項垂れながら支度を開始した。


 十五人が揃って馬車での長旅。さすがに暗部らしく隠密行動なんて出来やしない。
 とりあえず迷宮組合員のクランとして行動する事にした。行先はカオテッドなわけだしな。
 こんな事もあろうかと偽名での登録は全員済ませてある。


「とりあえずターゲットの情報を集めるぞ。相手がSランクだって話だから情報は集まりやすいはずだ」

「迷宮には潜るんです? 俺ら一応組合員になってますけど」

「必要なら潜るフリはするが……まぁいらないと思うけどな。情報が集まり次第、決行、略奪、さっさと帰るって感じだ」

「そりゃいいや。いつまでもお気に入りの娼婦に他の客を抱かせるわけにはいかねえからな」

「お前、そんな事言ってカオテッドでも娼館巡るつもりだろう」

「情報収集だよ、情報収集。これも仕事だぜ」

「バカ野郎、ほどほどにしとけよ」


 他愛もない話をしながらも長旅は続いた。
 やっとの事でカオテッドに着く頃には、さすがに話す事もなくなって無言だったけどな。

 カオテッドに着いたら宿を確保し、早速仕事に入る。
 今まで馬車で暇してたから、やっと仕事かといつも以上に気持ちが乗っていた。


 十五人がまとまって動くわけにもいかないので、五つの区画に散って情報を集める。
 俺は他二人と共に北西区の酒場に向かった。


 北西区は鉱王国領だ。鉱人族ドゥワルフ小人族ポックル岩人族ロックルスなんかが多い。

 街並みも石造りの建屋が多く、思わずキョロキョロと見回してしまう。
 が、その中に時折、妙な恰好のヤツが居るのが気になる。


「……なんでメイド服で普通に歩いてんだ?」

「さあ……どっかの貴族の女中じゃねえのか?」

「それにしちゃチラホラ居すぎだろ」


 おかしな光景だ。まぁカオテッド自体、【混沌の街】とか言われてるし、他国の文化とか入り混じってるって話だからおかしな街ではあるんだが。
 さすがに帝都ティン=ボロウとは違いすぎる光景に面食らう。

 兎にも角にも仕事はしないといけない。
 ターゲットが組合員である以上、情報は他の組合員から仕入れるべきだろう。
 そんなわけで組合員が集まりそうな酒場を見つけて、そこから開始する。


「よお、ちょっと隣いいかい?」

「おおいいぞ。見ない顔だな。獣帝国から来たのか?」

「ああ、来たばっかでな。南西区から北西区にまで足を伸ばしたのさ。北西区の酒は旨いって聞いてな」

「ははっ、そりゃ鉱人族ドゥワルフが居るからな。旨い酒、強い酒ならいっぱいあるぜ」


 感触はいい。どうやら獣人系種族だからって怪しむ事はないようだ。
 クランによっては獣人系を入れた北西区のクランとかもあるだろうし、そこら辺はカオテッドならではだな。
 種族を気にせず情報収集が出来るってのは楽なもんだ。


「俺らも今度迷宮に潜るつもりなんだが、カオテッドってのはやっぱ難しいのかい?」

「おそらくお前さんの想像の数倍は難しいぞ。俺も地元の大迷宮に潜った事があるが、そこよりはるかに難しいと感じた。いきなり始めのエリアでゴブリンキングが出るからな」

「うひゃあ、そりゃ厳しいな。ここで実績を上げるってのは難しいのかもしんねえな。でもここでSランクになったクランがあるって聞いたぞ?」

「ああ【黒屋敷】な。カオテッドじゃ組合員じゃなくたって知ってるような有名クランだよ。というかクラマスの【黒の主】が有名すぎるんだよな」


 おお、やっぱり知っていたか。
 一発目から当たりを引くとは、こりゃ楽な仕事だ。


「その【黒の主】が基人族ヒュームってのは本当なのかい?」

「嘘だと思うだろ? 誰だってそうさ。俺もそうだった。最弱の基人族ヒュームが保護区を出てこの街に居るのも信じられねえし、組合員として戦うってのも信じられねえ。ましてやSランクとかってなぁ」

「だよな? 俺もそう思うんだよ」

「ところが嘘みたいな真実……いや、噂話以上に強いのが事実だったんだよ。元々、絡んだ連中が全員メイドに投げ飛ばされて気絶させられるってのは有名だったんだけどな」


 は? なんだそれ。メイドに投げられる?


「決定的だったのは二つだな。一つは【天庸】襲撃事件。これは俺が実際に北西区で見た事なんだが――」


 そいつは英雄譚でも語るように意気揚々と話し始めた。
 話したくってしょうがないって顔だ。まぁ聞くけど。仕事だし。

 なんでも魔導王国の闇組織【天庸】がカオテッドを襲撃したらしい。知らねえ組織だな。

 そいつが見た鬼人族サイアンはワイバーンに乗って北西区にやって来て、大通り沿いの商業組合と周囲の建物を破壊したんだとか。

 ワイバーンに乗るとか……まぁいいや。続きを聞こう。


 で、衛兵や組合員も参戦して戦ったが死傷者多数。どうやっても勝てないと思うほど強い相手だったらしい。
 そこに駆け付けたのが【黒屋敷】のメイド。鬼人族サイアン鉱人族ドゥワルフだそうだ。

 鉱人族ドゥワルフは槌を投げてワイバーンを叩き落し、鬼人族サイアンは【炎の魔剣】で敵に打ち勝ったと。


 炎の魔剣……! それがチューリヒ公爵がどうのこうの言ってたヤツか。

 そしてその【天庸】襲撃は北西区だけじゃなく、中央区を含めた五地区全てで同時に起こったそうだ。
 各地の襲撃に関しても【黒屋敷】の活躍により見事撃退。一躍英雄と化したらしい。


「見せてやりたかったぜ、あの雄姿! 見た目は綺麗だったり可愛らしかったり、普通のメイドなんだけどよ、一度ひとたび武器を振るえばさすがはSランクってなもんだ! 衛兵が束になっても敵わなかったワイバーンを単独で倒し、建物自体を破壊するような化け物相手に一騎打ちで勝つんだぜ!?」

「はぁ~想像つかないな。【黒屋敷】のメイドってのはみんなそんなに強いのかい? 鬼人族サイアンが多いとか?」


 鬼人族サイアンは獣人系種族を上回るパワーを持つと言う。
 そんなヤツが魔剣を持ってるんじゃ侮れねえな。しかも何人も居るとなれば……。
 しかし、そいつの口からはまたも予想外の答えが出てきた。


「いや鬼人族サイアン鉱人族ドゥワルフも一人のはずだぜ。あとは……狼人族ウェルフィン兎人族ラビ闇朧族ダルクネス樹人族エルブス導珠族アスラ多眼族アフザス人蛇族ナーギィ多肢族リームズ針毛族スティングル――」


 おいおい、どんだけ居るんだよ。
 しかも非戦闘種族も混じってるぞ。


星面族メルティス小人族ポックル菌人族ファンガス竜人族ドラグォール人魚族マーメル天使族アンヘル……ああ、あと角牛族バッフェルか。昨日今日で増えてなきゃこんなもんだ」


 なんかとんでもない種族まで混じってるぞ……どんだけ多種族なんだよ。

 これ全部【黒の主】の奴隷なのか? こんなクラン存在するのか? これ全部が強いってのか?


「……なんか聞けば聞くほど信じられなくなってくるんだが」

「ははっ、まあそうだろうな。そんなお前さんに二つ目の″嘘みたいな真実″だ。こっちは嘘みてえな話が本当だったって証拠みたいなもんだ」

「証拠?」


 このまま報告したんじゃ嘘つき呼ばわりで終わりだ。
 証拠があるならそれも確認しておきたい。


「元々【黒屋敷】がSランクだって騒がれたのは大迷宮の四階層に初めて到達したからだ。ついでにドラゴンスレイヤーの称号まで得て組合じゃ騒ぎになった」

「ドラゴンスレイヤーだって!? じゃあカオテッドの四階層には竜が居るのか!?」

「それがみんな信じられなかったんだよ。情報は三階層までしか売られてねえし四階層がどんなトコなのかも分からねえ。おまけに竜が居るとか言われても、話半分だったさ」


 だろうな。自分たちの住んでいる地下に竜が居るとか言われてもなあ。
 ピンと来ないし信じられない気持ちの方が強いだろう。


「でもそれが事実だと衆目に晒される時が来たんだ。博物館ってんだけどな、今、カオテッドじゃその話題で持ち切りだよ」


 ――はくぶつかん?


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