カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第十一章 黒の主、博物館に立つ

275:蝙蝠は博物館でも飛び始める

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■ゼムラック 鳥人族ハルピュイ 男
■30歳 獣帝国暗部【悪癖の蝙蝠バッドバット】所属


 南西区の中級宿の一室。そこに十五人全員が集まって報告会となった。
 一番広い団長の部屋にはすでに防音の魔道具が起動しており、外部に音が漏れる事はない。


「とりあえず俺らが集めた情報から出すが……」


 団長が頭を掻きながら、苦々しい表情で話し始める。
 どうも言うのを躊躇うような、団長にしては珍しい顔だ。

 団長は他二名と共に中央区を探ったはず。
 組合員が集まる中央区なのにろくな情報を得られなかったのだろうか。


「いや、情報は腐るほど集まった……集まったんだが……どれもこれも信じられんような内容でな」

「そっちもですか。俺らが行った北東区もですよ」

「南東区もだ。英雄視って言うか、宗教的にも思えるくらいだ。街全体が集団催眠にかかってんじゃねーかと疑ったくらいだぜ」

「だよなー。南西区ここもそうだったが自慢話みたいに法螺話をするんだよなー」


 どうやらどこも同じらしい。俺らも北西区であれからも情報を探ったら、出てきたのは同じような話だった。

 街の英雄。
 それは唯一のSランクでもあるし、【天庸】事件とやらがあったのだからそうなのだろう。


 しかし荒唐無稽な話を意気揚々と話している様を見ると、聞いてるこっちが引いちまう。
 こいつら全員、夢でも見てるんじゃねーかとな。


 一応、得た情報のすり合わせを行ったが、どこも同じような情報ばかりだった。
 それはそれで情報の精査という意味では正しいものなのだが、内容が嘘っぽいから困る。


 しかし【黒の主】の名前や、【黒屋敷】のホームの場所、クランの陣容などは分かった。

 強さに関してもSランク相応。しかも話が本当であれば、クランの一人一人が想像を超えるほどの強さを持つ。疑わしい限りだが。

 戦い方や得物に関しては憶測がほとんどだったが、やはり目立つのは【炎の魔剣イフリート】を持つ鬼人族サイアンのメイド、イブキ。

 団長が得た情報によると【赤き爪痕レッドスカー】のガブリオルもそいつに絡んで投げ飛ばされたらしい。

 おいおい、曲がりなりにも【小剣聖】だぞ? それを投げ飛ばすとか……。


「話を聞いた組合員は、そのイブキってメイドよりもガブリオルを褒めてたけどな。『【黒屋敷】に投げられたのに気絶しないなんてさすがSランクだ』ってよ」

「どういう事だよそれ」

「俺が聞きてえよ」


 どうやら【黒屋敷】に絡めば投げられ気絶させられるのが常識として捉えられているらしい。
 というかガブリオルは何をやってんだよ。俺らと同じで陛下の命で調査してるんじゃねーのか?


「【赤き爪痕レッドスカー】は迷宮に潜ったまま帰って来ていないそうだ。死んだんじゃねーかって噂になってた」

「ええっ!? 【赤き爪痕レッドスカー】が全滅!?」

「おいおい、ここの迷宮はどんだけ難易度高いんだよ……」


 確かにヤツらがSランクになったのは賄賂や口利きがあったからだが、それ相応の強さも当然あった。
 少なくとも組合員としてAランク上位の強さがな。
 それが全滅とか、ちょっと信じられないな……。

 ヤツらが全滅するような迷宮で活躍し、Sランクになったという【黒屋敷】。

 話が本当であれば、ちょっと次元の違う強さなのかもしれねえ。


「あと組合員の話で多かったのは【白い狼人族ウェルフィンの聖女】だな。獣人系種族までそんな事言ってるのは驚いたが」

「あ、それ、俺らも聞きましたよ。なんかもう、それこそ宗教っぽい感じで褒め称えてましたね」

「俺なんか『白狼教に入信しませんか』とか言われたぞ。断ったけど」


 なんだよそれ。白い狼人族ウェルフィンって……忌み子の事か?
 馬鹿馬鹿しい。それこそ法螺話で終わりだろう。

 俺らが行った北西区だとやっぱ鬼人族サイアンのイブキを褒めるヤツらばっかだったけどな。
 【天庸】襲撃事件で自分たちの街を守ってくれたってのが大きいみたいだが。


「それとやっぱ博物館だな。その話題を持ち出して来るやつが本当に多い」

「開館したばっからしいしな。カオテッド中で話題になってるぞ」

「俺、行ったヤツに聞いたよ。すっげー興奮してて引いたわ」

「相当朝早くから並ばないと入れないらしいぞ。当然俺らも行くんだろ?」

「そりゃそうだ。そこに″法螺話″の証拠が満載らしいからな」


 やっぱそうなるか。
 博物館とやらを実際に見ないと本国に報告も出来やしねえ。信憑性皆無だからな。

 場所は【黒屋敷】のホームの隣らしいし、忍び込む下見も出来る。
 何ならクランの人員をこの目で見られるかもしれねえ。人混みに紛れてな。





 翌日、俺らは全員でまだ暗い明け方から博物館に向かった。
 南西区から歩いて辿り着いた時には日が昇り、すでに列が出来始めている。

 どんだけ早く来て並んでたんだと先頭のヤツに聞いたら昨夜からだそうだ。ご苦労様としか言えない。


 そんな事より、列に並びながら【黒屋敷】のホームを眺めるのが優先だ。
 白と黒で見栄えの良い豪邸。美しい庭。なんとまぁ貴族みたいな家だな。


「これだけ拓けた場所にある豪邸なんて忍び込むの大変だぞ」

「おそらく防犯の魔道具もあるだろうな。入ってから近づくまで距離がありすぎる」

「背後が第一防壁になってるから、そこからがいいんじゃないか?」


 小声でそんな事を話す。頭の中でシミュレーションしてみても難しい案件だと誰もが悩んだ。
 ここに忍び込み、Sランクのヤツらを暗殺、金目のものを盗んで逃げ去る。
 これは難題だ。

 しかし俺たちは獣帝国きっての暗部だ。ノウハウはあるし力量もあると自負している。
 やってやれない事はない。ただ難しいってだけだ。
 上手く事が運ぶように計画は入念に行わないといけないがな。


 そうこうしているうちに博物館の開館時間となったようだ。少しずつ人が入り始めた。
 俺らも続いて入り……まずはエントランスの『竜の手』に驚かされた。

 ドラゴンスレイヤーってマジか!? いや、まさか本物の竜をこんな風に見せる必要なんてないだろ。

 しかも一番防犯の緩い玄関先に飾るなんて。
 あれが本物なら鱗一枚でかなりの金になるはずだ。


 その後、受付を済ませ、展示室を見て回る。


「うわぁ、すげえなこれは……」

「なんとも……よくやるもんだよ」


 仕事も忘れ感嘆の声を上げるのは俺だけではない。全員が魅入った。
 迷宮組合員がドロップ品を集めるのは当たり前。それが成果であり金になるんだからな。
 それを売らずに、他人に見せる事で金を稼ぐ。

 見せ方もまた素晴らしい。芸術だとか演劇だとかに興味のない俺でさえ、素晴らしいと感じる。
 こんな事を考えた【黒の主】の発想力にも脱帽だし、それを実行出来る事がまた常識外れだと思わせる。

 一言で言えば「頭おかしい」、これだ。


 ほとんど″ただの客″に成り下がった俺たちは展示室を順々に見て回る。
 次第に展示品は強い【領域主】になり、その希少価値も増す。
 ここへ来て俺たちの目の色も変わって来た。やっと仕事モードに復帰したと言っていいだろう。

 タイラントクイーンの人形なんか、【黒の主】が自ら削って作ったらしいが、素材の値段と作品の出来栄えを考えれば、とんでもない値段がつくと予想出来る。

 目なんてこれルビーだろ? 俺たちの目は誤魔化されねえぞ。どんだけ宝石を盗んできたと思ってんだ。

 たかが人形にルビーを使うとか……やっぱり頭がおかしい。


 三階層の展示となると、もう素材一つで財産になるものばかりだ。
 それを倒し、集めた事にも驚くが、こうして展示している事がありえねえ。
 売れよ。もしくは武器とか錬金とかに使えよ。やっぱり頭がおかしい。


「ドラゴンゾンビ……それとこれがリッチか……」

「ドロップ品があるって事は倒したんだろうな……」

「カオテッドでのリッチの恐ろしさなんて、それこそ散々聞いたんだが……」


 そこいらのAランクであっても倒せなさそうな【領域主】。それが一般人でも見られるようになっている。

 改めて異質だと思わされる。この博物館、そして【黒屋敷】【黒の主】全てが異質だと。


 極めつけは次の部屋。四階層の展示室だ。
 情報を集めた限り、ここがカオテッド大迷宮の最前線。
 そこの詳細と倒した【領域主】が堂々と並んでいる。


「六本腕のサイクロプスとかマジかよ……」

「五首ヒュドラ……? こんな出たらの帝都が滅ぶんじゃねえか?」

「おい、この魔石見ろよ! なんだこの大きさ!」

「炎岩竜……? 本当にドラゴンスレイヤーなのか……!」


 さすがに目の前の物体が信じられず、偽物なんじゃないかと疑う者も居る。
 しかし数々のお宝を見てきた身としては、本物だと言うしかない。

 竜の魔石なんて見た事はないが、これほど大きいものだとは……。これ一つでいくらになるか……。

 目の色が変わりつつ、呆然となりつつ、次の部屋へ。
 そこでは展示してあった【炎岩竜の甲羅】に試し切りが出来るらしい。


 お宝に傷つけるとか……いやもう、ここまで来たら頭おかしいってレベルじゃねえぞ?


 しかし俺らが注目したのは、甲羅の前に職員と共に立つメイドだ。

 大剣を背負った鬼人族サイアン……こいつがイブキか! 背中のが魔剣!?

 見た目は至って普通のメイドだ。鬼人族サイアンにしちゃ小柄だとも思う。俺よりデカいが。


「ちょっと俺が行ってくるわ」


 団長がそう言って、試し切りに行った。俺たちは後ろから見守る。
 職員からミスリルソードを受け取り、それをよく見る。納得したようで素振りもした。
 そして甲羅に斬りつけ――ガツンと跳ね返された。


「っ! とんでもねえな、竜の甲羅ってのは……あんたの魔剣でも斬れねえのかい?」


 悔しそうな顔をしつつ、イブキに顔を向けそう言った。
 上手い。自然な流れのまま、魔剣の情報を得るつもりだ。


「生きている時は無理だったがこの状態ならば斬れるぞ。特別サービスで見せてやろう」


 言ってみるもんだ。気まぐれなのか何なのか、イブキは甲羅に対面するように立った。
 周りの観客もその姿に大歓声を上げる。

 背中の魔剣を抜くと、赤黒い刀身が出てきた。改めて見ると何とも禍々しい意匠だ。
 そして構え、魔力を籠めると刀身は炎に包まれる。

『おおおおおっ!!!』

 歓声はさらに大きくなるが、離れていても熱さを感じるほどだ。
 近くに居る団長、いや、持っているイブキ本人が無事なのが信じられないほど。
 炎は大剣をさらに一回り以上大きくしたようにも見えるほど、ゴウゴウと立ち上る。


「ハアッ!!!」


 イブキはそのまま振り下ろした。
 団長の時のようなガツンとした音はなく、ザンッとまさしく斬れたように聞こえる。
 こちらから見えるイブキの後ろ姿は、完全に剣を振りきっていた。

 炎を消し、魔剣を鞘に納めたイブキが団長を見た。


「とまぁこんな感じだ。ドロップ品の状態だから斬れはするが、生きている時は今のでも弾かれたぞ」

「お、おう……すげえな……」


 観客からは拍手喝采。イブキは軽く手を上げ、監視に戻った。
 団長もすごすごとこちらに戻ってきたが、顔色は良くない。
 あの距離で魔剣の熱に当てられたんだから無理もないが。


「いや、確かにあの魔剣はすげえ。火魔法以上にとんでもない熱量だと思ったが……あのイブキってメイドがヤバすぎる」

「確かに魔剣を使える技量はあるんでしょうが……」

「無駄のない綺麗な構えから、振り下ろすまで、俺には全く見えなかった……あれだけ近くに居たのにな……ありゃ【剣聖】レベルだと思うぜ」


 剣聖!? それって剣聖ガーブか? ガブリオルの爺さんだとか言う……。
 それはつまりガブリオル以上の【剣士】だと言う事。
 獣帝国に勝てる【剣士】が居ねえって事だ。


 団長がそこまで言うなんて……とんでもねえ仕事を引き受けちまったかもしれねえな……。


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