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第十二章 黒の主、禁忌の域に立つ
301:空前絶後の報告会 後編
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
さて、ここからが本題だ。
【氷晶竜】の洞窟を出た先で見た、″立ち昇る紫の光″。
「そ、それは五日前にカオテッドに現れた光の事かい?」
「いや、セイヤの話だと探索七日目、つまり今から六日前じゃぞ? 別の現象か? それとも地表に出るまで時間差があったのか?」
「えっと、地表に出たのは″別現象の同じ光″だと思います。翌日にも同じものが現れたのでそっちかと」
メルクリオと本部長には疑問を置き去りにして申し訳ないが、説明の為にも時系列に沿っての報告を優先させてもらう。
山岳の中腹から見た景色。
小屋程度の大きさの祠から出た″光″はすぐに消えた。
一日の野営を挟み、俺たちは″光″の出所と思われる祠を目指した。
荒野のポツンとある小さな建屋。それが最初からあったのか、光と共に現れたのかは分からない。
『廃墟の街』とは違い、しっかりとした石造りの建屋に両開きの金属製の扉がついていた。
そして俺はその扉を開ける。
すると暴風のような″光の奔流″が祠から溢れ、飛び出してきた。
″紫の光″に圧されるように硬い扉は完全に開き、俺自身も飛ばされそうになるほど。
光は祠の入口の居た侍女の皆をも包み、その光は真上へ。黒い噴煙を纏う空を突き抜けて、昇っていったらしい。
その光を浴びた侍女たちは全員が体調を崩した。まるで毒を受けたような継続的なダメージだ。
「では、その時の光が地表に現れたと?」
「通信で体調がどうのと言ってきたのはそのせいじゃったか……」
「そうです。しかし間近だったからこそダメージを受けたのかもしれません。地表の光は″淡い紫″と聞きましたけど、俺たちが見たのは″毒々しく輝く深い紫の光の波″って感じだったんで」
「あくまで漏れ出たものに過ぎないと……? ふむ、しかし四階層から地表まで出て来るというのは……」
「あの時は十数える程度の時間で光は消えたはずだ。セイヤが光の原因を取り除いたという事かい?」
みんなのダメージを確認した俺は原因排除の為に祠の中を見た。
そこにあったのは台座に乗った『紫色の魔石のようなもの』だ。そこから光が溢れ出ていた。
吹き飛ばされそうな身体を抑え込み、暴風の中を俺は進む。
いくら<カスタム>されていても体重が変わるわけじゃない。意地で進むしかない。
やっとの事で台座に手を伸ばし、すぐさま魔石を<インベントリ>に回収。
すると光も消え、侍女たちの継続ダメージも消えた。
そういった経緯を本部長とメルクリオに話した。
もちろん<カスタム>どうこうは言わないが、<インベントリ>に関してはこうした説明の為に話しておく必要があった。
もちろん事前に侍女の皆を相談した結果だ。<インベントリ>については内密にバラそうと。
「ふむ……光の経緯は分かったが謎が多すぎるのう」
「結局あの光は何だったんだい?」
「シャムシャエル曰く、おそらく″瘴気″と呼ばれるものではないかって話だ」
「瘴気? それがあの光の正体か? 聞いた事もないが……」
やはりか。本部長もメルクリオも知らないらしい。
補足をしておく必要があるな。
「少し脱線しますけど、ちなみに『一万年前の勇者の戦い』について二人はどの程度知ってますか?」
「いきなり話が飛んだね……その瘴気とやらに関係するのだろうが。――僕が知っているのは『一万年前に女神が基人族の勇者を遣わし、悪しき神を倒した』という御伽話……それくらいかな」
「ふむ、儂もだいたい同じじゃのう」
やはり天使組以外の侍女の皆と同じ。
勇者が誰とどう戦ったのかなんて誰も知らない。
詳しく知らないのに、なぜか誰でも知っている御伽話として周知されている。中途半端な情報として根付いている。
俺はまず二人に一万年前の戦いについて説明した。もちろんミツオ君が転生者だとは言わない。
全てを滅ぼす為に世界に顕現したのが【邪神ゾリュトゥア】。邪神は眷属である魔族を率いて破滅へと動き始めた。
女神は対抗すべく勇者を遣わせ、全ての種族と共に邪神と戦った。
結果、邪神は滅び、魔族は僻地に追いやられ、多くの人種が生き残った――というのが所謂『聖戦』だ。
「なんと……じゃから【ゾリュトゥア教団】が魔族と繋がり、セイヤ達はそれを知って打って出たというわけか……」
「セイヤ、それは本当なのかい? いくら何でも僕らが誰も知らないってのはおかしいと思うんだが。それほど世界規模の戦いであれば書物なり口伝なりに残っているだろう?」
「おそらく眷属である魔族が長い時間を掛けて、人々の記憶と記録を消したんだと思っている。何故なら魔族が近寄れない神聖国では『聖戦』の事を″常識″として記憶も記録も残っているらしいからな」
「なんと……本当ですか、シャムシャエル司教」
二人の目がシャムシャエルへと向けられる。
「はい。神聖教の聖典にも書かれておりますし、神聖国では天使族も基人族も知らぬ者はおりません。何より女教皇ラグエル様は当時から今までを生き抜いていらっしゃる御方でございますので『聖戦』も御身自らが見聞きした事にございます」
「そ、それは……」
「一万歳以上とは……ふむ」
実際、ラグエルさんは『聖戦』に立ち会っていないらしいけどな。そこまで言う必要はない。
さて、邪神と『聖戦』についての予備知識が出来た所で話を戻す。
「邪神は″紫の光″を身に纏い、それをもって人々を害したそうです。その光の事を″瘴気″と呼ぶらしいと」
「なっ……! ではあの光は邪神由来のものだと言うのか……!?」
「じゃ、じゃあ祠にあった魔石とは、まさか邪神の……?」
「俺の<インベントリ>には<鑑定>しなくても中に入れたものの名前が分かる機能が付いている。それによれば――【邪神の魂】だそうだ」
「「!?」」
本部長とメルクリオは席を立った。何も言えず、目口を開いて固まっている。
気持ちはよく分かる。
何が何だか分からないのは俺も同じだ。
何とか落ち着かせ、話を継続する。まだ何も終わっていないんだ。
「さっき言いましたけど<インベントリ>内では時間が経過しません。そして生き物を入れる事も出来ません。だからこれが本当に【邪神ゾリュトゥアの魂】だとしても生きていないのは確実です。しかし<インベントリ>から出せばまた瘴気が溢れるかもしれないので出すわけにもいきません」
「それはそうじゃろうが……<インベントリ>というその中で瘴気が溢れる事はないのか? 扱い間違えて出す事は?」
「時が止まった状態で区分けされた部屋に入れる感じですから、俺が出さない限りそれはないと思います」
「……セイヤが死んだ場合はどうなんだい? スキルは解除されて<インベントリ>内の荷物は全て出るんじゃないか? それともスキルと一緒に中のものも消えるのか?」
「……それは正直分からないな。言われてみれば確かにありえるかもしれない。すまんが俺も自分のスキルについてそこまでよく分かっていないんだ」
ただの便利収納スキルだからな。自分が死んだ時の事か……確かにそれは盲点だった。
分からない事、考えなきゃいけない事が多すぎる。
でも今は一つずつ整理し、解決出来る糸口を見つけないといけない。
まず、なぜ一万年前に滅んだ邪神の魂が【カオテッド大迷宮】に封印されていたのか。
シャムシャエルの情報によれば一万年前に『聖戦』が行われたのはカオテッドのある″大河の交わる地″ではなかったらしい。
なのにこの場所に――もっと言えば十年前に現れたばかりの【カオテッド大迷宮】という″異空間″に、なぜあるのか。
そもそも誰が【邪神の魂】を封印したか。
考えられるのは女神。邪神に対抗すべく勇者を遣わせたのが女神であるならば、魂の状態となった邪神をあの祠に封じたのも女神ではなかろうか。
「セイヤは女神様から神託とかは受け取っていないのかい?」
「言っておくけど俺は別に『女神の加護』とか貰ってないからな? 侍女たちの奴隷紋が女神だから『女神の加護』とか言われてるだけだ。第一、神託があるとすれば俺じゃなく神聖教のラグエルさんだろうに」
「ふむ、シャムシャエル司教。女教皇様からは何も?」
「ええ、ございません。邪神の存在を仄めかすような神託は一万年前を最後にないはずでございます」
これはシャムシャエルと事前に打ち合わせしていた。
と言うのも神聖国の天使族の中では「女神様はきっと邪神の復活を予兆して勇者セイヤを下ろされたのだ」という謎の考えが当たり前となっており、それが元でシャムシャエルたちは俺を訪ねてきたわけだ。
俺としてはそれは間違いだと今でも思っているし、実際にあった神託でも「セイヤは邪や魔と戦う定めにない」と言っている。
だからシャムシャエルが「邪神を仄めかす神託はない」というのは事実。
今回の報告会では俺どうこうを抜きにして、その事を強調するよう言ってある。
と言うか、神託の内容まで言ってしまうと、「俺=転生者=女神と実際に会っている」とバレてしまうので困る。
事が事なので「俺=女神の使徒」と言われるのは妥協しても、転生者という事と<カスタム>の存在を明るみにする事は無理。
これは侍女たちとの話し合いの中でも同じ結論が出た。
<インベントリ>をバラすのは仕方ないにしても<カスタム>とそれを得た経緯については言わない方が良いだろうと。
「だから仮の話になりますが、女神が異空間に【邪神の魂】を封印し、十年前に【カオテッド大迷宮】が出来た際に、その異空間と接続された――と俺は見ています。もしくは女神以外の神かもしれませんが」
たまたまなのか、必然なのかは分からないが。
本部長でさえも迷宮の仕組みがそもそも分かっていないのだ。
なぜ迷宮が出来るのか、何の目的で造られるのか、なぜ死んだ魔物が消えるのか、なぜ地面の下に″外″があるのか。全てが不明。
だからこそ【カオテッド大迷宮】の中に邪神が封印されていても、それを解決する糸口がない。
しかし本部長には知って貰わないと困るから、こうして報告しているわけだが。
本部のある【カオテッド大迷宮】に邪神が封印されてましたとか、どう考えても大事だし、黙っているわけにもいかない。
「それで俺たちが【氷晶竜】……と、おそらくは【炎岩竜】を倒した事で封印が解けた、もしくは解けかけた。それで″瘴気″が発生し、祠を開けた事で″瘴気″は解放されたのだろうと予想しています」
「二体の新種の竜か……封印の守護者とすれば頷ける強者ではあるが……」
「なんでよりにもよってセイヤたちが倒しちゃうんだろうね。本当に女神様が封印したのなら反逆扱いだと思うんだけど」
「文句あるなら亀倒した時点で言えって話だよ。それこそ神託すればいいだろ。俺宛てに出来るかしらないけどラグエルさん経由でも」
反逆と聞いてシャムシャエルが「ひぃぃ」と言っている。
天使族的には許されざる事なのかもしれない。でもやっちまったもんはしょうがないだろう。
ともかく、何一つはっきりしていないが、予想としての経緯はそんな感じ。
そしてこれからどうしようかという話になる。
「で、さっきも話に出たけど俺が持ちっぱなしってのは嫌なんだよ。メルクリオじゃないけど俺が死んだ時に困るだろうし。だから本部長とメルクリオに相談したくて呼んだんだが」
「ようは魔導王国で“祠″のような封印の魔道具が造れないか、という事かい?」
「もしくは現状、そういった魔道具なり施設なりがあるのかって事だな」
「そんなんあるわけないじゃろ。完全に物質の状態を維持したまま空間を隔絶するなんぞ、それが出来たらマジックバッグに革命が起きておるわ」
「スペッキオ老の仰る通りだ。やるとすれば父上に報告した上で、研究所を使う事になる。それにしても年月が掛かりそうだけどね」
やはりないか。
そして魔導王国で一から造るとなると研究所頼みになると。
俺としてはさっさと手離したいんだが……こればかりは仕方ないかもしれん。
「俺の寿命はあと五〇年くらいだからな?」
「はぁ……基人族が短命なのは聞いているが……スペッキオ老より早く天寿を全うしそうだね」
「セイヤが儂より早く死ぬイメージが全く沸かんのう……」
基人族は他種族より全てで劣っているから寿命も一番短い。
周りに他の基人族が居ないから忘れがちなんだろうが、導珠族基準で悠長にされても困る。
「シャムシャエル司教、神聖国でそういった封印技術のようなものはないんですか?」
「天使族には結界魔法という独自の魔法技術がございますが【邪神の魂】を封印するとなるとかなり厳しいかと思います。一応本国に相談は致しますが」
「そもそも魔族が神聖魔法に弱いように、天使族は瘴気に弱いっぽいんだよ。祠でも天使族の二人だけダメージ量が多かったし。だから神聖国には厳しいんじゃないかと思ってる」
「ふむ、瘴気によるダメージに種族差があるのか。その理論で言うと【邪神の魂】を一番上手く扱えるのは魔族という事になってしまうのう」
確かにその通りだが、魔族に聞くわけにもいかないし、渡すわけにもいかない。
餌を与えるどころの騒ぎじゃないからな。
ともかくそんな形で報告というか相談を終えた。
何一つ分からず、何も解決していないが、悩みを共有してもらいつつ打開策を練る感じだ。
本部長は【カオテッド大迷宮】を守る、管理するという義務のようなものがある。
例え【邪神の魂】が封印されていた場所であれ、それを維持しなければいけない。
ただ今回の一件は″迷宮の謎″に直結するものであり、全世界の迷宮の仕組みが判明するチャンスも秘めている。
俺たちにも今度はさらに細かい調査探索を要請された。
祠自体もそうだし、そもそもあの祠が迷宮の最終地点というわけでもないからな。
今後の探索次第では何か手掛かりが掴めるかもしれない。
メルクリオは本国へ報告と相談するにあたり、やはり<インベントリ>は伝えさせて欲しいと言われた。
どうにか有耶無耶に誤魔化して報告できないものかと思ったが厳しいらしい。
【邪神の魂】の封印に関しては一任する事になりそうだし、やはり言わないわけにはいかないか。
極一部にしか話さないと言うが、その極一部がなぁ……ヴラーディオ陛下が無茶ぶりしてきそうで嫌だ。警戒しておこう。
かくして過去最長となった報告会及び相談は終了した。
この後、魔石やドロップ品の買い取りをお願いしたが、最早本部長に驚かれる事などない。
ただ祠からの帰り際に『溶岩川』を探索した事を報告し忘れていたので補足しておいた。
ヤドカリこと【炎岩蟹】のドロップも見せてみる。
「貴様は……そんな物騒なもんを手に入れたんならさっさと戻って来んかい! 何、悠長に探索しておるんじゃ!」
「しかもちょっとした帰り道で新種の【領域主】とか……本当に頭がおかしいよ」
なぜか怒られた。
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