カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ

304:とある新人帝国軍人の憂鬱

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■ボディオ 猪人族ボエイル 男
■19歳 獣帝国 帝国騎士団 新人


 帝国騎士団というのは平民にとって高嶺の花。ごく限られた者だけが辿り着ける極地と言って良いだろう。
 もちろん貴族であれば、望めば入る事も容易いが、平民からとなれば狭き門だ。

 どこかの町の衛兵とかならば割と簡単になれる。
 しかし帝国騎士団は別。エリートの中のエリート。
 何とか試験を突破し、そこに入れると分かった時は家族皆で喜んだものだ。


 ……まさかその一年後に戦争に巻き込まれるとは思わなかったけどな。


 騎士団の第一の仕事は″国の守護″であるが、実際は大規模な衛兵と変わらない。
 犯罪者の摘発や山賊討伐、王都周辺の魔物討伐などが主となる。
 ここ十年くらいは他国との争いなどもなく、あっても国内の部族・集落を併合する為に攻め入る、とかだったらしい。

 あとは皇帝が気に入らない貴族を捕らえるだか殺すだかの為に、どこかの街に攻め入ったなんて話も聞いたが……酷い話だ。

 こういう内部情報は騎士団に入ってからでないと聞けないから困る。
 事前に知っていれば、と思うような黒い噂話はかなり多い。


 他国との争いに関しては、領土拡大をしようにも南は海王国の領土で海に阻まれる。
 東の樹界国と北の鉱王国に攻め入ろうにも大河に阻まれる。
 西はハムナムド造王国があるが、その前に広大なエンディール砂漠が塞いでいる。

 二十年ほど前にはそれを推して大河を無理矢理に渡り、樹界国と鉱王国に攻め込もうとしたらしい。
 まぁ本格的な戦争に発展する前に大半が溺れ死んだらしいが……。


 ようは他国と戦争したくても出来ない状態なのだ。これ以上広げようがないというのが現状。

 ……だったのだが。


「これよりカオテッドの奪還・・に向けて出立する! 今現在、彼の街は四か国及び迷宮組合での共同統治などと謳ってはいるが、元より紛れもなく我が獣帝国の領土である! 此度の出兵は悪しき他国と組合本部を討伐し、カオテッドの全てを我が領土とする為の権威を賭けた戦いである! 皆の奮闘を期待する!」


 壇上で声を張り上げるのは″百戦百勝大将軍″ドゥドゥエフ帝国騎士団長。
 ドドメキウス皇帝陛下の甥だ。

 常勝無敗。腕っぷし一本で騎士団長の座に就いた豪傑。

 ……というのは世間的な話で、実際には実戦経験などなく、太鼓持ち相手の模擬戦で″百戦百勝″らしい。

 これも騎士団に入ってから知った事だが、実物を見てそりゃそうだよなと思った。

 だって横幅がありすぎて全然戦えそうにないもの。
 出兵の為に金属鎧着てるけど、特注の巨漢仕様でろくに動けてないもの。
 今もほら、太鼓持ちの隊長連中が支えている。歩くことすら出来ないのか。


 今回のカオテッドへの攻め入りを『領土奪還』と言ってはいるが、ただの侵略戦争である事は誰もが知っている。
 国民に向けてのアピールなのか、正義の聖戦とでも言いたいのか。
 ともかく騎士団連中はある程度の真実をすでに知っているのだ。


 十年前にカオテッドが出来た時には、当然のように獣帝国だけで占拠しようとしたらしい。
 しかし他三国を相手に、それこそ戦争になる。一対三じゃ結果は火を見るよりも明らかだ。
 だから南西区の自治権だけで手を打たざるを得なかった。

 ところがたった十年でカオテッドは瞬く間に繁栄を遂げた。

 それは中央区の迷宮組合本部が有能だったのか、各国が競い合った結果なのか、【カオテッド大迷宮】の資源があまりに豊富だったのか。
 おそらくそのどれもが正しいのだろう。

 ともかく、カオテッドは十年前以上に魅力的な街になり、皇帝陛下からすれば是が非でも物にしたいと言うほどの″土地″になってしまった。
 例え三国を敵に回す事になろうとも、だ。


 さらに言えば十年で迷宮の探索が進み、″ただの大迷宮″として予想された資源量よりも遥かに上回る産出をしているらしい。

 やれミスリルがじゃんじゃん掘れるだとか、アダマンタイト以上の価値を持つ素材が入手出来るだとか、竜が居てその素材を手に入れられるとか……そんな噂も耳に入る。

 そんな事を聞けば皇帝陛下が動くのも止む無し。周りの騎士団連中は揃って頷いていた。

 それが事実かどうかは知らないが、ともかくカオテッドにご執心なのは確かなようで、すでに帝都のSランククランである【赤き爪痕レッドスカー】がカオテッドに乗り込んだとかいう話も聞いた。

 さらにはカオテッドを攻めこむのにカオテッド所属のSランクが邪魔だから暗部を向かわせた、なんて眉唾物の話も聞く。

 さすがにそれはないだろうと鼻で笑っているが、そんな話が出るほどにカオテッドを手に入れたいという気風を感じるのだ。


 此度の出兵の規模にもそれは表れている。
 帝都からは近衛と最小限の衛兵を除き、その全てがカオテッドへと向けられた。ほぼ総出だ。

 これで魔物の襲撃や何か事件が起きたらどうするのだ、と言いたい所だが新人騎士である俺にそんな事は言えない。
 上の連中は全てが全て、戦争を望んでいるのだから。

 ドゥドゥエフ騎士団長だけじゃない。大隊長や隊長連中、大抵の貴族が勲功を欲している。
 手柄を得たい。そして名誉を、権力を、金を、誰もが欲している。

 その結果が、騎士団総動員という現状。
 王都だけではない。諸侯貴族も自領の兵を送り込んできた。
 さらにカオテッドへの道中で合流してくる領軍もあるだろう。

 それはまさに獣帝国の総力と言っていい。

 カオテッドという街一つを奪取する為……と言うには過剰すぎる戦力だと思う。


 しかしカオテッドを攻めるという事は即ち、鉱王国・樹界国・魔導王国と戦うという事だ。
 三国を相手取りカオテッドを占拠するには確かにこれほどの規模の軍が必要なのだろうとも思う。

 皇帝陛下は是が非でもカオテッドが欲しい。三国を打ち破り、確実にカオテッドを独占したい。
 だから来るもの拒まず、騎士団だろうが諸侯貴族の衛兵隊だろうが、とにかく戦争に参加させている。

 そうして寄せ集まった″獣帝国軍″にまとまりなどあるはずがない。
 一応はドゥドゥエフ騎士団長の元に集まっているがそれだけだ。
 皆が皆、手柄を狙っているのだから仕方ないかもしれん。


 俺はと言えば勲功だ手柄だと言う前に、どうにも不安が拭えない。
 初めての戦争という事もあるが、本当にこれで大丈夫なのか? という疑念が残る。
 とても戦地に赴く気配が全体から感じられないのだ。

 まるでそこに落ちている″手柄″を拾ってくるだけのような、子供のお使いのような派兵。
 今から戦争が始めるなどと、とてもじゃないが思えない。
 まぁ思おうが思うまいが、俺にはどうする事も出来ないのだが。


 そうこうしているうちに号令が掛かった。


「進めええええい!!!」


 後ろで声を上げるドゥドゥエフ騎士団長は二頭立ての豪華すぎる戦車チャリオットに乗っている。
 他にも戦車チャリオットや馬車の貴族もちらほら。
 もちろん俺たちは歩きだ。

 はぁ、と溜息を一つ。俺は新人らしく列に習って素直に行軍を始めた。
 俺と同じように憂鬱そうな顔をしているのは、皆平民の新人騎士団員たちだけだ。
 視線で慰め合いつつ歩みを進める。


 目指すは北。大河の交わる地――【混沌の街カオテッド】だ。


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