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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
305:北西区区長さんは忙しい
しおりを挟む■バンガル 鉱人族 男
■85歳 カオテッド北西区長 鉱王国侯爵位
カオテッドという街の統治というのは非常に難しい。
文化と人種が入り乱れ、国境という区分が曖昧な【混沌の街】。
たった十年で物価も地価も変動が激しく、住民は急激に増え、次々に新しい文化が入ってくる。
今日の常識が明日には覆されるような感覚。
普通の街と同じような統治など出来るわけがない。
さらに言えば、カオテッドの区長には臨機応変で柔軟な政策と共に、外交の意味合いが強く求められる。
それはそうだろう。大河に挟まれた隣国と防壁一つを挟んで繋がっているのだから。こんなに近い隣国はない。
北西区にも獣人系種族や魔法系種族、さらには森の民まで気軽にやって来る。
観光や買い物目当ての者も居れば、北西区に住み着いて商売を始める者も居る。
それはそれでありがたい話なのだが、それによって新たな文化や考えが入り込み、統治する側からすれば難しくなる要因にも繋がるから如何ともしがたい所だ。
他区の区長とも連携をとる必要がある一方で、ある程度の距離を必要とする。
仮想敵国にもなりうるのだ。元々カオテッドを欲していた四か国が団結して統治するというのは難しい。
そういう意味では中央区を仕切るスペッキオ本部長の手腕は見事だった。
最初こそ迷宮組合が各国の間を取り持って中央区の統治権を得たわけだが、それ以降も各国との間に入り、緩衝材として、またカオテッド全体を締める者としてその権威を発揮している。
迷宮組合の本部をわざわざここに移転させ、その効力を強めたのも素晴らしい。
国の手前あまり言えはしないが、北西区を統べる立場で言えば助かっている部分も大きいのだ。
そうした外交的・内政的な紆余曲折があっての十年というのは本当に目まぐるしいものだった。
楽に思った事などない。
しかし国王陛下から託された任をただただ全うすべく駆け抜けた日々だったと思う。
そしてようやく落ち着きを見せ始めた昨今。
油断したわけではないが、正直今まで以上の忙しさがやってくるとは思ってもいなかった。
きっかけは【黒屋敷】というクランの台頭だろう。それは間違いない。
いきなり現れ、その異様な風貌とクランマスターが基人族であるという特異性で注目され始めたかと思えば、南西区の闇組織【鴉爪団】を壊滅させ、南東区の闇組織【宵闇の森】を捕らえた。
その後前人未踏の四階層到達に竜討伐。そしてSランク昇格。
この頃になると北西区であっても頻繁に話題に上る事になる。
極めつけは【ゾリュトゥア教団】カオテッド支部の壊滅と、その数時間後に起こった【天庸】襲撃事件。
どちらか一つでも国を挙げての大事件であるのにも関わらずそれが連続して起こった。
そしてどちらも解決に導いたのは【黒屋敷】なのだ。
鉱王国の貴族としても北西区区長としても厚く礼を言わなければならない所であったが、後手に回ってしまった感はある。
とりあえずクランホームの修繕の手配と、スペッキオ本部長を通しての礼はしたが、その他はおざなりだ。
言い訳になってしまうが、北西区の回復と国への報告に追われていたのだ。
【天庸】襲撃事件に関しては北西区の回復が主であり、国に対しては流通が一時的に滞るといった所。
国単位で見ればそれほど大きな問題ではない。
もちろんカオテッドとして見れば多大な問題ではあるのだが。
しかし【ゾリュトゥア教団】は魔族が絡んでいるというだけで国どころか世界規模での問題になる。
それが鉱王国で広がりを見せていた宗教であり、しかもその中身が全て魔族というのだから、これはもう大事どころの騒ぎではない。
鉱王国各地の教団支部にはすぐさま立ち入り検査……いや、もはや魔族討伐と言って良いだろう、衛兵や騎士団が投入されたらしい。
王都にあった支部……ひょっとすると本部かもしれないが、そこにも騎士団が派兵された。
――そこはもぬけのからであったと言う。
教団関係者どころか信者の一人も居ない。ただの空き家と化していた。
それは王都だけの話ではない。国内各地の支部から一斉に関係者が消えたというのだ。
おそらくカオテッド支部が壊滅したのを何等かの方法で知り、すぐさま撤退したのだとは思う。
それにしても鮮やかすぎる逃亡だと思うのだが……。
それからも騎士団や各市街の衛兵を投入し、探してはいるようだが情報は一向に入って来ない。
芳しくないどころか全く見つけられないのだろうとは思っている。
その後、【黒屋敷】の快進撃は止まらず、最近では中央区に博物館なる施設をオープンした。
今や北西区でも話題の観光施設として頻繁に耳にする。
【天庸】の事件で英雄的な立場に居た彼らの功績を博物館で実際に見ることが出来るとあって誰もが一目見たいと足を運んだらしい。
もちろん私も行きたい気持ちはあるが、今は執務を優先し行く事が出来ていない。
しばらくして落ち着けば……などと思っていたのが間違いだった。
無理をしてでも早めに見に行っておくべきだった。
スペッキオ本部長から私を含む各区長宛てに緊急連絡があったのだ。
――獣帝国がカオテッドに戦争を仕掛けて来る、と。
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