カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ

308:板挟みのイーリス

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■ボリノー 熊人族クサマーン 男
■45歳 迷宮組合イーリス支部 支部長


 帝都からカオテッドに向けて獣帝国軍の進軍。
 その一報はわりと早い段階で聞いていた。

 イーリスは獣帝国内でカオテッドに一番近い街。当然、獣帝国軍の進路にあたる。
 だからこそカオテッドのスペッキオ本部長からも真っ先に注意勧告を受けた。
 逆に帝都側からもカオテッドの情報を求められたりしたらしい。俺にではなく領主様に対してだが。


 迷宮組合としては、スペッキオ本部長から戦争参加に関して拒否するよう言われているので、仮に帝都側から何か言われても知らぬ存ぜぬで通すつもりだ。

 イーリスの魔物討伐組合に関してもこちらと同じような感じらしい。
 基本的に戦争不参加。静観を決め込むとチアゴ支部長から聞いている。


 問題はイーリスを治める領主様が衛兵団を戦争参加させるかという点だ。
 つまり、イーリスとして国軍を支持するか、それを拒否するかと。

 普通に考えれば支持する一択だろう。
 イーリスは完全に獣帝国の一部なわけだし、国軍の進路でもあるわけで、それなのに「戦争には参加しません」とは言えるわけがない。
 そんな事を言えばカオテッドの前にイーリスが攻められそうだ。


 しかしカオテッドに一番近い土地柄、カオテッド側の情報がよく入るのだ。それが逆に痛い。
 別に俺がスペッキオ本部長から聞いた情報を流しているわけではない。
 普通にカオテッドとイーリスを行き来している行商人などからカオテッドの動きや噂話が山ほど入るという事。当然それは領主様の耳にも入っている。

 それは例えばカオテッドの南西区が国を裏切ってカオテッド防衛に就くだとか、樹界国や魔導王国も軍を派兵して迎撃体勢をとるだとか、そういったカオテッド住民が知っているのであろう話が流れて来る。


 もうそれを聞いただけで獣帝国軍を全面的に支持する事なんて出来ない。
 獣帝国vs樹界国・魔導王国。すでに負けそうにも思える。

 それでも意気込んで参戦するのはよほど目と耳が悪い馬鹿貴族なのだろうが、あいにくとイーリスの領主様はまともだ。
 まともだからこそ板挟みで悩んでいる。


 さらに悩ます要因としてあるのが、カオテッド所属の迷宮組合員の参戦表明がされたらしいという噂。
 迷宮組合として戦争不参加を通達されたわけだが、当のカオテッドはやはり自領防衛という責もあり、組合員の戦争参加が認められたというのだ。

 つまり獣帝国軍は樹界国と魔導王国の連合と共に、カオテッド大迷宮に挑んでいる大量の現役組合員も相手にしなければいけないという事だ。
 これにより益々国軍への支持はしにくくなる。

 もっと言えば、カオテッドの迷宮組合員については俺たちイーリス支部もかなり詳しい。
 イーリス迷宮に挑む組合員より数段上の手練れたちが、獣帝国以外からも集まり鎬を削っている。
 その数と質は世界屈指と言ってよいだろう。


 中でも獣帝国出身のAランククラン【獣の咆哮ビーストハウル】は獣帝国内でも広く周知されている有力クランだ。

 彼らもカオテッドに攻め入ろうとする国軍に憤慨し、迎え撃とうとしているらしい。
 国よりもカオテッドをとったわけだが、それを支持する獣帝国組合員も多い。
 【獣の咆哮ビーストハウル】が国と喧嘩するなら俺たちも、と鼻息荒くなる組合員も居る。


 しかし個人的には【獣の咆哮ビーストハウル】や他三組の有名Aランククランより、ただ一組のSランククランの存在が大きいと思っている。


 【黒の主】率いる【黒屋敷】だ。


 最初こそ基人族ヒュームやら非戦闘系種族やらと全く意味の分からないパーティーだったが、毎日のようにイーリス迷宮で活躍した事でその考えは改めさせられた。

 あいつらをAランクにしたのは俺だし、その後のスタンピードでイーリスを救ってもらった恩がある。
 もちろんカオテッドに行ってからの活躍もこちらに伝わっている。

 やはりAランクに上げておいて正解だったと安堵した事もあるが、それ以上に理解不能、予測不可能な活躍を耳にしてさすがに訝しんだのも記憶に新しい。

 いや、最初からずっと常識外だったのはそうなんだが、あっという間に人数を増やしトップクランになったかと思えば、カオテッド大迷宮で初の四階層到達。そして竜討伐。さらにはSランク。そんなの驚かないわけがない。


 最近では博物館なるものを運営し始め、自分たちが手に入れた希少なドロップ品を一般客に見せているらしい。

 イーリスでも「カオテッドに行く機会があれば中央区の博物館へ行っておくべき」なんて言われるほど有名な観光地と化しているようだ。

 正直俺も気になっている。支部長の俺でさえ見た事のないドロップ品ばかりだろうしな。


 ……と、話が逸れたが、ともかく【黒屋敷】が異常な強さだという噂は尾ひれを付けてイーリスまで届いている状態なのだ。

 カオテッドの英雄とまで呼ばれている『基人族ヒュームとメイド軍団』の事を領主様が知らないはずもない。嫌でも耳に入るのだから。


 つまり俺じゃなくてもイーリスの有力者たちからすれば獣帝国軍に勝利の目がない事など明らか。
 国軍は一万を超えるらしいが、それでも勝てるとは思えない。

 だって【黒屋敷】の六人だけで千体のスタンピード――それも地竜ランドドラゴン四体を含む群れを全滅させたんだぞ?

 あの時の事はイーリスじゃあ未だに語り草だ。
 迷宮組合だけじゃなく魔物討伐組合も衛兵団もその場に居たんだからな。実際に狩った魔物の山を見ている。

 あれから一年も経っちゃいないが【黒屋敷】の人数も増え、武器も魔剣だとかすごい事になってるらしいし、実際に竜を倒したりしている。

 スタンピードを全滅させた時の何倍も強くなっているんだろう。
 そんなのを相手に戦えとか……領主様は衛兵団を出したくないだろうなぁと。実際未だに悩んでいるらしいが。


 そんな葛藤をイーリス全体で共有しながらも時間は過ぎていく。
 領主様はやはり獣帝国軍に協力する姿勢を出すと決めたようだ。
 そりゃそうだろうな。協力しなかったら国から潰されかねん。

 ここはカオテッドの南西区とは違うんだ。あそこは街自体が中立みたいなもんだから言い訳の一つでも出来るかもしれんがイーリスは完全に獣帝国なのだから。


 とは言え戦争に参加した所で勝ち目が薄いというのは領主様も良く分かっているので、カオテッドに一番近い街として、後方支援という形をとるようだ。

 それならば積極的な参戦ではなく、かつ非協力的でもない。
 これに対し国軍は了承の意を示したらしい。領主様も一安心だろう。

 後方支援という事で兵站や軍事物資の補給など、街から金が出て行く事にはなるが、それでもカオテッドで戦うよりマシ。

 支援は俺たち迷宮組合支部や魔物討伐組合支部も、領主様に協力する。
 そこはイーリス全体として何とかしないといけない部分だ。非帰属組織であっても協力したいと思う。


 ともかくそうした動きをしている中で、ようやくと言うべきか、国軍が南方からやって来た。

 その数すでに一万を超えている。もしかしたら一万五千くらいいっているかもしれん。
 当初の予想よりも参戦の意を示す諸侯貴族が多いのだろう。
 それだけ状況が見えない馬鹿貴族が多いとも言えるが。


 国軍はイーリスの街の外にキャンプを張り、少し休んでからすぐに北へと出立していった。
 大将格の貴族連中は領主様の案内の元、高級宿に泊まったりしたらしい。

 街から食料やポーション類なども大量に消えたし、住民は家に籠ったまま出てこないという雰囲気にもなった。
 たった一日二日で街から色々と奪われた気もする。これが戦争なのだと言われればその通りなのだが。


 俺は軍の連中に接触する事はしなかったが、遠目でその様子を見ていた。
 何と言うか、どうも軍の連中から「これから戦争しますよ」という気配を感じない。

 まるで勝つ事が決まっているような、皆でピクニックにでも行くようなふわっとした印象を受ける。特に貴族連中が。

 それを見て「こりゃ決まったな」と実感した。確実に負けだ。
 迷宮に初めて潜る新人少年でもあんなに楽観的な顔はしない。これから戦いに赴く顔ではない。


 そしてカオテッドの情報を何も得ていないのではないのか、と疑問も出る。
 まさか情報収集しないなんて事あるわけないし、斥候や先遣隊だって出しているだろう。

 だと言うのになぜこんなにも危機感がないのか。
 カオテッドの情報を掴みながらもそれを信じていないのか。
 それ以上に自分たちに自信があるのか。よく分からんが。

 もし俺が十万の兵を率いているとしても、【黒屋敷】の二一名が相手に居ると分かればそれだけで尻込みする。
 圧倒的強者と言うのは数など物ともしないもんだ。

 そして圧倒的強者であるからこそ迷宮組合本部でSランク認定されているんだ。
 そこら辺を分かっていないのか認めていないのか……いずれにしても甘い。


「ありゃ酷いのう。結果は最初から見えておるわい」


 隣に並んだ魔物討伐組合のチアゴ支部長がそう口にする。
 やはり思う所は同じ。国軍から戦争に勝つという意識が感じられない。


「領主様が支援に徹してくれて助かったわい。イーリスから兵を出したら何人死ぬか分からんぞい」

「イーリスの衛兵団は優秀ですからね。手離すのは惜しいですよ」

「衛兵団長も【黒の主】と面識があるからのう。ヤツらと戦いたくはなかったじゃろう」

「知っていれば誰だって戦いたくないですよ。剣を向けられるのは知らない連中か馬鹿だけです」

「カカカッ! そりゃそうじゃな!」


 チアゴ支部長は俺に同意して笑っていた。

 俺は北進する国軍を背後から見つめ思う。
 果たしてこの中の何人がイーリスに戻って来る事になるのかと。
 予想より早く逃げ帰って来るのではないかと。


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