カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ

310:獣帝国軍、カオテッドに迫る

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■ボディオ 猪人族ボエイル 男
■19歳 獣帝国 帝国騎士団 新人


 帝都を出立してから約一月。いよいよカオテッド間近という所まで来る事が出来た。
 正直ここまで来れた事だけで嬉しく思う。安堵の息が出るほどだ。

 行軍の経験というものはなかったが、話に聞いていた以上に厳しい道のりだった。

 延々と歩かされ、馬車に乗っている貴族連中や馬に跨る将校格のやつらは我がままばかり。
 歩いているこっちのほうが疲れているはずなのに、わーわーと文句を言い出すのも日常茶飯事だった。


 途中の街で一泊するとなっても俺たちは街の外で野営だ。
 ちっとも身体は休まらないし、飯だって冷めたマズイ飯が出るだけ。
 上の連中はベッドで寝て、暖かい飯を食っていると思うとはらわた煮えくり返る。


 総勢一万五千にも上る軍勢は大半が諸侯貴族の自兵で、どれもバラバラ。
 足並み揃っているのは帝都から一緒に来た騎士団くらいのもので、はっきり言ってまとまりなどない。
 隊列などあってないようなもので、こんな連中と共に戦わなくてはいけないのかとかなり億劫になる。


 そんな苛立ちばかりの長旅もこれで終わりかとホッとする。

 これからが戦争本番だと言うのに、どこか重労働が終わったような達成感。
 それは俺だけじゃなく、周りの連中も同じだ。
 貴族や将校たちだって「ようやく着いたか」と浮足立っている。

 こんな状態で戦争など出来るものなのか、と新人の俺としては不安な面も当然ある。

 なにせここまで来ても具体的な攻め方など話に出ていないのだ。

 どのように布陣し、どのようにカオテッドを攻め落とすのか。そういった話がない。
 軍議に上がっているのか知らないが、少なくとも末端の俺までは伝わってこない。余計に心配になる。
 もっとも寄せ集めの軍という事で行き当たりばったりの戦いにはなるのだろうが。


 おそらく戦争が始まって、上官の指示が飛び、それに従ってただ動くと、そういう形になるのだろう。
 俺は戦争の経験がないからアレだが、戦争ってのはこういうものなのか?
 恐ろしくて先輩に聞く事すら出来ない。


 おまけにカオテッドに近づくにつれ、カオテッド側の陣容も聞こえ始める。
 上官からの正式な通達ではないが、噂の又聞きのようなものだ。

 どうやらカオテッドに駐在する衛兵団だけでなく、魔導王国や樹界国の軍もカオテッド防衛戦に参加するらしい。
 覚悟はしていたがやはり他国との戦争になるのかと溜息をついた。

 さらにカオテッドに所属する迷宮組合員までもが参戦するという噂。
 聞いた事のないSランククランを始め、各国のAランククラン。そして大迷宮に挑んでいる多数の組合員。
 彼らは日々、迷宮の魔物と戦っているので、ある意味他国の軍よりも危険性は高い。


 出来る事ならば戦争に参加せず大人しくして貰いたかった所だが、さすがに迷宮組合の本部があるカオテッド。
 黙っているわけにはいかないという事だろう。


 嫌な気分を持ちながらも、俺は新人騎士らしく前へ進むしか出来ない。
 そしてあと一息でカオテッドという所までやって来た。

 すると何やら騒がしくなる。行軍も自然に止まった。

 どうやら先遣部隊の一人が急ぎ戻って来たらしい。何かしらの報告だろう。
 それを受けて軍は一時的に停止したようだ。


「何事だ!」

「報告します! 前方に立て看板があります! 我々に対する注意喚起のような文面でして――」


 戻って来た先遣隊員は部隊長の貴族に報告をし始めた。
 何事かと集まって来た貴族連中。その中には帝国騎士団長″百戦百勝大将軍″ドゥドゥエフ閣下や馬車から降りて来たチューリヒ公爵などもおり、錚々たる顔ぶれだ。

 俺も耳を峙てて聞いてみる。

 どうやら俺たちの進軍経路にポツンと立て看板があり、それはカオテッド側から俺たち獣帝国軍に向けてのメッセージらしいのだ。
 だから軍の上層部へと報告をという事らしい。


 内容はこんな感じだ。



『カオテッドは四か国と迷宮組合との合議によって統治が決まった言わば公式の非帰属地域である。これに攻め入ろうとする事は領土侵犯に他ならず、そのまま軍をカオテッドへと進めれば防衛の為に迎撃処置をとらせて頂く。

 尚、カオテッド衛兵団やカオテッド所属組合員の他、他国軍もすでに布陣を終えている。
 其方に数的優位はすでにない。

 この看板の先に白い線が敷かれている。
 そこから先に足を踏み入れた場合、まずは先制としてカオテッド迷宮組合所属Sランククラン【黒屋敷】の一斉攻撃が始まる。

 彼のクランはカオテッドの誇る最高戦力であり、その全員が″竜殺しドラゴンスレイヤー″である。
 決して白い線より先に踏み入ってはならない。これは忠告である』



 これは本当だろうか。ただの脅しだろうか。
 他国軍が参戦するのは分かっていたが、総兵数でこちらの一万五千を上回るのか?

 そして【黒屋敷】とかいう聞いた事のないSランククラン。
 先陣を切るのが軍でなく組合員というのも驚きだが、全員が竜殺しドラゴンスレイヤーだって?
 いや、何人のクランなのかも知らないが……そんな事ありえるのか?


 俺が一人で思案に耽っていると、当然のように貴族連中が騒ぎ出す。


「嘗め腐りおって! 忠告だと!? 何様のつもりだ!」

「よくもまぁこれだけ御託を並べられたものだ!」

「世迷言を並べてこちらを混乱させる目論見に決まっておる!」


 そして誰より怒り心頭なのがチューリヒ公爵。とても戦争に赴くとは思えないラフな貴族服で腕を振り上げながら叫ぶ。


「その【黒屋敷】というクランが私の魔剣を奪った輩だ! 私はよく知っておる! 全員が竜殺しドラゴンスレイヤーなど真っ赤な嘘だ! やつらは【黒の主】と呼ばれる基人族ヒュームとそやつのメイドで構成された珍妙な集団よ! Sランクなどありえん! 恐れる必要などないわ!」

「ブハハハッ! 基人族ヒュームのクランだと!? なるほど本当にそいつが先陣で出て来るようならば、カオテッドの陣容はよほど弱いという事だな! これは見物ではないか!」

「ハハハ! 確かに! チューリヒ公爵の魔剣も手元に帰ってくるかもしれませんぞ?」

「元よりそのつもりでこんな辺境くんだりまで来たのだ! あの魔剣イフリートを儂がこの手で奪いかえす為にな!」


 ドゥドゥエフ閣下も貴族連中も、チューリヒ公爵の言葉を聞いて笑っている。
 一方で俺は何とも言えない嫌な予感が強くなっていく。

 チューリヒ公爵の言葉が正しいとして、本当に【黒屋敷】というクランは基人族ヒュームとメイドの集団なのか?

 神聖国の保護区にしか居ないはずの基人族ヒューム。最弱の種族として有名なあの基人族ヒュームがカオテッドで組合員として戦っていて、尚且つSランクだと?

 そしてその基人族ヒューム竜殺しドラゴンスレイヤーだってのか?


 全く訳が分からんが、カオテッド側が嘘をつく必要などないようにも思えるのだ。
 なにせそんな珍妙な輩を表に立たせなくても強力な他国軍が居るんだし。
 それをおして【黒屋敷】という連中を前に出したのには意味があるんじゃないかと。


 仮に全部本当だとしたら? 本当に忠告の意味で書いたとしたら?

 俺にはその方がしっくりくる。
 しかし俺のような考え方はどうやら少数派も少数派らしい。
 看板を挑発行為と受け取り、これまで以上に意気揚々と攻め込む姿勢を誰もが見せ始めた。


 軍勢は声を上げながら前進。やがて例の立て看板の元へと辿り着く。

 この先の白い線……だいぶ先にそれが視認出来た。
 あそこを越えれば攻撃される。そうビビるのは俺を含めた少数だけ。

 立て看板を前に最前線へとやって来た貴族連中が騒いでいる。


「はっ! 本当に書いてあるわ! 報告そのままではないか!」

「笑わせるものよ! これを持ち帰って笑い話のタネにすべきではないか?」

「はははっ! それは良い案だな! カオテッドの脆弱さを見せつけるのにはちょうどいい!」


 貴族連中は看板を無視。それどころか引っこ抜いて土産にするらしい。
 そして最前線に留まったまま、軍を押し上げる。
 もう間もなく白い線だ。


 ――と、そこで前方から駆けて来る馬があった。


 馬を駆るのは蛙人族トーディオのように見える。


「止まれええええ!!! 止まってくれええええ!!!」


 貴族服を纏ったその男はこちらに向かって叫びながら馬で迫って来る。
 軍はその声に訝しみ、誰からともなく停止した。
 そして未だ前線に留まる貴族の中、チューリヒ公爵が言葉を発する。


「貴様……! リリーダルかッ!!!」


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