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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
313:見慣れようにも見慣れない光景
しおりを挟む■バルボッサ 虎人族 男
■37歳 Aランククラン【獣の咆哮】クランマスター
獣帝国軍との戦争が幕を開けた。
俺たちはカオテッド連合軍の中央最前線に陣取る。
まぁその前に【黒屋敷】の連中が居るが、それを抜かせば最前線だ。
元より獣帝国の貴族連中には嫌気が差していた。それは俺だけじゃなくクラン全体、そして他の獣帝国出身の組合員も同じようなヤツが多かった。
やはり少なからず貴族の嫌な面を見たり聞いたりしてきたのだろう。
【獣の咆哮】が戦うなら俺たちも参戦する、そういう後輩も多かった。
俺らや【黒屋敷】が戦うならば勝てる戦だと、獣帝国貴族に痛い目見させるチャンスだと、そう意気込んでいた。
そうして宛がわれたのは陣の中央。両脇は樹界国と魔導王国の正規軍がズラっと並び、後方上空には神聖国の天使族が隊列を為している。
組合員が正規軍と同じように集団戦闘出来るはずもなく、各クラン・各パーティーでの個別戦闘となるだろうとは誰もが思っていた事で、だからこそ両脇をしっかりと抑えて貰うという意味合いがあった。
同時に局所的な破壊力、攻撃力であれば正規軍より組合員の方が強いという声もあった。だからこその中央とも言える。
もちろん低ランクの組合員にそこまで力はないだろうが、Cランク程度になればパーティーでオーガと戦う事もあるわけで、実戦経験という面では正規軍を凌ぐものがあるだろうと。
さらに言えば相手は獣人系種族。どうしても近接戦闘に偏るきらいがあり、遠距離魔法攻撃に弱い部分がある。
そうした弱点を狙えるのもまた組合員の日常的戦闘手段なのだから戦いやすかろうと。
まぁ魔法攻撃はそれこそ樹界国と魔導王国の得意分野なのだがそれはそれとして、だ。
ともかく組合員連中の気合いも十分。その中でもAランククランの四組は最前線で横並びとさせてもらった。
組合員としてまず当たるのは俺たちだぞと。一番槍は任せろと。
規格外のSランク様は除く。
で、待ちに待った戦争が始まった訳だが……やはりSランク様が規格外すぎる。
いやまぁ四階層の共同探索で見てたけどさ、長距離でグレートウルフを一発で仕留めるとかさ。
でもさ、あの時は六人だけだったじゃん? それがさ、どんだけ長距離魔法撃てるヤツ居んだよって話でさ、弓とかもとんでもねーし。
俺らだって貴族連中を懲らしめたいわけよ。自分たちの手で。
遠目でハゲネズミ公爵とか見えるしさ。あいつなんで来てるんだよ、武装もせずになんで戦争の最前線に来てるんだよ。
いやまぁそれはともかくセイヤよ、ちょっと手加減してくれ。間違ってもハゲネズミに当てないでくれ、あいつ俺らに回して。
と、そんな事を言ってやっと遠距離攻撃を止めてくれた。
すでに獣帝国軍の前線は一部が完全に崩壊してるんだが。足元を凍らされ、そこを爆発させられ、吹き飛ばされ……死者は少ないだろうけど死屍累々だなこれ。
「【黒屋敷】集合! 近接戦闘準備! 防御陣形で前に出るぞ!」
『はいっ!』
「各軍も前に出ていいぞ! 何なら俺たちを抜かしてもいいからな! 各々健闘を祈る!」
セイヤが全体に声を掛けた。
つまり【黒屋敷】が主役になるのはここまでだと。適度に削ったからあとは好きにやってくれと、そういう事だな。
「よし! 【獣の咆哮】出るぞ! 大物を逃がすなよ!」
『おう!!!』
【黒屋敷】に並ぶように前に出る。【震源崩壊】や【風声】もだ。
【魔導の宝珠】は右翼の魔導王国軍と連動して動くらしい。遊撃的なポジションだな。
その魔導王国軍も樹界国軍も同時に前に出る。
すっかり足の止まっている獣帝国軍に正面からぶつかって行く。
「てめえら【獣の咆哮】だな!? てめえらを倒して俺らが獣帝国最強の組合員だって知らしめてやんぜ――ぐああああっ!!!」
俺らに突っかかって来たヤツらが居ると思ったら、騎士団でも衛兵でもなくて組合員かよ。
どうやら粋がって戦争に参加した組合員も少なからず居るらしいな。敵になるなら容赦しねえが。
しかし別に俺らが獣帝国最強ってわけじゃないんだが……。
【赤き爪痕】が未帰還だって知ってるんだとしてもAランククランだって俺ら以外にも居るだろうに。
それに……チラリと横目で【黒屋敷】を見る。
「ティナ! 殺しちゃダメよ! 剣の腹で殴って吹き飛ばしなさい!」
「難しいよお母さん! トロールキング倒す方がまだ簡単だよぅ!」
おそらくこの戦場で最年少と思われる少女とその母親が物騒な会話をしながらとんでもない動きと攻撃をしている。
獣人系種族最強とかサリュかこいつらでいいだろ?
知ってるか? こいつらパン屋だったんだぜ? つい最近まで。超美味い白パンの。
俺は合同探索で【黒屋敷】の六人が戦ってたのを見てるし、訓練場で模擬戦とかも見たりした。
今も絶賛蹂躙中のツェンやイブキとも実際に模擬戦した。
しかしやはり模擬戦は模擬戦だったようで、戦場での本格的な動きを見るとやっぱりこいつら全員おかしいんだってよく分かる。
あの六人だけじゃなく全員な。【黒屋敷】全員がヤバイ。
ティナと戦ったら完封負けする自信がある。Aランクのクラマスが八歳の娘にだ。
何て言うか、【黒屋敷】の戦いはすげえんだが見ているとこっちが精神的ダメージをもらう。
俺ら別に戦う必要ないんじゃねーか? って戦意を失う。
うん、よし、あいつらは無視しよう。
俺らは目的の貴族連中を叩く。騎士団とか衛兵とかは適当にあしらって前へ前へ。
指揮官を倒せば少なからず瓦解するだろうし、何よりあいつらの存在が獣帝国には邪魔だ。
「貴族を狙うぞ! ハゲネズミは絶対に逃がすな! あいつは俺らがヤるぞ!」
『おう!!!』
■ジルドラ・エクスマギア 導珠族 男
■83歳 魔導王国第二王子 軍務卿
「とんでもないですなぁ……【黒屋敷】の皆さんは……」
俺の隣で騎士団長のフォッティマが遠い目をしながらそう呟く。
軍を統括する立場の俺が最前線に出るわけにもいかず、こうして後ろから戦況を眺めているわけだが、もう呆れるほど異常な強さだ。
メルクリオからの報告やツェッペルンド迷宮での探索勝負時、暗部【静かなる庭】の庭師たちから報告は受けている。
しかし俺がこの目で見たのは褒賞の席でセイヤ殿がベヘラタ相手に剣で制した時くらいのもの。
実際に【黒屋敷】の戦いぶりを見れば……もう異常としか言いようがない。
確かに【天庸】が魔導王国を潰せるほどの力を持っていて、それを倒したのが【黒屋敷】である以上、このクランが国の戦力を上回る力を持っていてもおかしくはない。
そう頭で理解はしていても、目の前の光景を納得するのは無理だ。
魔法一発とってみても、飛距離・威力・速度、どれを見てもメルクリオ以上のやつらが何人も居る。
近接なんてもっと異常だ。セイヤ殿だけでなく他のメイド、非戦闘系種族であっても軍の誰より強い。
あの兎人族の幼女は何だよ……まるで【剣聖】ガーブじゃねえか。
おまけにそいつらが持ってる武器も最低で例の魔竜剣だ。
セイヤ殿の細剣が御伽話の神器なのかは知らねえ。天使族の持ってる白い直剣も分からねえ。その他に四本もの魔剣を所持していて、それ以外の近接武器は全部魔竜剣という有様。
杖にしたっておそらく最低でも黒曜樹の杖だ。
鍬持ってるヤツも居るが訳が分からねえから無視しよう。
ともかく装備も異常だし、身体能力やら何やら、全部が異常すぎる。
ウェルシア伯に至っては【狂飄の杖】と【溟海の杖】を確かに二本同時に使ってやがる。
属性の多さと細かい制御、仲間との連携という面では″魔法の天才″メルクリオに分があるかもしれねえ。
しかしそれ以外の全てはすでにウェルシア伯の方が上だ。魔力量・威力・射程・速度、全部だ。
これが少し前まで戦えなかった貴族令嬢だと言われても信じられねえよ。
自国民で言えば多眼族の嬢ちゃんは闇魔法だけらしいが見た事もねえ魔法を連発してるし、人蛇族の嬢ちゃんも火魔法を派手に撃ちこんでいる。
あいつ錬金術師だろ? しかも魔竜剣を作れる大錬金術師。
それがなんでメルクリオより強い魔法撃てるんだ? 全く分からねえ。
やっぱセイヤ殿に秘密があるんだろうなぁ……女神の使徒様だか勇者様だか分からんが、他人を何かしらの方法で強化出来るのか……そんなの御伽話でも聞いた事ないが。
ま、ともかく今は目の前の戦だ。
【黒屋敷】ばかり目立ってせっかく出張った俺らが何もしねえってワケにもいかねえ。
足並み乱れた獣帝国軍じゃ相手としちゃ少し不足だが、やる事やってみせねえとな。
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