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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
314:共に並び戦う為に
しおりを挟む■バササエル 天使族 女
■8796歳 創世教司教位 司教長
それは皆でトランプに興じている時に起こった。
最年少司教シャムシャエルから、いつのもように送られて来た勇者セイヤ様に関する報告書。
その内容はラグエル様から全天使族へと通達され、ただちに本聖堂へと集合した。
ここに集められたのは神託によりシャムシャエルたちが選出された時以来だ。
聞けば、セイヤ様の住まうカオテッドの地にボロウリッツ獣帝国が侵略戦争を仕掛けて来ると言う。
これに対しセイヤ様もカオテッドを守る為に防衛戦に打って出ると。
カオテッドは今や聖地と同義であり、天使族としても守らねばならぬ土地だ。
さらに言えばセイヤ様が戦おうというのに参戦しないなど天使族としてありえない。
当然、全員が全員、聞いた傍から出兵の気持ちを抱いていた。
しかし女教皇ラグエル様はこう仰る。
「今すぐ出てはいけません。セイヤ様はカオテッドの方々と策を練り、獣帝国軍がカオテッドに到着する頃合いを見計らって迎撃体勢をとるとの事。その前に我々が行っては邪魔になってしまいます。しばらくは待機なさい」
すぐにでも向かいたい気持ちは皆同じだろう。
とは言えセイヤ様の不興を買うのは不本意というもの。
シャムシャエルからの続報を待ち、いつでも向かえる体勢を整える事しか出来なかった。
それからあっという間にその時は訪れた。神聖国軍出撃の日。聖戦に赴く日が。
ラグエル様や四大司教様方は神聖国の結界維持の為に出るわけにもいかず、何とも口惜しい表情をされていた。
そして軍は必然的に司教長である私が預かる事となる。
最低限の天使族と年若い者を除き、司教と司祭、一部の助祭までをも動員。
総勢二千にも及ぶ天使族がウェヌス神聖国を飛び立った。
速度は助祭のそれに合わせたがそこそこ強行軍と言っても良いだろう。
それでも一刻も早くセイヤ様の下へと向かう為、聖戦に参じる為、我々は飛び続けた。
エクスマギア魔導王国を抜け見えたのは大河の交わる街、カオテッド。
何とも大きなその街に皆から感嘆の声が上がる。
本来なら、他国の街に訪れる時は正式に城門で手続きをし、地上に降りて入街するのが常識だ。
しかし今は戦時。そしてセイヤ様に早くお会いしたい気持ちもあり、我々は飛んだまま街の中心を目指した。
「なんだ? 鳥の群れ?」「い、いや違う! 天使族だ! 天使族の大群だ!」「すげえ……天使族ってこんな居るのかよ!」「【黒の主】の関係者だろ絶対!」「まさか神聖国も戦争に参加するのか!?」「勝ったな!」
地上の民が我々を見上げて何やら騒いでいる。
そうこうしていると中央の黒い屋根の屋敷から二人の天使族が飛び上がって来た。
「バササエル様!」
「おお、シャムシャエル! それにマルティエルか! 聖戦には間に合ったようだな!」
「ギリギリでございましたが。しかし仰って下されば街外にお迎えに参りましたのに。何も皆様でここまで飛んで来なくとも……」
「援軍に来たのだからセイヤ様にご挨拶せねばなるまい。是非お目通り願いたいのだが」
「はぁ……ご主人様でしたら、あそこでございます」
シャムシャエルが指さす方、眼下の屋敷の三階バルコニー部分に立つのは真っ黒な服を着た基人族。
あ、あの御方が……!
まずいッ! 勇者様の上を飛ぶなど何たる不敬ッ!
私は全軍に指示し、すぐさま降下。バルコニーを囲み一斉に片膝を付いた。
聖域とも呼べるお屋敷のお庭に足を付けるわけにはいかない。
お屋敷の二階程度の高さに滞空したままだ。
先頭で頭を下げる私が代表してご挨拶させて頂く。
「ウェヌス神聖国、創世教司教位、司教長バササエルと申します! 此度の聖戦に参戦させて頂きたく神聖国より馳せ参じました! 何卒ご了承頂きたく――」
「あーあー、分かった! 分かったから顔を上げてくれ!」
セイヤ様は私の言を遮り、皆の顔を上げさせる。無礼を叱する事もなく拝顔を許すとは……なんと慈悲深い御方だ。
「とりあえず援軍に関しては感謝している。わざわざ遠くから来てくれて助かる。でも集団で飛んで来られると街の人たちは混乱するし、今も屋敷の範囲からはみ出して通りまで埋めちゃってるから注目の的だ。何とかしないと……シャムシャエル! エメリー!」
それから中央区の宿屋や報告書に聞いた博物館の居住スペースまでもお借りし、何とか全員を中央区内に泊めさせて頂けた。
シャムシャエルを含む侍女の方々には急な手配をさせてしまったようで申し訳なく思う。
しかし私はお屋敷の隣の博物館に泊まらせて頂けるとあって非常に嬉しかった。こんなに勇者様のお近くに居させてもらって良いのだろうか。
しかもこの博物館はセイヤ様が討伐した強力な魔物が飾ってある。勇者様の功績、それをこの目で……おお、何という至福……。
とは言えそんな悠長にしている暇などない。どうやら本当にギリギリだったらしく、獣帝国軍はすぐ傍まで来ているらしいのだ。
二日後には我々も聖戦に参加する事になる。
私は神聖国軍の代表としてシャムシャエルと共に迷宮組合・魔導王国軍・樹界国軍との顔合わせを行った。
すでにカオテッド連合軍としての布陣も決まっている状態だったので、与えられた役目は最後衛からの支援が主になる。
そこに否はない。勇者様が我々にそれを望んだのであれば精一杯やらせて頂くのみだ。
そうして始まった聖戦だが……やはり最前線でセイヤ様と共に戦うシャムシャエルとマルティエルに皆から羨望の目が向けられる。
もちろん私も羨ましい。私だって勇者様と足を並べ、そして勇者様の盾となって戦いたい。
……が、そんな気持ちは始まってすぐに薄れた。
一応報告書では聞いていたのだ。シャムシャエルが<聖なる閃光>を連発出来るようになっただとか、マルティエルの弓が複合弓という新しいものになった事は。
しかし実際にこの目で見るとこれは……マルティエルでさえラグエル様以上の強さなのではないか?
とても足を並べて戦いますなどと言えない。
さらに恐ろしいのは狼人族の少女だ。
シャムシャエルがマルティエル以上なのはよく分かる。そしてそのシャムシャエル以上に卓越した神聖魔法を放っているのが狼人族の少女なのだ。
これはもう天使族の歴史を辿ってもここまで卓越した者が果たしているのかと、そういう次元の存在だ。
獣帝国軍はどんどんと吹き飛ばされ蹂躙されていく。
私たちの出番はないかもしれない。
それでもこの目で勇者様の戦いを見る事が出来た事は良かったと言える。
今は全体の戦況を見つめ、後方支援に徹するとしよう。
出番が巡って来ると信じて。
■フェイリーズ・メロウリート 樹人族 男
■466歳 ユグド樹界国 国防卿
「おお……っ! なんという弓射……っ! 素晴らしいっ!!」
「さすがミーティア様っ! しかし他の方々もまたすごい! これが『女神の使徒』様の……!」
「菌人族があのような魔法を!? しかしあの武器は……」
戦いの火蓋はすでに切られている。我らがミーティア姫様の手によって。
樹界国軍を預かる私は布陣の後方からそれを見ていた。
そして隣に並び感嘆の声を上げたのは神殿騎士団長バッゲル、防人隊長ロンドヴィーク、魔法士隊長マルモーニの各隊長衆。
ミーティア様や『女神の使徒』様、そして彼のメイドの方々の戦いを見るのは初めてだ。
王都奪還の際にその戦いを実際に見た者はほとんど居ない。
だからこそ驚いた。噂に聞く以上の衝撃。
希代の『神樹の巫女』であるミーティア様だとしても、樹人族という枠では括りきれない強さを有していると、ただの一射で分かる。
あの長弓か? いや、それだけでは説明出来ない異常さが見受けられる。
ともあれ圧倒的な力を見せつけられたのだ。本来ならば我らが守護すべきミーティア姫様から。
これに奮起しない樹界国兵は居ない。誰からともなく「おおおお!」と声を上げる。
この勢いに乗らない手はない。
どうやら組合員たちも魔導王国軍も前進し接敵する構えのようだ。
よし、我らも続こう。ミーティア様よ、ご照覧あれ! 我らが樹界国兵の雄姿を!
「行くぞおおお!!! 進めええええ!!!」
『おおおおお!!!』
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