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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
319:魔族、カオテッドへ迫る
しおりを挟む■バンガル 鉱人族 男
■85歳 カオテッド北西区長 鉱王国侯爵位
獣帝国軍の侵略に備え、鉱王国の王都には急ぎ、派兵の要請をした。
しかし一月という期間はやはり短かったのか、結局は間に合わなかった。
早めに王都を発ったという情報は得ている。開戦数日前には着いてもおかしくはないと思っていた。
だからこそ期待していたが……何とも歯痒い。
魔導王国、樹界国が軍を出している以上、鉱王国の面子的にも出して欲しいとは思っていたがそれはもう叶わん。
若干落胆しながらも戦争に対して私が何も動かないというわけにもいかない。
住民の避難や衛兵への指示などやる事はいくらでもある。
鉱王国出身の組合員たちが前線で戦っているのだ。鉱王国代表として。
それに報いねばならん。
そう慌ただしくしていた矢先の事だった。その一報を聞いたのは。
――魔族の大群が本国方面から迫っている。
当然のように混乱した。しかし同時に理解もした。
王都からの派兵が間に合わなかったのも、途中で魔族の軍とかち合ったからではないのか?
であるならば鉱王国軍はどうなった? まさか連絡も出来ないほどに……。
いや、答えの出ない考察をしている場合ではない。事態は緊急を要する。
私は急ぎ、衛兵に指示。住民の避難と中央区の迷宮組合へと伝達を頼んだ。
魔族の大群がどのような規模か、詳細はまだ掴めていない。
しかし相対せるのは……【黒屋敷】しかおるまい。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
鉱王国から魔族の大群が襲来。
その報を受け、ここが戦場の最前線にも関わらず頭は一瞬、空白となってしまった。
俺だけではない。周りの侍女たちもそれは同じ。
考えられるのは【ゾリュトゥア教団】。
おそらく本部があろう鉱王国からカオテッドへと攻めて来たのだろうと。
それも獣帝国とぶつかるこのタイミングを計って。
すぐに北西区に行かなくてはならない。それは確定だ。
しかしその前に考えうる限りの指示を出しておく。
「パティ! ネネを探して連れて来い! 先に北西区に向かう!」
「は、はいっ!」
「エメリー! メルクリオに伝えて来てくれ! こっちは魔導王国と樹界国に任せる! 組合員たちのまとめもメルクリオに任せる!」
「かしこまりました!」
「ミーティア! 樹界国にも同じように伝えて来てくれ!」
「はいっ!」
「シャムシャエル! 司教長さんに伝えろ! 天使族たちを北西区に連れて来てくれ! こっちに残す人員が必要ならその振り分けは任せる! 大半は俺たちと共に魔族からカオテッドを防衛だ!」
「はいっ!」
「よしっ! みんな行くぞ!」
『はいっ!』
魔族は全人類にとっての敵。しかしこの状況で獣帝国軍に魔族が来たから共に戦えと言えるか?
大人しくこちらに従うとも思えないし、今から共闘なんてとても考えられない。
獣帝国軍とカオテッド連合軍との戦争は止められないだろう。魔族が来たから終わりってわけにはいかない。
即ち獣帝国軍に対して戦いつつ、魔族とも戦う必要がある。
今の戦場を見ればこちらの圧倒的有利。俺たち【黒屋敷】が抜けても問題ないだろう。
魔導王国軍と樹界国軍だけでも十分に思える。だから神聖国軍は魔族の方に行ってもらう。
と言うか、魔族にとって天使族は天敵のはずだ。
【天庸】の魔族は神聖属性耐性を持っていたがあれはヴェリオが『神樹の葉』で作った特別な薬のおかげらしいし、本来ならば天使族が絶対的に有利のはず。
だからこそ神聖国軍はここを離れ、北西区へと行ってもらう方が良い。
あとは魔族の規模、陣容次第だ。
大軍で襲撃とは聞いたがそれがどの程度の″大軍″なのか。
すでにカオテッドにまで入り込んでいるのか、まだ時間的余裕はあるのか。
なにせ情報が少なすぎる。
混乱と焦燥と苛立ち、同時に抱えながら南西区へと入り、そのまま北進。
中央区を経由せずに北西区へと向かう。
俺一人で先行するような真似はしない。侍女たちと一塊になって進む。
ただでさえ皆が混乱状態なのにバラバラになるわけにはいかないからだ。
それにこの速度なら……ほら、エメリー、ミーティア、ネネ、パティが追いついて来た。
シャムシャエルは神聖国軍そのものを動かすから時間が掛かるだろう。
そうこうしているうちに南西区と北西区を仕切る防壁まで来た。
すでに空襲警報が鳴り響き、住民も混乱している様子が伺える。【天庸】襲撃の時を思い出す。
防壁の衛兵は俺たちを見るなり検問もせずに道を開けた。魔族の事も理解しているのだろう。
だから急いで問いかける。
「魔族はどこまで来ているか分かるか!?」
「も、もうじき第二防壁から目視出来るくらいの所まで来ています!」
「分かった! 住民の避難を頼む!」
「は、はいっ! ご武運をっ!」
どうやらすでにカオテッドに入っているという事はないらしい。
おそらく監視の衛兵が<千里眼>の魔道具で発見し、すぐに警鐘を鳴らしたのだろう。
そして″空襲″という事は即ち、魔族が飛んで来ているという事。
魔族の飛行速度は知らないが、いつカオテッドに着いてもおかしくはないはず。
俺たちはスピードを上げ、北西区側の第二防壁へと急いだ。
本当なら【氷晶竜】の洞穴を見つけた時のように、パティを飛ばして<千里眼>で確認させたい。
しかしパティの<千里眼>は<探索眼>に内包されているスキルだ。
そして<探索眼>は迷宮内限定のスキル。ここで使う事は出来ない。だから目視に頼る事しか出来ない。
歯痒く思いながら大通りを走り、やがて第二防壁に辿り着く。
さすがに周囲には住民の姿はなく、監視と防衛の為に衛兵が居るだけだ。
「く、【黒屋敷】だ! 【黒屋敷】が来てくれたぞ!」
「助かった! 間に合ってくれた!」
「俺たちが前に出る! 下がっててくれ! 防衛戦力に神聖国軍も来る! 皆は万が一魔族がカオテッドに侵入した時に備えて、住民の避難と警戒を頼む!」
「あ、ああ! 分かった!」
「気を付けてくれ! 空を飛んでくる魔族が千体は居るらしい!」
「あと歩兵も居るぞ! 見たことないデカイやつらだ! もうすぐで見える!」
衛兵たちから言葉少なに情報を貰い、北西区の中へと下がらせた。
外に出て戦うのは俺たちだけだ。
しかし飛んでくる魔族が千体以上……さらに歩兵でデカイの、だと?
俺が見た事のある魔族だと悪魔族、妖魔族、幽魔族は飛べるな。
淫魔族は翼がないから飛べないはず。
あとゴミ女神から貰った知識で知っている魔族の情報……と言ってもざっくりしたものだが、他に飛べる魔族だと飛魔族ってのが居るはずだ。鳥人族の蝙蝠バージョンみたいなヤツ。
それとデカイ歩兵ってのは泥魔族とか樹魔族ってヤツだろうか。
泥魔族はマッドゴーレムみたいな、ド〇ヌーバみたいなヤツのはず。
樹魔族はトレントを人化したようなヤツだ。どっちもトロールくらい大きい。
確か魔族と呼ばれる種族はそれくらいだったと思う。
もしかするとゴミ女神の知識外の種族も居るのかもしれないが。油断はすまい。
そうして第二防壁の外に立ち、少し進んだ所で迎え撃つべく陣を張る。
すでに飛んでいる魔族が小さく見えている。
……が、思ったより遅い。どうやら歩兵の速度に合わせて飛行しているらしい。
しかし、これだけの魔族がよく隠れて生きていたもんだ。
さすがにこれは多過ぎる。
「ご主人様、どう戦いますか? あの数でまとめてカオテッドに向かわれるとさすがに抜けが出そうですが……」
エメリーからの進言。俺たちが前に出ての殲滅戦。
後ろに神聖国軍を控えさせ、カオテッドへの侵入を広く阻止して貰うつもりだが……確かに千体、二千体で押し寄せられると抜けられるかもしれん。
……と言うか、ヤツらはカオテッドに攻め入るのが目的なのか?
……カオテッドを潰す、もしくは占拠するのが目的なのか?
「……言われてみれば目的が見えませんね。表立って堂々と姿を見せ、大挙して攻めるのは魔族らしくありません」
「教団のカオテッド支部を潰された報復では?」
「それにしては大掛かりすぎるでしょう。何か別の目的があるように思えます」
「何かヤツらを惹きつける餌でもあったんじゃねーか?」
餌? 魔族が食いつきそうな餌……まさか!
「【邪神の魂】か!?」
「ああっ! あの時カオテッドを覆った瘴気に反応したと!?」
それならば話は分かる。教団の目的が邪神の復活であるならば、【邪神の魂】から漏れた瘴気に食いつくだろう。
じゃあヤツらの目的はカオテッドそのものではなく、俺の持っている【邪神の魂】か!?
……だったら、こちらに目を向けさせる事は出来る。それならカオテッドに抜けられる心配もないかもしれない。
……あんまりやりたくない手ではあるが。
「俺から距離をとれ! 一瞬出すぞ!」
「お、囮になるおつもりですか!?」
「ヤツらは俺たちだけで倒しきる! カオテッドには絶対に入れさせない! 主人の無茶に付きあって貰うぞ! いいか!」
『はいっ!!!』
戸惑いなく即答した。綺麗に揃った返事。
本当に得難い侍女たちだ。俺には勿体ないほどの。
厳しい戦場に無理矢理巻き込むのはこれが初めてじゃないが、それでも悪いとも思う。
しかしここで前に立たないと、俺は″彼女たちの主人″ではなくなってしまう。
だからこそ俺が前で戦う。誰よりも敵を倒す。そのつもりで。
俺は少し前に出て、<インベントリ>から【邪神の魂】を出した。
――ブワァァァァ!!!
途端に宝玉から溢れ出る禍々しい紫の奔流。それは手に持つ俺をも覆い、上空へと立ち昇る。
俺に異常はなし。侍女たちも離れているから大丈夫そうだ。
これだけ目立てばもう十分と即座に【邪神の魂】を<インベントリ>に仕舞った。
すると、小さく見えていた魔族たちに明らかな変化が見える。
どうやら飛べる魔族が数体、先行して俺の方へとやって来るらしい。
やっぱり【邪神の魂】が目当てか。狙い通りではある。
俺は急ぎ、後ろの侍女たちに指示を投げた。
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