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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
328:相性の良い敵と悪い敵
しおりを挟む■ミーティア・ユグドラシア 樹人族 女
■142歳 セイヤの奴隷 日陰の樹人 ユグド樹界国第二王女
「ぎゃあああああ!!!」
ふぅ、一段落ですね。
最後の男爵級悪魔族を撃ち抜き、私は『神樹の長弓』を下ろします。
まだ手離しませんがね。戦いが終わったわけではないので。
狂心薬を飲んだ男爵級悪魔族を十五体と言うことで最初こそ身構え、硬くなっていた部分もありましたが、囲まれ、戦っているうちに分かって来ました。
私にとって組し易い相手だと。
飛べるトロールキングという感じでしょうか。その巨躯に見合ったパワーとタフネスは言うまでもありません。
それでいて魔法を使わず近接物理主体の攻撃。体躯を活かした前衛的な動きと言いましょうか、それもまたトロールキングと似ています。
問題は翼を持ち、素早く動きながら集団で向かってくるという事。
おそらく剣戟でも拳でも、一撃を受ければいかに侍女服が優秀だとしても少なくないダメージを負った事でしょう。
しかしその【敏捷】の低さが仇となりました。
いえ、強化されているでしょうし、男爵級とは言え悪魔族なのですから遅いという事はありません。
Aランクの斥候以上に素早いと思われます。
侍女で言えばドルチェ以上。おそらくジイナくらいの速度はあると思います。
それはつまり、私にとっては問題なく攻撃を避け、距離をとれるという事。
そして『神樹の長弓』を至近距離から的確に狙えるという事。
速度と攻撃力で勝っているのですから、あとは動きながら撃つのみです。
一体二体と撃ち抜き、段々と苛烈になっていく攻撃を躱しながらも仕留めていきました。
最後の方になると空へと逃げ出す者も居ましたが、背中を見せれば撃ち抜くだけです。簡単な事。
と言う訳で、私の前に立っているのは、ただ一体の魔族――という事になります。
「ばっ、馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 男爵級悪魔族十五体だぞ!? こんな馬鹿な話があるか! なぜ生きているミーティアああああ!!!」
狼狽するのは最後衛に居た妖魔族――ゲルルド。
そこにはかつての面影も、戦闘前に見せた余裕の表情もありません。
「貴様には『神樹の巫女』としての力はもうないはずだ! 神聖魔法も! 光魔法も! 風魔法さえ失ったはずだ! なのになぜそこまでの力を有している!? それが【勇者】から与えられた力だとでも言うのか!!!」
「確かに私は『日陰の樹人』となり力を失いました。奴隷となり、国を追われ、巫女とは言えない身体となってしまいました」
全てを失った私に残されたのは″信仰″だけ。
そして樹神ユグド様と女神ウェヌサリーゼ様は、その思いを汲んで下さった。
「ゲルルド――貴方を裁くのは王家としての務め。今だけは『神樹の巫女』でもなく『ご主人様の侍女』でもなく、ミーティア・ユグドラシアとして裁きましょう。国を乱した貴方の罪を」
「くそがあああああ!!!」
ゲルルドはすぐさま逃げ出そうと試みました。全力で空へ。
今まで男爵級悪魔族がどうやって撃たれたのか見てないわけがないでしょうに。
それほどの混乱状態という事でしょう。
私はただ弓を構え、弦を引き、放つ――ただそれだけで全てが終わりました。
ふぅと一息。しかしまだ戦闘はそこかしこで行われています。
私は当初の目的通り、対空射撃に専念しなければ……と思っていた所に、黒い影が瞬時に現れました。
「ん? あれ? 終わっちゃった?」
「ネネ。そちらも終わったのですか」
「ん。せっかく援護に来たのに……残念」
「共に戦っていたサリュは?」
「ご主人様のとこ」
ご主人様……負けるとは考えにくいですが、遠目で見る限りとても苦戦しているように見受けられます。
私は私の任された仕事を熟すしかありませんが……。
「ネネ、こちらは大丈夫です。他の援護に回って下さい」
「ん。がんば」
あっという間に見えなくなりました。
もし悪魔族がネネと同じような速度で動いていたら私は負けていましたね……。
運が良かった。相性が良かった。ただそれだけなのかもしれません。
どこかへと消えたネネから空に視線を動かし、私はまた弓を引きました。
■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷(侍女長)
相性が悪い。
この公爵級悪魔族、ケイロンアドリという男と戦いながら、心の中でそう呟きます。
私の強みはご主人様の<ステータスカスタム>による均一的な能力の増加。
マジックバッグに詰め込んだ各種武器の取り扱い。
そして【魔剣グラシャラボラス】による″腐蝕″。これが主だった所です。
しかしこのケイロンアドリという男は、他二体の公爵級と違って力よりも技巧派と言った印象。
私の動きや武器の変化に対しても柔軟に対応してきます。
両手に持つ大剣のような大きさの曲剣で往なされてしまう。
ならば″腐蝕″しかないと思いましたが、これが誤算。
ケイロンアドリの操る闇の魔力に対し、【闇の魔剣グラシャラボラス】の闇――″腐蝕″の効果が効かないのです。闇を闇で相殺するように。
「随分とその魔剣に依存しているようですね。確かに危険な魔剣ではありますが――私にとっては無駄な事ですよ」
「どうやらそのようですね」
彼は自身の纏う闇の魔力を、時に武器のように、時に鎧のようにして自在に操ってきます。
それは私の四本腕による多角的な攻撃と大差なく、守れば鉄壁の防御壁となる。
攻めているのはこちらなのに、どんどんと攻め手を失っているような感覚。
追いつめられているのは実際こちらなのでしょう。
それでも手を変え品を変え、攻撃の手を緩めないでいると、近場の戦場で変化が起こり始めます。
最初に敵を片付けたのはツェン。
ツェンに先を越されると言うのは個人的に癪な所ではありますが、こちらに有利な状況を作ったという事で良しとしましょう。
そしてイブキも続きます。
私と共に公爵級と戦っていた二人が相次いで勝利。
喜ばしいのですが、それに続けていない私自身に歯がゆさを感じます。
彼女たちの相手は共にパワータイプに見えました。
イブキもツェンもそれを打ち破るパワーがあったという事でしょう。
狂心薬を飲んだ公爵級であっても、力対力であれば勝てると。
その点、私の相手は力よりも技巧ですからね。それを打ち破る程の力があれば良いのでしょうが……私が非力なのが悔やまれますね。多肢族である以上、限界はあるそうですが。
いえ、嘆いている暇はありません。私も二人に続きませんと。
ケイロンアドリを倒すにはその技巧を上回り、闇の魔力を纏っていない部分に対して武器を当てる。これしかないと思います。
その為にはどうにかして意表を突くしかないのですが……。
……ぶっつけ本番というのは気乗りしませんが仕方ありません。
「む?」
こちらの仕掛ける雰囲気を感じ取ったのでしょうか、彼は身構える体勢をとりました。
それを無視して私は若干の距離を開け、同時にマジックバッグによる換装を実行。
取り出したのは四本の黒い魔竜剣。ヒイノの剣とほとんど同じそれを四本の手に持ちます。
この戦いでまだ魔竜剣は見せていませんからね。訝しんでいるようですが、それもまた無視。
距離をとったまま私は四本の剣を交差し、即座に広げるように横薙ぎ。同時に言葉を繋ぎます。
「<<<<炎の嵐氷の嵐暴風の嵐岩の嵐>>>>」
見た目は同じ黒い直剣でも付いている魔石は四色。
それをほぼ同時と言えるほど連続して放つ。たちまちケイロンアドリを包む魔法は混じり合い爆発を引き起こしました。
四本全てを【炎岩竜の甲羅】で作った為、<炎の嵐>の威力だけ高いですがささいな事でしょう。
一発一発は取るに足りない嵐系魔法ですが、それが同時となればいかに悪魔族であっても見過ごせるものではない。
大したダメージではないでしょうが警戒するに値するはず。
まして、向こうから見れば『魔法剣に見えない黒い剣』から魔法が放たれたのです。それも四種。
【天庸】のヴェリオもそうでしたが、例え魔道具だとしても異なる魔法を同時に使うというのは普通は不可能。
二本の杖を常用しているウェルシアでさえ同時に違う魔法の行使は出来ないそうです。
私の場合<並列思考>と、この一月で魔竜剣を使い練習する事で覚えたスキル<魔力操作><精密操作><早口>を併用した疑似同時詠唱と呼べるような連続詠唱です。
ケイロンアドリにはこれが同時でなく連続詠唱だとバレているでしょう。目と耳の良さは異常ですから。
「ぐっ……!」
しかしそれを知っても同じ事。
起こった事実に驚き、対処に戸惑う。
戸惑ったケイロンアドリは反射的に闇の魔力で防御を固める。これは今までの戦いで幾度も見た光景。
闇の魔力は自在に操れるようですが、所詮は物理的な魔力。量には限界があり、それは身体全体を覆うほどではない。
それが出来ていれば最初から全体に纏って防御を固めたまま攻撃しているはずです。
現に嵐の爆発の中、見える彼は防御の姿勢のまま、急所に闇の魔力を集めている。
そこに私は突貫。闇の魔力に遮られず身体を斬りつけられる機会は今をおいて他にない。
急所は防がれている。ならば斬った所で致命傷とはなりえない。
と、それは通常の武器の場合です。当然私がマジックバッグから換装で出したのは【魔剣グラシャラボラス】。
闇の魔力を纏って振るわれる鎌のような刃は、彼の足の一部を斬り裂きました。
「ぐっ……これはっ……ぐあああああっ!!!」
そこが急所でなくても、かすり傷でも構いません。″腐蝕″は一つの傷から広がるだけ。
治すには神聖魔法が必要ですが魔族に神聖魔法などそれこそ自殺行為。
じわりじわりと足から全身へと広がる″腐蝕″に抗う術などないのです。
「ぐはっ……! それは……あ、貴女は……っ!」
「″腐蝕″の効果を持つ【闇の魔剣グラシャラボラス】。そして私は侍女長エメリーですよ、先ほど申し上げた通り」
どう足掻いても逃れる術はないと分かったのでしょう。
ケイロンアドリは逃げる素振りもせず、地に伏しました。
それを死ぬまで見続ける趣味はありません。私は再度【魔剣グラシャラボラス】を振り上げました。
「はぁっ、はぁっ、邪神ゾリュトゥア様に栄闇あれ……!」
――ザシュ
ふぅ、ようやく仕事が一つ終わりましたか。しかしこれで終わりではありません。
ツェンは泥魔族、イブキは樹魔族の方へと向かったようです。
サリュとネネの所は問題ないでしょう。ミーティアは……こちらも問題なし。
となれば……お手伝いに参りましょう、ご主人様の下へ!
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