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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
330:魔剣の威力
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
悪魔族は魔族で最強の種族。そして爵位によって見た目も能力も異なる。
という事はゴミ女神からの知識で知っているが、いかんせんその知識に″抜け″がある。
王級なんて存在は知らなかったし、その能力がスライムの身体を持つ事なんて知るわけがない。
公爵級のバフォメットが最高位だと思っていたが、まさかその上がスライムとは……。
スライムが最強とかどこのラノベだよ。
いや、確かに最強のスライムと言われてもそうなのだろうと思う。こいつ。この教皇。
狂心薬を飲んでも身体が大きくならないってのはスライムの身体なんだからそりゃそうだろう。
防御力はないに等しいが、斬った所でダメージを与えた感覚がまるでないし、攻撃にしてもイソギンチャクのように無数の触手を出しては多角的な攻撃を繰り出して来る。
柔らかいはずのそれは、どうやら攻撃時には硬くなっているらしく、周りの平原はすでに触手の爪痕だらけ。平原が荒野のようになっていた。
鞭を両手に持って、やたらめったらビュンビュン振り舞わすような攻撃。
それが両手どころか数えるのも億劫なほどに襲ってくる。
数・角度・威力・速度、どれをとっても困難な攻撃だ。
それでいて本体の動きは遅いものの、防御はスライムだからより困る。
ぶっちゃけ俺の攻撃手段は物理オンリーだから無理ゲーだ。
とは言え俺がやれる事は変わらない。避けまくり、斬りまくる。
それがダメージになっている節も見えないし、すぐに再生するがとにかく触手を斬りまくる。
もしかしたらカスダメージが入っているかもしれないし、時間を掛けていれば侍女たちが援軍に来るかもしれないし、スライムの身体の中に″核″的なものがあって、それを攻撃出来れば倒せるかもしれない。
そんな望みを持ったまま継続。<カスタム>してある【体力】には自信があるが……さてどうなることか。
それは傍から見れば何が何だか分からないような戦いだっただろう。
老人から伸びる触手は無数だが、鞭のような攻撃は速すぎて見えないだろうし、それを回避し続けている俺の姿も見えない。
だから老人の周りに風と砂埃が舞うだけの空間となっているはずだ。
これをどれだけ続ければいいのか……そう思っていた所で待ちに待った声が届く。
「遅くなりましたご主人様。足手まといかもしれませんが参戦します」
「よく来た、エメリー!」
公爵級悪魔族を倒したエメリーが駆けつけた。
早速とばかりに【魔剣グラシャラボラス】で斬りつける。
「む? なるほど珍しい魔剣だな」
斬り落とした触手の傷口から広がり始めた″腐蝕″に、すぐに危険性を感じたのだろう。
教皇はまだ″腐蝕″されていない部分から触手を切り離し、また再生し、触手を生やし直した。
つまり自分の身体を自在に分割させたり出来るという事。
そして″腐蝕″が教皇にとって危険となりうる攻撃だという事。
だったらエメリーに攻撃を任せた方が良い。
「くっ……!」
そのエメリーは触手の攻撃速度に苦戦している。なかなか思うように魔剣が振れない。
エメリーも侍女内だと五指に入るくらい速いんだけどな。この速度の戦いだとネネかティナくらいがギリギリかもしれん。
一方教皇は教皇で、エメリーを優先して倒そうかというような素振りを見せていた。
となれば俺はエメリーが攻撃に専念できるよう守るしかない。
「エメリー、俺の後衛に回れ! 俺が盾になる!」
「はいっ!」
二人パーティーで縦並び。主人が盾で侍女が剣か。
いいんじゃないか? 侍女を守るのも主人の役目だろう!
それから魔竜剣の魔法も試させる。しかしどの属性も効果はあまり見られない。
もしかしたら物理より効いているかも、くらいだ。
だったらやはり″腐蝕″頼みだな。出来れば本体に当てたい所だが……。
■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
泥魔族部隊の指揮官、渦巻きの模様が描かれたお面を被ったような顔。
子爵級悪魔族のメゾルートという名前らしい。そう名乗られた。
「私は【黒屋敷】専属鍛冶師のジイナですっ!」
「鍛冶師……? 鍛治師が前線で魔剣を振るうのか……くくくっ、なんとも滑稽な話だ」
笑われた。でも本当の事だし。
でもこっちを馬鹿にするくらい、この悪魔族は実際強い。
今まで倒してきた泥魔族や淫魔族といった雑兵とは訳が違う。
さすが悪魔族、さすが子爵級と思える。
ツェンさんより大きな背丈から繰り出されるパワーに加え、翼もあって機動力がある。
武器は槍。その使い方も熟練の槍士を彷彿とさせるものだ。
さらに闇魔法を多用する。動きながら<闇の波>や<闇の弾>が飛んでくる。
なんとなくラピスさんと戦っているような気がしてくるほどだ。
対して私は前衛らしく足を止めて【魔剣マティウス】を振るう。
槍には対処できるが、魔法には若干の難がある。斧で受けるが、それでもダメージは通る。当然だけど。
<カスタム>された侍女服と、【抵抗】にCPを振って貰っているおかげだ。
ご主人様の力がなければ私はこの場に立っている事さえ出来ないだろう。
とは言え、ジリ貧なのには変わらない。
メゾルートは私の戦い方を理解したのか、魔剣から放たれる氷を避ける事を第一に、距離をとっての<闇魔法>を多用するようになってきた。
私が相手の立場でもそうしただろう。私は斧を持った純然な前衛なのだから。
でも、少し距離をとったくらいでは甘い。
今、ご主人様の侍女に『近接以外に何も手立てがない』という者は居ない。もちろん私もだ。
以前の魔竜槌から【魔剣マティウス】に変わって、攻撃範囲が狭くなるなんてありえない。
私はマジックバッグから素早く鎖を取り出す。エメリーさんに散々作ったミスリル製の鎖だ。
それを【魔剣マティウス】の柄尻にジョイント。
以前に【鉱砕の魔法槌】でも同じ改造したが、それを【魔剣マティウス】にも施している。
鎖を持って振れば、遠距離用の斧となる。
「貴様……魔剣にそのような事を……!?」
メゾルートが余計に距離をとった。
でも射程範囲だ。私は鎖を持ちつつ、【魔剣マティウス】を投げつける。
メゾルートはその機動力で私の投擲を避けた。そこまでは良かった。
でも驚きがあったのか、判断は若干鈍った。回避は十分とは言えない。
確かに投擲された″斧″は避けたが、″魔剣の効果″からは避けられていない。
鎖の長さは十分にあるし、ミスリルは魔力の伝導媒体として優秀。だから鎖から魔力を通せば手から離れた【魔剣マティウス】の氷も発動するのだ。楽しみつつも散々練習した成果。
メゾルートの近くに刺さった魔剣は瞬時に周囲を凍らせる。
「何っ!? ぐあっ!!!」
捕らえた。足の一本が斧から溢れる氷と一体化した。
足を止めればこっちのもの。相手が避ける事の出来ない距離ならば前衛として戦える。
あとは魔剣の魔力を継続させたまま振るうのみ。
……まぁ発動させたまま斬ろうとすると私の足元とかも凍っちゃうけど、お互いに足止めされた状況なら問題ないでしょう。
さあ、超至近距離での攻防を始めますか!
「くっ……! 貴様ああああ!!!」
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