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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
331:優勢、劣勢、そして加勢
しおりを挟む■ティナ 兎人族 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
樹魔族という魔族を相手にするのはとても面白いです。
枝とか根っこがビュンビュン向かってきて、それを避けながらどんどん斬っていきます。
獣帝国との戦争の時は「殺しちゃダメ」って言われましたけど、今回は言われていません。魔族は殺していいという事なのでしょう。
だからトレントみたいな魔族をどんどん斬っていきます。
木々の隙間を縫うように動いて、効果的に攻撃するというのは、とっても良い訓練になります。
私も双剣になって<流水の心得>を得てから、迷宮や訓練場で何度も練習し、ご主人様から色々と教わったりしてますが、今回はそれが活かされている上に、この戦い自体がとってもいい訓練になっていると思います。
自分でもどんどん動きがよくなっているのが分かります。
そんな時、どうやら指揮官の悪魔族の人が来たらしく、私が相手するよう、お母さんから言われました。
悪魔族の人はみんな強いと聞いているのでとても楽しみです。
「ケケケッ、なんだ、場を荒らしてるのが誰かと思えば、兎人族のガキとはな。ま、【勇者】の僕である以上、油断はしねえが……いくらなんでもなぁ」
その人はお顔が全部ツブツブで出来た人でした。
子爵級悪魔族のモルモルダスという名前だそうです。ツブツブの人です。
私もちゃんと「ご主人様の侍女のティナです」と答えました。
ツブツブの人は直剣。でもトロールくらい背が高いので直剣も大剣くらい長いです。
かと言ってイブキお姉ちゃんみたいにパワータイプには見えません。多分、【敏捷】が高い。それと魔法もありそうです。
やっぱりご主人様との訓練を想定した方がいいですかね。念の為。
「明らかにガキだし弱え種族だし、さっさと倒しちまいてえ所だが……やっぱその構えを見るに油断はならねえな。ケケケッ、こりゃとんでもねえガキが居たもんだ」
だから私は双剣の剣先を下に向け、力を抜きます。身体は相手と正対。
これが一番動き出しと対処がしやすいと学びました。
ツブツブの人は鋭い動き出し。剣を振りかぶってからの斬りつけ、その動き自体も速いです。
……まぁ速いと言ってもエメリーお姉ちゃんよりちょっと遅いくらいでしょうか。避けるのは問題なし。
「っ! ――しっ!」
そこからの斬り返し。上手い。技術もあるという事ですか。
でもそれこそエメリーお姉ちゃんの技術の高さには敵いませんし、ご主人様の速さに比べれば全然です。
ご主人様の場合、技術どうこうじゃなくて、強引で力任せな剣戟がとんでもなく速いですからね。
未だに一発も当てられません。
でもこの人くらいなら大丈夫です。
避けるついでに左手の剣でかち上げ、右手の剣で突いてみます。
「ぐっ! マ、マジかよこいつ……とんでもねえなあ!」
いい感じで入りましたがすぐに反撃してきます。
元から強いのかお薬で強化されているのか、やっぱり【防御】も高いんですね。
私の場合、武器がレイピアなのでどうしても斬るより突く方に身体が動いてしまいます。
魔竜剣ですから斬ろうと思えば斬れるんですが、クセと言うか馴染んだ動きと言うか。これも課題の一つです。
と考えつつも避けては突き、避けては斬りと繰り返します。
「がはっ! なんなんだよおめえは……はぁっ、はぁっ、ヌルヌル動きやがって……全然当たる気がしねえ、くそがっ」
すごく良い練習相手なんですけど、あんまり時間を掛けているわけにはいかないですね。
今も後方ではお母さんたちが頑張っています。
早く終わらせて駆け付けないといけません。
だから――さようなら。ありがとうございました。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
スライムの身体を持つ王級悪魔族、教皇ヴェルディッシオ。
物理耐性も魔法耐性もあるのだろう。狂心薬の強化による影響もあるのかもしれない。
しかしそれでも″腐蝕″は効く。
やはり【魔剣グラシャラボラス】の効果は破格だ。その分取り扱いの危険度が段違いだが。
俺はエメリーと前後の関係で固まっている。
教皇はやはりエメリー狙いらしく、盾役の俺を避けるように上下左右からエメリーへと触手を伸ばす。
それを斬りまくるのが俺の役目だ。
「邪魔な存在だな【勇者】よ。その動きと体力は確かに【勇者】級と言えるかもしれんな」
軽口を叩く余裕はあるらしい。
そりゃそうだ。俺たちはヤツの本体に″腐蝕″を与えたいのに、ずっと距離を保ったまま触手を伸ばして攻撃しているだけだ。
それを掻い潜り近づきたい所だが、触手の勢いが凄すぎて近寄れない。
正確に言えばエメリーを守ったまま近づく暇などない、という事だ。
このままだと触手は″腐蝕″出来るが、そこは切り離され、本体に″腐蝕″が届く事はない。
どこかに隙を見出せれば――そう考えていた時、さらなる援軍が来る。
「<聖域結界>!!!」
サリュだ。ネネと二人で悪魔族数体相手に戦っていたのは知っていたが、どうやら全てを倒し、すぐにこちらへ駆け付けたらしい。
そして近づくや否や、先制とばかりに女教皇ラグエルでさえも使えるか分からないと言う神聖属性の大魔法<聖域結界>を放った。
範囲魔法ではあるものの効果範囲はサリュを中心として一部屋分ほどと極めて狭い。
しかしその効果は破格。あらゆる状態異常を治すと言われている。
状態異常だけでなく相手に掛けられた能力向上や能力低下まで解けるというのは、これまで迷宮で実験して試している。
つまり教皇に対しては――
「何っ!? くっ……これはっ!?」
狂心薬の効果が消えた――はずだ。身体の大きさが変わらないからまだはっきりとは分からない。
しかし教皇が今日一番の驚きを見せた。
そしてこちらへと向かって来ていた触手にも変化が見られる。
その速度と本数が見るからに減ったのだ。間違いない。狂心薬で強化された効果は消えている。
「サリュ、よくやった! 俺の後ろに来い!」
「はいっ!」
尻尾をブンブン振りながら、エメリー以上の速度で俺の後衛へと位置取りした。さすがだな。
「俺が盾になる! エメリーはグラシャラボラスを継続! サリュは<聖なる閃光>を撃ちこめ!」
「「はいっ!」」
視界の端に入っていた戦いでもサリュの<聖なる閃光>は効いていた。狂心薬を飲んだであろう悪魔族を相手に。
元より悪魔族の弱点は神聖魔法。
王級なのだから耐性も高いのかもしれないが、狂心薬の効果の解けた教皇に効かないわけがない。
「くっ……こうなれば……!」
それを察したのか、教皇は変化を始めた。
今まではスライムの身体を見せてもローブを纏う老人の形は保っていた。
その手足から触手を出し、攻撃していたのだ。
しかし人型からグネグネと変化を始める。教皇としての拘りだったのかは知らないが、老人の見た目を捨てるという事だろう。
そうして現れたのはまさしくスライムめいた何か。
二メートルほどの浮かぶ粘性の球体。前世のゲームで見た水の精霊のようにも見える。
そこから伸ばす触手はまさしく無数。今までは手足の部分から伸ばしていたが、今度は球体の身体全体から触手が生えている。
それはもうスライムというよりマリモのようなもの。
確かに狂心薬の効果は切れたのだろうが、だからこそ出した本性と言うべきか。
いずれにせよ触手の本数は異常に増した。
こうなると俺は益々守りを固めざるを得ない。
速度は下がったが、手数が段違いなのだ。エメリーもサリュも独力で避けるのは難しいだろう。
エメリーの″腐蝕″はともかく、サリュの<聖なる閃光>は撃たせたい。
俺は二人を守る為、より奮闘する事になる。
狂心薬の効果が切れたのだから、出来れば守りながらも徐々に近づき、本体に″腐蝕″を入れたかった。
隙を見て<聖なる閃光>を入れたかった。
しかし今は前に出ることすら許されないようだ。
さすが教皇と言うべきか。一筋縄ではいかない。
それでも俺が守れば守るほど、二人に余裕は生まれる。
「<聖なる閃光>!!!」
俺の後方から極太の光線が放たれる。幾度も見た光景だ。
それは前方の触手群を飲み込み、教皇の本体、球体部分に命中した。
「GUOOOOO!!!」
あの形状だとろくに喋れもしないのか。しかし聞こえる唸り声は痛がっているようにも聞こえる。
球体に穿たれた孔は即座に<再生>しているようだ。
それでもダメージになってはいるのだろう。そう思いたい。
「いいぞ、サリュ! 隙を見て狙っていけ!」
「はいっ!」
そうはさせじと、教皇の触手攻撃は一掃苛烈になり、今度はサリュ個人を狙うようになっていった。
俺は完全に防御。エメリーでさえサリュを守って魔剣を振っているような状態だ。
優位に立ったと思ったらすぐに返される感覚。進んでいるのか戻っているのか、何とももどかしくなる。
と、そこに黒い影が現れた。
俺以外には目にも止まらぬ速さであっただろうそれは、サリュに迫る触手との間に入り込み【魔剣パンデモニウム】で斬り裂く。
「ん。来た」
「よし! ネネ、サリュの守りを固めろ! <聖なる閃光>を撃つのを邪魔させるな!」
「ん……はい」
よく来てくれた。サリュと一緒に戦って、その後はどこかの援軍に行ったと思ったら、どうやらこっちに来てくれたらしい。
正直助かる。
教皇の触手攻撃を防ぐのに適しているのは、おそらく【敏捷】特化の俺・ネネ・ティナくらいだろう。
盾役のドルチェとヒイノでも防ぎきるのは難しそうだ。
これで盾が三枚。攻撃をサリュに任せる土台は出来上がった。
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