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最終章 黒の主、聖戦の地に立つ
最終話:【黒の主】と20人の侍女
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
戦争から数日。
各国の援軍が国元へ帰り、カオテッドの街は幾分かお祭りモードから日常へと戻って来た。
本部長は獣帝国とのやりとりや各国・各地区への対応なども含め忙しそうだが、迷宮組合としては通常営業。
もっとも迷宮に休日などないので、戦争が終わった組合員たちは稼ぎ目的で潜らざるを得ないのだろうが。
戦争に参加した組合員に褒賞は与えられたらしいが、働いていない組合員の方が断然多いのだろうし。
ともかくカオテッドはカオテッドらしく、組合員が今日も迷宮へと挑戦している。
うちの隣の博物館は戦争時にはさすがに休館としたものの、昨日からまた営業を再開した。
展示するものが変わったわけではないが、戦争での俺たちの活躍を受けて、再び入館者が殺到しているらしい。
館長のセシルさんも運営には慣れていたがさすがに予想外で、昨日はうちからも侍女を派遣する騒ぎとなった。
喜んでいるのはアネモネと本部長くらいのものだ。フィーバーもほどほどにして欲しい。
俺たち【黒屋敷】としても日常を取り戻している。
戦争で得たCPが大量すぎて使い道に悩む事はあるが、今の所使ってはいない。
俺の喪服や侍女服が破損した者も居るが、一応替えもあるし、新たに<アイテムカスタム>をするまでもないという現状。
<ステータスカスタム>にしてもさほど必要性を感じないし、あまり上げ過ぎると主人である俺を越えそうな侍女も居る為、躊躇している部分もある。
主人としての威厳は保たなければならない。うむ。
そんな侍女たちの今日の様子はどうかと言うと、こんな感じ。
エメリーは今日は屋敷で侍女仕事だな。
家事を分担するにしてもエメリーがメンバーに居るのと居ないのでは、侍女たちの動きにかなり差が出る。
やはり侍女長様は格が違う。実際何でも出来るし、やろうと思えば一人で屋敷の全ての家事を出来てしまうと思う。
俺としても何でもエメリーに頼ってしまうきらいがある。ここも考え所だな。
イブキは他五人と共に迷宮に行っている。
CPは大量にあるが魔物部屋マラソンが日常化しているようで、定期的に迷宮に入って魔物部屋に行かないとウズウズする面々が居るらしい。俺が嗾けておいて何だが重症だと思う。中毒だな。
イブキはそんな侍女たちの戦闘リーダーとして今日は迷宮だ。何だかんだ言ってイブキがパーティーに入ると引き締まる。
サリュも今日は迷宮だ。
【天庸】戦でもそうだったが今回の戦争で改めて<聖なる閃光>の連発などを衆目に晒してしまった為、組合員や衛兵の間ではかなり有名な存在になっている。
噂によると影では聖女扱いされているとか。狼人族の聖女とか……マジかよ。
ミーティアも珍しく迷宮組。
珍しくと言うのは、自分から率先して迷宮に行きたいと言い出したからだ。
やはり樹界国軍から集団で崇め立てられるのはフラストレーションだったのか、発散したいらしい。
元々『神樹の巫女』だったのだからそういう立場に慣れているはずなのだが……すっかり侍女として馴染んでしまったという事だろうか。
もしくは魔族戦で新たな戦闘スタイルを見出したか。聞けば獅子奮迅の活躍だったらしいし。
ネネは今日は屋敷の警備だな。
庭も含めて広い屋敷の敷地範囲、さらに門前の博物館には今日も長蛇の列という事で、不審な輩が屋敷の方に入らないよう警戒しておかないといけない。
この範囲、ネネであれば一人で十分に賄える。何かが起きても瞬時に駆け付けられる。やはり斥候として優秀すぎるな。
本人としては戦争の時に指揮官を暗殺しまくったのが嬉しかったらしく、また殺させてくれ的な事を言われた。……そんな機会は早々ありません。
フロロも迷宮に行っている。
本人は庭いじりをしたかったらしいが、迷宮組の中に後衛が不足していたからとエメリーが指名していた。
俺としてはイブキに次ぐ、戦闘のサブリーダー的なポジションを期待している。何だかんだで司令塔として優秀だと思う。
誰にでも物怖じせずにズバズバ言える性格と戦術眼は貴重だ。本人はあまり乗り気ではないが、なるべく戦闘経験を積ませたい。
ヒイノは屋敷でキッチンに籠っている。
ジルドラ殿下が遊びに来た時に疑似ワッフルのアイスクリーム乗せを出したが、それ以来、ワッフルの改良に夢中だ。
ヒイノの場合、料理全般に興味があるっぽいが、ことデザートに関してはメルクリオとすごく話が合う。ジルドラ殿下もテンション高かったし。
メルクリオが魔導王国で甘味研究所を立ち上げたらヒイノを派遣するのもアリかもしれない。
ティナは迷宮だな。これは割と普通。
毎朝俺は一部の侍女たちとは訓練場で一対一をやっているが、イブキやツェン以上にティナがヤバくなっている。
俺が最初に一本をとられるとすれば、おそらくティナだろう。それくらいの剣の冴えを見せている。
やはり双剣にして正解だった。そして<流水の心得>も。いずれガーブの【剣聖】を継いでもおかしくない。
ツェンはネネと共に屋敷警備。
ネネ一人でも問題はないが基本的には二人体制なのだ。休憩時間には地下訓練場でズーゴさんたちと訓練したり、果物を潰して酒を仕込んだりと、結構好き勝手にやっている。
<インベントリ>に入れてある風竜の肉も少なくなってきたから竜を狩りに行きたいんだが、確か竜人族の里が北のマツィーア連峰の近くなんだよな。
連峰には竜が出るって聞くし、今度案内がてら行ってみるってのも手だなーと考えている。
ジイナは相変わらず鍛治工房に籠っている。
戦争が終わりみんなの武器のメンテナンスも終わったが、二つばかり仕事を頼んでいる。
一つは販売用の魔竜剣の製作。販売と言ってもメルクリオと同じくバルボッサや身内に売る為のものだ。あまり強力なものは作れない。
もう一つは魔剣に並ぶほどの魔竜剣の作成。これは課題。ユアと協力してじっくりと取り組んでほしい。
ポルは今日は畑仕事と庭の手入れだ。それと家事だな。
戦争終了後に南東区のコゥムさんの所に訪れて何やら話し合っていたらしいが、どうやら泥魔族の泥を回収していたらしく、それを農業に活かせないかと相談していたそうだ。
で、コゥムさんのプロの意見によれば、とんでもない肥料に化けるかもしれないと。
ポルはそれから意気揚々と畑作業に従事している。野菜がさらに旨くなれば俺は嬉しい。
ドルチェは実家との仲介が激しくなっている。
元々魔族襲来で避難に追われた北西区だが、ドルチェの両親は特に避難などもせず店を一日閉めただけで問題なかったらしい。
それはいいのだが、俺たちが戦争で活躍しすぎた事でコスプレ衣装の注文が殺到。北西区が黒く染まりそうで怖い。
これでは俺たちの普段着や博物館用の制服作成にも難が出る為、ドルチェを手伝いに回している。落ち着くまで頑張ってくれ。
アネモネはウェルシアと共に博物館の方を手伝ったり、ユアの錬金補助をしたり、エメリーと共に家事をしたりと忙しい。
商売っ気が人一倍あるから楽しそうではあるが「ふふふふふ……」と不気味な笑いを浮かべている。
戦争で魔族相手に有効打がなかったのが本人的には納得いってないらしく、それ以来、ユアに頼み込んで闇属性以外の攻撃手段について模索しているらしい。
結局苦労するのはユアなんだろうが……まぁ強力な魔道具が出来たらラッキーだよな。
ウェルシアは博物館のお手伝いが主な仕事。
フィーバーが収まるまでは仕方ないのかもしれないが、セシルさんもウェルシアを頼っている所もあり、今日もお手伝いしている。
本人としては迷宮も家事も商業も、同じように重要らしく、全体的な上昇志向がかなり高い。
だからこっちも便利に頼ってしまう所もあるが、今度ちゃんと労ってあげないといけないな。
シャムシャエルは家事。主に総合神殿の掃除を重点的にやっている。
戦争が終わり、本国への報告はバササエルさんからも行うらしいが、だからと言ってシャムシャエルが報告書を出さないわけにはいかない。
今回の戦争に関しては報告書が分厚くなったようで、伝書鳥を何羽も使っての報告となっていた。酷使しすぎだろ。
俺はその報告書の内容を読んだわけではないが、下手な事が書かれていないように願うしか出来ない。
マルティエルは同じく家事だな。
こちらは戦争でミーティアの戦い方に感銘を受けたらしく、同じ弓使いとしてもっと精進しなければと迷宮行きを望んでいた。が、今日は屋敷で家事だ。
ただミーティアは元々、遠近両用の上に『神樹の長弓』を持っているからこそ出来る戦い方なのであって、マルティエルとは根本的に戦い方が異なる。
だから諦めろ……とは言えないけどね。上を目指すのは悪い事ではないから。頑張れとしか言えない。
ラピスは屋敷で家事……なのだが、どうも海王国への報告書をおざなりにしていたらしいので、今日は無理矢理書かせている。
海王国にはこっちからの依頼で獣帝国の帝都を攻めてもらった手前、俺としては非常に申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。汚れ仕事を頼んでしまったと。
しかし当の王女様はそれを気遣う素振りも見せず、お祭り騒ぎの街で遊んでいた。この野郎。
今度、俺が菓子折り持って海王国に行かなければならないかもしれない。国王陛下に会ったら謝ろう。
ユアは錬金工房で籠りっぱなし。
戦争で消費したMPポーションの補充、俺の依頼した超強力魔竜剣の作成、アネモネから依頼の強力魔道具作成など課題は多い。
本人は引き籠り体質と言うか、工房に居ると落ち着くらしいので嬉々と籠っている。
ちなみに戦争で魔族の大群相手に魔法をブッパしてたから怖がりも改善されたのかと思ったら、そうでもないらしい。迷宮は迷宮で怖いと。改善への道のりは長そうだ。
パティは迷宮に行っている。
ネネが居なくてもちゃんと斥候として役立っている。本人は師匠が偉大すぎる為、まだまだと思っているようだが、Aランククランの斥候と比べてもすでに別格だと思う。
まぁ元々才能が誰よりもあったし、そこに加えてネネの指導があったわけだからな。俺の<カスタム>もあるし。成長しないわけがない。
これでまだ発展途中だというから恐れ入る。暗殺者としてはともかく、迷宮の斥候としてはネネを越える日が来るかもしれない。
リンネは家事……ではあるが、結構な頻度で博物館に顔を出している。
中庭でリュートの弾き語りをしているのだ。それも反響を呼び、今ではかなりの人気となっているらしい。
当然の如く、歌う題材は戦争――″カオテッドの聖戦″とか言われているらしいが、ともかく今回の戦争の英雄譚だ。
俺の侍女が自分たちの英雄譚を歌ってどうする、と言ってはみたが本人がマイペースな上、客の反応も良いらしい。
セシルさんからも継続を依頼されているほどだ。是非歌ってくれと。それで客が入るからと。……反対派は俺だけの模様。
と、こんな感じで侍女たちは忙しい。
俺は特に仕事はないが、本部長やメルクリオと話し合いは頻繁に行っているし、博物館のレイアウトを考えたり、娯楽室で読書に励んだり、ヒイノと前世の料理の再現に悩んだりと色々やっている。
第一あまり外に出たくないのだ。
外に出れば英雄扱いされ、今まで以上に注目の的になっている。
それまでは遠巻きに声を掛けるだけだった人たちも、握手をせがんできたり、笑いながら肩を叩いて来たりとスキンシップが激しい。
元日本人の俺に欧米的な接し方はちょっと辛い。
というわけで屋敷に居るのが多いわけだが、この日は昼過ぎに来客があった。
ネネが俺の元へとやって来てこう言う。
「ご主人様、ティサリーンが来た」
「ティサリーンさんが?」
奴隷商館の大店の店主であるティサリーンさんがわざわざここに来るなんて事は今まで一度もない。
嫌な予感が一気に増す。
しかし来てくれたのに会わないという選択肢もないわけで、俺は応接室でティサリーンさんを出迎えた。
そして戦争の活躍に対する労いなど、色々と褒めてもらったあとで彼女は言う。
「ここの所、セイヤ様はお忙しそうで全然足を運んでくれなかったではないですか~。実はセイヤ様にぴったりのお勧めしたい娘がおりまして、ご紹介出来る機会がないと思っていたんですわ~。――五名ほど」
ごっ……!?
~Fin~
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