カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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after1:五人の新人侍女

1-15:ご主人様による奴隷いじめ・前編

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■カイナ 虎人族ティーガル 女
■19歳 セイヤの奴隷


 侍女教育、家事仕事、そして戦闘訓練。それは十日ほどに渡って続けられた。

 先輩たちに比べて迷宮に潜るまでの準備期間としては相当長い方だと言う。普通は最低限の戦闘技術だけを身につけた状態で迷宮探索を”体験”するそうだ。
 フロロさんなどは「我は特訓もなしに侍女となった翌日から潜らされたぞ」と恨めし気に言う。戦闘経験もほとんどないのにと。
 それは考えるだに恐ろしいが、フロロさんの頃に比べれば今は恵まれた状況なのだと言いたかったのだろう。


 準備期間が長くなったのは理由がある、らしい。
 まずはあたし達が五人も居るので足並みを揃えるのが難しかったと。別にバラバラに潜っても良かったとは思うが、そこはご主人様とエメリーさんがあたし達に気を使ってくれた感じだ。一緒がいいだろうと。


 侍女教育や家事仕事に関してはあたしが一番遅れていた。……いや今も遅れてはいるが。
 クェス、キャメロは理解が早く、コーネリアは騎士精神でどうにか熟している。
 問題はあたしとケニだ。教育も家事も足を引っ張っていると自覚している。ホント申し訳ない。


 しかし侍女教育や家事よりも徐々に戦闘訓練の時間が伸びている。
 単純にあたし達が弱いってのもあるし、斥候訓練も入る。【黒屋敷】独自の連携というのも理解しないといけない。
 前にイブキさんも言っていたが、あたし達が元組合員であるが故に、その常識に囚われ、余計に準備期間が長引いていた。

 あたし達は初めて戦闘訓練をしてから危機感を持った。
 考えていた以上に【黒屋敷】の面々は強く、あたし達とは竜とゴブリンの差がある。それ以上かもしれないが。

 このままではいけないと部屋で五人で話し合い、早起きして自主訓練する事にした。
 一部の先輩方――イブキさんやネネちゃんなど――は毎朝行っているらしく、あたし達の訓練も許可された。
 自主訓練に加えての戦闘訓練。そこまでやって尚、準備期間が長かったという事だ。情けないけど。


 ある日の早朝訓練でご主人様も見に来た。定期的にイブキさんと朝練するらしい。


「はあああっ!!!」

「お? いいな。切り返しが速くなった」

「まだまだあっ!!!」

「おお、いい一撃。さすがだな」


 その光景をあたし達は五人揃って眺めていた。目口を開けたまま閉じられなかった。

 あたしの攻撃を軽々と受け、一歩も動かす事の出来ないイブキさん。
 その全力――殺す気で掛かる連続攻撃を、ご主人様は黒刀一本で受け続ける。余裕の表情で。

 黒刀が神器だというのも知っているし、ご主人様が【黒屋敷】最強というのも知っている。
 しかし……まさかこれほどとは……。


 ややあってイブキさんは攻め疲れた時のあたしのように動けなくなった。ご主人様は汗一つかいていない。

 続いてネネちゃんとも模擬戦――という名の殺し合い――をしていたが、これはもう全く見えない世界だった。どっちも速すぎる。
 キャメロやケニにして残像が見えるレベルなのだとか。
 キャメロはネネちゃんに指導を受けている身だが、それでも驚いていた。指導中は全然本気じゃなかったんだと。


 と、そんな一通りの朝練が終えたご主人様はあたし達の朝練も見てくれた。
 模擬戦だったり的への遠当てとかだが、それを見つつアドバイスもくれる。


「コーネリアは姿勢が良いから盾受けがしっかりしているように見えるな」

「ハッ! ありがとうございます!」

「リンネあたりと模擬戦やると良いかもな。変則的かつ敏捷が高いから。イブキ、攻撃は?」

「まだまだですね。騎士の一撃を模倣しているようで一撃重視の鈍重な攻撃といった所でしょうか」

「なるほど。コーネリア、やっぱり剣が良いのか? 槍とかは?」

「ハッ! や、やはり騎士には剣かと思いずっと剣を佩いて来ましたが、ご主人様のお望みとあらば……」

「いや、無理に変える必要はない。剣が好きなら剣にすべきだ。どうかと思って聞いただけだから」

「ハッ! ありがとうございます!」


 コーネリアはずっと剣と中盾に拘りを持ってるからなぁ。それが騎士だと。
 槍を持ってる騎士だっているだろうに何故か剣が好きらしい。まぁ恰好は良いと思うけど。


「ケニは長弓使えるようになったじゃないか」

「ご主人様が<カスタム>してくれたおかげですー」

「まだ迷宮行ってないから本格的な<カスタム>ってわけじゃないけどな。あとは単純に距離、威力、命中率、それと装填速度か」

「器用、攻撃、敏捷でしょうか」

「その中だと器用が一番かな。威力や距離は後からついて来るし。ネネ、索敵は?」

「んー、パティの最初の時より狭い」

「いやパティと一緒にするなよ。まぁ迷宮で実践して確かめた方がいいか」


 ケニは長弓がやっと扱えてきたのと同時に斥候の訓練も重点的に行っている。
 飛びつつ<視覚強化>による視認。それと<魔力感知>だ。どちらも期待されている。
 羨ましいと思う反面、大変だなぁとも思う。


「その点キャメロは当時のパティより動きはいいな。戦闘能力は高い」

「あ、ありがとうございます」

「んー、でも索敵がダメダメ。耳は良いけど察知がダメダメ」

「ネネちゃん師匠が厳しい……いやボクも自覚あるけど」

「将来的にパティ以下の斥候能力だとしても身体能力が上ならいいかな。種族で考えれば猫人族キャティアンの方が小人族ポックルより動けるはずだし」

「ん。んじゃそう鍛える。パティをタイマンで倒せるように」

「うぇっ!? また厳しくなる予感!?」


 キャメロの斥候訓練は傍から見ているこっちが「うわぁ」となる感じだ。
 【黒屋敷】の斥候は優秀とは聞いていたけど、その師匠であるネネちゃんが厳しすぎる。
 さすが暗殺系種族の闇朧族ダルクネスと言うか、訓練から『生きるか死ぬか』を念頭に置いているように思える。
 能力的な部分はともかく、キャメロは日に日に精神的にタフになっているようだ。


「クェスは杖に慣れたか?」

「あ、はい。どっちもすごい杖で申し訳ないんですけど一応は……」

「風は? その杖で撃ってるんだろ? 火属性の杖だと使いづらいか?」

「い、いえ、むしろ違う属性の杖の方が威力が小さくなって安心すると言いますか……私はすごく使いやすいです」

「そうか。闇の杖はいいとして、風と火は魔石を採りに行かないとなー。三階層と四階層に」

「ええっ!?」


 クェスは風の杖を持っていないが、クランに期待されているのは風魔法使いらしい。
 今現在ウェルシアさんしか居ないらしいし、特に三階層では風魔法が重要だと聞いた。
 その為クェスに掛かる期待は大きいのだが、本人は火魔法しか使った事がない上に、風魔法用の杖は持っていない。

 風魔法にしても闇魔法にしても未経験なので、アネモネちゃんとウェルシアさんが座学をしながら教えている。
 クェス本人も娯楽室の本を夜に読んでいる事が多く、魔法使いの勉強は本当に大変そうだ。


「カイナは? 武器は慣れたか?」

「えっと、多分……はい」

「イブキ、どんなだ?」

「カイナ自身が攻撃偏重。それも一撃重視で防御や連動する動きが疎かになりがちです。長柄の斧は防御にも向いているはずですが有効には使えていませんね」

「なるほど」

「今は私へと連撃させ、五回に一度くらい反撃をしていますが、どれもまともに食らいます」

「反撃が来ると分かっていても食らうのか? それはイブキの反撃の仕方が悪いのではなく?」

「ウェアウルフロードの攻撃を意識していますので、あの速度の振り下ろしのみですね」

「そうか。うーんどうしたものか」


 なんかホントすみません。あたし攻撃バカで。
 イブキさんが強すぎるから意地でも一撃入れてやるってなっちゃうんだよな。それで防御が疎かになる。
 威力を籠めたくなるから体重が全部乗っかって、次の動作に移るのが遅くなる。

 分かっちゃいる。だから連撃出来るようにはなった。――でもそれだけだ。

 迷宮への準備期間が長引いているのもあたしが原因だと思っている。
 こんなポンコツがサブリーダーだったとか笑わせる。あたしはみんなより弱いってよく分かったよ。
 もっと早くに気付いていれば――。


「カイナは元々攻撃も敏捷も高い。だから俺としては『攻撃重視の敏捷アタッカー』をイメージしている。ジイナとリンネの中間くらいだな。少なくともジイナ以上の速度とリンネ以上の攻撃力は欲しい」


 ご主人様はあたしを見てそう言う。こんなあたしに期待していると。


「一撃に拘るのも悪くないが虎人族ティーガルの特性とカイナのステを見るともったいないんだよな。そういうのはイブキとかジイナの仕事だから」

「私もさすがに防御はしますよ?」

「イブキが防御も上手いのは知ってるよ。基本的な戦闘スタイルの話だ。で、攻撃一辺倒のカイナにどんな訓練をすべきか……」


 ご主人様はあたしを良くしてくれようと頭を悩ませている。申し訳ないし心苦しい。
 腕組みをしたまま「うーん」と唸ると、何か思い至ったようで顔を上げた。


「よし、鬼ごっこするか」

『おにごっこ?』

「ネネ、サリュ連れてきて」

「ん……はい」



■イブキ 鬼人族サイアン 女
■19歳 セイヤの奴隷


 またご主人様が妙な事を言い出した。
 時々あるのだ。亀を見つけた時に「よし、釣るか」とか言い出したり。
 結局はよく分からない事に振り回されるわけだが、結果だけ見ればどれも功を奏しているから不思議だ。

 そして今回は「鬼ごっこ」だと言う。
 カイナの戦闘訓練を担当していた私への当てつけか、はたまたオーガの真似事でもするのかと思えばどうも違うらしい。
 どうやらご主人様の元いらした世界で子供が遊ぶ追いかけっこのようなもの……の発展形を考えているようだ。


 ともかくネネが超スピードでサリュを連れて来た。
 新人五人とサリュは、何となく気まずいままだ。挨拶や多少の会話はするが和気藹々と話す感じではない。
 やはり『白い忌み子』に近寄りがたい部分があるのだろう。獣人系種族ならではだと思うが。

 そう考えるとヒイノとティナは最初からサリュと仲が良かったな、と思う。
 ティナはともかくヒイノは『忌み子』の噂を知っていてもおかしくはないが……まぁあの時はヒイノが散々な目に会っていたからな。店の片付けを手伝ったりしていたサリュに好感をもったのかもしれない。

 ご主人様も五人とサリュの関係は知っているだろう。
 それなのに呼んだというのは何かしら意味があるとは思うが……。


「じゃあカイナ、鬼ごっこ始めようか」

「は、はい……それでその鬼ごっこって……?」

「普通の鬼ごっこは鬼が追いかけて、タッチすると鬼が入れ替わるんだ。交互に追いかける感じだな」

「はぁ」

「で、今回は俺が鬼。カイナに攻撃する」

「えっ」

「カイナは武器が俺に触れたら勝ち。死んだら負けだ」

「えっ」


 つまり、ご主人様がオーガのごとくカイナを殺しに掛かると。カイナは殺される前に武器をご主人様に当てないといけないと。そういう事らしい。

 ……それ、大丈夫なんですか?


「もちろん本気は出さないぞ? 黒刀も峰打ちだ。でも攻撃はちゃんとするしダメージも与える。そうしないと意味ないからな」

「いやいやいや! さっきのご主人様の模擬戦とか見てるとあたし死ぬと思うんですけど!」

「その為のサリュだ。サリュ、カイナを死なせるなよ? 体力も常に満タンにさせておけ」

「わ、分かりました」

「カイナは俺の服でも刀でも、とにかく斧で触れれば勝ちだからな。どうにかして当ててみろ」


 有無を言わさずご主人様は距離をとり、刀を構える。
 カイナも気圧されて斧を構えるが……緊張、不安、絶望、そのどれもが表情に浮かぶ。


 もう一度言いますけど……大丈夫なんですか、これ?


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