カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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after2:海王国に行こう!

2-10:近衛兵さんは大変なんです

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■フロロ・クゥ 星面族メルティス 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面


 王都アクアマリンから南へと三日の距離。
 それを我らは二日で来たわけだが、王都からはかなり離れていると感じる。
 周りには海以外に見えんしどれほどのものかは分からんが、それでも相当離れたと。

 ここが海王国の領土なのかと言われると曖昧らしいのだが、少なくともシーサーペントは王都周辺にはおらず、この近辺からはぐれたものが十年に一度くらいしか来ないと。
 なるほど、これだけ離れれば、そう頻繁に襲われる事もないのだろうなと思わせるには十分であった。


「お? 見えましたよー」


 マストの上からケニの呑気な声でやっと辿り着いた事を知ったのだが、ケニは<千里眼>だからこそ見えるのであって我らが視認するまでにはまた時間を要した。

 もちろん前衛組がずっと櫂を漕ぎ続けたわけではないし、我らが<送風>をし続けたわけではない。
 夜もちゃんと停泊して眠った。その上でようやく着いたかと息を吐いた。
 大河を下るのと違って目的地の見えない大海原を進むというのはしんどいものなのだ。


 ともかくそうして見えたのは想像していた『島』とは少し違った。
 陸があり、緑が多少なりともある『島』を思い描いていたわけだが、まるで海中からトゲが何本も突き出たような『岩の塊』であったのだ。


「これが【水竜の島】……か?」

「そうらしいわね」

「ホントに水竜なんて居るのかよ。どこに住むんだ?」

「知らないわよ。そう言われてるわけだし」


 ご主人様とラピスがそう話しておる。
 いずれにせよシーサーペントの住処があるのは確かなようで、近くに寄ったら海中から索敵し順次倒していこうとなった。
 水竜が居たとして、それを相手するにもシーサーペントを排除してからの方が良いだろうしのう。

 我らはそのつもりだが、近衛兵の三人は「本当に戦うつもりなのか?」と未だ困惑気味だ。
 これまでラピスが戦ったのは見ているはずなのだが、どうもシーサーペントとなるとまた話は変わるらしい。
 まぁ亜竜とも言われるそうだからのう。普通の魚の魔物とは一線を画すか。


 しかし我らが亜竜と聞けばファイアドレイクやワイバーンなどを連想してしまう。
 散々戦ったからのう……今さら苦手意識を持つわけがない。

 強いて言えば船上で戦うのが厄介という所だが、やろうと思えばご主人様が<空跳>で単騎討伐しても良いし、シャムたちが空から強襲しても良い。ラピスが水中で戦っても何とかなるのでは? とも思う。
 全員が無理して戦う事もないし、我も見学で終わりそうだな、という所だ。


 まぁ近衛兵に同じような余裕を持てと言っても無駄だろう。我も常識人であるが故に、そういった考えが【黒屋敷】独特のものであるというくらいの分別はある。Aランク組合員とて亜竜を前に余裕で居る者などおるまい。それが常識というものだ。常識人である我は理解しておる。


 しかしサフィアは知識としてシーサーペントの事を知っていても実際の力など知らないのだろう。
 余裕の表情を浮かべるサリュたちと同調するように楽し気にしておる。


「ようやく戦えますね! シーサーペントってどのくらい強いんですかねー。私の出番があるといいんですけど」

「んー、私は無理っぽい。泳げないし。近づけないし」

「サリュちゃん、ネネちゃん! 頑張って下さいね!」

「サフィアちゃん、動いちゃダメですよ? 甲板の端とか行かないようにね」

「はいです!」


 微笑ましい。微笑ましいが今から亜竜の群れを退治するのだという緊張感は皆無だ。
 本当に子供たちが遊びに来ているように見えるから困る。

 ……まぁご主人様的には実際娯楽気分なのだろうが。


 お? そうこうしているうちにお目当てのシーサーペントが来たようだのう。
 まずは五体か。大きさはやはり【大炎蛇】ほどではないが黒船より大きいのには違いない。

 エメリーは早速鎖付きショーテルを取り出した。
 釣るのかのう……やっぱり。



■サモネル 人魚族マーメル 男
■285歳 アクアマロウ海王国近衛兵


 海王国にとって勇者様というのは英雄的象徴のようなものであり、その御方の下につき、共に戦うという事は代々受け継がれていた悲願でもあった。

 今、この時代に勇者セイヤ様が降臨されたのは国を挙げて喜ぶべき事であり、それが陛下の口から公言された時の王都はまるで祭り騒ぎのようになったものだ。

 ラピス殿下が先んじて【聖地カオテッド】へと赴き、彼の御方の僕となった事は僥倖とも言えた。
 同時に奴隷となった事に対して「ラピス殿下が奴隷に!?」と驚かされる事態となったが。
 下につくのは悲願であっても第一王女殿下を奴隷とするのは少し違うのでは、そう考えた者は私を含め少なくなかった。


 とは言え、【カオテッドの聖戦】と呼ばれるあの大戦にラピス殿下は海王国代表として参戦し、我々は共に戦う事は叶わなかったものの獣帝国帝都の制圧という使命を全う出来た。
 多少ではあるが聖戦に関われた事に嬉しくも思う。


 そんなラピス殿下が勇者様と共に帰郷する。
 報せを受けてからの王城は慌ただしくもあったが、一方で「派手に歓待しすぎるとご迷惑になる」という陛下からの言もあり、あくまで国賓を迎え入れる程度の態勢を整えるに留まった。
 まぁ我らが王都アクアマリンに国賓が来る事自体が稀なのだが。


 私は近衛として陛下のお傍で共に勇者セイヤ様を出迎えた。
 港町アイオライトから出航したとの連絡を受け、すぐに出迎え準備を整えた。

 そうしてやって来たのは一隻の大型船。
 軍船ほどではないが大商人の扱う船などよりも余程大きいだろう。
 船首には黒い女神の像。そして大きな帆には『後光を差した女神様の紋』が描かれている。
 だれが見ても『女神の使徒様の船』だ。
 おお、と思わず声を上げたのは私だけではない。

 タラップから下りて来たのは真っ黒の基人族ヒューム。話に聞く風貌だ。

 その後ろに多くのメイド。ラピス様は戦闘用の泳服だが、他は全てメイド服で統一されている。
 二四人。ラピス様を入れれば二五人もの僕も抱えているという事か。
 しかもその陣容がまた多種多様。
 私の見た事のない種族がこれでもかと居る。やはり天使族アンヘルが目立つが。


 陛下を先頭に膝をついて出迎えたわけだが、勇者様方も同じく膝をついてご挨拶された。
 あくまで平民、組合員として来ているので、陛下に対しては膝をつきますよという意思表示だ。
 やはり派手な歓待はしない方が良いという陛下の言は正しかったのだろう。
 とは言え勇者様である事ははっきりしているわけで、敬意を持って接しなくてはいけない。難しいところだ。

 結局はラピス様が間に入る事で壁が取り払われたように距離が近くなったわけだが……ラピス様はやはりラピス様のままなのだなぁと思った次第だ。

 この御方は昔から城を抜け出しては中層で買い食いし、王都を出れば勝手に出泳ぎ、シーサーペントが王都に迫ってきたと警戒の報が入れば勝手に付いて来る始末。

 自由が過ぎるというか、王族らしくないというか。考え方も行動も。
 実際戦闘の才はそこらの騎士以上のものを持ってはいるのだが……。


 その後の会談の席でも部屋の隅で色々と聞かせて頂いたが、正直内容は私にとって想像出来ないものだった。
 ダンジョンというものが大陸にしかないので、そこで最高ランクと認められていると言われてもピンとこない。
 しかしその中に巣食うドラゴンを討伐したとなれば、やはり規格外の強さを有しているという事なのだろう。

 当時、騎士以上の強さを持っていたラピス様が【黒屋敷】というクランにおいてはダントツで弱く、それから修行を重ね、シーサーペントをお一人で倒せるほどの強さを得ても、【黒屋敷】の中では上位に入れないほどだと言う。

 私たちにも分かりやすくお話になったのだと思うが、余計に信じがたいものになった。


 そんな勇者様方が【水竜の島】に行くというのでまた驚いた。
 しかもサフィア様もお連れしてシーサーペント退治に行ってくると気軽に言うのだ。ついでに水竜が居ればそれも、と。

 仮に海王国軍三千で行ったとしても【水竜の島】のシーサーペント退治というのは被害がどれほど出るか分からない。

 全てを倒しきるというのは不可能だし、おそらく逃げるように撤退するはめになるだろう。
 そして追撃を受ければ壊滅もありうる。
 そういう相手なのだ。【水竜の島】のシーサーペントというのは。


 私としては陛下にお止めして頂きたかった所だが、どうやら説得はならなかったようだ。
 勇者様やラピス様をはじめ、ほとんどのメイドの方々が余裕の表情をされていた事で、止めるに止められなかったらしい。
 一部「ひぃぃぃ」と恐怖の表情を浮かべる人も居たようだが。そういった我々に近い感性をお持ちの方は稀なようだ。


 ともかく勇者様方と共にサフィア様も随行なさるとの事で、我々近衛も三人ではあるがご一緒させて頂く事になった。

 陛下からはサフィア様の保護と緊急時の王都への伝令が第一だと言われている。
 海王国としては勇者様第一に考えるべきなのであろうが、サフィア様が唯一の非戦闘員なのだからそれは当然の事なのかもしれない。
 ちなみに伝令が入ればすぐに派兵出来るよう、軍備は整えている。


「うわぁ~! 王都がどんどん離れていきます!」

「サフィアちゃん、あんまり甲板の端に行くと危ないですよー」


 サフィア殿下は王都から外出した経験もなく、またメイドの方々の幾人かとご友人になられた事で随分楽し気だ。

 ラピス様と違い、王家の義務を何十年と毎日こなしていらっしゃるサフィア様にとっては、こうして王都の外に出るのも、他種族とは言えご友人を持つ事も得難い経験だろう。
 それを叶えて下さった勇者様には近衛の私であっても感謝の念を覚える。サフィア様は兵にとっても華なのだから。


 ……とは言え、その経験を【水竜の島】で得るというのはどうかと思うが。

 ……楽し気にしていらっしゃいますけど本当に危険なんですよ? サフィア様、絶対ご存じのはずですよね?


 勇者様方が余裕の表情というのが一番大きいのだろう。
 サフィア様も英雄たる勇者様を全面的に信用している節もある。
 もちろん私もその力を疑っているわけではないが、果たしてどれほどのものかと想像出来ない部分もまた大きいのだ。

 まぁ出航してすぐに色々と改めさせられる部分が多かったのだが。

 どれほどの力を籠めているのかと思わされるほどに櫂を漕ぎ、帆には風魔法もかくやと言わんばかりの風を当てる。
 そうして進む船は驚くべき速度だ。よく船が破損しないものだと逆に船の方に感心するほど。


 本来であれば我らが船を先導して泳ぐべきなのだが、サフィア様の護衛が第一という事もあり、ラピス様が率先して先導して下さっている。
 仮にも王女殿下を道案内のように使うというのは許されざる事ではあるが、この船の速度で尚且つ海底の地形の確認と周囲の魔物の対応を同時に行うなど我ら三人が協力した所で土台無理だ。
 ラピス様はお一人でよくやれるものだと感嘆の溜息しか出ない。
 本当にお強くなられたのだなぁと、それだけで思わされる。


 ……そうこう言っているうちにホワイトシャークとか狩りだすし。

 ホワイトシャークは【白き漁獣】と呼ばれ、海王国の民にとっては身近でありながら恐怖の象徴のような魔物である。
 我らも近海の魔物を狩るし、普通に魚を獲ったり、日々漁を行っているわけだが、ホワイトシャークに関しては『漁』される側なのだ。我らを餌と見て襲い掛かって来る。

 シーサーペントとまでは言わないまでも特に注意すべき魔物であり、見つければ直ちに軍が隊でもって事に当たる。
 十分な戦力を揃えて対処しなければならない相手なのだ。

 が、ラピス様はあっという間に見つけて、あっという間に倒したらしい。

 土産とばかりに船の甲板に放り投げるその腕力にもまた驚きだが、それを瞬く間に消した・・・セイヤ様にも驚きだ。
 甲板に投げ入れられる前に、見えぬ速度で近づき、おそらくマジックバッグに一瞬で収納した。その一連の動き。

 我ら三人は呆けるしか出来なかったわけだが、すぐ近くのサフィア様は危険な事態だったと分かっていらっしゃらないのかキャッキャと喜んでいらっしゃった。
 姉君であるラピス様の大捕り物。勇者セイヤ様のフォローの動き。
 それだけでなく、サフィア様の周りに居るメイドの方々がごく普通にしているから余計だ。


「ラピスお姉ちゃんばっかずるーい」

「ラピスさん張り切ってますねー。サフィアちゃんが居るからですかね」

「ん。あれは食べ応えありそう。夕食が楽しみ」


 当たり前の事のようにそんな話をしているのだ。
 サフィア様もそれに感化されて「これくらい普通の事なんだ」と思われている節がある。これはマズイ。要報告だ。

 とは言え、我々からセイヤ様に何か言う事など出来るわけがない。「ちょっと自重して下さい」などと口が裂けても言えない。
 何とか今回の『サフィア様、初めての外出』を無事に乗り切る。それだけを考えるしかないだろう。


 そんな気の休まらない船旅は二日目を迎え、予定よりもだいぶ早く【水竜の島】近海まで来てしまった。
 ちなみに夕食で出されたホワイトシャークは美味だったと言っておこう。あんなの滅多に食えるものではない。

 警邏と海流の関係で王都から離れるほどに魔物は強さを増すが、【水竜の島】の近くともなると逆に魔物は減る。

 シーサーペントが群れている所にのこのこと近寄る魔物は少ないからだ。むしろ遠ざける。
 とうとうそんな場所まで来てしまったのかと溜息を吐きたい所ではあるが、より一層サフィア様を守らねばと気を引き締めた。


「サリュ、イブキ、サフィアと近衛兵さんたちを守るようにな。万が一にも怪我させるわけにはいかないぞ」

「はいっ!」「ハッ!」

「サフィア、見学してても良いけど甲板の端には行くなよー」

「は、はいっ!」


 サリュ殿というのが白い狼人族ウェルフィンの娘だ。年齢はどうだか分からないが背丈や雰囲気が近いのでサフィア様と一番仲が良い。
 昨日から、船に乗ってからもほとんど一緒に居る。
 そうした関係でそのままサフィア様を護衛するように、とセイヤ様は仰ったのだろうが……我々の立場がない。

 と言うか護衛に就けるにしても年若い娘で大丈夫なのだろうか。近接戦闘特化の狼人族ウェルフィンのはずが装備しているのは杖だし。
 いや、私がセイヤ様に苦言を呈する事など出来ないのだが。

 そして我らの傍に立つのは鬼人族サイアンの娘。額の角は折れているが、その佇まいは騎士のそれと変わらない。
 背中の大剣が何とも禍々しく、かつ豪華に見える。
 サフィア様をお守りするのならこちらのイブキ殿の方が適任なのでは……?


 そんな事を考えているうちにも船は【水竜の島】へと近づく。
 最早ラピス様も甲板で戦闘準備に入っている。先導する必要などない。

 ちなみに半数ほどのメイドの方々はメイド服から水着になっている。おそらく戦闘用装備でもない普通の水着だ。
 これで戦うというのだろうか……シーサーペントと?

 これだけの少人数、船は一隻、防具は普通の水着。
 シーサーペントが相手であればそれが一体だったとしても危険だ。海王国の者ならば誰であっても全力で逃げるべきだろう。

 だと言うのに、この方々は余裕の表情のまま船を進める。
 この先に居るのが一体どころではなく群れであると確定しているのに。

 今さら船を退かせるわけにはいかない。忠言も出来ない。
 ならばせめてどうか一体ずつ戦える状況であって欲しい。
 少しでも有利な状況で何とか――


 ――という淡い希望は、瞬く間に打ち砕かれた。


「おおー! 来た来た来たー!」


 セイヤ様は甲板から身を乗り出し、歓喜の声を上げる。
 我々の目でもそれが確認出来た。
 前方、【水竜の島】方面から向かって来る巨大な蛇――その数五体。

 いや、最初に接近してくるのが五体なだけで、後続として向かって来ている何体かも居る。
 地獄だ。
 こんなのが王都に迫れば、脱出も出来ずに壊滅必至となる事請け合い。
 絶望を絵に描いたような光景が我々の眼前に広がっている。

 だと言うのにセイヤ様たちは……


「よーし! じゃあ作戦通りにいくぞー! エメリー、釣りの準備はー?」

「すでに万端です」

「じゃあシャムシャエル、マルティエル、ケニ、頼むぞー!」

「「「はい!」」」

「全員一発は入れるようになー! 俺ももう出るからー!」

『はい!』

「ご主人様! 私一匹もらうわよ!」

「構わんが水中でのフォローも忘れんなよー! サフィアの前だからって良い恰好しようとすんなよー!」

「了解よ!」


 さすがに気楽すぎるのではないですか? セイヤ様……。


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