385 / 421
after3:纏いし炎は最強の証
3-7:白炎の愉悦
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
あー、グレンさんめっちゃつえー。
ステータスで圧勝してるはずなのにな。俺の動きを捉えて、それに対して剣で捌くと。
経験と技術の差がデカすぎると思うんだけど、そこをステータスのゴリ押ししか出来ない俺が競り勝つってのは厳しい。
まぁガーブとの戦いでも感じた事だけどな。だからスキル多用と黒刀に頼ったわけだし。
ガーブは武蔵を連想させたけどグレンさんは小次郎っぽい。物干し竿的な長剣。もちろん西洋剣だけど。
ガーブほど動き回らず、俺の攻撃に対して剣捌きで対応しつつのカウンターといったスタイルだった。
でも俺の攻撃・敏捷が乗った剣戟をあそこまで見事に捌けるものかと。
おかげでこっちの体勢が崩れたり、流されたり、カウンター食らいそうになったりと大変だった。
エメリーとイブキも戦わせてもらった。グレンさんが望んだ事だけど、こっちにとっても渡りに船だ。
結果はグレンさんの勝ち。スキルやら魔剣やら使えていれば別かもしれないけど、それはグレンさんも同じ事だし。
二人とも俺との模擬戦はやっているけど、それ以上の何かを得られたと思う。
「イブキは基本に忠実だな。好みの剣筋だ。しかし一撃の重さに賭ける部分が大きい。それはそれで悪くはないが、それが捌かれた時の対処が甘い」
「はい、仰る通りです」
「エメリーは凄まじいな。多肢族と戦った事はなかったが四本腕がこれほど戦いにくいとは思わなかった」
「ありがとうございます。それでも対応されてしまいましたが」
「セイヤと同じく経験の差だな。剣筋は読みやすく、四本とは言え片手で振る分どうしても軽くなる。連続攻撃するにしても変化が欲しい」
「はい」
という事らしい。俺は彼女たちの主人ではあるが、戦い方を教える事は出来ない。
もどかしい気持ちもあるが、それ以上にありがたいと思う。
「セイヤ、良ければセキメイも戦わせてやってくれんか?」
「わ、私もですか!?」
「うむ、セキメイも私以外にまともに仕合える相手が居ないだろう。それでは修行にならん。しかしここならば相手に困る事はない。しかも戦い方の違う強者がゴロゴロと居るのだ。こんな機会は早々ないぞ」
セキメイは個人でAランク。いや、グレンさんがSランクって聞いた時も「パーティーかクランかな?」って思ったんだけど、どうやらソロらしい。それでSランクとかAランクとか凄すぎる。よく迷宮に一人で潜れるもんだ。
そんなセキメイも当然剣士としてかなりの高みに居る。
魔物相手ならばともかく対人となると相手に困ると、それは確かにそうだろうな。
で、結局やる事になったんだが、セキメイの力量を知った上で相手を選んだ方が良いだろう。
セキメイ的にも「父上とあれだけ戦えたセイヤ殿やエメリー殿、イブキ殿と戦うんですか!?」って感じになってたし。
そんなわけで検証役としてキッチンのヒイノを呼び出した。
「えっ……その、彼女は料理長と言ってなかったか?」
「料理長ですけどうちの盾役です。セキメイの攻撃を受けて計るならば適任かと」
「ふむ……兎人族の盾役というのもあまり聞かないが……」
グレンさんもセキメイも訝し気。そりゃそうだろうな。昼食の時に料理長として紹介したから。
でも魔剣の性能を抜きにしても、盾受けならば一番上手いと思う。
防御ステだけ見ればドルチェがメイン盾なんだけど、上手さはヒイノ。魔剣の性能を含めればドルチェ以上は確実だ。
ともかくヒイノには攻撃禁止で盾受けだけに専念するよう指示を出した。
一方でセキメイには本気で攻撃しろと。何なら纏炎族の炎を使っても良しと。
ヒイノの装備は『炎岩竜の小盾』で炎耐性あるし、いざとなれば魔剣で防げばいい。
渋っていたセキメイにもそういった説明をした。ヒイノは結構乗り気だ。
「はあっ!」
――キンッ! キンッ! キンッ!
そうして始まった模擬戦めいた何か。セキメイは大剣ばりの長さの長剣を操り、ヒイノに連撃を仕掛ける。
しかしヒイノはそれを冷静に対処。受けるよりも逸らしたり<パリィ>したりと無難に捌く。
結局、ヒイノはほとんど動く事はなかった。下がらされる事もない。これぞ盾役だな。
「見事なものだな。あれを崩すのはセキメイには無理だろう。これが兎人族の料理長と言うから恐ろしい話だ」
「元はパン屋だったんですけどね」
「どんなパン屋なのだそれは」
グレンさんとそんな話をしていた。
で、攻め疲れたセキメイを置いて、ヒイノに感想を聞いてみる。
「えっと、剣の扱いの巧さだったらイブキさんに勝るとも劣らないと思います」
「だろうな」
「総合的な強さで言えば……うちの前衛攻撃陣だと、カイナちゃん、コーネリアちゃん、キャメロちゃんには勝ちますね。近接だけに限ればパティちゃんにも勝てるかもしれません。リンネちゃんだとどちらが上か悩ましい所ですかね。ポルちゃんやラピスさんは省きますけど」
恐ろしい話だな。
<カスタム>してるうちの連中に勝てるってだけで、そこいらの組合員よりも断然強い。
カイナやコーネリアにしたって【魔導の宝珠】の前衛とタイマンしたら勝てると思うし。
と、そんな感想を持っているのは俺たちだけで、当のセキメイとグレンさんは「それしか勝てるのが居ないのか」と驚いている。
そりゃそうだろう。長年研鑽を積んできたんだろうし、師匠はグレンさんなわけだし。
グレンさんはもちろんだがセキメイも敵なしの状態だろうから。剣の達人であるのには違いない。グレンさんが居るから霞むけど。
「セイヤ、すまないがしばらく間借りするわけにはいかないか? もちろん金は払う。出来るだけここで鍛錬させて欲しいのだが」
グレンさんからそんな声が。
こっちとしては有り難い話。俺の方からお願いしたかったくらいだ。
グレンさんは俺たちにとっての師匠になるし、セキメイの技術もこちらが学ぶ所は多いだろう。
まぁ向こうからしても良い修行相手だろうしな。ウィンウィンの関係だ。
「うちの客間で良ければ使って下さい。食客って感じで歓迎しますよ。金はいらないんで、代わりにうちの連中に指南をお願いします」
「ははっ! 願ってもない話だ。有り難く受けさせて頂こう」
よしよし。<カスタム>以外の部分で成長出来る機会だ。これは有効に使わないと。
俺も真面目に剣技を身に付けないとな……どうにも不安があるが、主人としていい恰好はしたい。
となると二人が屋敷に居座る前提で色々と考えないと。
「ヒイノ、しばらく食事は二人分追加な。カトラリーとか確認しておいてくれ」
「はい。今日は歓迎会ですね。例のお肉使います」
「エメリー、備品とか確認しておいてくれ。客間も使えるように」
「かしこまりました」
「あ、グレンさん、客間は二人同部屋でいいですか? 分ける事も出来ますけど」
「気にしないでくれ。私たちは寝床さえあれば納屋でも構わん」
一緒に住む感じだと、俺の素性とか<カスタム>の事を隠しつつとなるだろうが、そこにさえ気を付ければ大丈夫かな。
夕食後の侍女たちの<カスタム>は俺の部屋で個別にやる事にしよう。
そんな事を考えていると、入口の方からぞろぞろと侍女たちがやって来た。
どうやら迷宮組が帰って来たらしい。もうそんな時間か。模擬戦に熱くなってたな。
「なっ……! 竜人族に天使族だと!?」
グレンさんとセキメイはツェンとシャムシャエル、マルティエルに驚いた模様。わりとよくある反応だ。
竜人族が基人族の侍女奴隷とかおかしいし、天使族は基人族を保護する立場だ。
おまけにどちらも閉鎖的な種族だそうだから、お目に掛かる事なんて早々ない。
まぁ侍女の紹介は改めて夕食時にでもした方がいいだろう。全員集合している時にな。
それはともかく、ツェンや天使組よりも俺はグレンさんに紹介しておきたい。
「ティナ、ちょっとこっち来い」
「はーい」
ビュンと俺の隣にやって来た。
「ティナ、この人たちはしばらくうちのお客さんだ。纏炎族のグレンさんとセキメイ」
「はじめまして! ご主人様の侍女のティナです! 兎人族の八歳です!」
「あ、ああ、グレンだ。こっちは娘のセキメイ。よろしく頼む」
「よ、よろしく……」
俺はティナの頭を撫でながらグレンさんに言っておく。
「グレンさん――この娘がガーブの【剣聖】を継ぐと思います」
「……ほう」
グレンさんの目がギランと光る。
セキメイは「はあ?」という顔。
ティナは「?」となっていた。
10
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる