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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-2:準備は念入りに、からの出発!
しおりを挟む■コーネリア 熊人族 女
■18歳 セイヤの奴隷
「コーネリアちゃん、そんな固くならなくて大丈夫だよ。肩肘張ってると緊張が馬にも伝わっちゃうらしいし」
「ハッ! 申し訳ありません、ジイナ殿!」
「いやもう、その返事が固いんだけど」
鉱王国の街道を進むのは四台の馬車。
三台目の馬車の御者台で手綱を握っているのが自分だ。隣にはジイナ殿が座り、色々と教えて頂いている。
馬を駆る、馬車を操るというのはいかにも騎士という感じがして心が躍る。
奴隷となって絶望していたのに、ご主人様に買われてからは夢のような事ばかりが起きる。
<カスタム>により力を得て、装備も最高級品ばかり。頂いたものばかりではあるが間違いなく理想の騎士に近づいていると思う。
そして今回の馬車だ。今回の旅に際し北西区の商業組合で馬車を借りたわけだが、ご主人様に「誰か御者やりたいやつ居るかー?」と聞かれ、真っ先に挙手してしまった。
憧れがあったのだ。馬車を御するという事に。騎士と馬は切っても切り離せない。
以前に魔導王国に行った際にも馬車旅だったと言うが、その時は【魔導の宝珠】の方々も同行していたとかで、御者をする侍女の方々も限られていたらしい。
元々出来ていたのがエメリー殿、イブキ殿、ウェルシア殿。
その旅の中で新たに習得したのがネネ殿、アネモネ殿、ヒイノ殿、ジイナ殿という事だ。
自分に教えて下さっているジイナ殿もそれ以来馬車には乗っていないとかで、改めて慣れる意味でも交互に手綱を握る事になっている。
しかし今は教えてもらっている最中だ。クェスよりも小柄なジイナ殿の存在が何とも心強い。
今回の旅の目的は色々とあり、計画段階から実際に出発するまで、準備には時間を要した。
海王国へ行った時や長期探索に赴いた時と同様、庭と畑の手入れを南東区のコゥム殿にお願いし、屋敷の警備もズーゴ殿たち【八戒】の方々に指名依頼をした。もちろん他にも傭兵組合経由でお願いし、数組の傭兵団で警備をしてもらう格好だ。
ただ警備に関しては博物館の盛況が続いている為、なかなか難しい部分がある。
中央区の傭兵組合だけでは屋敷と博物館の警備を賄い切れず、周囲四区の傭兵組合にも依頼をしたが、例によって応募が殺到し逆に困ったらしい。
黒屋敷関係施設の警備は金銭面で見ても仕事内容で見ても人気があるらしい。黒屋敷自体、カオテッドでは英雄扱いされているから余計にだ。
なんでも最近は引退した迷宮組合員や周囲四区の魔物討伐組合員がこぞって傭兵組合に登録するそうだ。
しかし品行方正で実力のある傭兵団にしか警備は頼んでいないらしいから、別に傭兵組合に登録したからといって黒屋敷関係の仕事に就くとは限らないのだが。
まぁ危険な組合員を続けるよりもマシなのは確かなのかもしれない。
博物館の盛況ぶりについてだが、やはりその原因は黒屋敷の五階層到達。
これはカオテッド中の大ニュースとなっていた。組合員はもちろん、一般人も話題にしている。自分も買い出しなどに出掛ける際にお店の店員などから騒がれたものだ。
騒がれた所で、自分など大した働きも出来ていないので恐縮してしまうのだが。
いくら迷宮都市であっても、組合員でもない一般人がこれほど騒ぎ、話題にしているのは異常だ。
しかもその内容が、あの魔物がどうとか、あの地形がどうとか、装備がどうとか。組合員もかくやと言わんばかりの口ぶり。
これは開業してから延々と一般客が博物館に訪れ、迷宮の仕組みやカオテッド大迷宮についての予備知識を蓄えた結果なのだと思う。
カオテッド住民は一般人でさえ迷宮に詳しい。主に第一展示室の説明ボードのおかげだ。
そこへ持って来て黒屋敷が四階層の全貌をほぼ見せつけ、さらには前人未踏の五階層到達。これに騒がないカオテッド住民は居ない。
というわけで我も我もと博物館に押しかけ、リニューアル以降、満員御礼が続いている。
そんな中、自分たちは旅行に出る。
目的が迷宮制覇や竜狩りなので、自分としてはとても旅行を楽しめる感じではないのだが、侍女の先輩方は皆どこか楽し気だ。
組合のスペッキオ本部長殿も、ご主人様から旅行計画を聞かされた時はかなり渋い表情だったらしい。
それはそうだろうとも思うのだ。
中央区に拠点を持つクランであり、カオテッド一番の観光名所の経営者であり、カオテッドの象徴的な英雄でもあり、替えの利かない最高戦力なのだから。スペッキオ本部長殿としてもあまりカオテッドを離れて欲しくはないだろう。
とは言え迷宮組合は不帰属組織で黒屋敷も一組合員に過ぎない。本部長殿は命令を言える立場ではないし、ご主人様も命令を聞く立場ではないのだ。だからある程度自由を容認されている部分もある。
まぁ本部長殿に頼まれればご主人様は喜んで力を貸すだろうし、逆に何か言われてもご主人様は自由に動きそうな気もするが。
ともかく本部長殿には道中の迷宮組合への通達をお願いしたとか。
いきなり我々が行くと『訳の分からんSSSランクと名乗る基人族と侍女の集団がやって来た』となってしまう。
グレン殿の話を聞くに『カオテッドでSSSランクが誕生した』とは広まっているらしいが、黒屋敷がどんなクランなのかというのは、どこまで広まっているのか疑問だ。
そういう意味でも本部長殿に事前に伝えてもらったほうがいいだろう。
同時にご主人様たちは北西区のバンガル区長殿のもとを訪れていた。
「旅行で鉱王国の街に寄って行きますので一応お伝えしておきます」と。
あとで騒がれるよりも事前に伝えておこうという配慮だったらしい。
「なるほど。しかし下手に各街に伝えてしまうと大層な持て成しをしそうな領主もおりますな。カオテッドの英雄が来た、SSSランククランが来た、他国の王族が来たと。セイヤ殿はそういうのは……」
「あー、勘弁して欲しいです。我々はただの組合員なので出来れば余計に騒がれる事なく普通に寄り道とさせて頂きたいです」
「でしょうな。でしたらそれも含めて釘を刺しておきましょう」
「すみません、助かります」
バンガル区長殿は鉱王国の貴族で、カオテッドが出来た当初から北西区を切り盛りしている御方らしい。
ただの組合員が会おうと思っても会える相手ではなく、親身になって話を聞くなど以ての外だ。
しかし聖戦やその事前会議を経て、バンガル区長殿のご主人様を見る目は変わった。他の区長殿たちもそうらしいが、接し方も、貴族が組合員にするものとはまるで違うものになったと。これはエメリー殿が誇らしげに話していた。
バンガル区長殿からは鉱王国の地図も見せてもらい、それで細かいルート選定なども行ったらしい。
その結果、道中にある迷宮都市は二つと判明。
ザラという街にある小規模迷宮と、トルテーモという街にある中規模迷宮。
ご主人様は旅行の寄り道感覚で、この二つの迷宮を制覇して行くと夕食の席で言っていた。すごく簡単そうに。
いやまぁ、実際に制覇できるのは確かなのだろうが、自分たちは迷宮を制覇した経験などないわけで、どこか不安な部分もある。
もちろんカオテッド大迷宮の四階層や五階層を経験しているから、あれに比べればどの迷宮の迷宮主だろうが弱く感じるのだろうとも思うが。
ともかくそうして計画を練りつつ、移動手段の為の馬車も手配した。
これは北西区の商業組合を通して用意してもらった格好だ。
「【黒屋敷】の皆さんが乗られる馬車ですか!? お、お任せ下さい! すぐにご用意致しますっ!」
「いやいや、実際に借りるのはちょっと先です。今日は契約と下見だけで」
北西区の商業組合はかなり丁寧な対応だったらしい。
さすがはご主人様と言うか、カオテッドの英雄と言うか。
北西区の場合、聖戦の際に魔族の軍勢に一番迫られたのが北西区であった事と、話に聞く【天庸】襲撃事件でイブキ殿が奮闘した事から、黒屋敷に対する敬意みたいなものが一番高い地区だと言う。
ドルチェ殿の実家があるというのも商業組合的には一つの要因なのかもしれない。
ともあれ馬車はすぐに用意され、下見もその日のうちに出来たらしい。
六人乗りの馬車を四台。御者台に座る事も考えれば総勢二八人でも事足りる。荷物はマジックバッグと<インベントリ>だし。
「へー、馬は一頭ずつなんだな」
「ご主人様、魔導王国に行った時の馬車とは全く違いますので。これでも最高級の馬車です」
「そうか。じゃあ今度こそドルチェのクッションが必要かもな」
ご主人様とエメリー殿でそんな会話があったらしい。
魔導王国に行った際は、メルクリオ殿下と共に行くとあって、国章入りの王族専用馬車だったそうだ。
なんでも水魔道具の層が衝撃を吸収する造りになっているとかで、豪華な上にかなり重い。馬は二頭立てだったとか。
それに比べれば貧相なのかもしれないが、今回の馬車も大商人クラスが借りるほどの高級品には違いない。
で、自分は今、その馬車の御者台に座っているわけだ。ジイナ殿と共に。
少なくとも自分はこんな立派な馬車に乗った事などないし、恐縮する一方、その御者台に座り手綱を握る自分がまるで本当の騎士になったかのようで非常に楽しい。
まぁ侍女服を着ている時点でどこからどう見ても騎士ではないのだが気持ちの問題だ。
「いやだから力みすぎだって。手綱引く事ないから。力抜いて」
「ハッ! 申し訳ありません、ジイナ殿!」
「馬も優秀だから道を覚えてるし、前の馬車に付いて勝手に進んでくれるからね?」
「ハッ! 承知しました!」
「はぁ……姿勢が良いから様にはなってるんだけどなぁ……」
姿勢が良いと褒めて頂いた。恐縮です! より一層精進します!
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