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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-3:自由気ままな馬車旅
しおりを挟む■キャメロ 猫人族 女
■16歳 セイヤの奴隷
「ん、ウルフ四体発見。行く」
「ちょっ! 速いです師匠!」
「いや、パティちゃんも速いって! 待ってよ!」
鉱王国の街道を北上する四台の馬車。
ボクらはそれに並走しつつ、ネネちゃん師匠が息抜きとばかりに魔物を察知しては狩ったりと繰り返している。
最初は良かったんだよ。みんなで馬車に乗ってさ、話したりトランプしたり。
とてもこれから迷宮を制覇したり竜を退治しに行くだなんて思えないほど楽し気な旅行だった。
きっかけはご主人様だ。突然「ちょっと走るわ」と言い出した。
「いややっぱあの時の馬車と比べると揺れが酷いな。走った方が楽だわ」と。
ご主人様は魔導王国に行く為に使った王族仕様の馬車にしか乗った事がないらしい。元の世界でも乗った経験がないという事だろう。
ボクも馬車に乗った経験なんて魔物討伐組合の依頼で一度と、それこそ奴隷になってカオテッドに送られた時くらいしかないけど、それでもこの馬車が酷いとは思えない。
揺れも少ないし、座り心地は良いと思う。高級な馬車なんだなと。
でもご主人様からすれば乗り心地が悪いのだろう。
で、同じようにただ座るだけというのが暇だったティナちゃんとツェンさん、ラピスさんが追従。
走ると言っても馬の速度に合わせているので、一階層の魔物部屋マラソンよりも遅いペースだ。ほとんど早歩きと変わらない。
ただツェンさんの<気配察知>を利用しているのか、魔物を見つけるや否や街道を離れて狩りを楽しんでいた。
その様子にドルチェちゃんやリンネさん、カイナなど他の侍女たちも同行し始め、ネネちゃんもボクたちを引っ張って参加。
今や四台の馬車の周りには常に誰かしら六人くらいは走っている感じになっている。多い時には十人以上だ。
もちろんネネちゃんは御者もするし、弟子への指導という事でボクもパティちゃんも教わっている。
その合間を縫っての魔物狩り。黒屋敷の皆にとってはただの暇つぶしや娯楽のようなものなんだろうけど、そのレベルが高くて困る。
こういうのって魔物討伐組合で依頼を受けて、準備を整えてやるものだからね? 言えないけど。
「ハハハッ! こうした旅は想定していなかったな。なかなかに楽しい修行だ」
「ち、父上! ずっと走り続けるおつもりですか!?」
「いや適度に休むぞ? これはあくまで旅行だからな。セキメイも自分の判断で馬車に戻るがよい」
「ほっ」
「ただ走るのではなくセキメイも魔物を狩りに行ったらどうだ?」
「無理ですよ! ネネ殿の察知範囲が広すぎますし走っても追いつけません!」
「ハハハッ! 確かにな!」
グレンさんとセキメイさんも釣られて走っている。セキメイさん可哀想に……。
というわけで馬車の中は広々している事が多い。ユアさんなんか長い尻尾を悠々と伸ばしている事だろう。あの人は引き籠り体質だから走らないし。
ラピスさんが最初に走り出したのも驚いたけどミーティアさんやウェルシアさんも時々走っているのには驚いた。
王侯貴族が馬車に並走して走るって……いやもう普通に侍女の先輩としか見られない自分にも驚きだけど。改めて見るとね。
「ネネー、山賊みつけたら言えよー。アジト潰すからなー」
「ん……はい」
「ご主人様、私も行くー!」
「ティナは付いて来てもいいけど殺しちゃダメだからな?」
「はーい」
恐ろしい会話をしている。
普通、山賊とは出会わないように祈るものだし、出会ったなら守ったり生き残る事を第一に考えるものだ。凶悪な魔物と同じ。
断じて出会いを求める相手ではないし、八歳の幼女が嬉々とアジトを潰そうとする相手ではない。
でもこれが【黒屋敷】なんだよなー。
ネネちゃんに聞いたけど、ご主人様はこうした旅程の時には率先して山賊狩りを行っているらしい。山賊を見つけたらアジトごと殲滅する。そして金目のものは根こそぎ奪うものだと。それが山賊狩りのマナーだと。
「…………はあ」としか言えなかったけどね。
いや、やってる事は治安維持でもあるし、ミーティアさんなんかそのおかげで助かったみたいな話も聞いたけどさ。
「山賊はいい金とCPになる」とか聞いちゃうとさ、なんか山賊が可哀想になっちゃうんだよね。
もちろんそんな頻繁に遭遇するはずもなく、だからと言って皆無というわけでもない。
鉱王国は聖戦の影響で兵が大量に死んだって言うし、それで治安が悪くなっているのかもしれない。影響がありそうなのは王都とかそっち方面だろうけど。
ともかく多少でも街道を見張っている山賊が居れば、もれなくネネちゃんが見つけてしまう。あとはお察しだ。
ご主人様を先頭に山賊のアジトにお邪魔し、色々と拝借し、トロトロと走っている馬車に颯爽と追いついてくる。
馬車で移動しながらの遠征だ。手際が良すぎる。そして物騒すぎる。
「ん。パティ、キャメロ、また居た」
「「えっ」」
「ご主人様に言ってくる。また尋問して殲滅する」
「「うわぁ」」
師匠が優秀な殺し屋すぎて困ります。
■クェス 狐人族 女
■15歳 セイヤの奴隷
街道を進む馬車旅は、そのほとんどが街での宿泊になります。
街の規模じゃない集落の場合もあれば宿場町のような場合もありますが、基本的には野営なし。街道沿いですから当然なのかもしれません。
街に近づくと、馬車の周りを走っている皆さんは馬車内に戻ります。エメリーさんの指示です。
私たちは見た目が侍女そのままですし、それが馬車に乗らずに徒歩で街に入るとなれば、ご主人様が笑われる。
ご主人様はちゃんとした御方ですよ、と知らしめる為にも街で変な行動はとらないよう厳しく言いつけられています。立派な侍女として振る舞うようにと。
侍女が御者を務める高級馬車が四台。
街の入口に立つ門番の衛兵さんは、近づくだけで怪訝な表情になります。
そして個人証明である組合員証を提示するのですが、真っ黒なカードでSSSランクという他にはないランク。益々訝しむような顔になります。
やたらな衛兵さんだったら入街拒否とされるかもしれない。そんな不安も覚えましたが――
「あっ、【黒屋敷】ってもしかして……おい! 隊長に確認して来い!」
「はいっ!」
「すみません、しばしお待ちを。差支えなければ、あの、『カオテッドの英雄』の……」
「ええ、その【黒屋敷】です」
「やっぱり! いやぁ聖戦のお話はここにまで聞こえて来ていますよ! なんせ魔族の大群が――」
と、こんな感じです。特にカオテッドに近い街だからでしょうか。かなり好意的。
北西区長のバンガルさんが通達してくれているのもあると思います。だから衛兵の隊長さんを呼んで一応確認もとったのでしょう。
何にせよ街に入るのは問題ないです。
普通、馬車に入っている人も全員、証明を提示して確認とかすると思うんですが、それもなし。
馬車の中から顔を見せるだけですんなり入街できました。
「最初から俺が顔出してたら扱いも変わりそうだけどな。どうも侍女が居ようが何だろうが基人族ってだけで注目されるんだよ。なんでか知らんけど」
ご主人様はそう言います。
だったら極力ご主人様は馬車に入ったまま入街した方がいいですね。衛兵さんと応対するのは侍女の役目です。
さて、そんな感じで街に入ればそこはまさしく鉱王国の街並み。
建屋も石造りが圧倒的に多く、街行く人も北西区で見る以上に種族が偏っています。やはり小柄な鉱人族や小人族、背の高い岩人族が目立ちますが。
北西区は他国の種族もそこそこ混じっていますが、ここはまさに『鉱王国の街』といった感じ。
獣帝国しか知らない私にとってはすごく新鮮で興味深げに眺めてしまいます。あ、海王国も一応知ってますけど。
街に着いたらまずは宿屋の確保。
私たちは総勢二八人も居ますから、一つの宿に全員で泊まれる事の方が珍しいです。
最悪、空いてなければマジックテントで泊まる事も考慮されています。もちろんご主人様は宿屋ですけど。
それから夕食まで時間があれば街を散策。屋台やお店など、鉱王国ならではという物を見つけたそばから買って行きます。
「ご主人様、あの果物はカオテッドでは見ませんね」
「おおっ、ライチじゃん。よし、買えるだけ買っておこう」
「ご主人様よ、あの灯篭、庭に置いても良いかのう」
「立派だなー。見栄えはいいな。二つ買って石畳を挟むように立てるか」
「ご主人様! あの工具を!」
「お前自分で打てるだろ……まぁいいけどさ。買って来い」
海王国でも見ましたけど……ホントにご主人様はお金持ちです。と言うかお金の使い方が荒い。
先輩侍女の方々も慣れているのか、どんどんとご主人様の元に持ってきます。それをどんどん買ってはマジックバッグ――に見せかけて<インベントリ>に収納していきます。
初見のグレンさんとセキメイさんも引き気味です。
「うわわわ……店から一気に品物が減っていくのですが……」
「セイヤよ、いつもこうなのか? さすがに買いすぎではないか?」
「そうですかね? まぁ今買わないと買うタイミングがないかもしれませんし、カオテッドでのお土産も買っておかないといけませんしね」
「何も行きで買うことないだろう。帰りに買えばいいのでは?」
「帰りは船かもしれませんし」
旅行の計画段階でお話がありました。本部長さんに渡した通信宝珠で何かしら緊急の連絡があった場合、ご主人様は即座にカオテッドに帰還する事になるかもしれないと。
今はご主人様たちの活躍でカオテッドの闇組織もその数を減らしているそうですし、聖戦のおかげで四か国と中央区の仲も良いとの事ですが、本来のカオテッドは中央区が周囲の四か国から狙われる立場なんだそうです。
だから何が起きても不思議じゃない。むしろ最高戦力の【黒屋敷】が不在というのを狙って良からぬ者が動いてもおかしくはない。
そんなわけで緊急帰還についての話がありました。
一番速いのは全力で走ったり空を飛んだりという方法なのですが、全員がご主人様と同じ速度で移動するというのは不可能。
だから次案として船で大河を全力で下る、というのが出ました。もちろん全力で櫂を漕いだり<送風>したりといった方法も併用して。
それでご主人様は『帰りは街に寄れないかもしれない』と仰っているわけです。
ちなみにその時は侍女の数名が別行動で馬車旅となります。借りた馬車をカオテッドに戻さなければいけませんからね。
馬車ごと船の甲板に乗せるという案も出ましたが……どうなんでしょう。船を<カスタム>すればいけるんでしょうか。
ま、その時はどちらにせよ街には誰も寄れなくなります。
馬車を送り届ける役目はおそらく新人で一番弱い私たちになるでしょう。
先輩方であればカオテッドにどんな危険が迫ろうとも対処できそうですし、私たちが足手まといになりそうです。
その時の為に私も御者が出来るようになっておかないといけません。
すでにカイナ、コーネリア、キャメロは習い始めていますからね。私も続かなければ。
……でも今さら五人だけで行動するとなった場合、不安しかないんですけど。
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