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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-4:ザラの街、騒然
しおりを挟む■バーゲット 岩人族 男
■33歳 Cランク組合員
ザラの街は鉱王国の東寄りにある小規模迷宮の傍に造られた街だ。歴史は古い。
迷宮の規模に合わせるように小さめの街ではあると思う。
しかし迷宮があるおかげで魔石の産出量は多く、周囲に鉱山があるわけじゃないが森の資源を利用した木工製品なども特産だったりする。
規模は小さくても豊かで賑やかな街だ。
俺は仲間たちとパーティーを組んで故郷であるこの街で迷宮組合員として活動を続けてきた。
慎重に着実に成果を上げ、気が付けば周りからベテラン扱いされている。
ランクももうすぐBに上がるかもしれない。小規模迷宮であるザラでBランクともなれば紛れもないトップ組合員と言えるだろう。
その日もいつものごとく仲間と共に迷宮組合に訪れたわけだが……。
「は? なんだあの団体」
「貴族か? いや先頭のあれは……基人族、だよな?」
「並んでるのは貴族服じゃねえけど纏炎族だろ? 西方の強種族じゃねえか」
「後ろのメイド連中が……多すぎるし多種族すぎるし……」
「は? 天使族!? 竜人族も居る!?」
「訳わかんねえ……」
そんな仲間の声に俺も同意していた。思わず立ち止まって凝視してしまう。
ただそこに居る、ただ集団で歩く、それだけで異常な団体。
一つも意味が分からないまま、その集団が組合に入るのを見送った。
呆けていた俺たちも続いて入る。元より探索帰りで魔石の買い取りをしてもらう予定だったからな。変な集団が居ようが行かないという選択肢はない。
見ればその集団は受付で何やら話していた。
組合の中でたむろってるヤツらも、目を見開き、口を開け、ピクリともせずその光景を凝視していた。
理解不能な集団に驚きすぎてただ見るだけになっちまう。その気持ちはよく分かる。
「えっ! あっ! あ、あなた方が!? ちょ、ちょっとお待ち下さい! 支部長に伝えて来ますっ!」
受付嬢が大声で慌てている。何なんだ一体……。
ややあって戻って来た受付嬢と共に、その集団は二階の支部長室へと向かって行った。
支部長の客だったのか? 貴族の? ……いや基人族の貴族とか居るわけねえし。
何一つ疑問が解消されないまま俺たちは隣の受付嬢の所へ行き、魔石の買い取りを依頼する。
気になったのでついでに聞いてみた。
「なんなんだ、あの集団は?」
「あの人たちがカオテッドのSSSランククランらしいですよ。例の聖戦の一件の」
『ええっ!?』
カオテッドの聖戦の事はよく耳にする。ここからカオテッドまでさほど離れてないし、特に商人や吟遊詩人が話題にしている事が多い。
元より鉱王国に広がり始めていた【ゾリュトゥア教団】が魔族の組織だと噂が流れ始めた事でザラの街も不穏な雰囲気になったが、その後【聖戦】が起こり、魔族の軍勢に鉱王国の兵は多大な被害を被ったという。
そしてその魔族軍を倒したのがカオテッドのSSSランククランだというのは語り草だ。
いや、正式には当時Sランクで、聖戦の一件があってからSSSランクとなったらしいが。
ともかく迷宮組合本部としてもそんな規格外のランクを作らなければならないほどの戦果だったという事だ。
吟遊詩人の歌が話し半分だったとしても信じられないような戦いだったのは間違いない。
で、今の集団がそのSSSランク!? 基人族とメイドの集団だぞ!?
「私たちも一応支部長から聞いてはいたんですよ。そのクラン――【黒屋敷】って名前らしいですけど、クラマスが基人族の男性で、他は二〇人以上のメイドさんだって。でもそんな組合員が居るわけないじゃないですか」
受付嬢が苦笑いでそう言う。
「まさか本当に居るだなんて、ビックリですよ。横目で組合員証も見ましたけど、真っ黒なカードにSSSランクって書いてありましたし」
「ホントかよ……ん? 纏炎族の二人はその何とかってクランじゃないのか?」
「あの人たちは同行しているご友人らしいです。ソロでSランクとAランクの有名人なんですって」
『はあ!?』
ソロでAとかSとか……ありえるのか!? ソロで迷宮に潜るのか!?
ますます訳の分からない集団になったな……。
え? つまりその集団がザラ迷宮に潜るって事か? そんな高ランクが? 小規模迷宮に?
ホント何から何まで訳が分からないんだが……。
■ポル 菌人族 女
■15歳 セイヤの奴隷
ザラの街はそんなに大きくないですけど、やっぱり迷宮都市という事で賑わっている感じです。組合員の人もちらほら見ます。
魔石が採れるからか魔道具のお店とか、木工製品のお店とか、鉱王国の街っぽくない感じもして面白いです。
とりあえず私たちは宿をとって、すぐに迷宮組合へ。そして着くなり、支部長さんのお部屋に通されました。
「おお、カオテッドの英雄【黒屋敷】か。よく来てくれたのう。……話には聞いていたがものすごい集団じゃのう」
ザラの支部長さんは鉱人族のお爺さんでした。人当たりの良さそうな人です。
支部長さんの向かいのソファーにご主人様とグレンさん、セキメイさんが座り、私たちはその後ろに侍女の姿勢で並びます。
でも数が多すぎて壁沿いに囲む感じになっちゃいますけど。
「威圧感がとんでもないのう。楽にしてくれ、と言いたい所じゃが」
「すみません、あまり気にしないで下さい。大勢で押しかけた上に時間をとらせて申し訳ないです」
「なあに構わん。スペッキオ本部長から便りを貰ってからは楽しみにしておった。カオテッド大迷宮で活躍しとるクランが小規模迷宮しかないザラにまさか来るとは思わんかったからのう」
どうやら本部長さんからのお手紙も届いていたみたいです。私たちの事も説明済みのようで。
おかげでスムーズに話が進みますね。
「これからマツィーア連峰に行くので立ち寄りました。トルテーモにも行くつもりです」
「ははっ! 肩慣らしで迷宮制覇か。SSSランクともなると考え方が違うのう。まあお主らに心配など無用であろうが」
「油断はするつもりないですよ。受付で情報はちゃんと買いますし」
「そうしてくれると助かる。お主らだったら儂から詳しい説明をしてもよいのだろうがスペッキオ本部長からも『優遇せずに普通の組合員として扱え』と言われておるからのう」
「ええ、その方がこっちも助かります」
世界唯一のSSSランク。そして『カオテッドの英雄』。
優遇はしても問題なさそうだけど、一応の規則として一組合員に対する依怙贔屓みたいな事は禁止されてるみたいです。
ここら辺は私にはよく分かりません。
でもご主人様は贔屓されず、かと言って差別もされず、普通に接してくれる方がありがたいと。そういう事らしいです。
結局、支部長さんとは顔見せと挨拶程度で終わりました。わざわざお部屋に来るまでもなかったと思いますけど、やっぱり受付の所でやると目立っちゃうからダメだったんでしょうか。
ともかく一階に下りた私たちは、受付で拠点変更手続きと、ザラ迷宮の地図と情報を買います。
周りの組合員さんたちがザワザワしてましたけど絡んで来たりはしなかったですね。いざとなれば投げるつもりでしたが。
で、夜にみんなで作戦会議です。地図と情報を見ながら。
「全十二階層か……二日かな」
「ええっ!? セ、セイヤ殿、二日で制覇するおつもりですか!? 十二階を!?」
「出来ると思うんだが、みんなはどうだ?」
「ツェッペルンド迷宮の時のように最短経路を行けば問題ないと思います」
と言うエメリーさんの声に頷く侍女が多数。私も行けそうな気がします。ツェッペルンド迷宮は中規模でしたし、一階層の広さもこっちの方が狭そうですし。
ご主人様たちはカオテッドに来る前にイーリス迷宮という小規模迷宮に潜ったそうですが、そこは十階層で八日間掛けたそうです。
隅々まで探索し、完璧にマッピングしたからそれだけ掛かったらしいですが、それでも組合からは早いと驚かれたそうで。
ザラ迷宮は十二階という事でイーリス迷宮より難易度が高いという事でしょうか。
「うーん、微妙だな。階層の広さや雑魚敵の弱さは同じ程度だと思う。階数で言えばザラの方が深いが、【迷宮主】はイーリスの方が確実に上だな」
「イーリスはタイラントクイーンとソルジャースパイダーの群れですからね」
タイラントクイーンはカオテッドの二階層でも一番強いって言われてますからねー。
今でこそ私も一人で倒せますけど、武器だってミスリルくらいじゃないとまともに戦えないって聞きますし、<カスタム>してない私だったら間違いなく負けます。
で、ザラ迷宮の【迷宮主】って何なんです?
……ギガントラット、ですか。大きいネズミさんです?
■バーゲット 岩人族 男
■33歳 Cランク組合員
それから二日後の夕方。組合は再び騒然となった。
例のSSSランクがザラ迷宮を制覇したと言うのだ。
おそらく昨日の朝から潜り始めて、翌日の夕方にはもう転移魔法陣から出てきたと。
全く信じられなかったがザラ迷宮で魔法陣を使えるのは制覇した者のみだ。帰還を目撃されたのが何よりの証拠。
ベテランの俺たちは支部長と話す機会も多い。何が起きたのかと俺たちは支部長に聞いてみた。
本来、組合員の情報を支部長が流す事などありえないが、それでも聞ける部分は聞いておきたい。
少しでも疑問を解消しておきたいと。
「まぁ本人たちに秘匿する意思が全くなかったからよいかのう。儂に言えない事も多くありそうじゃが」
そんな感じで支部長は話し始めた。
「とりあえず全員で走って行ったらしい」
「は? 迷宮を、ですか? 走って潜ったと? ずっと?」
「うむ。しかも常に能力向上魔法を使い続けながら、じゃと」
『はあ!?』
そ、それがたった二日で十二階に及ぶ迷宮を制覇する方法だと!?
ありえない。すぐにそう考えてしまう。だって体力も魔力も持つはずがないだろ? 仮に短期間だけにしても罠や魔物はどうする。走りながら対処出来るってのか?
……いや、それが出来るからSSSランクって事なのか? もしそうなら次元が違いすぎるんだが。
「おまけに魔石を五百個以上も持ってきよった。一度の探索で五百は儂も初めてじゃわい」
「ごっ、五百!? それだけ魔物を倒したって事ですか!? 二日で!?」
短期間で制覇って事は最短ルートで潜ったって事だろう。それで五百? いや、そんなに魔物が群れている階層なんてないだろう。長期間、隅々まで探索したってんならともかく……まぁそれにしたって五百は異常なんだが。
「儂も怪しんでどういう探索をしたのか聞いたんじゃ。魔石を余所から持ち込まれた可能性もあるからのう」
「ですよね。それでヤツらは何て?」
「各階層の魔物部屋を巡って殲滅していったらしい」
『…………は?』
…………組合員、引退しようかな、俺。
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