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after4:北は竜の地、邂逅の時
4-6:トルテーモ迷宮に挑もう!
しおりを挟む■ドルチェ 針毛族 女
■14歳 セイヤの奴隷
カオテッドを出発してから街道沿いの街を経由し、八日目にザラの街、十五日目にトルテーモの街に着きました。
ツェンさんの故郷である竜人族の里までは普通に馬車で行くとすると二〇日ほど掛かるそうです。
ただ途中で迷宮制覇して行きますから、それがどれほど伸びるのかと。こればかりは潜ってみないと分かりません。
ザラ迷宮は二日で制覇出来たので計三泊滞在する感じでしたけど、トルテーモは中規模迷宮だそうなので。
ツェッペルンド迷宮でも探索に七日掛かりましたし、はてさてどうなるか。
そんなわけで馬車を走らせつつ、私も走ったり、時々魔物討伐に加わったりしながら辿り着いたトルテーモの街。
さすがに中規模迷宮がある迷宮都市と言いますか、今までの鉱王国の街の中では一番大きいかもしれません。
もちろんカオテッドやツェッペルンドよりは全然小さいですけど、それでも栄えているのが分かります。
場所的に平野で近くに大河があるからだと思いますが、この街の周囲には農地が多く、羊の放牧なども行っていました。迷宮資源である魔石以外にも特産が多い、大きな街って事ですね。
大通りを歩いても屋台や飲食店が多いですし、服飾店なども多そう。まぁ売っているものはこれまで訪れた街と大差ないとは思いますが。ちょっと高級感がある感じですかね。
道行く人も多く、そしてその人たちからは奇異の視線を受け続けます。さすがに慣れましたけど。
皆さん、私たちを見ると動きが止まるんですよ。「なんだあの団体」って感じで理解出来ずに眺め続けるだけになってしまうと。
カオテッドでも時々そういう人が居ますので分かります。
まぁそれ以上に応援されたり騒がれたりという方が多いんですが。カオテッドの場合。
兎にも角にも宿屋さんを探し、高級店をほぼ貸し切り状態で泊まらせてもらう事になりました。
さすがは大きな街。それに迷宮都市という事で宿屋さんの数も多いみたいです。
貴族が泊まりそうな高級店がある事自体が大きな街という証拠みたいなものですね。
と言っても実際に泊まるのは今日と、迷宮を制覇した後くらいでしょうが。
続いて迷宮組合へ。ここはザラの迷宮組合より少し広いくらいで、あまり違いは見られません。
でも組合に入るなり受付嬢さんが騒ぎ出し、こちらが何か言う前に支部長さんの部屋に通されました。
「おお! あんたらが【黒屋敷】かい! こりゃすごい団体さんだ!」
「初めまして支部長。【黒屋敷】のクランマスターでセイヤと言います。お邪魔します」
「ホントに基人族なんだねぇ……ま、いいや、座っておくれ」
支部長さんは鉱人族のおばさんでした。女性の支部長さんは初めてですね。
貫禄はありますけど、どこかの食堂のおばちゃんって感じもします。
支部長さんの対面にはご主人様、グレンさん、セキメイさんが座り、私たちはいつも通りに侍女として立ちます。
それをぐるっと見回して「おおー」と声を上げる支部長さん。
まずはグレンさんとセキメイさんの紹介もしました。
「話は聞いてるよ。カオテッドのスペッキオ本部長からも手紙が来たし、ザラのズヴェル支部長からも来たばっかだ。ザラ迷宮を二日で制覇したんだって?」
「ええ」
「はぁ~、さすが英雄クランと言えばいいのか……ちょっと規格外だね。まぁあたしはSSSランクどころかSランクも見た事がないから想像も出来ないんだが。トルテーモの組合員も最高でAランクだしね。で、ここも制覇するつもりなんだって?」
「そのつもりではいますが情報を仕入れてから、ですね。もしかすると俺たちが対処出来ない魔物とか居るかもしれませんし」
「油断しないのは大したもんだが竜やら魔族の大群やらを倒してるんだろ? それに比べりゃここの魔物は弱いのばかりだろうさ。ハッハッハ!」
豪快な人ですねー。
ともかく私たちの事はよくご存じみたいですし、不遇に扱われるとか、制覇しても疑われるとか、組合員証の更新が出来ないとか、そういった事はなさそうです。
まぁスペッキオ本部長さんのお手紙とかあれば、そんな変な事は出来ないと思いますけどね。
顔見せが終わり、一階の受付で情報を買い漁りました。
こうしてお金を落とすのも高ランク組合員の務めだと言います。グレンさん曰く。
どれだけランクが高くても、ちゃんとお金を払って情報を仕入れているんだぞ、と見せる。
それを見ていた他の組合員も、改めて情報の大切さを知る……という事だそうで。
まぁご主人様の場合、お金に対して無頓着な所がありますから、『金で安全が買えるなら儲け物』という感じだと思います。
情報も道具も食料も、とにかく何でも買い漁りますからね。
ご主人様が訪れれば街の経済も潤う……なんて事があるかもしれません。
何はともあれ、これで明日から潜れそうですね。
さて、どんな所なんですかねー、トルテーモ迷宮というのは。
■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族 女
■70歳 セイヤの奴隷 エクスマギア魔導王国伯爵位
「同じ中規模迷宮でもツェッペルンドとは色々と違うもんだな」
小走りに駆けながらご主人様がそう言います。
それは昨夜、宿屋の一室で皆が集まり、迷宮探索の作戦会議をしていた時にも仰っていました。
情報を得て、地図で経路を確認しただけでもツェッペルンドとの違いは多い。
そして今現在、実際に迷宮の中に入っても、同様に違いが見られると。
中規模迷宮というのは小規模迷宮と同じように『迷宮壁』で上下左右を囲まれた迷路です。淡く光り続けているのでランタンは必要ありませんね。
それはどこの小規模迷宮でも中規模迷宮でも変わらないようです。一部例外的に迷宮壁ではない部屋や通路がある迷宮もあるそうですが、ツェッペルンドもトルテーモも迷宮壁には違いありません。
しかし道幅や天井の高さは変わりますし、それに伴って戦い方が変わります。
もちろん出てくる魔物も違いますので、それによる変化もありますが……わたくし達の場合ですと片手間に倒して終わりですから魔物による変化はあまり気になりませんが。
トルテーモは道幅が広かったり狭かったりとかなり歪な印象です。均一だったツェッペルンドとはそれだけでもかなり違います。
おまけに所々傾斜がある。緩やかな上り坂が続く階層もあれば、緩やかに下る階層もある。同じ階層内でアップダウンする場合もあります。
これは正直戦いづらいですね。
狭い迷宮で坂道を走りながら探索するというのは、今までに経験がありません。
カオテッドの一階層は上下にいくつもの隧道が重なるような入り組んだ造りではありますが、坂道が続くという事はありませんし。
この道の変化だけでも、他所の迷宮とは違うと感じられます。
【主】に関しても一癖ありまして、これもまたご主人様が「違う」と仰る一因です。
ツェッペルンド迷宮の場合は、全三〇階層で、五階層ごとに【階層主】が居ました。そして三〇階層が【迷宮主】のキングゴートとホワイトエルクの群れ。
一方でトルテーモ迷宮は全二六階層とやや少なめ。中規模迷宮の中には全五〇階層という所もあるそうですから、トルテーモ迷宮は中規模迷宮の中でもかなり浅い部類なのではないでしょうか。
そして【階層主】は六階、十一階、十四階、二〇階の四か所。これもまた歪に感じます。
総評すると『非常にクセのある迷宮』という印象。それは全員が思っている事でしょう。
わたくしたちは余所の迷宮の経験が非常に少ないからこそ、そう思う事もあるのでしょう。
実際にトルテーモを拠点にしている組合員の皆様からするとこういった迷宮に慣れていらっしゃるのでしょうし、ツェッペルンド迷宮の方が整いすぎていて違和感があるのかもしれません。
では慣れていないわたくしたちが苦戦するか、と言われればそれは別なのですが。
地図も情報もありますし、斥候も優秀。罠の対処も問題ないですし、道中の魔物にしてもいつも通りの一蹴です。
【階層主】の四種に関しても【迷宮主】に関しても博物館で展示されていない魔物という事でそれはありがたいのですが……。
「ゴーレム系が多いな」
「鉱王国だからって事はないですよね。ザラはここまで極端ではありませんでしたし」
「ドロップが石材ばかりになりそうですね」
「うーん、まぁ一応集めるつもりで三戦ずつくらいはするかな」
という事です。サンドゴーレム、ストーンゴーレム、アイアンゴーレムなど。お供の魔物も含め、固い敵ばかりが揃っています。
ゴーレムでなくとも岩石や鉄の殻を持った魔物などですね。
カオテッドの四階層に居たロッククラブも下層では見られるそうです。
「迷宮主もなぁ……」
「ミスリルガーゴイルとガーゴイル四体、ですか」
「中規模迷宮の【迷宮主】と見れば妥当な強さなのかもしれませんが……」
「私たちからすると『あの瞬殺されたリッチのお供の?』って感じよね」
「ミスリルガーゴイルにしてもドロップがミスリルっぽいですよね。腐るほど在庫にありますけど」
「……まぁこれも三戦が良い所かなぁ」
カオテッド三階層のガーゴイルも【領域主】ではないですから展示もされていませんしね。
ミスリルガーゴイルのドロップを展示するのも良いでしょう。本当にミスリル鉱石だけであれば困りますが。何かしらガーゴイルと分かる見た目のものがドロップしてくれると有り難いです。
……と考えるわたくしは、すっかり博物館の運営目線になっていますね。
与えられた仕事はセシルさんの補助ではありますが、ご主人様の代わりに経営を任されている部分もあります。
それを楽しく思っている事も否定できません。
お客様が多くお見えになり、反応が良ければ嬉しいですし、非常にやりがいのある仕事をさせて頂いていると思っております。
今回の旅行の戦利品も博物館に展示する事になるとは思います。
それによりまた博物館が賑わうであろうとも。だからこそ見栄えの良いドロップ品が出て欲しい。
しかし……展示スペースが足りなくなりそうですね。
マツィーア連峰での竜狩り次第では、何体もの竜が飾られるのでしょうか。
一応、その懸念もご主人様にお聞きしてみました。
「うーん、迷宮とは関係ないし竜の展示を削るって手もあるけど」
「しかしあれは目玉でもありますからセシルさんも反対なさるのではないでしょうか」
「だよなー……となると移転も考えないといけないか」
「博物館を移転されるんですか?」
「<カスタム>で大きくしたりも出来るけどさすがに不自然すぎるだろ。部屋の大きさを多少弄るなら言い訳も立つけどさ。だからスペースをとろうと思ったら箱自体を大きくするしかない」
「それはそうかもしれませんが……」
「組合の傍に大ホールがあるだろ? オークション会場になってたトコ。あんな感じの建屋があればなー。速攻で買うんだけど」
……何やら大事になりそうですわね。
博物館の隣の屋敷は入居済みですし、そこを買い取って二棟並べるというのは出来ません。
現在の博物館を四階建てなどに改築するとなると工事期間が長くなりそうですし、そもそも出来るのか分かりません。
ですので大ホールのような場所を、という事でしょうが……そうなるとお屋敷とは離れそうですね。
警備の問題が出そうではありますが……お客様からすれば訪れやすくなるかもしれません。
今の立地は高級住宅街の一番奥。中央区の中でも奥まった所です。
他区や他街から訪れる人の事を考えれば確かに大通りに近い方が良いだろうとも思います。
いずれにしても今考える事ではなく、わたくしが決める事ではありません。
マツィーア連峰に行った所で竜と戦える保証もないのですから。
旅行が終わった段階で戦利品を見てから考えなければいけませんね。
さて、ともあれまずはトルテーモ迷宮を制覇しておきますか。
戦利品以上にそちらが目的なのですから。
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