魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

文字の大きさ
6 / 39
伯爵家

第5話 訓練開始

しおりを挟む
「では、ここからは実践的な訓練だ。とりあえず立ってくれ」



 シンシアは日光で輝く金髪をなびかせながら機敏に立つ。やる気十分といった感じだろうか。これからの訓練はそれなりにきついので熱意があるのは喜ばしいことだ。



「魔力操作を覚えるのに重要なことは魔力をより繊細に感じ取ることだ。自分がどれくらいの量魔力を持っているかを正確に把握し、魔力を流動させ魔導回路に魔力を流す感覚を養わなければならない。まず、魔力の流動をする訓練から行う。血液が体中を巡るように魔力を動かしてみろ」



 シンシアは少し困惑したような顔をしていたが、すぐに訓練を開始した。シンシアはできないと思っているかもしれないが魔導士はこれを全くできないことはあり得ないのだ。この訓練で最も難しいのは魔力を感じとることだが生まれつき魔法が使える魔導士は元から魔力を感じ取れる。基本このハードルを越えれば魔導士ではない人間でも魔力を動かすのに二日とかからずできるようになる。

 しばらく、様子を眺めていると



「くっ……」



 少女から苦しそうな吐息が漏れる。まだ、始まって十分ほどしか経っていないが額からは玉のような汗が流れ落ちている。表情は険しく、まるで何十キロもの距離を走った後かのようだ。確かにこの訓練自体の難易度は大したことはないが肉体的な負荷は別だ、これはやれば誰にでもできるが極度な肉体的負荷がかかるため途中で投げ出す人間もいる。つまり、これは力を得るための最初の壁なのだ。



「はぁ…はぁ…はぁ…」



 少女は荒い呼吸と共に膝を折る。このとき、およそ一時間が経過していた。来ているシャツはぐっしょりと濡れており、湿った髪は肌に張り付いている。だが、少女はすぐに立ち上がり訓練を続けようとする。とうに肉体は限界を迎えているだろう。完全に気力だけで立っている状態だ。



「今日はもう終わりだ。最初から無理をしすぎるな」



 俺は今にも崩れ落ちそうなシンシアを支えながら言う。



「まだ……やれます」



 シンシアは俺の顔を見ながら絞り出すような口調でぽつりぽつりと言葉をこぼす。その瞳には苦痛の色はなく、希望の火が灯っていた。貪欲な姿勢には好感が持てるが今無理をされると予定が狂う。このまま続ければ数日は動けなくなるからだ。



「ここで無理をする必要はない。寧ろここで無理をして明日以降の訓練に支障が出るほうが困る。それに魔力操作は無理しなくてももう少しでできるようになる」



「……本当ですか?」



 咎めるような視線が突き刺さる。慰めで言っていると勘違いしているのだろう。状況的にしかたないと言えるがこのままにするのはまずいなと俺は考える。隠れてやられてたら、たまらないからだ。



「ああ、本当だ。何か勘違いをしているようだが俺は下手な慰めなんかしない。実際魔力操作のほとんどは完了している。先ほどの姿を見る限り魔力を一定速度で流すことはできていた。後は流す量が調節できれば魔法が使える。もう動かすことはできるのだから少ない量を動かすことはすぐにできるようになる。具体的にはあと二日以内にはできるようになる」



「分かりました。今日は終わりにします」



 先ほどとは打って変わりその表情からは安堵が読み解れる。忙しい娘だ。



「とりあえず、着替えて来たほうがいい。そのままでは風を引いてしまう」



 シンシアは自分の服装を見る。濡れて張り付いた衣服が体のラインを強調している。少女はほんのり頬を赤らめながら着替えてきますと言うと小走りで屋敷のほうへと消えていく。



「天才だな」



 ぽつりと感想が漏れた。あの子には伝えなかったが魔力量、魔力操作ともに紛れもなく一流のそれだ。わずか一時間でほぼ魔力操作をマスターしてしまった。本来ならあの苦しみを二日ほど味わないと習得できないのだ。なかなか面白い人材を見つけたものだと隠れた口元が三日月に歪む。



「指導は終わりましたか?」



 不意に声がかかった。そのしわがれた声からだれか予測はつく。クロムといったかあの執事風な老人だろう。俺は振り向きざまに答える。



「ええ、今日はもう終わりにしました。初日から厳しくしすぎてもいけませんので」



「左様でございますか、時間がおありなら部屋のほうを案内したいのですがよろしいですか?」



「構いません。よろしくお願いします」



「では、案内いたします」



 老人は屋敷の中に歩き出す。その背に俺も続く。老人は通ってきた通路を戻り玄関前の階段を上る。そこから左に曲がり突き当りまで行くと右の部屋の扉を開ける。



「この部屋をお使いください。夕食の時にお呼びするのでそれまでお寛ぎください」



 言い終わると老人は通路を戻っていく。俺はベッドに身を投げ今後どうするべきか考えを巡らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...