魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

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伯爵家

第6話 克服

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 部屋に案内された後、しばらくすると夕食のため老人が呼びに来た。特に何の変哲もなく料理を食べる。仮面を外すわけにもいかないためかなり食べづらいが仕方がない。食事はアイヴァー夫人といくつか世間話をしているといつの間にか時間は立っていた。やはりというべきかその席でシンシアは言葉を発しなかった。食事が終わると大浴場で風呂に入り床についた。特に疲れたわけでもなかったが妙に瞼が重く、次に目を開けた瞬間には窓から光が差し込んでいた。手早く着替えを済ませると一階へと降りる。すると不意に声がかかる。



「おはようございます、先生」



 そこには日の光で煌びやかに輝く金髪をなびかせた少女がいた。少女は白を基調としたチュニックに黒のスカートを身に着けており貴族にしては素朴と言える格好をしていた。だが、よくよく見るとその服からは若干の魔力が感じられた。これは普通の服よりも機能性だけでなく耐久性にも優れている。つまり、高級品だ。

 俺が服をじっと見ているとシンシアはその青い瞳をちらちらと上目遣い気味に向けてくる。



「……その服、似合ってるな」



「ありがとうございます!」



 シンシアは花のような微笑を浮かべ、弾むような声色で答える。その様子は何とも微笑ましものだ。



「さあ、早くいくぞ。時間は限られている」



「はい!」



 俺は急かすように早足で食堂に向かう。食堂には執事風の老人と給仕役のメイドが数名程度しかいなかった。二人が食堂に着き、席に座ると食事が運ばれてくる。パンにスープにフルーツと朝食にふさわしいと言える軽めの者が出てきた。俺はほんの少し、口元が顕わになる程度仮面を持ち上げ、次々食べ物をと口に運ぶ。



「先生、食事の最中くらい仮面をとってもいいのではないですか?」



 少女はこてんと首を傾げ可愛らしく疑問を口にする。俺は毅然とした態度でそれに答えた。



「俺には顔見られたくない理由があるから仮面をしている。ここでとっては意味がないだろ」



「それは何ですか?」



「教えるわけがないだろ。簡単に言えることなら秘密になどしない」



「……そうですか」



 そういうと少女は食事を再開した。少しばかり沈んだような表情を見せたがそれ以上は言葉にしなかった。もっと食いついてくるかと思ったが意外と引き際というものを弁えている。いや、それよりも俺に不快感を与えたくなかったのだろうと俺は一人ごちる。ここで無駄に俺の不興を買えば指導に影響が出るかもしれないという不安があるのだろう。仕方がないことだ。まだ、知り合って一日も経っていない。そんな状況で信頼など築けるはずがないのだから。俺が考えを巡らせている隣で陶器に金属がぶつかる音がした。それを聞くと徐に席を立ち、少女に促す。



「早く訓練を始めるぞ。昨日の感覚を忘れないうちにな」



「はい!」



 少女は先導する背中を追いかけながら返事をした。二人は食堂を出ると昨日と同様に中庭に向かう。建物から少し離れたところまでくると、真っ黒な外套をなびかせながら俺は振り向く。



「今日は魔法の行使を行う。屋敷から少し離れているが念のため真上に打ち上げるように魔法を発動させてみろ」



 すると、少女は慌てて口を開く。



「ま、待ってください。先生。私は昨日魔力を循環させることですら上手くできなかったんですよ! それなのにいきなり魔法を使うなんて無理に決まってます!」



「無理ではない。実際やってみれば分かる。昨日の今日で信じられないだろうがやれ。出来ないのであれば俺の指導はここまでだ」



 シンシアは体をびくりと震わせ、天敵を前にした小動物のような瞳でこちらを見ている。その目は過去の失敗を怪物のように幻視しているかのようだ。



「そんなに怯える必要はない。俺は失敗するなとは言ってない。ただ魔法を使ってみろと言っただけだ。もし仮に失敗しても俺ならどうにかできる。大丈夫、別に失敗しても俺はお前に失望などしない」



 その言葉を聞き、露骨に大きく息を吐き、安堵していた。あまりにも怯えすぎではないかと俺はその様子を観察していた。シンシアは数回ほど息を吸っては吐いてを繰り返し、意を決したかのように片手を空に突き上げた。



「は!」



 気合のこもった声と共に魔力が動き出す。細胞から細胞へと流れ、心臓にたどり着き魔導回路に侵入する。よどみなく流れたそれは真紅の結晶によって魔法へと変化する。突き上げた手のひらからは眩い光の奔流が真っ直ぐと空に昇っている。その打ち立てられた光の塔のあまりの光量に俺は思わず目を細めるが、少女は目を見開きその光景を目に焼き付けていた。
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