魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

文字の大きさ
7 / 39
伯爵家

第6話 克服

しおりを挟む
 部屋に案内された後、しばらくすると夕食のため老人が呼びに来た。特に何の変哲もなく料理を食べる。仮面を外すわけにもいかないためかなり食べづらいが仕方がない。食事はアイヴァー夫人といくつか世間話をしているといつの間にか時間は立っていた。やはりというべきかその席でシンシアは言葉を発しなかった。食事が終わると大浴場で風呂に入り床についた。特に疲れたわけでもなかったが妙に瞼が重く、次に目を開けた瞬間には窓から光が差し込んでいた。手早く着替えを済ませると一階へと降りる。すると不意に声がかかる。



「おはようございます、先生」



 そこには日の光で煌びやかに輝く金髪をなびかせた少女がいた。少女は白を基調としたチュニックに黒のスカートを身に着けており貴族にしては素朴と言える格好をしていた。だが、よくよく見るとその服からは若干の魔力が感じられた。これは普通の服よりも機能性だけでなく耐久性にも優れている。つまり、高級品だ。

 俺が服をじっと見ているとシンシアはその青い瞳をちらちらと上目遣い気味に向けてくる。



「……その服、似合ってるな」



「ありがとうございます!」



 シンシアは花のような微笑を浮かべ、弾むような声色で答える。その様子は何とも微笑ましものだ。



「さあ、早くいくぞ。時間は限られている」



「はい!」



 俺は急かすように早足で食堂に向かう。食堂には執事風の老人と給仕役のメイドが数名程度しかいなかった。二人が食堂に着き、席に座ると食事が運ばれてくる。パンにスープにフルーツと朝食にふさわしいと言える軽めの者が出てきた。俺はほんの少し、口元が顕わになる程度仮面を持ち上げ、次々食べ物をと口に運ぶ。



「先生、食事の最中くらい仮面をとってもいいのではないですか?」



 少女はこてんと首を傾げ可愛らしく疑問を口にする。俺は毅然とした態度でそれに答えた。



「俺には顔見られたくない理由があるから仮面をしている。ここでとっては意味がないだろ」



「それは何ですか?」



「教えるわけがないだろ。簡単に言えることなら秘密になどしない」



「……そうですか」



 そういうと少女は食事を再開した。少しばかり沈んだような表情を見せたがそれ以上は言葉にしなかった。もっと食いついてくるかと思ったが意外と引き際というものを弁えている。いや、それよりも俺に不快感を与えたくなかったのだろうと俺は一人ごちる。ここで無駄に俺の不興を買えば指導に影響が出るかもしれないという不安があるのだろう。仕方がないことだ。まだ、知り合って一日も経っていない。そんな状況で信頼など築けるはずがないのだから。俺が考えを巡らせている隣で陶器に金属がぶつかる音がした。それを聞くと徐に席を立ち、少女に促す。



「早く訓練を始めるぞ。昨日の感覚を忘れないうちにな」



「はい!」



 少女は先導する背中を追いかけながら返事をした。二人は食堂を出ると昨日と同様に中庭に向かう。建物から少し離れたところまでくると、真っ黒な外套をなびかせながら俺は振り向く。



「今日は魔法の行使を行う。屋敷から少し離れているが念のため真上に打ち上げるように魔法を発動させてみろ」



 すると、少女は慌てて口を開く。



「ま、待ってください。先生。私は昨日魔力を循環させることですら上手くできなかったんですよ! それなのにいきなり魔法を使うなんて無理に決まってます!」



「無理ではない。実際やってみれば分かる。昨日の今日で信じられないだろうがやれ。出来ないのであれば俺の指導はここまでだ」



 シンシアは体をびくりと震わせ、天敵を前にした小動物のような瞳でこちらを見ている。その目は過去の失敗を怪物のように幻視しているかのようだ。



「そんなに怯える必要はない。俺は失敗するなとは言ってない。ただ魔法を使ってみろと言っただけだ。もし仮に失敗しても俺ならどうにかできる。大丈夫、別に失敗しても俺はお前に失望などしない」



 その言葉を聞き、露骨に大きく息を吐き、安堵していた。あまりにも怯えすぎではないかと俺はその様子を観察していた。シンシアは数回ほど息を吸っては吐いてを繰り返し、意を決したかのように片手を空に突き上げた。



「は!」



 気合のこもった声と共に魔力が動き出す。細胞から細胞へと流れ、心臓にたどり着き魔導回路に侵入する。よどみなく流れたそれは真紅の結晶によって魔法へと変化する。突き上げた手のひらからは眩い光の奔流が真っ直ぐと空に昇っている。その打ち立てられた光の塔のあまりの光量に俺は思わず目を細めるが、少女は目を見開きその光景を目に焼き付けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

処理中です...