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伯爵家
第11話 事後処理
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さて、この惨状をどうしたものか
俺は街道に転がっている大量の死体の処理をどうしようかと思案していると屋敷の方から近づいてくる気配を感じてその方角を向く。そこには燕尾服で身を包み、整えられた白髪交じりの黒髪を携え、顔に深いしわが刻まれた老執事が馬車に勝るとも劣らない速さで近づいてきていた。
屋敷にいた執事クロムである。その老人はかなりの速さで接近してきているのに足音はほとんど聞こえない。かなり訓練している証拠だ。それも暗殺や隠密よりの特殊な訓練している。
「おや、もう片付けられてしまいましたか。流石でございます」
「まあ、どちらかと言えばこいつらが愚かだっただけだがな。それでこの結果で満足か?」
「ええ、大満足でございます。王子もさぞ喜ばれることでしょう。ところで肩の傷のほうは大丈夫なのですか? 必要なら治療いたしますが」
「いや、問題ない。見た目ほど大した傷ではないからな。それより確認したいことがあるんじゃないか?」
俺は仮面の下で不敵な笑みを浮かべていた。クラムはそれを察し苦笑しつつも優雅に頭を下げ感謝の意を示す。
「お気遣い痛み入ります。それではお言葉に甘えて伺わせていただきます。いつ私が王子の密偵だとお気づきになられたのですか?」
「初めから怪しいとは思っていたが確信したのはあなたが最近雇われたと聞いた時だな。まだ雇われて日も浅いのに夫人の近くに侍り、屋敷の構造に詳しく、一月前に死んだはずの伯爵の部屋の鍵まで持っている。これが王子の依頼と無関係の人だとしたら夫人にすぐに信用されるほど優秀な人間が何故か伯爵が死んでどうなるかわからない貴族家にわざわざ使えに来たことになる。普通に考えればその可能性は低い。ならば王子の仕込みと考えるのが妥当だ。俺は王子と面識があるからなおさらだな」
「やはりそうですか。お見事でございます。ですがこれは……」
「王子が俺にばれるように立ち回れと指示したからといいたいのだろう?」
「……そこにもお気づきでしたか」
クロムはほんの少し苦々しい表情を浮かべた。自分の見積もりの甘さを嘆いたのか、それとも自身の能力の欠如を悲観したのか俺にはわからない。だが、一流の密偵が表情を動かすくらいには認められたと見ていいだろう。
「当たり前だ。王族直属の隠密がここまでわかりやすく立ち回る無能だとは俺も思っていない。依頼書に書けない内容を早い段階で俺に気づかせたかったのだろう?そのくらいは分かっているから心配するな」
「余計な気遣いでしたね。御見それいたしました」
老人は鮮やかに腰を折ると、流麗な動作で一礼した。先ほどの反応が嘘のような完璧な所作だ。この一動作で密偵としての能力が飛びぬけていることを感じさせた。それほどまでに美しく、洗練されている。もし本気で執事に擬態していたならなかなかに骨の折れる仕事だっただろうと俺は一人ごちる。
「それで、これからどうするんだ? 俺はどうすればいい?」
「そうですね。俺様への依頼はこの時点で完了です。なので、お好きなように行動してもらって構いません。もちろん、迷宮都市に帰ってもらっても構いません。私はこの惨状の処理とそこで寝ている愚か者の連行がありますので失礼させていただきます。報酬は既にギルドのほうに支払っておりますのでそこからお受け取りください」
「了解した。ここからは好きにさせてもらう」
そう言うと俺の目の前には人間大の黒い穴が出現した。レガリアの力で出現した次元の門である。この光景を見てもクロムは何の反応も示さなかった。やはり、屋敷での指導していた様子を見ていたのだろう。まあ、そんなことは些細なことでしかないなと俺は思考を打ち切る。
「それじゃあな」
俺は別れの挨拶をするかのように軽く手を上げ穴の中に入ろうとした時、不意に声がかかる。
「少しお待ちを。最後に一つ質問してもよろしいですか?」
俺は立ち止まり、体を半分だけ老人の方に向け肯定の意を示した。
「シンシア様が襲われた時、襲った賊の後方には大規模な支援部隊と補給部隊があったようです。ですが、そこには馬車や荷車の破片と原型をとどめていない大量の死体がありました。これもあなたの仕業ですか?」
「ああ、そうだ。それも俺の仕込みだ。特に気にする必要はないぞ」
「承知しました。お引き止めしてすみません」
俺は綺麗なお辞儀を見終えると踵を返し、黒い穴に入っていった。クロムはその穴を消えるのを見届けるとぽつりとつぶやいた。
「なかなかに曲者ですな」
その声に抑揚はなく、先ほどまで浮かべていた表情はすべて抜け落ち能面のような顔となっていた。
俺は街道に転がっている大量の死体の処理をどうしようかと思案していると屋敷の方から近づいてくる気配を感じてその方角を向く。そこには燕尾服で身を包み、整えられた白髪交じりの黒髪を携え、顔に深いしわが刻まれた老執事が馬車に勝るとも劣らない速さで近づいてきていた。
屋敷にいた執事クロムである。その老人はかなりの速さで接近してきているのに足音はほとんど聞こえない。かなり訓練している証拠だ。それも暗殺や隠密よりの特殊な訓練している。
「おや、もう片付けられてしまいましたか。流石でございます」
「まあ、どちらかと言えばこいつらが愚かだっただけだがな。それでこの結果で満足か?」
「ええ、大満足でございます。王子もさぞ喜ばれることでしょう。ところで肩の傷のほうは大丈夫なのですか? 必要なら治療いたしますが」
「いや、問題ない。見た目ほど大した傷ではないからな。それより確認したいことがあるんじゃないか?」
俺は仮面の下で不敵な笑みを浮かべていた。クラムはそれを察し苦笑しつつも優雅に頭を下げ感謝の意を示す。
「お気遣い痛み入ります。それではお言葉に甘えて伺わせていただきます。いつ私が王子の密偵だとお気づきになられたのですか?」
「初めから怪しいとは思っていたが確信したのはあなたが最近雇われたと聞いた時だな。まだ雇われて日も浅いのに夫人の近くに侍り、屋敷の構造に詳しく、一月前に死んだはずの伯爵の部屋の鍵まで持っている。これが王子の依頼と無関係の人だとしたら夫人にすぐに信用されるほど優秀な人間が何故か伯爵が死んでどうなるかわからない貴族家にわざわざ使えに来たことになる。普通に考えればその可能性は低い。ならば王子の仕込みと考えるのが妥当だ。俺は王子と面識があるからなおさらだな」
「やはりそうですか。お見事でございます。ですがこれは……」
「王子が俺にばれるように立ち回れと指示したからといいたいのだろう?」
「……そこにもお気づきでしたか」
クロムはほんの少し苦々しい表情を浮かべた。自分の見積もりの甘さを嘆いたのか、それとも自身の能力の欠如を悲観したのか俺にはわからない。だが、一流の密偵が表情を動かすくらいには認められたと見ていいだろう。
「当たり前だ。王族直属の隠密がここまでわかりやすく立ち回る無能だとは俺も思っていない。依頼書に書けない内容を早い段階で俺に気づかせたかったのだろう?そのくらいは分かっているから心配するな」
「余計な気遣いでしたね。御見それいたしました」
老人は鮮やかに腰を折ると、流麗な動作で一礼した。先ほどの反応が嘘のような完璧な所作だ。この一動作で密偵としての能力が飛びぬけていることを感じさせた。それほどまでに美しく、洗練されている。もし本気で執事に擬態していたならなかなかに骨の折れる仕事だっただろうと俺は一人ごちる。
「それで、これからどうするんだ? 俺はどうすればいい?」
「そうですね。俺様への依頼はこの時点で完了です。なので、お好きなように行動してもらって構いません。もちろん、迷宮都市に帰ってもらっても構いません。私はこの惨状の処理とそこで寝ている愚か者の連行がありますので失礼させていただきます。報酬は既にギルドのほうに支払っておりますのでそこからお受け取りください」
「了解した。ここからは好きにさせてもらう」
そう言うと俺の目の前には人間大の黒い穴が出現した。レガリアの力で出現した次元の門である。この光景を見てもクロムは何の反応も示さなかった。やはり、屋敷での指導していた様子を見ていたのだろう。まあ、そんなことは些細なことでしかないなと俺は思考を打ち切る。
「それじゃあな」
俺は別れの挨拶をするかのように軽く手を上げ穴の中に入ろうとした時、不意に声がかかる。
「少しお待ちを。最後に一つ質問してもよろしいですか?」
俺は立ち止まり、体を半分だけ老人の方に向け肯定の意を示した。
「シンシア様が襲われた時、襲った賊の後方には大規模な支援部隊と補給部隊があったようです。ですが、そこには馬車や荷車の破片と原型をとどめていない大量の死体がありました。これもあなたの仕業ですか?」
「ああ、そうだ。それも俺の仕込みだ。特に気にする必要はないぞ」
「承知しました。お引き止めしてすみません」
俺は綺麗なお辞儀を見終えると踵を返し、黒い穴に入っていった。クロムはその穴を消えるのを見届けるとぽつりとつぶやいた。
「なかなかに曲者ですな」
その声に抑揚はなく、先ほどまで浮かべていた表情はすべて抜け落ち能面のような顔となっていた。
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