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帝国動乱
第1話 新たな日常
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アイヴァー伯爵家での事件から一月ほど経った。その間特に変哲のない日々が過ぎシンシアは修行に打ち込んでいた。俺と幾度となく模擬戦を行い、実践の感覚を養っている。あの事件での盗賊の頭目との戦闘で自分の経験の浅さが致命的な弱点となりえることを自覚してか屋敷の時よりも修練に励んでいるように感じる。
二人は今日もいつもと変わらず対峙するや否や合図もなしに戦いを開始する。お互いの手には堅緑樹という鋼と同程度の硬度を持つ木で作られた訓練用の木剣が握られている。
そのため訓練であっても寸止め程度では終わらない。当たれば岩石を粉砕するほどの剣戟をシンシアは黄金の髪をたなびかせながら危なげなく掻い潜る。俺の懐に入り、シンシアは胴を薙ぐ一撃をくりだす。それを俺はほんの少し体をずらし避け、何事もなかったようにまた剣を振るう。シンシアはその攻撃を後ろに跳んでかわし、すぐに前傾姿勢をとり光の玉を真上に打ち上げる。
「<閃光/フラッシュ>」
圧倒的な光量が周囲すべてを照らし出す。それをスタートの合図であったかのように真っ直ぐに少女は距離を詰める。だが、この光で視界を奪っても俺は問題なく迎撃してくることはシンシアも分かっている。
これは数ある模擬戦のなかで最も多く使っている戦法だからだ。それでも今の自分ができることの中で最良の方法なのだ。いくら俺でも目を閉じれば開けている時よりも多少は反応速度も鈍くなる。そのわずかな隙を突くしか自分の攻撃を当てる手段はないだろうと少女は考えていた。
無造作に俺の間合いに侵入した瞬間、案の定鋭い反撃が飛んでくる。少女はそれも沈み込むように体を倒し、剣戟の下を潜って躱す。手を伸ばせば届くほどの距離まで近づくと体の中央目掛けて少女は渾身の突きを放とうとした。
その瞬間、木剣の先端を俺が左手で掴み機先を制する。そのまま木剣を引かれぐらりとバランスを崩し、立て直そうと足に力を込めた時にはシンシアの首筋に木剣の切っ先が突き付けられていた。
「………参りました」
少女はつぶやくように自分の敗北を告げる。俺はそれを聞くと剣を亜空間に収納し口を開いた。
「剣筋は悪くなかったな。この一か月で着実に成長している。だが、魔法の方は全然だめだな。魔法が使えるようになってから一月も経っているのにただの閃光しか出せないのは問題だ。最低限、物を破壊する光線を出したり、ものに纏わせ攻撃力を上げられなければ魔法使える意味があまりないぞ。今のままでは閃光弾を持っている兵士とやっていることが同じだ」
「………わかってはいるのですが光で物を破壊するイメージができなくて。不出来な弟子で申し訳ありません」
そう言うとシンシアは深々と頭を下げた。このままではまずいと俺は焦燥に駆られた。人を切れたことから傷つけることへの抵抗感はなくなり魔法の習得もスムーズにいくと思っていたが意外なところで躓いたものだ。想像力の欠如である。
魔法はイメージを具現化するがその現象が確実に起こるという強い思い込みが必要なのだ。普通、魔法の素養がある人間は小さいころから魔法に触れて育つため苦労することなどないのだがこのお嬢様は割と閉鎖的な環境で育ってきたため魔法への理解が足りていない。もう少し先にしようと思っていたが仕方がない。経験を積ませるためにも予定を早めようと俺は決断する。
「そう悲観するな。剣の腕は十分なんだ。魔法が人並みに使えるようになればそれだけで上位の冒険者に匹敵するくらいの実力はお前にはある。そうなるためにもお前に必要なのは魔法にもっと触れることだ。よってお前にはこれから冒険者になって依頼をこなしてもらう。その過程で魔法を見て学べ」
そう言うとシンシアはごくりとのどを鳴らす。少女は念願の冒険者になれるからか期待と不安が入り混じった瞳をしている。
「やっと冒険者になれるのですね!楽しみです!」
「あまり浮かれるなよ。確かにお前は単純な戦闘力はあるが対応力や駆け引きはまだまだ甘い。魔法を学ぶだけでなくそこらへん細かい戦闘技術もしっかりと学べよ。これからすべての戦いが命懸けだと肝に銘じろ。いいな」
「分かっています。私も道楽で冒険者をやりたいわけではありません。攻略者となるための努力は惜しまないつもりです」
「そうか。ならいい。ではいくぞ!」
俺は黒い外套をはためかせ町の方に歩き出そうとしたが後ろから声がかかる。
「せ、先生。待ってください」
「どうした? まだ何かあるのか」
「差し出がましいのですがお願いがあります。先生にもし一撃でも入れられたのなら一つお願いを聞いてくれませんか?」
俺は仮面で覆われた口元を三日月型に歪め、答える。
「いいだろう。だが、俺は一切手は抜かんぞ」
「分かっています。できるだけ早く一撃入れて見せます! 俄然やる気が出てきました」
シンシアは小さな拳をぎゅっと握り固く決意したようだった。
二人は今日もいつもと変わらず対峙するや否や合図もなしに戦いを開始する。お互いの手には堅緑樹という鋼と同程度の硬度を持つ木で作られた訓練用の木剣が握られている。
そのため訓練であっても寸止め程度では終わらない。当たれば岩石を粉砕するほどの剣戟をシンシアは黄金の髪をたなびかせながら危なげなく掻い潜る。俺の懐に入り、シンシアは胴を薙ぐ一撃をくりだす。それを俺はほんの少し体をずらし避け、何事もなかったようにまた剣を振るう。シンシアはその攻撃を後ろに跳んでかわし、すぐに前傾姿勢をとり光の玉を真上に打ち上げる。
「<閃光/フラッシュ>」
圧倒的な光量が周囲すべてを照らし出す。それをスタートの合図であったかのように真っ直ぐに少女は距離を詰める。だが、この光で視界を奪っても俺は問題なく迎撃してくることはシンシアも分かっている。
これは数ある模擬戦のなかで最も多く使っている戦法だからだ。それでも今の自分ができることの中で最良の方法なのだ。いくら俺でも目を閉じれば開けている時よりも多少は反応速度も鈍くなる。そのわずかな隙を突くしか自分の攻撃を当てる手段はないだろうと少女は考えていた。
無造作に俺の間合いに侵入した瞬間、案の定鋭い反撃が飛んでくる。少女はそれも沈み込むように体を倒し、剣戟の下を潜って躱す。手を伸ばせば届くほどの距離まで近づくと体の中央目掛けて少女は渾身の突きを放とうとした。
その瞬間、木剣の先端を俺が左手で掴み機先を制する。そのまま木剣を引かれぐらりとバランスを崩し、立て直そうと足に力を込めた時にはシンシアの首筋に木剣の切っ先が突き付けられていた。
「………参りました」
少女はつぶやくように自分の敗北を告げる。俺はそれを聞くと剣を亜空間に収納し口を開いた。
「剣筋は悪くなかったな。この一か月で着実に成長している。だが、魔法の方は全然だめだな。魔法が使えるようになってから一月も経っているのにただの閃光しか出せないのは問題だ。最低限、物を破壊する光線を出したり、ものに纏わせ攻撃力を上げられなければ魔法使える意味があまりないぞ。今のままでは閃光弾を持っている兵士とやっていることが同じだ」
「………わかってはいるのですが光で物を破壊するイメージができなくて。不出来な弟子で申し訳ありません」
そう言うとシンシアは深々と頭を下げた。このままではまずいと俺は焦燥に駆られた。人を切れたことから傷つけることへの抵抗感はなくなり魔法の習得もスムーズにいくと思っていたが意外なところで躓いたものだ。想像力の欠如である。
魔法はイメージを具現化するがその現象が確実に起こるという強い思い込みが必要なのだ。普通、魔法の素養がある人間は小さいころから魔法に触れて育つため苦労することなどないのだがこのお嬢様は割と閉鎖的な環境で育ってきたため魔法への理解が足りていない。もう少し先にしようと思っていたが仕方がない。経験を積ませるためにも予定を早めようと俺は決断する。
「そう悲観するな。剣の腕は十分なんだ。魔法が人並みに使えるようになればそれだけで上位の冒険者に匹敵するくらいの実力はお前にはある。そうなるためにもお前に必要なのは魔法にもっと触れることだ。よってお前にはこれから冒険者になって依頼をこなしてもらう。その過程で魔法を見て学べ」
そう言うとシンシアはごくりとのどを鳴らす。少女は念願の冒険者になれるからか期待と不安が入り混じった瞳をしている。
「やっと冒険者になれるのですね!楽しみです!」
「あまり浮かれるなよ。確かにお前は単純な戦闘力はあるが対応力や駆け引きはまだまだ甘い。魔法を学ぶだけでなくそこらへん細かい戦闘技術もしっかりと学べよ。これからすべての戦いが命懸けだと肝に銘じろ。いいな」
「分かっています。私も道楽で冒険者をやりたいわけではありません。攻略者となるための努力は惜しまないつもりです」
「そうか。ならいい。ではいくぞ!」
俺は黒い外套をはためかせ町の方に歩き出そうとしたが後ろから声がかかる。
「せ、先生。待ってください」
「どうした? まだ何かあるのか」
「差し出がましいのですがお願いがあります。先生にもし一撃でも入れられたのなら一つお願いを聞いてくれませんか?」
俺は仮面で覆われた口元を三日月型に歪め、答える。
「いいだろう。だが、俺は一切手は抜かんぞ」
「分かっています。できるだけ早く一撃入れて見せます! 俄然やる気が出てきました」
シンシアは小さな拳をぎゅっと握り固く決意したようだった。
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