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帝国動乱
第2話 冒険者ギルド
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俺とシンシアは冒険者ギルドに来ていた。木造のその建物は通常の家と比べると十倍近くの大きさがあり、酒場とも併設されているため朝方の時間帯以外は常に賑わっている。酒を飲む者、依頼を探す者、仲間を募集する者、目的は人それぞれであるがみな一様に首から様々な金属で作られた認識票をぶら下げている。
それは冒険者ならば誰もが喪に着けているものであり階級を表すものである。その階級は十段階に分かれており上に行けば行くほど希少な金属を使ったものになっている。そのせいもあってか両開きの扉を通り中に入ると先ほどまでの無秩序な喧騒と打って変わり、どこもかしこも同じ話題が上がっているようだ。
「おい、<虚空>が来ているぞ」
「朝の早い時間帯にしか見ないのに珍しいな」
「それよりもあれだろあれ。後ろにいる女の子だろ。何者なんだ。認識票がないから冒険者ではないのだろうが……」
俺は柳に風といった様子で平然と歩いていくがシンシアはきょろきょろと辺りを見回しながらそわそわしている。俺は馴染みの受付の前で止まると徐に口を開く。
「この子の冒険者登録をしたいのだが」
「登録ですね。では、この書類に記入をお願いします」
俺はシンシアの背を軽く押し記入を促す。元貴族令嬢であるため問題なく文字の読み書きはできるだろう。しばらくは暇だなと俺が思っているといそいそとペンを走らせている少女の向かい側から受付嬢が手招きしていた。それに引き寄せられるように近づくと受付嬢はカウンターから身を乗り出し耳打ちしてくる。
「それであの子とそういう関係なんですか?差し支えなければ教えて頂きたいです」
「あの子は俺の弟子だ」
そう言うと少しの間逡巡した後いかにも驚いたというポーズを取りながら良く通る声で叫ぶ。
「ええー!この子は俺様のお弟子さんなんですかー!」
その瞬間、周りの冒険者達が一斉にどよめく。それもそうだ。迷宮を攻略して以来弟子に志願してきた屈強な奴らを袖にしてきたのに見るからにか弱そうな美少女を弟子にしたと言ったのだから。実はあの少女は俺の娘であるとかはたまた孫であるとか仮面で正体を隠しているせいか根拠のない噂が飛び交い始める。すると騒ぐ冒険者達を一括する声が二階から聞こえてきた。
「うるさいぞ小童ども! ここは溜まり場ではないぞ! さっさと依頼に行かんか!」
その声に反応するように建物がぐらぐらと揺れる。
「やべ! マスターだ!」
「お前ら、いくぞ。暴れられたらたまらん」
今までがやがや騒いでいた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように一斉に動き出し瞬く間にギルドは静謐な空間を取り戻す。二階から筋骨隆々とした男が手を上げあいさつするように降りてきた。
「おう、俺。災難だったな」
「ああ、おかげで助かったよ」
「まあ、出来ればこんな確実に騒ぎになることは事前に知らせてほしかったがな」
そう言いながらギルド長は意地の悪い笑みを浮かべていた。まるでこれは貸しだと言わんばかりに。だが、俺も負けじと同じような表情を仮面の中で作りながら答える。
「俺も話そうと思ったがこれくらいのことギルドマスターにして迷宮攻略者の <覇王>なら造作もなく収められると思ってな。話すまでもないかという結論に至ったんだ」
「よく言うぜ、どうせ俺がそのことを把握していることを知っていたから話さなかっただけだろうが」
「まあな。こっちには何でも知ってる人がいるからな」
「ほんとに厄介だなあの人は。まあ、困ったら可能な限り便宜を図ってやるよ。そのかわり……」
「分かってる。今度塩漬け依頼を片付けてやる」
「話が分かるやつで助かるぜ。じゃあ、俺は仕事に戻るわ」
ギルド長は上機嫌で二階へと上がっていく。その姿が部屋に入り完全に見えなくなった時ちょうどよく響きの良い声色が耳に届いた。
「先生、書き終わりました。それよりこれみてください! これで私も冒険者ですね!」
シンシアは書類を受付嬢に提出しすでに認識票を受け取っていた。少女の輝くような笑顔とは対照的にそれは太陽光を浴び鈍い光を放っていた。先ほどの騒ぎを微塵も気にしていない様子に俺は一人嘆息した。
「よく似合っているよ。だが、あまり浮かれるなよ。今からがようやく始まりだということを忘れるな」
「分かってますよ。そのくらい。もうあまり子ども扱いはしないでください」
少女は頬を膨らませ、拗ねた子供のような態度をとる。
「悪かったよ。お詫びにそこの酒場で何か奢ってやるから先に言ってろ」
「本当ですか! 私一度酒場という所に行ってみたかったんです」
そう言うと目を輝かせながら少女は酒場の方へと駆けていく。俺は踵を返し受付嬢のもとに再び向かう。
「さっきは助かった。俺があいつのことを弟子だと周りに周知させたいという意図を組んでくれたんだろう?」
「お礼を言われるほどではありません。冒険者の方々の意図を組むのも仕事のうちですから」
「……そうか。あのマスターも優秀な職員を持って幸せだな」
「ありがとうございます」
女は屈託のない笑顔を浮かべる。本当にできた人だと俺は思った。実際、自然な会話の流れでを作り尚且つ彼女自身が情報を流すことにより俺が意図的にこの情報を流出させたという事実を作らずに済んだのである。これは俺にとって大きなアドバンテージとなる。これをあの一瞬で考え付くのだから可愛い顔してとんだ食わせ物である。
そんな思考を巡らせている俺の背後から青い鳥が高速で飛来し、一通の書状を落とした。その鳥は旋回して何事もなかったかのように入口を通り飛び去って行く。
「な、何だったんでしょうか?今の」
「気にしなくていい。知人の個性的な手紙の届け方だ」
そう言うと呆けた表情をした受付嬢を尻目に俺はシンシアのいる酒場に向かう。今から食事だというのにその先のことを考えると胃が痛くなる。まったく青い鳥だというのに不幸を運んでくるとはおかしいはなしだ。俺は重い足取りで金髪の少女が手を振っているテーブルに向かうのだった。
それは冒険者ならば誰もが喪に着けているものであり階級を表すものである。その階級は十段階に分かれており上に行けば行くほど希少な金属を使ったものになっている。そのせいもあってか両開きの扉を通り中に入ると先ほどまでの無秩序な喧騒と打って変わり、どこもかしこも同じ話題が上がっているようだ。
「おい、<虚空>が来ているぞ」
「朝の早い時間帯にしか見ないのに珍しいな」
「それよりもあれだろあれ。後ろにいる女の子だろ。何者なんだ。認識票がないから冒険者ではないのだろうが……」
俺は柳に風といった様子で平然と歩いていくがシンシアはきょろきょろと辺りを見回しながらそわそわしている。俺は馴染みの受付の前で止まると徐に口を開く。
「この子の冒険者登録をしたいのだが」
「登録ですね。では、この書類に記入をお願いします」
俺はシンシアの背を軽く押し記入を促す。元貴族令嬢であるため問題なく文字の読み書きはできるだろう。しばらくは暇だなと俺が思っているといそいそとペンを走らせている少女の向かい側から受付嬢が手招きしていた。それに引き寄せられるように近づくと受付嬢はカウンターから身を乗り出し耳打ちしてくる。
「それであの子とそういう関係なんですか?差し支えなければ教えて頂きたいです」
「あの子は俺の弟子だ」
そう言うと少しの間逡巡した後いかにも驚いたというポーズを取りながら良く通る声で叫ぶ。
「ええー!この子は俺様のお弟子さんなんですかー!」
その瞬間、周りの冒険者達が一斉にどよめく。それもそうだ。迷宮を攻略して以来弟子に志願してきた屈強な奴らを袖にしてきたのに見るからにか弱そうな美少女を弟子にしたと言ったのだから。実はあの少女は俺の娘であるとかはたまた孫であるとか仮面で正体を隠しているせいか根拠のない噂が飛び交い始める。すると騒ぐ冒険者達を一括する声が二階から聞こえてきた。
「うるさいぞ小童ども! ここは溜まり場ではないぞ! さっさと依頼に行かんか!」
その声に反応するように建物がぐらぐらと揺れる。
「やべ! マスターだ!」
「お前ら、いくぞ。暴れられたらたまらん」
今までがやがや騒いでいた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように一斉に動き出し瞬く間にギルドは静謐な空間を取り戻す。二階から筋骨隆々とした男が手を上げあいさつするように降りてきた。
「おう、俺。災難だったな」
「ああ、おかげで助かったよ」
「まあ、出来ればこんな確実に騒ぎになることは事前に知らせてほしかったがな」
そう言いながらギルド長は意地の悪い笑みを浮かべていた。まるでこれは貸しだと言わんばかりに。だが、俺も負けじと同じような表情を仮面の中で作りながら答える。
「俺も話そうと思ったがこれくらいのことギルドマスターにして迷宮攻略者の <覇王>なら造作もなく収められると思ってな。話すまでもないかという結論に至ったんだ」
「よく言うぜ、どうせ俺がそのことを把握していることを知っていたから話さなかっただけだろうが」
「まあな。こっちには何でも知ってる人がいるからな」
「ほんとに厄介だなあの人は。まあ、困ったら可能な限り便宜を図ってやるよ。そのかわり……」
「分かってる。今度塩漬け依頼を片付けてやる」
「話が分かるやつで助かるぜ。じゃあ、俺は仕事に戻るわ」
ギルド長は上機嫌で二階へと上がっていく。その姿が部屋に入り完全に見えなくなった時ちょうどよく響きの良い声色が耳に届いた。
「先生、書き終わりました。それよりこれみてください! これで私も冒険者ですね!」
シンシアは書類を受付嬢に提出しすでに認識票を受け取っていた。少女の輝くような笑顔とは対照的にそれは太陽光を浴び鈍い光を放っていた。先ほどの騒ぎを微塵も気にしていない様子に俺は一人嘆息した。
「よく似合っているよ。だが、あまり浮かれるなよ。今からがようやく始まりだということを忘れるな」
「分かってますよ。そのくらい。もうあまり子ども扱いはしないでください」
少女は頬を膨らませ、拗ねた子供のような態度をとる。
「悪かったよ。お詫びにそこの酒場で何か奢ってやるから先に言ってろ」
「本当ですか! 私一度酒場という所に行ってみたかったんです」
そう言うと目を輝かせながら少女は酒場の方へと駆けていく。俺は踵を返し受付嬢のもとに再び向かう。
「さっきは助かった。俺があいつのことを弟子だと周りに周知させたいという意図を組んでくれたんだろう?」
「お礼を言われるほどではありません。冒険者の方々の意図を組むのも仕事のうちですから」
「……そうか。あのマスターも優秀な職員を持って幸せだな」
「ありがとうございます」
女は屈託のない笑顔を浮かべる。本当にできた人だと俺は思った。実際、自然な会話の流れでを作り尚且つ彼女自身が情報を流すことにより俺が意図的にこの情報を流出させたという事実を作らずに済んだのである。これは俺にとって大きなアドバンテージとなる。これをあの一瞬で考え付くのだから可愛い顔してとんだ食わせ物である。
そんな思考を巡らせている俺の背後から青い鳥が高速で飛来し、一通の書状を落とした。その鳥は旋回して何事もなかったかのように入口を通り飛び去って行く。
「な、何だったんでしょうか?今の」
「気にしなくていい。知人の個性的な手紙の届け方だ」
そう言うと呆けた表情をした受付嬢を尻目に俺はシンシアのいる酒場に向かう。今から食事だというのにその先のことを考えると胃が痛くなる。まったく青い鳥だというのに不幸を運んでくるとはおかしいはなしだ。俺は重い足取りで金髪の少女が手を振っているテーブルに向かうのだった。
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