魔導と迷宮 ~最強の冒険者は少女を育てるようです~

天野静流

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帝国動乱

第8話 翼竜討伐

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 ノインは地面を力強く蹴り、中央にある巣へと素早く近づいていく。それを上空から発見したワイバーンは奇声を上げながら急降下してくる。その勢いのまま地面へと着地し、砂埃を巻き上げた。飛んでくる砂粒手にノインは思わず顔をしかめる。そして、次の瞬間、翼竜の顎が目の前に迫る。



「あぶない!」



 その様子を見ていたシンシアが腰の剣に手を掛け、走り出そうとする。だが、それを俺が手で静止させる。



「まあ、見ていろ。あの程度どうということはない」



 シンシアは不安そうな面持ちで向き直る。だが、そこにはノインの姿がなかった。シンシアは思わず目をこするが情景は変わらない。ワイバーンもそれは同じようで周囲をくるくると見回しノインの姿を探している。



「せ、先生! ノインはどこに行ったのですか?」



「下だよ」



「下?」



 シンシアは訝し気な様子で首をかしげる。だが、その答えはすぐに現れた。ノインが地面から飛び出し尻尾を切り飛ばしたからだ。



「グギャアアアア」



 ワイバーンは悲鳴を上げ、のた打ち回る。その勢いのまま血走った目で鋭い爪を振り下ろす。しかし、またしてもノインは影に潜り、姿を消す。ワイバーンの爪は空を切り、苛立ちの混じった咆哮を上げる。だが、そんなことはお構いなしというようにノインは淡々とワイバーンを追い詰める。腕を切り飛ばし、足を突き刺し、胸を抉り、腹を切り開く。翼竜は断末魔の悲鳴を上げることなく自らの血だまりに倒れた。



 その戦い方にシンシアは恐怖した。それは一切容赦のない倒し方だったからではなくその力量が自分と程遠いところにいると分かってしまったからだ。あの戦い方はおそらく俺に手本を見せろと言われたからあえて脅威となる部分から削ぎ落すようにしただけで殺すだけなら一瞬で首を切断できただろう。自分にはまだできないことを同年代の少女がこなせているという事実に思わずこぶしを強く握る。その様子を仮面の奥から覗き俺は口元を緩めた。



「おい。呆けるなよ。次はお前の番だ。ノインとの差があるのは当たり前だ。戦闘経験には天と地ほどの差があるからな。そもそも自主鍛錬と俺との一か月くらいの修行でずっと戦い続けてきた人間に勝てるわけないだろう」



 シンシアはその言葉を聞き深くうなだれた。俺に言われることでより重い言葉としてその身にのしかかったのだろう。



「だが、同時にお前の才能も本物だ。お前は分かってないのかもしれないが俺たちは十分一流と言えるくらいの実力者なんだよ。言わば長い長い道の先の存在ということだ。だが、お前はその存在にもノインにも負けたくないと思っている。年が近いとか、立場が似ているからという理由もあるかもしれない。しかし、それを差し引いても格上にも抗う負けん気と一流の俺が認める才能がお前にはあるんだ。うじうじ悩むな。お前が今できることを精一杯やれ。わかったか」



「はい!」



 それだけ言うとシンシアは走り出した。その顔は前を向き、瞳は闘志に燃えているように見えた。そして、目の前の仲間の仇を撃たんとする二匹の翼竜に接近する。



「二人で一匹ずつ相手をしろ。他に邪魔が入りそうなら俺が始末する」



 後方から俺が指示を飛ばす。二人はそれを了承の意思を伝えるかのように首を縦に振る。ノインとシンシアがすれ違いお互いの敵に向かう瞬間シンシアが真っ直ぐと黒髪の少女を見つめ口を開く。



「ノイン、私負けないから」



 ノインは一瞬呆けたように目を丸くしたがすぐに笑みを浮かべ答える。



「ん。私も負けるつもりはない」



 そして、二人はお互いの敵へと接近していく。



 シンシアは相手の目を眩ますために魔法を放つ。



「<閃光/フラッシュ>」



 眩い閃光が辺りを飲み込む。ワイバーンはあまりの光量に思わず悲鳴を上げる。シンシアは翼竜の背後に回り厄介な尻尾を切り落とそうと剣を振るう。だが、その斬撃はほんのすこし尻尾に食い込むだけで切断には至らない。ワイバーンもそれに反応し尻尾を振り回す。シンシアは後ろに下がりそれをかわす。



「ただの斬撃ではワイバーンの体は切断できないぞ。鱗も肉質も非常に硬いからな。そうゆうときは魔力で剣を覆え。そうすれば切れるようになる」



「先生!私まだ一度も成功したことないのですが」



「今成功させればいい。負けたくないんだろう?」



 シンシアはその言葉を聞き柄を握る力を強める。やるしかない。覚悟を決め、より深く集中し魔力を操作する。幸い翼竜はまだ光の影響で満足に動けていない。今が好機。そう思いまたしても尻尾に剣を振り下ろす。だが、その剣戟は切断するには至らなかった。



「まだまだー!」



 シンシアは足に力を籠め、剣を精一杯握り魔力を循環させていく。細胞から腕へ、腕から指先へ、指先から剣へと魔力を流していく。そしてついに頑丈な尻尾が地に落ちた。だが、シンシアは手を緩めず混乱する翼竜の懐に入りこみその首筋目掛けて剣を一閃させる。その一撃は今までで最高の一撃だったと言えるほど美しくまるでバターでも切るような滑らかなものだった。一刀のもとに首は落ち、その体は血に沈む。



「はぁ、はぁ……。できた」



 シンシアは自分の漆黒の剣を見つめ、笑みを浮かべた。



「終わったか」



 振り向くとそこには翼竜をあっさりと倒し佇む二人がいた。周りには首を切断されたワイバーンの無数の死体が転がっており、シンシアは思わず大きく息を吐いた。



「遠いなー」



 その憧れと野望が混じったつぶやきは山頂の風にかき消され誰の耳にも届くことはなかった。
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