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異世界召喚されました
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すべてが、急速に、動き出した。
―――そう、急速に、動き出したのだ。
***
ぱち、目を開ける。俺は寝起きが大変良い。今日もすっきりとした目覚めに満足し、身体を起こす。起こして、ざわめきが耳に届き、周りを見渡して、その時やっと異変に気が付いた。
「おぉ!!!異世界召喚に成功致しました!!!実に約600年ぶりの快挙でございます!!!」
……異世界召喚?600年ぶり?何のことを言っているんだ?ここはどこだ?俺はまだ夢の中にいるのか?夢の中であんなに清々しく目覚めたのか?
「先人が残した異世界書記に書かれていたとおり、黒髪に黒目、小柄な体型です!」
日本人の容姿として平々凡々、つまりどこにでもいる当たり前の俺の容姿がさも珍しいと言わんばかりの口ぶり。俺は一体どこの世界の夢を見ているんだ?
「おぉ…きょとんとした目のなんと愛らしいことか!しかし何も話さないではないか。言葉は通じているのか?」
「突然異世界に来たのですから驚いて声も出ないのですよ。異世界人、私の言葉が分かりますか?」
「…はぁ、分かります」
とりあえず返事をしてみる。やけにリアルな夢だなと思うが、俺が今いる場所と話しかけてきた彼らの姿を上から下までまじまじと見て、やはりこれは夢だと確信する。
円球体のようにドーム状の天井。壁には煌びやかな水晶のようなガラス玉が綺麗に線を作るように埋め込まれている。床は大理石のような石がはめこまれ、俺の足元には規則性がありそうでなさそうな模様が俺を囲む円の中に描かれている。
何ページあるんだと思わせる分厚い本を持ち、かけている丸眼鏡をしきりに押し上げている50代前半くらいの男性。前髪をオールバックにした白髪は、どう見ても腰をすぎ、お尻に届くほど長かった。身長は167㎝の俺より10㎝以上高そうなのに。
しかも裾が床にべったりとついた紺色のローブを着ている。汚れもべったり着いていそうで汚い。
そしてさらに異様なのは、もう一人のほうだ。
金ぴかキラキラとでも効果音が聞こえてきそうな大きな冠を頭に乗せ、立派なお髭に白髪と金髪が混じったような髪は後ろで三つ編みにされ、これまた物凄く長く180㎝を越えてそうな彼のかかと付近で毛先がゆらゆら揺れている。
白いファーがついた真っ赤で長いガウンを羽織り、これまた床にべったり着いている。ガウンの下から見えている服は、金がどれだけ使われているのか想像も出来ないほどキラキラと輝いており、若干目に痛い。そしてその腰には、剣の柄のようなものがちらっと見えた。
「おぉ!理解しているようです!」
「そなた、名は何と言う」
「…鵺野心翔です」
「ヌエノミト?」
おままごと?と同じ発音で聞き返され、下の名前だけをもう一度伝える。いつまでこのリアルだけど不思議な夢は続くのだろう。俺は目覚めがいいはずなのに。早く起きないと大学の講義に遅刻してしまう。
「ミト、異世界からよく来てくれた。わしはペンドリック王国の君主であり国王、アンガス・ペンドリックだ。ようこそ、ペンドリック王国へ。そなたを歓迎する」
「ようこそ無事に召喚されて下さいました。アンガス王の側近であり、この国の宰相を務めております。デロリー・フィッチと申します。デロリーとお呼び下さい」
丁寧な自己紹介をされたが、とりあえず俺は足に力を入れてその場から立ち上がる。立ち上がってから気付く。俺は、腰にタオルを巻いただけのとんでもなく破廉恥な格好をしていたことに。
急速に頭が冴える。いつも俺は寝る前に、お風呂から上がった後タオルを腰に巻いただけの格好で寝るのだ。本当は全裸でふかふかのベッドに包まれるのが好きなのだが、なんせ健全な大学生男子は朝勃ち、夢精をしてしまうものである。布団に精子をぶっかけないための予防線がタオルなのだ。
寝る前と全く同じ格好、やけにリアルな人間、声、空気。自分の頬を思いっきりつねる。めちゃくちゃ痛い。手のひらで思いっきり叩いてみる。めちゃくちゃ痛い。
そうして俺はやっと、全くもって信じられないが、本当に全く意味が分からないが、これが夢ではなく、ラノベによくあるような異世界召喚というものが自分の身に起こったのだと、気が付いた。
「ど、どうしたんだ!?デロリー、この奇行は異世界人特有のものなのか!?それとも何かの合図なのか!?」
「えぇ、えぇと、隅から隅までこの書記を何度も読みましたがそのような説明は書かれていなかったかと…ミト、どうされたのですか?せっかくの白い頬が赤くなっています!早く冷やさなければ!」
「あ…いえ、すみません。ちょっとした確認作業のようなものなので気にしないで下さい。とりあえず……何か羽織れるものを頂けます?」
「もちろんですとも!」
頬をつねったり叩いたりすることには飛び上がるほど驚き、タオル一枚腰に巻いただけのほぼすっぽんぽんな状態には驚かず、用意していたかのように白いローブを手渡してきた彼ら。その異世界書記とやらに異世界人は裸で召喚されるとでも書いてあるんだろうか。
「どうやら、異世界人の召喚は無事に成功したようですね」
ローブを素肌に直接羽織るのは変な心地だなと思いながらボタンを留めていると、俺から見て正面、王様と宰相から見て後ろの大きな扉から現れた人物。
白地に金の刺繍が施された高級そうなローブを着ており、前をセンター分けにした栗色の髪はやはりとっても長く、王様と変わらない背丈の彼の太ももまで伸びていた。
この世界の人間はみんなこんなに髪の毛が長いのか?何か理由があるのか、それとも宗教的な決まりでもあるのかと思案する俺の前まで来た彼は、左胸に手を当ててお辞儀をする。お辞儀されたらお辞儀し返してしまうのが日本人のさがだ。
「初めまして、異世界人様。私はこの国の神殿で大神官を務めている、ルーサー・ジェンキンスです。お会いできてとても光栄です」
「ど、どうも」
にっこりと微笑む彼の垂れ下がった目尻に皺がたまる。若くは見えるが40代くらいだと推定して、俺も名乗った。どうやら話を聞く限り、この3人が異世界召喚の儀というものを行ったらしい。
「どうしても異世界人にしか出来ない重大な事案があり、私たちは約600年ぶりとなる異世界召喚を行うことに決めたのです。ルーサー大神官が隣の間で神力を壁にはめ込まれた水晶に送り、さらにこちらからアンガス王が聖魔法、私が光魔法のエネルギーをそこの魔法円に注いで成功したというわけです」
何を言っているのかさっぱり分からない。神力?聖魔法?光魔法?おーけー。とりあえず俺は運悪く、したくもない異世界召喚の餌食になってしまったということだけは分かった。
「父上、お呼びですか!」
さらにそこへバンッ!と勢いよく扉を開けて新たな人物が登場してきた。今度はなんだなんだと宰相から扉のほうに視線を移す。こちらに近寄ってきたのは、"不機嫌"と顔に書かれているような、けれど人形のように綺麗な顔をした男だった。
「ライナス、来たか。紹介しよう。わしの最初の息子でありこの国の第一王子、ライナスだ」
艶々と天使の輪が輝くプラチナブロンドの髪は、肩で切り揃えられている。4人目にしてすごく長いわけではないそれに、髪の長さは年齢に比例しているのかと思うがよく分からない。
海を瞳にはめこんだようなアクアマリンがギッと俺に向かって睨みつける。人形のように美しい顔は、確かに王様と並ぶと親子の面影が見てとれた。
王様より少し高い身長は、人形のような顔には不似合いな大男の印象を受ける。185㎝くらいは余裕でありそうな彼の鋭い視線に見下ろされ、俺は首を傾げた。
「え、と…ミトです。ご機嫌いかがですか」
「いいわけないだろ!僕を馬鹿にしているのか!」
猫が威嚇するような勢いで返され、少し身体が仰け反る。自分より20㎝弱以上大きな男に怒鳴られたのは初めてなもんで、身体は正直だった。
「ライナス、やめんか。ミトは召喚されたばかりで心細いはずだ。お前の未来の子供を産む人物でもある。優しくせんか」
……はい?なんて???
「僕は納得していません!男なんかが僕の子供を産むだなんて…気持ち悪い!たとえ百歩譲って異世界人が子供を産めるのだとしても、こんなちんちくりんを僕は抱けません!」
すごい言い様だ。確かに俺は大学生にもなって中学生に間違われるような童顔のちんちくりんだが、そんなこと気にならないくらい王様の言葉が衝撃的だった。信じられず、嘘だよなと願うような声で、しかしどこか確認するような響きで俺はぽつりと溢す。
「まさか、俺が異世界召喚された理由って…」
「察しがよくて助かるのう。そのまさかだ。ミトにはこのライナスと結婚して、ライナスの子を産んでもらいたい」
勇者として魔王を倒しに行くだとか、聖女として浄化するとかではなく?は?俺、男なんですけど?
異世界召喚、やり直してもらえません?
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