【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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異世界で一目惚れなんて笑えない

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    到底すんなり受け入れられるものではない王様の言葉に顔を引きつらせる。帰りたい、今すぐ日本に帰りたい。そんな俺の思いとは裏腹に、宰相がまたどん底に突き落とすような一言を放つ。

「異世界人は一度召喚されたら二度と元の世界には戻れませんし、この国で王子の妃の一人となり子をなせるなんて、僥倖なことなのですよ!しかも異世界人と王族の子はかなり魔力が強い聖魔法持ちの子が生まれるとこの異世界書記に書かれております!未来のペンドリック王をあなたは産めるのです!」

    怒涛の勢いで捲し立てられ、情報量に頭がパンクしそうになる。一旦、王様のひげがふわふわで柔らかそうだなぁなんて現実逃避してみた。全然無理だった。

「すみません、断固拒否します」

    ひとまず俺の意思を簡潔に伝えておくにかぎる。竹を割ったようにスパンッと言いきった俺を、王様と宰相は目を丸くして、大神官は目を細めて見てくる。王子様はというと、今にでも俺に向かって唾を吐いてきそうなほど嫌悪感むき出しの表情でこちらを睨んでいた。

「た、確かに会ったばかりの人間、しかも男性と結婚しろだの子を産めだの言われてもすんなり受け入れられませんよね!ええ、お気持ちはお察し致します。しかし、」
「いえ、そういうことではなく、俺は一夫多妻制断固反対派なので他の穴に突っ込んだチンコを俺に突っ込まれたくないだけです」
「……」

    ピシャッと一同が同時に固まり、一枚の写真のようだなと思う。あれ、ちょっと明け透けすぎただろうか。でも俺の一番嫌なことはまずそこだ。
    なんと言っても俺の性愛対象は男性だから男に抱かれることに特に抵抗はないし、むしろいつか経験してみたいと思っている。しかし"妃の一人"になるのが何よりも嫌なのだ。吐き気すら催す。
    一夫一妻の日本で育ったのなら当たり前の価値観だと思う。しかし日本の歴史でも王とか将軍様というのは多くの妻や妾をつくり、子を成して国を発展させている。だから王族の義務については理解している。しかし俺がそこに巻き込まれるのだけはごめんだ。

    その次に妊娠はともかく出産なんて鼻からスイカを出すくらいに痛いと聞いたことがあるため、絶対に嫌だ。
    自分が子をなせる身体になったなんて到底信じられないが既に異世界召喚という現実ではあり得ないと思っていたことが起こっているのだから男でも妊娠すると言われてもそこまで驚かない。
    しかし問題はどこから出てくるんだ、ということだ。もし穴からなら痛みで死ぬ自信がある。想像しただけで怖すぎる。

「ま、まぁ…確かに、ライナス様は毎晩、違う女性を閨に呼びつけているようですからその考えも一理ありますが…」
「デロリー、少し黙った方が良いですよ」

    気まずそうに口をもごもごさせながら俺に何とか理解を示そうとしてくれている宰相を、大神官がにこりと全然目が笑っていない笑みで諭す。
    俺は宰相からもたらされた新たな情報に軽く吐き気が込み上げてきて口を手で覆う。無理無理、全然無理。もうこの第一王子と同じ空気を吸い、同じ空間にいることすら気持ち悪くなってきた。

「ミ、ミト!どうしたのだ!」
「おぇ…吐きそう…」
「召喚の代償かもしれません!早く休ませなければ!とりあえず異世界人用に用意していた部屋へと運びましょう」
「ライナス、お前がミトを抱き上げて運んでやりなさい」
「はぁ!?何で僕がそんなことを…」
「あの、そんなことされたらもっと気持ち悪くなって今すぐここで吐くと思うので、やめてもらっていいですか。自分で歩けます。あと、王子様はここでさよならして頂けると俺の具合もだいぶ良くなります」
「こ、いつ…!なんなんだ貴様は!この僕に向かって失礼な奴だな!」
「ライナス様、ここはミト様の言う通りにいたしましょう。大事な異世界人様です。何が悪影響になり、何が起こるか分からないのですから丁寧に扱わなければ。ミト様、よろしければ私がお運びしてもよろしいでしょうか?」
「…はい、よろしくお願いします」

    大神官が助け船を出してくれたので、ありがたく遠慮せずその船に乗る。もう王子様の顔すら視界に入れたくない。本当に気持ちが悪い。
    40代のおっさんに運ばせてしまうのは申し訳ないなと思うが大神官は雰囲気が柔らかいせいか、なぜか安心する。性の匂いが全くしないからかもなと思った。
    おんぶでもしてもらえるのかと思ったが、ひょいっと軽々しくお姫様抱っこの形で持ち上げられ慌てる。おっさんなのに身長があるからか、ローブの下に筋肉を隠しているからか、空気を持ち上げていますみたいな顔でそのまま大神官は歩き出した。

「ライナス…お前はしばらく閨に女を呼ぶのを禁ずる。少しはミトに好かれるよう努力するのだぞ」
「な!いやです、父上!僕は…」
「おふたりとも、どうか…」

    王様と王子様が言い合ってる声と、宰相がおろおろと止めに入る声がどんどん遠くなっていく。一国の王と王子でも普通に親子喧嘩するんだな、とぼんやり思いながら黙って大神官の腕の中で目を閉じ、吐き気を少しでも外に逃がした。

***

    その後、運ばれた部屋のベッドで夕食の時間になるまでしばらく休ませてもらった。異世界人用に用意したという部屋は、淡いクリーム色の壁にココア色の家具で統一された落ち着く空間だった。
    ギラギラ、ピカピカしてたらどうしようと一抹の不安を抱えていたがそれが杞憂にすんで良かった。これも異世界書記に"異世界人が落ち着くおすすめの部屋"なんて項目で書かれていたりして。

    それにしても、約600年前が最後だという異世界召喚をよく実行したなと思う。600年もの間、異世界書記が保管されていたのも凄いし、逆にどうして600年の間に異世界召喚がなかったのか、その理由も気になる。
    今回3人で召喚したなら結構簡単に出来そうなものなのに。強い魔力を持つ子がほしいと思うような時代じゃなかったのだろうか。

    そんなことを目を瞑りベッドに横になりながら考えていると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえて身体を起こす。もう夕食の時間で誰か呼びに来たんだろうなと思いながら、扉を開けると。
    最初に目に飛び込んできて驚いたのは、その身長の高さとがたいの良さ。190㎝以上はあるんじゃないだろうか。次に頬にある、切られたような大きな傷跡。そして最後に、あまりに精巧な造りをした男前の顔だった。

「…え、」
「ミト様、でしょうか。中に入ってもよろしいですか?」
「あ、はい、どうぞ」

    鼓膜を揺らす深い重低音。声までかっこよくてセクシーだなんて、とどきまぎしながら男前の彼を室内に入れる。彼が足を進めるたびに、彼の腰にある二つの剣鞘が擦れて音を鳴らした。

「申し遅れました。私、これからミト様の護衛をさせて頂くアルウィン・シーボルトと申します。アルウィンとお呼びください」
「み、ミトです。よろしくお願いします。…俺の護衛、というのは?」
「異世界人であるミト様は魔法が使えないとお聞きしています。この世界は魔法が主流でありいつ何が起こるか分かりませんので、私がミト様の盾となり矛となります」
「…この世界はそんなに危険なんですか?」
「今は特に危険が迫っている状況ではありませんし、ここは王宮の敷地内ですから安全は保証致します。しかしまだ知られてはいないものの異世界人が召喚されたと知れわたればミト様のお姿を一目見ようと群衆が押しかけてくるかもしれません」
「えぇ…」
「私がそばにいるかぎり、ミト様には指一本触れさせませんのでご安心下さい」

    床に膝をつかれ左胸に手を当てながら、忠誠を誓うようなポーズで真剣に言われ、思わず胸の奥がキュンと高鳴る。異世界って怖い。異世界のイケメン恐るべし。

「そんな守ってもらうような大層な人間でもないのに…ありがとうございます、アルウィンさん」
「私に敬語は不要です、ミト様。どうかアルウィンとお呼び下さい」
「じゃ、じゃあ…アルウィン、よろしくね」
「こちらこそよろしくお願い致します。分からないことがあれば何でも聞いて下さい」
「分かった。頼りにしてるよ」
「はい。もうすぐ夕食のお時間です。アンガス国王とデロリー様、ルーサー様がいらっしゃいます。ライナス様はミト様のご希望ということで同席しませんのでご安心下さい。それでは食事の間に参りましょう」

    そういって部屋を一緒に出て少し前を歩くアルウィンの後ろ姿を見つめる。ワインレッド色の短く切り揃えられた髪、黒地に銀の刺繍が施されたシュッとした服を着てても分かるほどの大きな筋肉。少し浅黒い肌、武骨な手。そしてさっき真っ正面から見つめられた、神秘的なシルバーの瞳。

    一瞬で心を掴まれる、そんな色だった。


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