【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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騎士の頬の傷痕

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 食事の間に着くと、俺の横にアルウィンの姿があるのを確認した宰相が口を開いた。

「ミト、このアルウィンという騎士はこの国の名誉騎士であり、国を裏切ろうとした魔導師軍団をたった1人で蹴散らした大変強い騎士なのですよ!ですからあなたの身は何がなんでも彼が守りますので安心してこの国でお過ごし下さいね」
「名誉騎士?アルウィン、そんな凄い騎士なんだ…」
「ええ、そうですとも!この私がアルウィンをあなたの騎士に推薦致しました。彼の強さは本物ですから」
「わざわざ俺に護衛をつけてくれてありがとうございます」
「よいのですよいのです!」

 アルウィンが強いことをさも自分の強さのように鼻高々と説明する宰相に一応お礼を言っておく。彼がアルウィンを推薦してくれていなかったら、アルウィンと出会えていなかったかもしれない。こんなに男前な騎士を護衛につけてくれたことには心から感謝している。

 夕食の席では相変わらず王様や宰相が王子と結婚して妊娠出産することのメリットをつらつらと述べていたが、この国の料理が美味しすぎて全て右から左に流し、食べることに集中していた。
 大神官はそんな2人を宥めつつ、俺がこの国に早く慣れるようにサポートすべき的なことを言っていた。神に身も心も捧げている人はさすがだなと有り難く思いながら、ずっと俺の背後に立つアルウィンをちらっと見る。
  キリリとした綺麗に整えられた眉が少し下げられ、俺にどうしたのか聞きたそうな表情を向けてくる。アルウィンは食べないのかと聞けば、王族や高位な人間と騎士が同じ場で食事をすることは不敬に当たるのだと教えてくれた。

 こんなおっさんたちと実のない話をしながら食べるよりアルウィンと食べたらもっと美味しいだろうに、と思いながらさっさと食べ終えて部屋に戻ることにした。
 今日は召喚されたばかりで疲れているだろうからとすんなり解放されたが、明日からこの国や世界のことを知るために教育係がつくと言われた。
 アルウィンから教えてもらいたいのに、という内心は隠しつつ、そのことを了承して部屋に戻る。

「はぁ~、お腹いっぱい。美味しかったなぁ」
「この国の料理がお口にあったようで良かったです」
「なぁ、アルウィン。最初から思ってたんだけど俺にたいしてそんな丁寧な話し方しないでよ。たぶん俺の方が年下だし、別に偉い人間でもないんだしさ」
「しかし…」
「じゃあせめて、外ではさっきまでと同じでいいけど俺と2人きりのときはアルウィンの素で話してほしい。ずっと丁寧な言葉で話されていると俺も気が休まらないんだ」

 部屋のソファに座って食休みしながら気になっていたことを早速アルウィンに持ちかける。俺は21歳だがアルウィンはもっと上に見えるし、何より彼ともっと親しくなるにはまずは言葉から崩していかないと、という下心から出た提案だった。

「それなら、ミト様」
「名前もミトって呼んでよ。俺は21歳、アルウィンは?」
「私は26歳ですが、歳の問題ではなくこれは騎士としての…」
「俺、この世界に来たばかりで親しい人も家族もいないし、アルウィンと仲良くなりたいんだ。だめかな?」

 ソファから彼を見上げると自然と上目遣いになる。童顔でこの世界の人間からしたら小さな俺はさぞ子供のように見えてNOを突きつけるのは胸が痛むだろう。
 しばらく黙り込んで考えている様子だったアルウィンのシルバーの瞳をじっと見つめると、彼は観念したようにふっと息を一つ吐いて、口を開いた。

「それならミトと呼ばせてもらう。ミトのその顔と姿は、俺が育った孤児院の子供たちを思い出させてだめだな。降参だ」

 パッと心に花が咲き誇ったような気持ちで俺は笑顔になる。子供扱いなのはちょっと気になるが、彼から個人的なことまで聞けたことに舞い上がり、俺は食いついた。

「アルウィン、名誉騎士だし素の話し方までかっこいいしずるいなぁ。孤児院育ちなんだね。子供たちとはよく会うの?」
「1ヶ月に1回、孤児院に顔を出すようにしている。育ててもらった恩もあるし今孤児院にいる子供たちが伸び伸びと過ごせているかの確認のためにな」
「偉い!あ、アルウィンも座ってよ。背が高いから見上げていると首が痛いんだ」

 俺の隣をポンポンと叩いて座るように促す。片方の口角だけを僅かに上げて困ったような顔をしながらも、俺の言う通りにしてくれた。距離が近付いたことにテンションが上がるのを抑えきれなかった。

「誰かが近付いてくる気配がしたらすぐに立つからな。さっきの食事の場でも思ったが、ミトは案外、肝がすわっていておもしろいヤツだな」
「え、そう?普通だと思うけど。王様たちがずっと王子と結婚しろだの子を産めだの、同じことばかり言うから反応薄かっただけだよ。この人たちとじゃなくてアルウィンと食べたかったなって思ってた」
「こら、俺以外の前でそんなことを言ったらだめだぞ。たとえ異世界人でも不敬罪だと目をつけられる」
「誰に?」
「国王や宰相、大神官にはそれぞれ何でも言いなりになる信者のような人間たちがあちこちにいるんだ。特に王宮内の使用人たちには気を付けろ。俺が常にそばにいるから問題ないと思うが、少しでも彼らを悪く言おうもんなら嫌がらせが待っているぞ」

    どこの世界でも嫌がらせはあるんだなぁと人間の愚かさに辟易する。しかし俺だってなるべく平和に平穏に過ごしたいから、アルウィンの忠告を素直に聞いておくに越したことはない。

「分かったよ。でもアルウィン、騎士なのにずっと俺のそばにいるなんて嫌じゃない?」
「それが俺に与えられた仕事だから嫌も嫌じゃないもない。孤児院にたくさん寄付できる金ももらえるわけだしな」

 その言葉にズキリと少し胸が痛む。アルウィンは当たり前のことを言っているだけだ。孤児院への寄付のために異世界人の護衛を引き受けた、素晴らしい人間性の持ち主だと自分を納得させる。

「ミトこそこの世界に突然連れてこられて、家族や友人ともう二度と会えないのは悲しいだろう。俺が言うのも変だが、ミトには全然関係ない王族の事情に巻き込んでしまい本当にすまない」
「いや、全然悲しんではないよ。元の世界でも特に親しい友達も家族もいなかったから」
「…そうなのか?泣いてもいいんだぞ?」
「ううん、本当に大丈夫。しいて言うならあっちの世界にあるラーメンとかたこ焼きっていう食べ物が恋しくなるんだろうなって感じ。でも今日の料理を食べたらこっちのご飯も美味しくてすぐに忘れそうだけどね」

 自分でも順応性が高すぎるというか薄情者というか、驚くほど元の世界への未練がない。なんならアルウィンと出会えただけで異世界に召喚されてよかっただなんて思い始めている。自分でも自分のちょろさと面食いだったことに驚いていた。

 ぼーっと隣のアルウィンの顔を見つめる。凛々しい眉と目力を感じさせる形の目、すべてが精巧なつくりをしている男として憧れる顔。頬に大きな傷痕があるのにそれすらも彼の魅力を引き立たせている。

「…この傷痕が気になるのか?」
「あ、ごめん。そういうつもりじゃなくて、」
「別にいい。この傷は子供の頃、両親を殺されたときについた傷だ。俺を庇って死んだ両親を切りつける刃先が頬を掠めたんだ」

 まさか傷痕の理由を聞かされるとは思わず、固まる。言いたくないことを言わせてしまうほどジッと見すぎてたかもと反省しながら、その傷跡に自然と指が伸びていた。

「……痛かったね」
「当時は衝撃で痛みなんて感じなかった。俺も殺されるかと思ったが、両親の身体の下に隠れて見つからなかったおかげで生き延びた」
「アルウィンが俺と出会うまで生きていてくれてよかった」

 触れるとざらついた感触がある。傷痕が瘡蓋になって、何度もかきむしってまた瘡蓋になって、を繰り返したのだろうなと感じさせる感触だった。
 両親が目の前で殺されるなんて幼い時のアルウィンの気持ちとこれまでの苦労を想像するだけで胸が苦しくなる。指で傷跡を撫でさすりながら、彼は自分の顔の傷跡を見るたびに両親が殺された場面を思い出すんじゃないかと泣きそうな気持ちになった。

「なぜそんな泣きそうな顔をしている。もう痛みなど感じないし、両親の敵をいつか打つための強さに変えているから大丈夫だ」
「でも心は痛くなるときがあるでしょう?心の痛みや傷は目に見えないだけで、薄れはするものの一生残るものだから」
「お前は……感受性が強く、優しいんだな」

 撫でていた指をそっと掴まれて離される。今日が初対面なのに馴れ馴れしく触りすぎたことに今さら気付き、落ち込んだ。

「あの、ごめん…!勝手に触ったりして」
「なぜ謝る?ミトに触られていると擽ったくなってきただけだ」

 嫌そうな反応ではなかったことに胸を撫で下ろす。なぜか彼には嫌われたくないと強く思っている自分がいた。

「明日からは学ぶことがたくさんある。今日は早めに休んで明日に備えろ」
「うん、そうしようかな。あれ、この世界にお風呂ってある?」
「おふろ?なんだそれは」

 初めて聞いた単語のような表情をするアルウィンにこの世界では別の呼び名なのかもしれないとお風呂の説明をすると、驚くことにお風呂の概念がなかった。
 魔法に精通しているこの世界で身を清めるには、浄化魔法というもので自分の身体を綺麗にするらしい。異世界あるあるだ、と思いながらもお風呂がないことにがっくりと肩を落とした。

「でも俺は魔法なんて使えないのにどうすれば…?」
「俺がミトに浄化魔法をかけるから何の問題もない。ちょっと両手を出せ」

 言われた通りにアルウィンに向かって両手を差し出すと、その手を握られドキリとしたのも束の間、スーッと体内に爽やかな風が吹いたように突然身体がスッキリとした感覚に包まれた。

「わ、すごい!」
「これで浄化出来たから大丈夫だ」
「初めて魔法を見たというか、感じた!これってこの世界の人なら誰でも出来るの?」
「基礎魔法だから魔力があれば誰にでも出来る。異世界人に魔力はないとされているし、魔力は生まれつきのものだからミトが魔法を使えるようになるかは分からない。だが心配するな、俺が毎日やってやる」
「アルウィンに頼りっぱなしでごめん。でも気持ちよかったからこれから毎日よろしく」
「あぁ。その辺の魔法についてもこれから学んでいこう。さ、今日はもう休め」
「アルウィンはどこで寝るの?」
「俺はすぐ隣の部屋で休む。何かあればすぐに対応出来るから安心して寝ればいい」
「分かった。いろいろありがとう」

 そうして隣の部屋へと続く扉があったことに今さら気付き、そこから俺の部屋を出ていったアルウィンの姿を見送って俺はベッドに潜り込んだ。
 異世界召喚された長い長い1日が、ようやく終わりを告げる。俺は来てしまったからにはここで生きていくしかない。そのためには多くを学ばなければと意気込みながら、眠りに落ちていった。

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