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ピラミッド型の世界
しおりを挟む翌朝、アルウィンに起こされると一瞬自分がどこにいるのか忘れて思考停止したが、アルウィンの声を聞いて昨日のことをすべて思い出す。俺の具合が悪いのかと顔を覗き込まれた時は、朝からアルウィンの男前な顔を間近で見たことにより別の意味で思考停止しかけた。
朝食は部屋で取り、見たことのない食材や料理名を教えてもらいながらアルウィンも一緒に食べた。これから毎日一緒に朝食を食べれるのかと思うと、浮かれてしまいそうになる。
朝食を終えると部屋に教育係を任されたというおじいちゃん先生がやってきた。王様たちは当たり前に彼らの仕事があり、今日は俺の部屋がある塔には夕方に来るそうだ。また一緒に夕食を食べなければいけないのかとうんざりする。
俺が学んでいる間、アルウィンは腕が鈍らないように部屋からすぐ近くの外で個人稽古をしておくそうだ。
深緑色の分厚い本を何冊も使用人たちが机の上に置いていく。俺はこれから全部学ばされるのかと気が遠くなったが、アルウィンに頑張れという一言をもらっただけで俄然やる気がわいてきた。俺っていつからこんなにちょろくなったんだ?
そしておじいちゃん先生から教えられ始めたこの世界の構図は、思っていた以上に複雑だった。
この世界の形、日本でいう地球は、ピラミッド型をしていて7つの層に分かれているという。上であればあるほど人口は少なく、下であればあるほど人口が多い。
上から順に神界、天界、魔界、妖精界、妖界、獣人界、そして人間が住む人間界かと思いきや、元人間界であり今は底辺界と呼ばれているらしい。
なぜ人間界ではなくなったかというと、元々人間しか住んでいなかった層に、数百年ほど前、妖精界、妖界、獣人界から突如多くの人種が下りてきて人間界に住むようになったという。その理由は歴史書や文献に残されておらず理由は不明とされている。
このビラミッド世界はきちんとしたルールと縛りがある。それは上の層から下の層に下りていくことは出来るが、下の層から上の層に上がっていくことは出来ない。つまり、人間は決して上の界に行くことも見ることも出来ないのだ。
同じように、一度人間界に下りてきてしまった妖精、妖怪、獣人は元の層に戻ることが出来ない。だから人間界に住むしかなくなったというわけだ。それによって人間のみが住む界ではなくなったため、底辺界と呼ばれるようになったという。
初めて見る妖精、妖怪、獣人の姿に当時大混乱が起こったことは難なく想像出来る。異層界から来た異種人を恐れ、当時討伐したい人間が多かった。しかし先に手を出した人間はそれが大きな間違いだったと知る。
数百年前の人間が最初から手を出さなかったのは妖精のみ。なぜなら妖精は手のひらにのるほどの大きさしかなく、服は何もまとわずヒラヒラとガラスのような透明の羽を羽ばたかせてキャッキャッと笑うだけ。
言葉は話せず、人間の言葉が通じているのかも分からない。しかしその容姿はとても愛らしく鈴のような笑い声は人間を幸せな気持ちにしたため、妖精は無害とされた。
人間が大きく恐れたのは、妖怪と獣人だった。
妖怪は目が3つだったり、手が何本もあったり、顔は豚で身体は蛸のようだったり、とにかく異形な見た目の者ばかりだった。
本に描かれた妖怪一覧絵を見たが、確かに怖い見た目の妖怪が多く討伐しようとする気持ちも分からなくはない。中には日本の妖怪にいる轆轤首や一反木綿に似た者もいて実際目の前にしたら動けなくなるだろうなと思った。
獣人はとにかく身体が大きい人種だった。平均身長は2~3mで、見た目は人間に耳や尻尾が生えているだけのように見える者もいれば、顔はほぼ動物で身体は人間、顔から身体まですべて動物に見えるが四足歩行など多種多様だった。
彼らは魔法が使えず一見無害そうに見えたが、全員が四足歩行の姿から獣の姿に変わることができ、とにかく力が強かった。腕力、脚力、跳力、握力、視力、聴力など動物の種類によって個体値はさまざまだが人間とは比べ物にならない。
異形な見た目の妖怪と、大きく力の強い獣人を魔法で討伐もしくは封印しようとした当時の人間。しかし結果は、悲惨なものだった。
妖怪と獣人に攻撃を仕掛けた人間たちが、一瞬でチリとなって消えたのだ。そうなった原因は、無害だと思われた小さな妖精の魔法だった。
さらに攻撃されたことに敵意をむき出しにした妖怪は妖術で、獣人は腕力や鋭い牙で、自分たちに手を出したらどうなるか人間に分からせたのだった。
これにより、人間は異層界人には手を出してはいけない理由を知ることとなる。人間が持つ魔力や魔法など、異層界人には全く歯がたたないことを。
この事件により、人間は彼らが人間界に住むことを容認するほかなかった。しかし人間が彼らと共存など出来るわけがなく、妖精は妖精の森、妖怪は妖怪村、獣人は獣人村を作り、お互い干渉せずにこれまで暮らしてきたというわけだ。
ちなみに人間と異層界人では平均寿命も全然違う。妖精は約3000年、妖怪は約1000年、獣人は約500年も生きるという。このことから全く情報がない神界、天界、魔界はもっと長い寿命とさらに強い魔力や魔法技術、人間には底知れない力を持っていると推測されている。
「ここまでで何か、質問はあるかのう?」
俺は一気に詰め込まれた情報量にこめかみが痛むのをおさえながら、何から質問していいのか分からず混乱する。とんでもない異世界に来てしまったと、今になって実感してきた。
だって今はまだ人間としか会っていないが、いつか妖精や妖怪、獣人とご対面するかもしれないってことだ。アニメや漫画で見るのとは訳が違う。本物を目にして正気でいられるのか不安だった。
「あの、妖怪や獣人は決して村を出ることはないですか?人間を傷付けたりはしないんですか?」
「人間から攻撃しないかぎり彼らから人間を傷付けることはないとされておるわい。基本的に自分たちのテリトリーから出ないようじゃが…絶対出ないこともないじゃろう。何とも言えぬな」
「そ、そうですか…」
異形の妖怪や2~3mもある獣人が目の前にいるのを想像しただけで怖すぎる。彼らが村を出ずに絶対に俺の前に現れないことを祈るしかない。
「午前中はここまでにして昼休憩としようかの。わしも久しぶりにたくさん喋って疲れたわい」
聞くところによるとこのおじいちゃん先生は国の重要書物や書類を保管する大図書館を管理している人物らしい。歴史研究家でもあり、この国のことからピラミッド世界全体のことまで、多くの知識を持っているそうだ。
見た目はよぼよぼのおじいさんだが、凄い人なんだなと感心する。そんな人に直接教えてもらえる機会を無駄にしないように頑張ろうと、改めて思ったのだった。
***
アルウィンと共にお昼休憩を取りながら、おじいちゃん先生に教えてもらった内容を復習がてら軽く話す。しっかり勉強してて偉いな、とアルウィンに頭を撫でられて頬が紅潮するのが自分でも分かった。
「こ、子供扱いしないでくれ。孤児院の子供たちじゃないんだから」
「頑張ってる子に頑張ってて偉いと褒めて何が悪い?でもあまり詰め込みすぎないようにな」
「…ありがとう。それにしても、妖怪や獣人がこの世界にいるって知ってビックリしたよ。アルウィンは妖怪と獣人に会ったことある?」
「妖怪ならあるぞ。妖怪村から親と喧嘩して脱走したという子供の妖怪だった。一つ目で胴体はなく、目の球体から直接手足が伸びていた。人間の村があるところまで迷い込んだらしく、妖怪を初めて見る人々しかいなかったから名誉騎士として討伐要請を受けた」
アルウィンの説明から妖怪の姿を想像して、そりゃみんなパニックで近寄りたくないだろうから一番強い名誉騎士に任すのは当たり前だろう。
「え、討伐したの?」
「もちろんしていない。こちらから攻撃しなければ無害だと知識として知っていたからな。注意深く話しかけてみたら、言葉が通じた。子供だと分かり、妖怪村の場所まで送り届けたんだ」
「妖怪村に行ったの!?」
「村の外までだけどな。だがその一つ目の妖怪の親らしき妖怪がお礼を言ってきた。確かに妖怪の見た目は受け入れられない人間も多いだろうが、中身は俺たちと同じくしっかり心があるんだと思ったな」
「へぇ~妖怪って心は優しいのかもね。今の話を聞く前は絶対に会いたくないと思ってたけどちょっと妖怪村に興味出たかも」
ちょろい俺は1時間ほど前と正反対の考え方になっていたが、そんな呑気な俺の言葉にアルウィンは目尻を吊り上げてキッと鋭い表情をした。
「絶対にダメだ。確かに攻撃はしてこないのかもしれないが、彼らは妖術を使う妖怪だ。魔力のないミトは近付いたら危ない」
「でもアルウィンと一緒ならよくない?」
「全然良くないぞ。悪戯好きな妖怪もいると聞くしおもしろ半分で近付いていい相手ではない。獣人も同じくだからな」
「…そうだよね。ごめん、呑気なこと言って」
「もちろん俺がそばにいるかぎりそんな場所には連れていかないからそんな機会はないと思うがな。その考え方は捨てておいてくれ」
「はーい」
アルウィンの言葉の節々から叱りなれてることが分かる。目を吊り上げた顔も男前すぎてまた叱ってくれないかな、なんて考えている俺がいた。
昼食を終えてからはまたおじいちゃん先生の授業に戻り、ペンドリック王国の王族のことや魔法の概念、種類などを中心に学んだ。
魔法については異世界人は魔力がないとされているが、約600年前の異世界人は治癒魔法が使えるようになったという記述があるらしい。だから俺もいつ魔力が芽生えるかも分からないから知っていて無駄にはならないとのことだった。
俺も人を傷付ける魔法はいらないけど、人の怪我を治せる、アルウィンの怪我を治せる治癒魔法はほしいなと思いながら、午後の日差しは次第に夕焼けへと変わっていった。
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