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異世界召喚の切実な理由
しおりを挟む昨日と同じく夕食を王様たちと摂るために食事の間に行くと、そこには会いたくなかった人物が待ち受けていて俺は思いっきり顔をしかめた。
「げっ」
「せっかく来てやったのになんだその顔は!僕が来たらまずいとでも言うのか!」
プラチナブロンドのさらさらな髪を後ろにかきあげ、偉そうな態度でふんぞり返っているライナス第一王子。いや、実際にお偉い王子だから仕方ないのは分かっているんだけど普通に嫌い。人間として嫌い。
王子がいると気持ち悪くなるって伝えたはずだろ!という気持ちを込めた視線を宰相に送ると、彼はあわあわと無闇に手を動かしていた。
「ら、ライナス様…!国王からミトと仲良く食事をするよう命じられたではありませんか…!」
「ふん、一応了承して形だけは取ろうとわざわざ自分の宮殿からこっちの塔まで来てやったのにこの異世界人は僕の顔を見て"げっ"と言ったんだぞ!不敬罪で投獄しろ!」
「ライナス様ぁ~…!み、ミトも早く謝りなさい!一国の王子にあの態度はいけません!」
「あー…スミマセンゴメンナサイ」
不敬罪というワードにアルウィンに忠告されたことを思い出し大人しく謝る。全然心のこもっていない棒読みになってしまったのはご愛嬌ということで。
俺の後ろに立っていたアルウィンがそっと近付く気配を感じて背筋がピンと伸びる。彼の息を耳元で感じて心臓が忙しなく動き出した。
「ミト、王子と何かあったのか」
「え、あ、……部屋に戻ったら説明するよ」
「分かった。お前のためにもあまり失礼な態度を取るな。ライナス様は性格に多少問題あるが扱いやすくもある。ミトならうまく転がせるだろ」
「…やってみる」
小声で話すから掠れていて息多めのアルウィンの声。耳元でそんないい声で喋らないでくれ!と叫び出す一歩手前で彼の顔は離れた。
アルウィンに言われたなら仕方ない。彼がいるおかげか王子の顔を見ても吐き気はないし、いっちょやってみるか。
「さ!食事にしましょう!国王は急遽大事な執務が入りましたので代わりにライナス様をお呼びしたのですよ」
「へぇー…」
「昨日は生意気なことばかり言ってたけどまさか今日も僕を追い出す気じゃないよね?僕だって暇じゃないんだぞ!」
「いえ、わざわざ来て頂きありがとうございます。人形のように美しい王子のご尊顔を見ながら食事出来るなんて光栄です」
芝居がかった笑みを浮かべながら台詞のようにすらすらと吐き出す。王子は虚を突かれたような顔を一瞬したが、満更でもなさそうに席に着いた。
「ちんちくりんでも僕の美しさは分かるようだな!立ってないで早く座りたまえ。僕はさっさと食べて僕の宮殿に帰るから」
「王子の貴重なお時間を頂いてしまって申し訳ありません」
「ふん、別に少しくらい構わない」
俺と王子が普通に会話していることに感激している様子の宰相がちらっと横目にうつる。俺と王子が結婚して子をなすのを楽しみにしているのだろうが、そんな日は一生来ないからそんな期待するような目で見ても無駄だ。
結婚出産のために俺を召喚したというから召喚が無駄になってしまうことは申し訳ないとは一応思うが、アルウィンとならともかくヤリチン王子となんて絶対に嫌だ。
「それにしてもよくこんな味気ない場所で食事をする気になるな。僕の宮殿は全部が煌びやかで美しいものしかないのだぞ」
「美しい王子にはピッタリの場所なんですね」
「あぁ、その通りだとも。今度僕の宮殿に来ることを許可してやってもいい」
「…はは、ありがとうございます」
全然興味ない。全く行きたくない。乾いた笑いを溢してしまったが機嫌がなおってきた王子には気付かれずにすんだようだ。
それにしてもアルウィンの言う通り、美しいと褒めれば褒めるだけ調子にのって機嫌が良くなるなんて扱いやすい人だな。もう彼の攻略方法が分かったぞ。
「お前、ミトと言ったか。今日はボードン先生から授業を受けたんだろう?何を学んだか言ってみろ。この僕が復習のために聞いてやる、光栄に思え」
「…この世界の構図と基礎魔法について、あとは王族の方々についても教えて頂きました」
「僕が素晴らしい第一王子だと知って態度を改めたのか?良いことだな」
「ライナス王子にはお姉様と弟である王子が3人いらっしゃるのですね。弟王子の遊び相手になられているとお聞きしました。ご立派ですね」
「ま、まぁそんなこともたまにはしているな。姉上は僕が一番尊敬する女性でとても素晴らしい方なのだぞ!お前にも今度紹介してやろう」
「楽しみにしておきます」
おじいちゃん先生から全然聞いてないことを適当に言ってみたら否定せずさも事実かのような口ぶりをする王子。今の王族の名前や年齢、関係値などは教えてもらったが、人柄までは聞いていない。
なるほど、この王子は超がつくシスコンで自分の美しさを褒められる以上にお姉さんのことを褒めると機嫌が上昇するのかもしれない。
「僕は22歳だが姉上は20歳のときに公爵家のもとに嫁いだのだ。30歳になる今年もその美貌は輝きを増す一方だ。この国で姉上に勝る女性はおらん」
「お姉様が大好きなのですね。俺は一人っ子だったので羨ましいです」
「それは哀れな人生だったろうな!第二王子は今年15歳だが少し病にふせがちだから会う機会は少ないだろう。顔は姉上にそっくりだ。僕ほどの美しさはないがな!第三王子と第四王子は8歳になったばかりの双子で僕に似ておるのだぞ」
「弟王子にとってもライナス様は自慢の兄王子でしょうね」
「もちろんだとも!」
急な斜面をのぼっていくように王子の機嫌も上昇の一途を辿っている。ちらりとアルウィンを振り返ると、上出来だと言うように頷かれて俺の機嫌も上昇した。
「お二人が大変仲良くなられたようで私は大変嬉しいです!国王へ報告したらさぞお喜びになるでしょう」
「べ、別に仲良くなってなどいない!言っておくがな、僕は何があっても絶対に男なんて抱きたくないし結婚もしないぞ!デロリーは父上を説得しろ!」
「そんな無茶なぁ…ライナス様、これは国家を揺らがす問題なのですぞ。あなたの意思は国を前にしたら関係ないのです。ライナス様が異世界人と子をなして聖魔法を使える王子を誕生させなければ、聖魔法を使える王族がいなくなってしまうのですぞ!」
「ふん、そんなこと知るか!父上が聖魔法を使えるのだから父上がまた子をなせばよいではないか。今度こそ遺伝するやもしれん」
「国王はもう若くはないご年齢です。今はまだ国王の力でどうにかなっていますが、このままでは国王の身に何かあったとき、この国はどうなるとお思いですか!」
王子と宰相のヒートアップしていく会話を他人事のように聞いているが、おそらくかなり重要なことなのだろうと察する。まだおじいちゃん先生から教えられていない内容だが、真剣に聞いておいた方が良さそうだ。
「他に方法があるかもしれないだろ!」
「そんな方法があるのならとっくに試しております!」
「あのー…俺にも分かるように説明お願い出来ますか?俺と王子が子をなさないといけない理由を」
「そういえば一番大事な理由をお伝えしそびれていましたね…いいですか、ミト。よくお聞きなさい」
いや、俺が召喚されたときに一番に伝えるべきことを伝えてなかったのかよ。一番大事だろ、その理由ってのが。
昨日の夕食の席でメリットをつらつら言う前に重大な理由があったなら教えてほしかった。ただ強い魔力を持つ子を将来の王子にしたいとかだと思っていたが、どうやら違うらしい。
「聖魔法はごく稀に現れる王族にしか使えない魔法。これまでは200年に1人という頻度で生まれ、聖魔法から出される聖力を200年分ためて下さっていました。聖力で作られた結界によって他国は一切わが国に手出しが出来ず、守られてきたのです。しかし現国王の聖力で作られた結界はなぜか日に日に弱り、あと10年ほどしか持ちません。これは国王が生きていると推定してです。もし国王に何かあればもっと短くなるでしょう。しかし異世界人と王族の子は必ず聖魔法持ちが生まれると異世界書記に記されているのです!これを使わずしてどうしますか!」
「事情は分かりましたけど、他国から侵攻されたとしてもアルウィンほど強い騎士がいてみんな魔法も使えるし魔導師もいるんですよね?負けなくないですか?」
「いいえ、そんなことはありません。確かにわが国は強いです。侵攻されたとしてもちょっとやそっとのことですぐには負けないでしょう。しかし、聖力で作られた結界があるかないかで国の強さ、大きさははかれるのです。聖力の結界があることによって作物は豊富に、水は綺麗に、壌土は豊かになります」
だからあんなに料理が美味しかったのかと納得する。あの美味しさはなんなんだろうと思っていたが、聖力の結界があることによってもたらされる自然の恩恵のようだ。
「つまり、聖魔法を使える人間がいなくなり結界が壊れれば他国から侵攻されやすくなると共に作物はどんどん衰退していき、食べ物によって魔力の容量が大きく変わる我々は最大限の力を発揮出来なくなり、侵攻されても負ける可能性が高くなるということなのです」
「それは…大変ですね」
「やっと分かりましたか!我々が異世界召喚をした切実な思いを!」
「分かりましたけど、でもそれって聖魔法を使える人間が他にいれば俺とライナス王子が子をなす必要もなくなるということですよね?」
「そ、それは確かにそうですが!そんな人間がいないからあなたを召喚したのであって!」
「なら俺、聖魔法を使えるようになってみせます」
俺の言葉に、宰相も王子も後ろにいるアルウィンさえも、みんなが息をのむ音が聞こえた。
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